呼吸と循環 39巻4号 (1991年4月)

  • 文献概要を表示

 ミオパチーなどの骨格筋病変に関する研究は,心筋症における心筋病変に関する研究に比べて一般に進んでいると思われる.それは,病態生理学的側面では目立たないが,病理学的,生化学的,病因的側面では顕著である.研究上有利な点の1つは,骨格筋が解剖学的にみてより到達しやすいことがあげられよう.

 さて,神経筋疾患が心筋疾患を伴うことは古くから知られていた.その代表例は,Duchenne型進行性筋ジストロフィーである.これは伴性劣性遺伝の疾患で,2〜5歳で発症し骨格筋が進行性に侵される重篤な筋ジストロフィーであるが,同時に心筋障害を伴っている.骨格筋の病変としては,変性,壊死,線維化などが観察されているが,心筋の病変も変性,線維化などがみられる.心筋病変がほとんどの例でみられることに加えて,形態学的な類似性から両者は同一の病変であろうと考えられて来たが直接的証拠はなかった.

綜説

エンドセリンと肺 岡部 哲郎
  • 文献概要を表示

 血管内皮細胞は,血液と血管壁の間の物理的隔壁として肺胞でのガス交換などの物質透過性を刺激する場である.一方,血管内皮細胞はプロスタグランディンやプラスミノーゲンアクチベーター,アンギオテンシンⅡなど種々の生理活性物質の産生や代謝を行っており,それらは肺を含めいろいろな臓器の特異的な機能と密接に関連している.1988年の柳沢,真崎ら1)によってブタの血管内皮細胞の培養液中から新しい血管収縮性ペプチド,エンドセリンendothelin(ET)の発見は,vascular biologyの研究に大きな発展をもたらしつつある.ETはアンギオテンシンⅡなどに比べてより強力でかつ持続の長い血管収縮をもたらす.また,最近では,3種類のETが存在することが判明し2),さらにこれらのETは単に血管系でなく,脳を含め多くの臓器実質細胞での産生が確認されている.また,これらのETの受容体の分布もきわめて広く多くの組織にわたっている.このことからETは単に血管収縮ペプチドとしてではなく各種の臓器の機能に直接関与していると考えられる.

  • 文献概要を表示

はじめに

 生体の細胞は多くの受容体(receptor)をもち,それによって細胞外からの情報を受け取り,それに応答して個体の恒常性を維持する.細胞への情報は神経伝達物質,ホルモン,細胞増殖分化因子などのアゴニストによって伝えられる.自律神経系(交感神経と副交感神経系)は,カテコールアミンやアセチルコリン(神経伝達物質)を介して,細胞の受容体に情報を送る生体調節系の一つである.受容体にアゴニストが結合すると,その情報は種々の様式で細胞内へ伝えられる.交感神経系にはαとβアドレナリン受容体があり,それぞれα1,α2とβ1,β2の4つのサブタイプに大別されている.

 本稿では,薬理学的,生化学的および分子生物学的手法によって得られた,主に病的状態における心筋βアドレナリン受容体/アデニル酸シクラーゼ系の知見を中心に,心血管系におけるアドレナリン受容体全般の情報伝達系の構造とその役割についても概説する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 「気道反応性」という用語を,英語における[Air-way Responsiveness]の訳語と考えれば,最近は「気道過敏性」と同様な意味合いで使われることが多くなってきた.したがってそれは,気道平滑筋の収縮Agonistに対する気道の収縮反応性を指すことが多いということである.しかし,「気道反応性」という言葉を字義のとおりに解釈すれば,それは「気道」の「反応性」である.気道は何らかの刺激に応じて「収縮」するか「拡張」するかあるいは「不変」であるかのいずれかの反応を示すであろうから,「気道反応性」という用語は,気道の拡張反応をも含めた概念として一般的化して考えることもできる.

 本稿では「気道反応性」を,「何らかの刺激に対する気道の収縮または拡張反応性」というように解釈して議論する(訳語のことに関していえば,「気道過敏性」にしてもふつうは[Airway Reactivity]を指すことが多いが,[Airway Reactivity]という用語自体も,字義どおりに考えれば,「気道反応性」である).

  • 文献概要を表示

はじめに

 妊娠により循環動態には変化がみられる.循環器疾患患者は,正常者に比べその影響が大で,危険を伴うことが考えられる.

 近年は,リウマチ熱発症の激減により,妊娠年齢のリウマチ性弁膜症患者は少なくなったが,先天性,後天性の術後心疾患の妊娠例が比較的増加している.中には人工弁置換患者もいる.また各種不整脈について観察,管理される例が多くなってきている.

  • 文献概要を表示

 慢性肝疾患,特に肝硬変患者に低酸素血症が合併することが知られている.1935年,Snellはその機序としてヘモグロビンの酸素親和性の低下を推測した.その後Caldwellら1)は,酸素解離曲線の右方偏位を認めたがその程度は軽度であること,さらにAstrupら2)は肝硬変患者では赤血球内の2,3DPGが増加していることを報告しているが,それだけで酸素親和性の減少をきたすには小さすぎるとし,酸素解離曲線からは肝硬変患者での低酸素血症を説明できないとしている.その後,シャント説,換気血流比不均衡説等いくつかの説が肝硬変患者で検討されている.本稿では,当科で経験した症例を中心に,肝硬変に合併した低酸素血症の機序について解説したい.

造影剤と腎障害 梅津 道夫 , 多川 斉
  • 文献概要を表示

 最近,造影剤を使用する画像診断法が急速に発達普及し,とくに循環器疾患における心血管造影を中心とした進歩は刮目に値するところである.しかし,造影剤による腎機能障害の発生は決してまれではなく,Houら1)によると,病院内で生じる急性腎不全の原因のうち造影剤は12%を占め,アミノグリコシド系抗生物質よりも高率であるという.本稿では,「造影剤と腎障害」について,造影剤の腎毒性と,腎不全患者における造影剤使用上の注意という二つの観点から解説を試みたい.

  • 文献概要を表示

 肺血栓・塞栓症46例について抗燐脂質抗体のうち抗cardiolipin IgG抗体の定量的あるいは定性的測定を行った.症例中の抗燐脂質抗体の発現頻度と膠原病合併の有無,臨床経過,肺以外の血栓存在部位,凝固時間の異常の有無,抗体陽性例については抗体の消長,以上の5点を中心に検討した.肺血栓・塞栓症例中膠原病を伴わない例であっても抗燐脂質抗体陽性例は検出され,その割合は40例中8例,抗体陽性率20%であった.このような抗体陽性非膠原病例でも多くの例で多発血栓が検出され,in vitroの血液凝固時間の延長が示されたが,膠原病合併例ほど著しくはなかった.抗体陽性膠原病例では抗体は時間経過後も持続的に陽性であった.一方抗体陽性非膠原病例の抗体の消長を観察すると,時間経過とともに抗体が陰性化する傾向を認めた.

  • 文献概要を表示

 喫煙が血行動態に及ぼす急性効果にCa拮抗薬がどのような影響を与えるかについて検討した.対象は常習喫煙の男子で,ニコチン2mg/本を含む製品を健常者20名(G1),nifedipineを投与中の高血圧患者11名(G2),および未治療の本態性高血圧患者4名(G3)に用い,10分間で連続して2本吸わせて血圧,心拍数,心拍出量,血漿カテコラミン値を測定した.各群共喫煙後血圧,心拍数,心拍出量は有意に上昇したが,その上昇程度は3群間で有意差を認めなかった.血漿アドレナリン値は喫煙後3群共有意に上昇したが,G1とG3には差がなくG2でより高い傾向を認めた.血漿ノルアドレナリン値には喫煙後有意な変化を認めなかったが,いずれの時点でもG2で高値を呈する傾向を認めた.

 以上より,Ca拮抗薬の投与により反射性の交感神経副腎系活性の亢進が生じていることと,喫煙時の昇圧反応などに関与するCaチャンネルとnifedipineがブロックするCaチャンネルは異なっている可能性が示唆された.

  • 文献概要を表示

 心筋炎は,拡張型心筋症の原因疾患あるいは類縁疾患として心筋症研究上,その診断が重要視されている.しかし,その確定診断は心内膜心筋生検ですら困難な場合がある.そこで,心筋シンチグラム上,心筋炎の特徴的所見が存在するか否かについて検討した.

 臨床所見,心内膜心筋生検より明らかに心筋炎と思われた15例と正常例9例に,安静201Tl心筋シンチグラムを施行し,Bull's eye心機能マップを用い比較検討した.正常例のTl uptakeの平均値−2SD以下を異常とし,異常域をextent mapに表示した.心筋炎では異常域が散在性に分布し,重症例ほど塊状,連続性にも分布していた.また,異常域は後壁に比し前壁中隔に多く,側壁に少ない傾向があった.さらに,異常域の出現率は高度壁運動異常部位ほど高かったが,壁運動異常を認めない部位にも,正常例に比し有意に高い異常域出現率を認め,潜在性の心筋障害が示唆された.

  • 文献概要を表示

 PTCA患者104例とCABG患者38例を対象として,トレッドミル運動負荷試験を2年以上にわたり経時的に施行し,FAI,MAI,PCIを算出して,それぞれ酸素輸送系機能,左心機能,末梢循環機能の指標として比較検討した.術前のFAIおよびMAIはPTCA群に比べCABG群でより高値を示した.FAIは両群ともに術後3〜6カ月より有意な改善を認め,その後2年以上にわたって碓持された.MAIはPTCA群で術直後より,CABG群で術後3〜6カ月よりそれぞれ有意な改善を認め,その後2年以上にわたって維持された.PCIは両群ともに術直後に一過性の悪化を認めたが,術後3〜6カ月には術前と同程度にまで復し,PTCA群では術後2年以上,CABG群では術後1年以降でそれぞれ有意な改善を認めた.以上より,酸素輸送系機能は両群ともに術後早期より改善を認めるが,これは術後早期には主として左心機能の改善が,その後末梢循環機能の改善が加味されることによってもたらされるものと考えられた.

  • 文献概要を表示

 他の心血管奇形を合併しない孤立性大動脈弓離断症の1例を報告する.

 患者は45歳,女性.胸部異常陰影,高血圧を主訴に入院した.上肢左右,上下肢間で較差のある高血圧を認め,頸部で血管性雑音を聴取した.DSAと大動脈造影からは大動脈縮窄症との鑑別が容易でなかったが,MRI検査で本症の確定診断を得た.人工血管移植術を上行大動脈-腹部大動脈に施行し,以後経過は良好である.

  • 文献概要を表示

 患者は73歳,男性.息切れ,腹痛を主訴に来院.感冒様症状5日目に心不全出現し,当科入院となった.入院時,胸部X線写真で両肺野にうっ血を認め,心電図は左軸偏位,心房細動,不完全右脚ブロックであった.入院5日目,心電図は洞調律,完全右脚ブロックに変化した.入院8日目,胸痛発作あり,心電図で完全房室ブロック,接合部調律,Ⅱ,Ⅲ,aVFでST上昇,V4-6でST低下を認めたため,緊急冠動脈造影を行ったが,冠動脈には有意狭窄は認めなかった.

 心エコーで顆粒状エコーを認め,心筋疾患が疑われたため,死後,経皮的に心筋組織を採取した.組織学的に,心筋の広汎な壊死,好酸球,組織球の浸潤,多核巨細胞を認めたため,巨細胞性心筋炎と診断した.巨細胞には形態的に心筋細胞と似ているものもあり,心筋細胞が免疫反応の場となっていることが示唆された.

  • 文献概要を表示

 今回我々は左右の冠動脈間で良好な側副血行の送り合いを認めた1例を経験したので,若干の考察を加え報告する.症例は55歳女性で,1986年11月より労作性狭心症,1987年11月不安定狭心症を呈し入院.右冠動脈近位部に99%狭窄を認め同時に,左前下行枝の中隔枝から右冠動脈後下行枝へ良好な側副血行路を認めた.PTCAの施行により右冠動脈は99%より40%に拡大され右冠動脈への側副血行路は描出されなくなった.1988年8月労作性狭心症再発,再カテーテル検査にて左冠動脈前下行枝近位部に90%の新病変を認めたため,今度は左冠動脈にPTCAを施行した.バルーン拡張で左冠動脈を一時的に閉塞した際に右冠動脈を造影したところ,前回のPTCA時とは全く逆に右冠動脈後下行枝より中隔枝を経て左冠動脈に良好な側副血行路を認めた.心筋保護の上で,この側副血行の送り合いは重要であると思われる.

  • 文献概要を表示

失神発作をくりかえすRomano-Ward症候群の1例に対してpropranololおよび心房ペーシングの併用療法が有効であったので報告する.症例は33歳の女性.20歳時より失神発作をくり返していた.家族歴に失神発作,難聴等は認められないが,長男のQTcが0.46と延長していた.本例のQT-U時間,QTcは,propranolol非服用時各々0.60秒,0.60と著明に延長し,運動負荷にて各々0.28秒,0.39へ,左星状神経節ブロックにより0.41秒,0.43へと短縮した.電気生理学的検査では,洞および房室結節機能は正常で,右室・左室間の有効不応期に差が認められ,心室早期刺激により非持続性心室頻拍が誘発された.本症例ではAAI型ペースメーカーを植え込み,心房レートを80/分とし,propranolol 60mgを併用することによりQT-U時間0.37秒,QTc0.43となり失神発作の予防が可能であった.

  • 文献概要を表示

 Creutzfeldt-Jakob病は,初老期から老年期に発病し,痴呆,意識障害,神経症状が進行性に増悪し,1年内外で植物状態に陥る遅発性感染症である.我々は心筋炎の経過を示した同病を経験したので報告する.

 患者は77歳の女性で母が筋萎縮性側索硬化症で死亡している.胃潰瘍,子宮筋腫の既往歴がある.1988年4月,視力障害に続き,筋強剛,ミオクローヌスおよび急速に進行する痴呆が出現.某院での脳波に周期性同期性放電が認められ,Creutzfeldt-Jakob病を疑われ6月20日当院入院.入院時心電図上広範な誘導でST上昇,後に異常Q波の出現を認めた.心エコー図上全般的な左室壁運動の低下を認めた.心筋逸脱酵素は軽度上昇を示した.約1カ月後には心電図はほぼ正常化した.ウイルス抗体の上昇はなかったが経過より心筋炎と診断した.Creutzfeldt-Jakob病に心筋炎を合併した報告はないが,本例は心筋炎の成因にCreutzfeldt-Jakob病と関連した病因が関与した可能性が考えられる.

  • 文献概要を表示

 患者は63歳,男性.突然の動悸,息切れを主訴に来院.発作性上室性頻拍症と診断され緊急入院となったが3日後軽快退院.この時の心エコーにて心室中隔の非対称性肥厚を指摘され精査のため再入院.入院後,諸検査でネフローゼ症候群と大腸腺腫の合併がありそれぞれステロイド治療と腸管切除が施行された.入院後10カ月頃より胸部X線上両肺野にび漫性の異常陰影が出現,呼吸不全を併発し死亡した.剖検にて心臓の重量は300g,左右心室と心室中隔に肥厚がみられ,組織学的に広範な肥大心筋の錯綜配列を認めた.肺臓は器質化肺炎,陳旧性胸膜炎と肺胞上皮にサイトメガロウイルスの感染が認められた.腎臓には糸球体の軽度の硬化と,間質の線維化がみられた.本例は肥大型心筋症に糸球体病変に伴うネフローゼ症候群と大腸腺腫の合併がみられ,サイトメガロウイルスの感染で死亡した稀な症例で心筋病変との関連等につき考察し報告した.

  • 文献概要を表示

 術前に心エコー図で腫瘍内に嚢腫様透亮像を認めた77歳の女性の左房粘液腫の1手術治験例を経験したので報告する.心エコー図で内部に嚢腫様透亮像を認めた粘液腫はまれであり,現在までに3報告例を認めるのみである.本例は心房細動発作をきっかけに心エコー検査にて診断された.手術は左房,右房縦切開法にて行い,心房中隔に茎を有する30×27×60mm,重さ40gの粘液腫を摘出した.術後は重大な合併症もなく経過順調であった.本邦での70歳以上の高齢者の本手術報告例は20例に満たないが,手術成績,長期予後ともに良好である.

基本情報

04523458.39.4.jpg
呼吸と循環
39巻4号 (1991年4月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

文献閲覧数ランキング(
5月18日~5月24日
)