胃と腸 27巻3号 (1992年3月)

今月の主題 腸型Behçet病・simple ulcerの経過

序説

腸型Behçet病とSimple ulcer 八尾 恒良
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 今を去る十数年前,本誌は「胃と腸」であった.すなわち,それまでの本誌の主な論文のほとんどは胃に関するもので,逆にいえば本邦の胃の形態学,診断学の進歩は本誌に掲載された論文によってなされたといっても過言ではない状況であった.しかし,胃の形態学のみでは特集を組むのにも限度があり,当時の編集委員長であった村上忠重先生をはじめ編集委員の中には肝臓病学の領域まで手を拡げようかという気運があった.

 このころ編集委員になりたての筆者は腸疾患の病態を胃疾患と同様の手法で,二重造影法や内視鏡,詳細な病理学的検討に基づく形態学的手法から再検討することを提案し,白壁先生,西澤先生らの賛同を得た.

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要旨 腸型Behçet病/腸simple ulcer 24例の外科切除腸材料を用いて,腸潰瘍の形態学的推移を検討した.対象潰瘍数は202個(Ul-Ⅰ 4,Ul-Ⅱ 64,Ul-Ⅲ 66,Ul-Ⅳ68)で,急性型21個,慢性活動型122個,治癒59個であった.慢性活動型潰瘍には,急性型から移行するものと最初からその型のものとがあると推測された.Ul-Ⅳの慢性活動型潰瘍は浅い同型潰瘍が進行した場合と,Ul-Ⅳ急性型潰瘍に由来するものとがあると考えられた.慢性活動型潰瘍の進行・難治化にはリンパ球・形質細胞浸潤が主役をなし,これは消化性胃潰瘍のそれに酸が大きく関与するのとは,組織像を異にしていた.

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要旨 腸型Behçet病15例(不全型12例,疑い3例)と単純性潰瘍4例の腸病変を平均6.2年間経過観察し,そのX線像の推移を検討した.その結果,以下の成績を得た.①非手術例12例中8例は回腸末端~回盲部の深い潰瘍から成る定型的病変を有したが,残りの4例は不整形ないし類円形の潰瘍あるいはアフタのみから成る非定型的病変を示した②定型的病変8例は保存的治療に反応し,一時的に縮小あるいは瘢痕化するが,経過中に再燃を来し4例は手術に至っていた.③回腸末端に多発潰瘍を認めた非手術例4例では,各潰瘍の変化は多様であり,同一時期に増大,新生,縮小あるいは治癒した潰瘍が混在していた.④非定型的病変から成る4例も保存的治療によく反応し,経過中定型的病変への進展はみられなかった.⑤手術は10例に16回(術後例)施行され,再発は12術後例(75%)に発生した.⑥再発は吻合部に好発し,術後2年以内に起こっていた.⑦再発早期のX線像として,吻合部の浮腫像と吻合部回腸側のアフタが1例ずつ描出された.⑧再発病変に対しても保存的治療は有効であった.⑨臨床経過は,腸型Behçet病15例と単純性潰瘍4例の間で明らかな差異を認めなかった.以上の成績から,本症では非手術例,手術例にかかわらず消化器症状をほとんど伴わない時期から定期的に消化管検査を施行し,小潰瘍やアフタの段階で発見し早期に治療を開始することが最も重要であると考えた.

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要旨 腸型Behçet病とsimple ulcerの24例を内科的治療のみの例,外科的切除を行った例,再手術を行った例に分けて検討を行った.内科的治療で終わった例はいずれの病変も変形の程度が軽度であった.術後の経過から臨床症状が出現すると潰瘍の再発がみられ,短期間のうちに手術となった例が多かった.したがって,術後は症状がなくても経過観察を行い,軽度な病変のうちに内科的治療を行うことが重要である.内科的治療として,潰瘍を認めたときには経内視鏡的に100%のethanolを撒布し,ED療法を行う.

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要旨 単純性潰瘍と腸型Behçet病,そして完全型Behçet症候群の異同について検討する目的で,疾病史としての立場からこれらの疾患患者の臨床経過を検討した.有症状期に全消化管のX線または内視鏡検査を行い,潰瘍性病変の有無を検索した結果,単純性潰瘍では病変部位は回盲部,切除例では吻合部近傍であることが多かった.腸型Behçet病では回盲部に下掘れ潰瘍が発生したが,食道以外のすべての消化管にも,一過性であるにせよ,小びらん,アフタ様潰瘍が散在することが多かった.Behçet症候群では十二指腸や空腸に小びらんがみられたが,回盲部には病変はみられず,各疾患で病変範囲に若干の差があった.単純性潰瘍と腸型Behçet病の臨床症状を解析した結果,完全型Behçet症候群としての症状が後日になって発現したことはなく,各疾患間の移行は確認されなかった.したがって現段階では各々の疾患は同一疾患であるとする証拠はみられなかった.

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要旨 患者は32歳,男性(韓国人).5年前に,韓国(ソウル)で回盲部の潰瘍性病変に対して右半結腸切除術を受けている.1987年日本に留学.同年12月中旬から食欲不振,嘔気,嘔吐を来して近医を受診し,12月末,当科に紹介された.精査の結果,まず胃結腸痩(糞瘻)の存在が指摘され,その後の検索で,初回手術後の回腸横行結腸吻合部に生じた吻合部潰瘍と,それに起因する胃回腸結腸瘻(gastroileocolic fistula)と診断し,再手術(胃幽門側切除,回腸横行結腸部分切除術)を施行した.病理診断は回腸結腸吻合部の非特異性潰瘍(単純性潰瘍)に基づく胃回腸結腸瘻で,切除した回腸に多数の非特異性潰瘍が認められた.消化性潰瘍の術後やCrohn病の合併症例として胃小腸結腸瘻を来すことは知られているが,単純性潰瘍の術後に発生したとの報告はなく,本例が初めての報告例である.

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要旨 患者は15歳,女性.右下腹部痛を主訴に来院.口腔内アフタ,座創様皮疹,陰部潰瘍を認め,ぶどう膜炎の既往があったことから,完全型Behçet病と診断された.注腸X線検査で上行・横行結腸に多発する大きな潰瘍を認め,これらをBehçet病の腸管病変と診断した.栄養療法,副腎皮質ホルモンの投与で,1か月後,これらの潰瘍は治癒したが,1年2か月後に再発,その7か月後には穿通,膿瘍,皮膚瘻を形成した.皮膚瘻は閉鎖せず,7か月後に手術が行われた.切除された腸管は浮腫状であったが開放性潰瘍は認められなかった.病理組織学的には,粘膜下層の線維化と炎症性細胞の浸潤がみられる瘢痕像と非特異性の炎症像が認められるのみであった.Behçet病の腸潰瘍が上行・横行結腸に,このような大きな形で多発してみられることは非常にまれなことである.

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要旨 患者は69歳(初診時58歳)女性.下血および右下腹部痛を主訴に来院し,小腸二重造影で回腸終末部の変形および多発潰瘍を認めた.腸結核が疑われ抗結核療法を施行したが反応せず症状の改善がみられないため,回盲部切除が施行された.術後の病理診断で非特異性単純性潰瘍と診断された.経過観察中,術後2年,11年後に注腸造影,大腸内視鏡で吻合部近傍に多発性潰瘍の再発が確認された.本症例は初診から11年の経過中アフタ性口内炎がしばしばみられたものの,このほかにはBehçet病の診断基準にみられる症状は出現せずに“疑わしい型”にとどまり,境界病変の経過例として興味深いので報告した.

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要旨 当科で長期間内科的に経過観察されている腸型Behçet病3例およびsimple ulcer 1例に関してその臨床経過を報告した.女性2例,男性2例であり,1例は外科的治療が行われているが,他の3例に関しては内科的に治療され,良好な経過が得られている.

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要旨 不全型腸型Behçet病のため,6年間に3回の腸切除術を受けた1例について報告した.患者は,12歳ごろから口腔内アフタを繰り返していたが,19歳になって回盲部腫瘤のため結腸右半切除を受け,上行結腸に巨大な非特異性潰瘍を認めた.腸型Behçet病の診断のもとに,predonineを主とした保存療法が開始されたが,腹痛,口腔内アフタ,肛門潰瘍,皮疹の寛解・憎悪を繰り返していた.治療開始後5年目には大量出血,6年目には穿孔性腹膜炎によりそれぞれ腸切除術が施行されたが,縫合不全,敗血症を併発して死亡した.Behçet病の腸管潰瘍は厳重な管理にもかかわらず再発しやすく,急激な経過をとり,内科的治療に抵抗する.

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 〔患者〕73歳,女性.現病歴: 肛門出血の精査のために大腸内視鏡検査を施行したところ,出血は内痔核によるものと考えられたが,盲腸部に顆粒状隆起が集簇したような扁平隆起性病変を認めた.生検で腺癌の診断を得た.

 〔大腸内視鏡所見〕Bauhin弁のやや盲腸側,前壁寄りに周囲粘膜とほぼ同じ色調の光沢を有する低い隆起性病変を認めた(Fig.1a).メチレンブルー染色で,この隆起性病変はほぼ同じ大きさの顆粒状の隆起が集簇したものであることが明瞭になった(Fig.1b).

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 20余年にわたる長期間に達成した早期胃癌1,000例の検討は,それぞれの施設で早期胃癌の諸因子の分析(年齢,性別,肉眼型,大きさ,深達度,リンパ節転移,予後など)がなされている.これら早期胃癌の分析は当然であるが,私が気になるのは,早期胃癌1,000例がどのようにして発見されたか,すなわち早期胃癌の来院経路はどうであるか,である.早期胃癌の来院経路を検討することは,胃癌の早期発見につながるものであり,更に今後の早期発見をより効果的に向上させるためにはどうすればよいかの指針を示すものであろう.

 早期胃癌1,000例の報告をみると,早期胃癌の来院経路についての分析は8施設中わずかに2施設でなされているにすぎない.来院経路について言及しても,“これらの症例のなかには,診療の第一線で活躍されている先生方が胃癌の早期発見に努力され,当センターに御紹介頂いた症例が多数含まれている”と第一線の先生方の努力に敬意を表しているが,ただ言葉の上での敬意に終わり,実際経験した早期胃癌1,000例の中で第一線の先生方が発見して紹介した早期胃癌の頻度については言及していないものが多い.

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要旨 患者は44歳,男性.下痢および体重減少を主訴として来院.注腸X線検査で,直腸S状部から口側に15cmの長さにわたり,壁の不整と伸展不良を認めた.病変の中央には,1.3×1.2cmのバリウムの溜まりが認められ,辺縁部には,粘膜下腫瘍様の隆起部分が存在した.大腸内視鏡検査下の生検で大腸癌と診断し,高位前方切除術を施行した.切除標本では,縦径8.0cm,横径6.0cm,高さ2.5cmの境界の比較的はっきりした,立ち上がりの緩やかな隆起性腫瘤を認めた.潰瘍およびびらん部でのみ癌が表層に露出していたが,腫瘍はほとんどの部位で非癌大腸粘膜に覆われていた.腫瘍は高分化腺癌で,粘液産生の著しい部位が広い範囲に存在した.

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要旨 患者は53歳,男性.12年前から毎年検診目的で上部消化管X線検査を受けていたが異常を指摘されていなかった.今回は胃内視鏡検査を行い,噴門部前壁にわずかに陥凹した褪色領域と点状出血を認め,生検で低分化腺癌の診断を得た.精密X線検査では,半立位腹臥位第1斜位二重造影像と半立位仰臥位第2斜位二重造影像とで,噴門部前壁に不整バリウム斑とその中の隆起,中断する皺襞と虫喰い像を描出でき,Ⅱc型早期癌と診断しえた.切除胃標本所見では,食道胃接合部から18mm離れて噴門部前壁に大きさ19×11mmのⅡcを認め,組織学的には低分化型腺癌,深達度mであった.

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要旨 患者は47歳,男性.下血にて緊急大腸内視鏡検査を施行し,回盲部腫瘤からの出血を認め,入院2日目には自然止血した.注腸造影検査では,回盲部虫垂開口部位に陰影欠損像が認められ,中心部にバリウムが入り込む像がみられ,比較的典型的な憩室炎像であった.しかしその後も右下腹部の鈍痛が持続し,大腸内視鏡検査でも白苔を伴う表面平滑で発赤した平坦な隆起性病変が認められ,悪性疾患も完全に否定しきれないことから回腸右半結腸切除術を施行した.切除材料にて粘膜下層内にとどまる憩室炎と診断した.隆起性病変を呈した粘膜下層内憩室炎は非常にまれであり,粘膜下侵入腺との鑑別や緊急大腸内視鏡検査の意義について考察を加え報告した.

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要旨 内視鏡検査で発見された平坦・陥凹型大腸上皮性腫瘍13例15病変(表面陥凹型9病変,表面平坦型6病変)に切除前にX線検査を施行し,X線描出能およびX線像を検討した.X線描出は15病変中9病変(60%)で可能であった.内視鏡的に周辺隆起を伴うものがX線描出は良好で,病変の大きさによる描出率の差はなかった.更に腫瘍の粘膜内深達度で全層型の病変はX線描出が良好であった.X線像の特徴は周囲に透亮像を伴う不整形バリウム斑であった.

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 経皮血管カテーテル法は診断面では血管造影検査に,また治療面はinterventional radiology(IVR),特にinterventional angiographyにおいて大きな役割を演じている.カテーテルも高度に発達してあらゆる目的に対応した種類が作られ広く普及しているが,中でもバルーンカテーテルの出現は血流の遮断ならびに血管狭窄部の拡張を可能にした点で多くの可能性をもたらした.診断面では圧測定にはじまり,造影効果の向上に果たした役割は大きいし,治療面では一時的止血,血流遮断下の動注,効果的塞栓術への応用などのほか,IVRにおける新しい展開ともいえる血管形成術PTAに対する役割など広い範囲に役立っていることはいうまでもない.

 今回バルーンカテーテルに的を絞って,その構築,種類,特徴,使用法などに関する詳細な説明を盛り込んだテキストブックが新進気鋭のinterventional radiologistである大阪大学の中村仁信講師,鳥取大学澤田敏助教授,防衛医科大学校古井滋講師の3先生によって出版された.本書の特徴はまずカテーテルの材質にはじまり,各種バルーンカテーテルの写真ならびにシェーマを用いたその構造,目的血管への進め方など実に行き届いた説明が加えられ,バルーンカテーテル挿入に併用するシースイントルデューサーやガイドワイヤーなどの使い方にいたるまで詳細に記載されている.IVRにこれまで携わってきた専門家でさえ,バルーンカテーテルにはこのような多くの種類があったのかとその認識を新たにするはずである.またその使用法,挿入テクニックにいたるまで驚く点が多々あるに違いない.

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Effectiveness of india ink as a longterm colonic mucosal marker: Fennerty MB, et al(Am J Gastroenterol 87: 79-81, 1992)

 大腸の小さなポリープは,見つけられたときに切り取られてしまうので再度見つけることは必要ないかもしれないが,最近このようなポリープの自然史に対する関心が増し,この研究のためにはポリープの部位の確認が正確になされる必要がある.Hoffらの小さなポリープの発育に関するprospectiveな研究では,26%のポリープが再確認できなかったとしている.自然に消退したのか,再同定できなかったのかは,粘膜のマーカーがはっきりしていないため不明である.

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 今日の医療に臨床検査が必要欠くべからざるものであることはいうまでもない.症状・症候の客観的把握から疾患・病態の診断,重症度・予後の判定,治療中の病状と副作用のモニター,治癒判定に至るまで臨床検査が利用されている.最近では,病気の早期発見・予防のための検診や健康診断にも成果を挙げている.この背景には臨床検査,特に検体検査の目覚ましい進歩がある.分析装置の発達と精度管理手法の研究開発により検査データの信頼性は著しく高くなった.今や,検査の自動化・簡易化とあいまって,臨床医はいつでもどこでもすばやく正しい臨床検査のデータを得られるのも夢ではなくなりつつある.

 このような臨床検査の進歩自体は素晴らしいことであるが,これを利用する臨床医は“多々益々弁ず”ではすまされない.患者の受けるいろいろな負担,特に医療費の高騰が健康保険制度を圧迫しつつあることは周知の事実である.今こそ臨床医は何を目的として検査を選び,組み合わせ,その結果をいかに読むか,という検査の基本を身につけなければならない.とはいえ,検査の専門分化は著しく,保険診療に採用されている検査項目だけでも700種類を越えており,その全域にわたって専門的知識を持つことは不可能である.では,どうすればよいのか.このニーズにぴったりと応えてくれるのが,このたび版を改められた「今日の検査指針」である.既に評価の定まっている「今日の治療指針」と「今日の診断指針」を合わせた三部作の1つである.

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 救急医療は,臨床医師にとって最も基本的な医療であり,臨床の最初に学ぶべき医療である.欧米では早くから救急医療の重要性が認められ,臨床医必須の教育カリキュラムとなっているが,日本では立ち遅れていた.

 しかしながら,本邦においてもその重要性が次第に認識され,1982年には厚生省主導の救急医療システムが確立し,各都市毎に救急医療システムが設置されるようになって一応の成果をみたが,まだまだ不備であらゆる面で改善が必要と考えられている.まず救急医学講座の有無であるが,日本の大学においてこれが設置されているのはまだ約10%に満たないという.

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 近年,膵臓に関する学術書が多く刊行されている.この中には持ち歩くことのできないような分厚い専門書もあるくらいである.

 ここに手にした医学書院発行の英文書,“Medical and Surgical Diseases of the Pancreas”は,200頁足らずの小書ながら,最近までの膵に関する知識のエッセンスを網羅しており,膵の細胞生物学,生理学から膵疾患の病態生理,診断法,治療法に至っている.すなわち,本書を構成する14章は,1.膵の生理学,2,急性膵炎の分類と病理,3,膵炎の病態生理,4.急性膵炎の臨床症状,5.急性膵炎の画像診断,6.急性膵炎の治療,7.仮性嚢胞と腹水などの膵炎の局所合併症,8.急性膵炎の全身的合併症,9.慢性膵炎,10.慢性膵炎の診断,11.慢性膵炎の放射線診断学,12.慢性膵炎の治療,13,乳幼児の膵疾患,14,膵癌,から成っており,豊富な内容である.いずれの章も簡潔明瞭な記載で,最近までの確認された事実がよく整理され,わかりやすく書かれている.文献は,客観的に重要なものが最近に至るまで選ばれており,引用数は足りないと思うが,本書の性質上やむをえないであろう.

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 素晴らしい本が出版された.池田靖洋教授著の「膵管像からみた膵疾患の臨床と病理」である.まず,本を開くとみごとな膵管像に感銘を受ける.著者が考案されたバルーンカテーテルによる膵管造影は,小さな膵管分枝の異常まで忠実に写し出している.よく造影された膵管像が丹念に読影されており,小さな分枝の閉塞だけで膵癌と診断された症例がある.膵管の十分な充満像がなければ,精密診断はできないことを教えてくれる.ERCPはX線検査であり,膵胆管開口部にカニューレを挿管する内視鏡的な手技は検査のごく一部で,主眼はきれいなX線像を撮ることであると著者が常に主張されているが,まったく同感である.

 経過検査を行った症例が多いが,ERCPは楽な検査ではないので患者に信頼され検査が上手でないと,繰り返し検査を行うことに患者の同意は得られない.著者は外科医であるが,膵管異常例の診断に迷った経緯,手術した理由,手術に対する反省などがコメント欄に簡明に記載されており,真摯な人柄がよくわかる.診断困難例の手術は分節切除による迅速組織診断を行ってから術式を決定し,侵襲を少なくする努力がなされている.

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Aspirin use and reduced risk of fatal colon cancer: Thun MJ, et al(N Engl J Med 325: 1593-1596, 1991)

 動物実験や人間での疫学的研究でアスピリンと非ステロイド系の抗炎症剤の使用で大腸癌を予防できるということが報告されている.著者らはこの仮説をprospective mortality studyにより調査した.

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Lipase and pepsin activity in the gastric mucosa of infants, children and adults: DiPlama J, et al(Gastroenterology 101: 116-121, 1991)

 生後3か月から26歳に至るヒト29名の胃体部正常粘膜のリパーゼ活性(長鎖脂肪酸トリグリセリドを基質に使用)は1.8~5.3U/mg蛋白であり,年齢による差はなかった.胃前庭部粘膜と十二指腸粘膜では,ごく低いかほとんど検出できなかった.至適pHは4.5~5.5で,脂肪酸を受容するアルブミンの存在下で活性が高まったが,胆汁酸を添加しても効果はなかった.

書評「超高速CT」 本保 善一郎
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 超高速CTは,従来のような機械的方法でX線管を移動させ各方面からの照射によりデータの収集を行うのではなく,電子ビームを電気的に移動させてこれを行うCTで,1断層面の画像を得るためのスキャンタイムを,最短50ミリ秒と大幅に短くすることができる.

 この方法のアイデアは日本で生まれ,装置が試作されたが,残念ながら実用機は出現しなかった.しかし,この方法は心臓のように動きの速い臓器の検索には非常に有用で,アメリカのような心疾患の多い国で遂に実用化された.この装置はいろいろな理由から日本ではまだあまり普及していないが,心疾患ばかりでなくCT検査において,呼吸運動などでmotion artefactを起こしやすい臓器の検索や,子供,老人,重症患者,救急患者などの検査時に極めて有用である.普及が望まれる.

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 本書は,編者が力説するごとく,まさに現在のわが国の癌臨床実践者たちの苦闘の証として提供された実践の書である.

 癌患者は,癌の専門施設に限らず大学病院から小規模医院にまであふれている.患者にとっては,すべての医療者は癌の専門家であってほしいと願っていると言っても過言ではないであろう.癌の病態に対する研究は急速に進み,人々に多くの恩恵をもたらしているが,癌を持つ人に焦点を当てた専門書は数少ない.本書は,「癌患者の症状のコントロール」を表題としているが,つまりは癌患者に特有の症状を治療の対象として,症状がもたらす患者の苦痛を理解し苦痛を取り除くために,全人的観点からの適切な処方の実施についての解説書である.

編集後記 武藤 徹一郎
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 腸型Behçet病とsimple ulcerの異同が「胃と腸」に取り上げられてからもう13年が経過した.この間に症例数が飛躍的に集積されたかと期待したのだが,意外に少なく期待外れであったように思う.Crohn病などに比べて,外科ではこの疾患にお目にかかることはほとんどなくなってしまった.症例が減少したのか,内科的治療が上手になったのかのいずれかであろう.腸型Behçet病とsimple ulcerの異同については今回も意見が分かれることになった.あの大きくて特徴的なpunched-out ulcerの成因も完全に解明されてはいない.飯田らの観察では腸型Behçet病では小潰瘍の融合が起こるようであるが,simple ulcerではどうなのであろうか.内科的治療によって治癒瘢痕化しても再燃しやすいということはわかったが,これは治療下における自然史の一端にすぎない.前回の特集に比べればずっと見通しはよくなったのだが,もっと多くを期待した筆者には少々物足りない感じがしないではない.少ない症例を大切に扱って経過を追うことは大変な仕事であるが,次回の特集では是非とも両者の異同と自然史を明らかにしてもらいたいと思う.例えば,局所サイトカインなどの新しい手法を取り入れたbreak-throughを期待したい.

基本情報

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胃と腸
27巻3号 (1992年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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