精神医学 62巻1号 (2020年1月)

特集 SUN☺D臨床試験のインパクト—日本初の医師主導型抗うつ薬大規模臨床試験から学ぶ

特集にあたって 明智 龍男
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 みなさまは,日本の精神科医が結集して実施しました「大うつ病に対する新規抗うつ薬の最適使用戦略を確立するための大規模無作為割り付け比較試験(SUN☺D試験)」をご存知でしょうか。本臨床試験は,2010年から2015年にかけて,全国9大学とその関連施設の合計48医療機関にて合計2,011人の大うつ病患者さんにご参加いただいた,世界で3本の指に入る医師主導の多施設共同試験です。その結果は,2018年に論文化されています(Kato T, Furukawa TA, Mantani A:Optimising first-and second-line treatment strategies for untreated major depressive disorder-the SUN☺D study:a pragmatic, multi-centre, assessor-blinded randomised controlled trial. BMC Med 16:103, 2018)。本研究からは,私たちのうつ病診療を見直すきっかけになる興味深い知見が得られております。ぜひ一度わが国の精神科医の研究グループが世界に発信した貴重な成果に触れてみていただけますと幸いです。

 本臨床試験は,その結果の意義もさることながら,現場の精神科医自身が研究グループを組織し,自ら汗をかきながら自分達の力で運営そして研究を実践することを通して,実に多くの深い学びを提供してくれました。私自身も共同主任研究者としてこの臨床試験に参加させていただきましたが,臨床医が力を合わせ,またさまざまな領域の専門家の協力を得ることで,世界に伍する臨床研究を実践できることを経験でき,自身の臨床医や研究者としての価値観が大きく変わることにもなりました。こういった経験は,私自身にとっても何にも代え難い貴重な宝ものになっています。

SUN☺D臨床試験の背景 古川 壽亮
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抄録 「大うつ病に対する新規抗うつ薬の最適治療戦略を確立するための大規模無作為割り付け比較試験」(SUN☺D臨床試験)は,未治療の大うつ病患者に対するファーストラインおよびセカンドラインの抗うつ薬治療を最適化する方略を検討した,多施設,評価者盲検化,平行群間,実践的メガトライアルである。日本の9大学精神科の関連48クリニック・病院にて,計約70人の精神科医,35人超の臨床コーディネーターの協力を得て,2010年から2015年にかけて2,011人をエントリーし,追跡率は第9週で95.8%,第25週で94.9%を達成した。主結果はBMC Medicine(2018)16:103(https://doi.org/10.1186/s12916-018-1096-5)に発表された。本稿では,どういう経緯で本研究が立案されたか,研究デザインを組むに当たってどういう工夫をしたか,研究実施においてどういう苦労をしたかを,本研究の主任研究者の立場から述べる。臨床研究,臨床試験の実践知の一例として,今後も日本から世界へ臨床研究によるエビデンスを発信する一助となることを期待する。

SUN☺D研究のデザイン 渡辺 範雄
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抄録 SUN☺D研究は,未治療うつ病に対する抗うつ薬の初期投与量,および初期治療で効果がない場合の治療戦略に関して探索した,わが国発の大規模臨床試験である。2,000人以上の参加者を組み入れてその追跡を行い,また無作為割付を二段階設けるなど,その研究デザインにはさまざまな工夫を要した。

 本稿ではこれら研究デザインにおける工夫の概要を解説する。

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抄録 SUN☺D臨床試験のステップⅡでは,ファーストライン選択薬を3週間服用しても寛解が得られなかった大うつ病患者1,646名を対象に,同じ抗うつ薬を継続するのか,ミルタザピンで増強するのか,ミルタザピンに変薬するのか,いずれが急性期治療および継続治療として有効性および安全性に優れるか,を無作為化比較試験にて検討した。治療開始から9週間後のPHQ9スコアで,併用群は0.99点,変薬群は1.01点,継続群よりも有意に低くなっていた。セルトラリンとミルタザピン併用群とミルタザピンへの変薬群の間には有意な差は認められなかった。副作用の重症度には3群間に有意な差はなかった。以上より,費用対効果を考慮すれば,セルトラリンに反応しない場合には,ミルタザピン単剤への変薬が推奨された。本研究は,今までガイドラインでも見解が一致していなかったセカンドライン治療について新しい知見をもたらした。

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抄録 適切に実施された臨床研究の成果に基づき,自身の臨床経験や患者の希望を考慮しつつ,一人ひとり違う目の前の患者に最適なうつ病治療を提供する,これがエビデンスに基づいたうつ病の日常臨床の基本である。最近,うつ病のファーストライン治療戦略を確立することを目的とした大型の多施設共同評価者盲検化ランダム化比較試験(SUN☺D臨床試験)が実施された。SUN☺D臨床試験の重要な成果として,うつ病の初期戦略としては,標準投与量の下限を目標とすることが望ましいことが明らかとなった。さらに,初期治療薬としてセルトラリンを3週間服用しても寛解しなかった患者には,ミルタザピンの追加投与あるいは変薬により抗うつ効果が早く期待できることが明らかとなった。これらの結果は,うつ病の日常臨床に大きなインパクトを与えるものである。一方,うつ病の実地臨床には,その開始から終了に至るまで,解決が必要な切実な疑問が数多く残されている。今後,うつ病臨床において具体的な治療指針を立案するために必要な実践的エビデンスが数多く創出されることが強く祈念される。

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抄録 本稿では,統計解析計画書(statistical analysis plan:SAP)について解説する。解説を通じて,臨床試験における統計学の要点についてもあわせて説明する。統計解析計画書では,研究計画書に述べられた統計解析の主要な特徴について,より技術的で詳細な記述を記載する。主要変数,副次変数およびその他のデータに関する統計解析を実行するための詳細な手順を記載するものであり,データ盲検下においてその検討,作成を行う。臨床試験の統計解析計画においては,解析の妥当性(validity),透明性(transparency)や再現性(reproducibility)の確保は必須である。これらを実現するために,統計解析計画書は必要である。本稿では,国際的なガイダンスである,臨床試験のための統計的原則(ICH E9),JAMA誌の統計解析計画書のガイダンスなどを解説し,さらに,SUN☺D臨床試験での統計解析計画書での経験について説明した。

SUN☺D臨床試験に参加して行った工夫

中央事務局から 田近 亜蘭
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 研究の質を担保する上で,「目標エントリー数を達成すること」「脱落を最低限に抑えること」はきわめて重要である。SUN☺Dというメガトライアルを進めていく中で,これらのポイントについて中央事務局がどのような工夫をしていたかについて述べる。

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 医師主導の大規模臨床試験の地域センター責任者として最初に強く意識したことは,この臨床試験で検討する臨床疑問について自分自身も関心を持ち続け,研究協力の原動力にしていきたい,ということであった。主任研究者である古川壽亮先生からSUN☺Dの研究計画をお聞きしたとき,「この臨床疑問は日々の臨床の中で自分も常に持っているものであり,患者と臨床家にとってとても重要である。ぜひ結果が知りたい」と強く興味を抱いた。このような多施設大規模研究を遂行するには,何より主任研究者の意図や意思が十分にチーム全体に伝わることが重要であり,地域センター責任者も研究に対して同じ目線でかかわっていくことで,主任研究者と現場の医師やCRCとの連携を支えることができると考えた。振り返って考えてみると,そのような役割意識を持つことで,一つ一つの判断もスムーズに行えたのではないかと思われる。

 また,地域センター責任者の役割は現場のCRCを支えることと考え,CRCとの連携に力を注いだつもりである。CRCは,各クリニックや病院で医師をバックアップしながら研究参加者である患者に一人ひとりの特徴や症状に配慮しながらかかわり,試験の円滑な遂行をサポートしているが,日々の業務の中ではさまざまな問題が生じる。CRCとの定期ミーティングで連携を深めながら諸問題を抽出し,必要なら上の指示を仰ぐ,という取り組みを続けた。特に独自の工夫を行ったわけではなく,地域センター責任者として現場と研究者を繋ぐ役割を着実に行うことを意識した。その過程で,臨床試験にはさまざまな問題が生じ,それを解決しながら進めていくことを身をもって体験できたことは貴重な機会となった。

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 どこの大学でも大きな違いはないと思われるが,大学病院ではさまざまな臨床研究や臨床治験がいくつも同時並行で実施されている。そのため,このSUN☺D研究を医局員に説明して理解してもらったとしても,実際の診察室で,多くの患者さんを診察しながら,「この患者さんはSUN☺D研究の対象になる」と気付いてもらうことはとても困難である。後から気付いて,「次の診察でエントリーを検討しよう」と思うかもしれないが,1か月,2か月先の受診の時はすでに忘れられてしまう…という状況に陥りがちである。たとえ診察場面で気付いてもらえたとしても,「どこに連絡したらいいんだろう…」「エントリー基準はどうなってるんだっけ?」といったことを担当医が悩んだ瞬間に,一歩踏み込んで患者さんに臨床研究の説明をするという作業のハードルが一気に上がってしまい,結果としてエントリーに繋がらなくなってしまう。

 私たちは,診察室で瞬時に確認できるように,エントリー基準と連絡先など必要最小限の情報をA4用紙1枚にまとめ,ラミネート加工したものを各診察室に置いた。それだけでは,時間が経つと机の引き出しに埋もれてしまうので,CRC業務を担当してもらった専門職員に可能な限り外来に張り付いてもらい,その日の担当医に声掛けをしてもらった。また,エントリーした途端,主治医に膨大な事務作業が待っているとしたら,誰しもがエントリーを躊躇してしまうだろう。医師にしかできないことを厳選し,事務的な作業は必要最小限になるように工夫することも重要である。

熊本大学病院から 藤瀬 昇
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 私自身もそうでしたが,それまで熊本では多施設共同の介入研究というのは殆ど実施されたことがなく,熊本サイトの参加医師たちには最初は多少戸惑いなどもあったことと思います。2011年9月24日,京都から古川先生が来熊され,熊本大学神経精神科の会議室に熊本の11名の精神科医と5名のCRC候補者が一堂に会し,スタートアップミーテイングが開催されました。正直どの程度,患者さんに協力してもらえるのか全く見当がつきませんでした。最初は恐る恐るといった感じでしたが,CRCさんとの役割分担の要領に慣れてくると,意外に(?)患者さんに参加してもらえることが分かりました。ですので,日頃からCRCさんとの小まめな情報共有を心掛けるようになりました。月1回の各サイト責任者によるSkype電話会議もとても新鮮でした。

 我々が行った工夫としては,当時から熊本大学神経精神科は,県内で認知症医療の地域連携システムを展開し,その中核病院として多くの新患患者が受診しており,中にはpseudo-dementiaが疑われるケースもときどきあり,そのような症例を回してもらっていました。少しでも可能性のありそうな新患さんがいたら,いつでも連絡してもらえるよう科内で情報共有に努めていました。また,同時期に高齢者のうつ病専門外来も開設していましたので,75歳以下の未治療の新患さんはSUN☺Dに組み込めないかを最優先に診察していました。そういう状況でしたので,結果的に,高齢者の症例については比較的多くエントリーできたのではないかと思っています。

久留米大学病院から 安元 眞吾
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 久留米大学病院では私を含め,外来医長が中心となって,SUN☺D研究を進めていました。初診の患者さんは,まず外来医長が紹介状に目を通して各担当医に振り分けますが,その時点でSUN☺Dの適応となる患者かどうかについておおざっぱに見立てます。適応となりそうな患者であれば,担当医に対し,可能であればSUN☺Dへの組み入れをお願いします。

 実際には大学病院を受診する患者さんは,すでにうつ病の治療を受けているがうまくいっていない方が多く,抑うつで紹介され治療を行われていない方は少数でした。一方,大学病院は身体合併症のある方が他科から紹介されて受診することが多く,不眠で紹介されてきた患者さんにうつ病が合併していることがあり,そのため,最初のスクリーニングで見落とさないことが大事でした。各担当医は初診で来られた患者さんにいきなり研究についての話をすることに抵抗を示す者もいましたが,研究の背景について説明し,実際にやることは標準的な治療薬を使用すること,詳しいことはCRCが説明してくれることから医師の負担は少なく,何か問題があれば中央が対応してくれるため,医師はやりやすかったのではないかと思います。患者さんに対しても標準的な治療薬を使用することについて説明し,抵抗を感じる方は少なかったようです。また,身体合併症のある患者さんについても当初は組み入れに対する抵抗がありましたが,合併症が重症でない場合は問題なく行うことができました。各担当医もやっていく中で研究の流れに慣れてきて,比較的積極的に研究への組み入れに協力してくれるようになってきました。

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 SUN☺D研究参加時点で既に完成度の高い研究プロトコルが構築されており,それをいかに自施設で実装していくかということが求められた。まずCRCを雇用する必要があった。治験などでは,すでにCRCが「いる」のが前提となることが多かったが,今回は募集することから始めなければならず,大学側の人事課の協力を仰ぎながら,ハローワークなどに募集をかけ,2名のCRCと研究開始直前になってやっと雇用契約を結ぶことができた。次に契約したCRCは研究アシスタントなどの経験はあったものの,「うつ病」の臨床研究の経験は皆無であったため,研究内容やうつ病について教育する必要があった。しかし,これもSUN☺Dの中央事務局が,分かりやすい映像による教材などを使用しながら実施したため,あとはどのように配置していくかのスケジュールを立てただけであった。

 大学病院では,本研究に中核的にかかわる医師だけでなく,複数の医師が初診などの外来を担当しているため,日ごろの多忙を極める臨床や自分自身の研究などで,他の研究の存在をどうしても忘れられがちになることが少なくない。そこで,本研究の存在を忘れられないようにするために,医局会の際にその都度本研究のリクルート状況などを報告し,対象者がいたらすぐに担当者に連絡するシステムを構築した。また,中央事務局からSUN☺D用の初診簿も準備されていたため,それを活用することで,より効率的にリクルートをしていくことができた。

東京大学病院から 管 心
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 京都大学の古川壽亮先生から「医師主導の抗うつ薬の大規模臨床試験」の参加への誘いをいただいたのは2011年秋であった。当時,東京大学精神神経科は笠井清登教授の指導の下,形態MRIや機能的MRI,脳波,脳磁図,近赤外線スペクトロスコピィなどのマルチモダリティに神経心理検査や生化学物質を組み合わせて統合失調症や気分障害,広汎性発達障害の患者の脳基盤研究を行う生物学的研究が中心であり,大規模なRCTに参加する経験に乏しかった。医局員の状況としては大学や関連病院で勤務を行う医師に加えて,上記の生物学的研究で学位を取得した後に精神科クリニックを開業,あるいは研究に従事せずに開業はしたものの臨床研究に参加する機会をうかがっているというresearch mindを持つ若手開業医が十数名いるという状況であった。

 筆者は大学院修了後も学内で臨床・研究・教育に従事していたが,上記の若手開業医のほとんどと入局年次が近く密なアクセスを取りやすい状態であった。そこで笠井教授と相談の結果,大学病院がハブとなって臨床研究の実施のための倫理申請や京都大学の中央部門との事務折衝を一手に引き受け,各精神科クリニックで実際の患者さんのリクルートと介入をするという役割分担を行うこととした。SUN☺D試験の元々のスキームと当時の東大精神科の状況がよくマッチした結果であるが,同時に臨床試験の内容としても抗うつ薬のfirst choiceだけでなく,初期治療の効果が不十分の時にsecond choiceをどう行うかというresearch question(clinical question)の設定が実地の臨床家にとっても魅力的であったことが,各開業医のresearch mindを刺激し研究参加への熱意を促すものとなった。

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 北海道サイトは北海道大学病院を地域センターとして,札幌市内の5つのクリニックと1つの精神科病院の計7施設で実施した。地域センター責任者は井上であったが,本試験期間中に井上が東京医科大学教授に就任したため,その後を賀古が引き継いだ。参加施設に関しては,すべて当教室の同門の先生方の施設であり,特に普段から交流が多く,実際の診療で連携している施設であったため比較的スムーズに協力をお願いできた。症例のリクルートに関しては,思いのほか症例数が集まらず焦りも感じたが,各施設3年間にわたってコツコツと症例を積み重ねられたように思う。症例を入れるコツを一度覚えると数が伸びるようだったが,施設間・医師間でその差があり,均等に症例を伸ばしていくことの難しさを感じた。コツを覚えて多くの症例をリクルートしていただける施設・医師に頼ってしまうという状況は最後まで続いたように思う。

 主任研究者の古川壽亮先生には,北海道まで複数回足を運んでご指導いただけたため,試験への理解やモチベーションの向上という点で非常に助けていただけた。毎月の地域センター責任者Skype会議も緊張感があり,動機付けになるとともに,臨床試験成就のための智恵を集められたことは良い経験となった。

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 私たちのような町の精神科開業医が,診察室で目の前の初発の単極性大うつ病性障害患者さんに薬物療治療を始めるときに,何を目安にしたら良いでしょうか? もちろん,STARDなど海外の研究や国内外のガイドラインはあります。急性期治療では,「患者さんと一定期間,服用を続けるように約束する」「薬の用量は,十分な量を使わないと効果が得られないから控えめにせず,有害事象が出ないかぎり,十分な量をしかるべき時にしっかり使う。寛解まで至れば,維持,減らすべき時に減らし,止めていくこと」とされています。しかし,そうやって薬物療法を続けたつもりでも寛解にまで至る患者さんは半分以下と言われ,効果がなかった半分以上の患者さんは脱落します。私たちは,反応の良好な患者さんとだけ診察室でお会いしているので,医者個人の経験だけを頼りにしていては,初発のうつ病に対する薬物療法計画は把握できません。診断のばらつきや個人差などもありますが,そうなると,さまざまな疑問が浮かんできます。

 そもそも,日本人のDSM-Ⅳ-TRのうつ病患者に,最初の抗うつ薬の「十分」な処方量とは?,次の抗うつ薬を,どのタイミングで,どのように工夫するのか? 有害事象は,どれくらいか? 抗うつ薬はどんな症状が改善すれば,効果があったと判断するのか? どれくらい効果があるのか? という切実な問題に対する明確な座標はなく,まるで,真っ暗闇の夜道を歩いているような思いです。

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 当院はこれまでにSUN☺D(Strategic Use of New generation antidepressants for Depression)のような医師主導の大規模な臨床試験に参加したことがありませんでしたが,古川壽亮先生がお越しになった広島サイトでの説明会へ何度か参加させて頂き何をすべきかが見えてきて,徐々にクリニックとしての準備を始めることができました。今後このような大規模試験に参加を検討されている医療機関の参考になればと思い,当院でのささやかな取り組みをお伝えしたいと思います。

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 「95,95,95%追跡率……2,000,2,000,2,000例!!!」と毎月のSUN☺D Newsletterや,古川教授から直接その重要性を再三ご指導ありましたが,本格的な臨床研究の経験のない私には,途方もない目標にみえました。当初は,「うつ病の新患に,いきなり説明しても,自分だったら,なかなか臨床研究に参加しますとは,言えないよね」,「患者にとっては,最初の抗うつ薬で効果があっても,変薬や追加があるし,謝金が雀の涙くらいで,メリットあるかな?」と,当院担当になった臨床心理士のCRCと話していました。

 「広島サイトはロケットスタートでいくぞ!」という岡本泰昌先生の激のもと,とりあえず始めながら工夫していこうと(今から考えれば無謀でしたが),説明経験のない初回,つまりエントリー説明を私とCRCでする日に,いきなり5名の候補を予約してしまったので,広大からの応援もばたばたと来て頂くことになり,結局その日はどう説明したか記憶にありませんが,こちらの鬼気迫る必死さが患者に伝わったのか,全員エントリーに御同意していただきました。1施設,1日5名エントリーは,このSUN☺D研究のレコードとなりました。

CRCから 簗瀬 裕子
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 私達CRC(clinical research coordinator)は医師の指示のもと,被験者となる患者や医師のサポート,試験業務全般のサポートを行った。大規模試験のSUN☺Dでは,患者の気持ちを尊重しながらもできるだけ多くの患者に参加いただくための工夫や,欠損防止,そして,莫大なデータの正確な入力が必要だった。SUN☺Dで行ったさまざまな工夫について述べる。

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 研究者主導型臨床試験であるSUN☺D臨床試験では,データ安全性委員会(data safety monitoring board:DSMB)を設置した。その委員として参加したので,SUN☺D臨床試験における経験とDSMBの必要性について述べる。

 SUN☺D臨床試験のDSMBの役割は,試験の進捗や安全性に関してモニタリングし試験の継続,中止,実施計画の変更を勧告することであった。DSMBのメンバーは精神科領域の医師2名と,生物統計家1名であった。試験開始時にDSMBの手順書が作成された。試験実施中,この手順書に従ってDSMBは運営された。定期モニタリングレポートは6か月に1回作成され,必要な場合に委員会が開催される計画であり,対面ではなく電話やメール会議も可能となっていた。

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抄録 エビデンス「何を(what)」が明らかになってくるにしたがって,「どのようにすれば(how)」,エビデンスを効果的,効率的に日常の保健医療活動に取り入れ,医療の質を上げることができるかという問いに答えるための実装科学(implementation science)という学問分野が注目されている。その方法論に基づき行われる研究を,dissemination & implementation research(普及と実装研究,D&I研究)と呼ぶ。D&I研究では,エビデンスの実装のための一般化可能な知識体系を構築することを目的とし,学際的なアプローチにより,患者,保健医療従事者,組織,地域などのステークホルダーと協働しながら,エビデンスに基づく介入evidence-based intervention(EBI)を,効果的,効率的に日常の保健医療福祉活動に組み込み,定着させる方法を開発,検証する。本稿では,D&I研究とはどのようなものかを解説し,重度の精神疾患患者において診療ガイドラインの実施のための戦略を評価することを目的としたD&I研究の具体例を紹介する。

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抄録 臨床場面で最適な治療法を選択する際に,その治療法の効果や副作用などに関する科学的根拠や患者の意向に基づき決定するが,その科学的根拠は,臨床研究により創出される。しかし,科学的根拠が曖昧な場合は,臨床医はこの問題を臨床疑問として提示し,臨床研究によりその答えを確かめる。臨床疑問は臨床の専門医の経験の上で初めて明確となり,その答えを確かめるための臨床研究の実施においても専門医が重要な役割を担う。臨床の専門医こそ,臨床研究に積極的に参画し,自らの知識と技術を臨床研究に活かすとともに,得られた科学的根拠を活用し,患者の健康増進に役立てる必要がある。そこで,現状における臨床の専門医が臨床研究に参画することの利点と,参画する際の課題について考察した。

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抄録 共感幻覚を呈した統合失調症の1例を経験した。症例は57歳女性。中年期から陰性症状を伴う統合失調症の診断で通院した。①「赤い声」「白い透明の蛇の抜け殻みたいな声」などの色聴共感覚に似た幻聴,②「色のついた文字が歩く」という書記素色覚に似た幻視,③「赤い人が左肩のあたりにいて話す感じ」という色の感覚性を伴う実体的意識性と幻聴を約1年半の間に断続的に認めた。経過中,要素性幻視や幻触などの多感覚性の幻覚も呈した。共感幻覚はリスペリドンの投与により軽減したと思われた。後天的な共感覚現象との関連につき考察した。

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抄録 昭和大学附属烏山病院では,成人期の自閉症スペクトラム障害を専門としたデイケアプログラムを実施している。2008年8月から2017年6月までの間に,プログラムを利用した153名を対象に,その臨床的特徴と利用後3年間の就労状況についての調査を行い,プログラムの有効性を検討した。就労者はプログラム開始時29.4%から3年後52.3%へ増加し,未就労者はプログラム開始時70.6%より3年後47.7%へ低減した。プログラム開始時点と3年後時点の双方において,教育年数とプログラム開始年齡が,就労者で有意に高値であった。性別,IQ,AQ得点は,就労者と未就労者で有意な差を認めなかった。

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はじめに

 脳梁は左右の大脳半球を連結する神経線維の束であり,大脳半球の内側面・側脳室の背側壁に位置する。ヒトの脳では妊娠17週目に脳梁が完成するが1),発生過程が何らかの原因により障害されると脳梁欠損や形成不全が生じる。その発生率は約0.7%とされ2),多くの場合他の脳奇形を伴い,さまざまな精神・神経症状を呈するとされる。

 今回我々は,幼少期以降は無症状で経過し,中高年期に側頭葉てんかんを合併し発見に至った脳梁欠損症の症例を経験したため,ここに報告する。症例の記載については書面で同意を得ており,匿名性保持のため論旨に影響のない範囲で改変を施している。開示すべき利益相反はない。

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精神医学
62巻1号 (2020年1月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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