整形・災害外科 62巻12号 (2019年11月)

特集 リバース型人工肩関節

玉井 和哉
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2014年4月に日本でリバース型人工肩関節(以下,RSA)が使用可能となってから5年が経過した。2018年3月までに日本人工関節学会のレジストリーに登録されたのは3,851例,その後1年以上経過しているので実際には5,000例を超える手術が行われたと思われる。5年,5,000例という区切りは,改めて我々の経験を振り返り,RSAの知見を整理するのに適した時期だと考え,本特集を企画した。

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要旨:現在のリバース型人工肩関節(RSA)は腱板断裂性関節症のみならず,広範囲腱板断裂,リウマチ肩,上腕骨近位部骨折など様々な疾患・外傷に対して良好な治療成績獲得が期待できる手術方法である。1970年代に開発された第一世代RSAは上腕骨側にポリエチレン製ソケットを有するインプラント,肩甲骨側に金属製ボールとコンポーネントを組み合わせたボール & ソケット型の拘束型人工関節であった。拘束が強く摺動面が狭かったため,期待する機能獲得は得られなかった。1985年Grammontが開発した第二世代RSAは,上腕骨に開口した摺動面を有するトランペット型インプラントと肩甲骨側の2/3円関節窩球から成る半拘束型であった。三角筋の伸長と回転中心の内方化により良好な機能獲得が可能となった。このGrammontコンセプトは第三世代RSAと引き継がれ,合併症の減少と長期予後が期待される人工関節へと発展していった。

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要旨:リバース型人工肩関節置換術(RSA)は2014年4月に認可を受け,本邦での使用が開始された。諸外国における導入初期の高い合併症発生率を鑑み,また本邦におけるデバイスラグ克服の観点から臨床治験を行わずに導入された経緯から,RSAの使用にあたっては全例登録とガイドライン遵守が求められている。ガイドラインでは,厳格な実施医基準に基づく講習会の受講が義務づけられ,それによりRSAに関する必要な知識と技量の習得が担保される。現行ガイドラインのもと,RSAの本邦への導入は期待以上に順調に達成された。一方,ガイドラインはすべての症例において機械的に適応されるものではないが,やむをえない事情によりガイドラインを逸脱する場合は,合理的な理由を明確化し,説明と同意を記録に残すことが必須となる。現在,新たなガイドラインの作成が行われているが,適応と運用基準の拡大により,さらに多くの成果が得られることが期待される。

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要旨:現在,本邦で使用可能なリバース型人工肩関節は8機種であり,それぞれ異なるコンセプトに基づくデザインや特徴がある。初期のGrammont typeではscapular notchの発生が高率であったが,より解剖学的な頚体角,on-lay typeの上腕骨インプラント,グレノスフィアの下方オフセットや外側オフセット,BIO(bony increased offset)手技などにより,その発生率は減少した。一方で,最近では上腕骨側あるいはグレノイド側での外方化により肩甲骨骨折の増加が報告されており,また回転中心の外方化によるグレノイドインプラントの緩みのリスクがあり,過度の外方化とならないよう注意が必要である。また,小柄な症例の多い日本人では,サイズバリエーションを考慮した機種選択が必要である。近年では,より骨温存が可能なショートステムが開発され近位固定による骨吸収の減少が期待されているが,その中・長期経過はまだ不明である。各機種の特徴を熟知して,症例ごとに適切な機種選択をすることが,合併症を予防し良好な長期成績を得るために重要である。

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要旨:リバース型人工肩関節置換術は偽性麻痺肩を呈した腱板断裂性関節症もしくは腱板広範囲断裂に対する治療として2014年に本邦で使用可能となった後,広く普及している。インプラントの進化に伴い現在は多くの機種が使用可能となっているが,その基本的な手術手技は同一である。関節窩コンポーネントと上腕骨コンポーネントを術前計画どおりに挿入するため,体位設置やアプローチ,肩甲下筋腱の処理,上腕骨頭の骨切り,関節窩の展開が適切に行われる必要がある。

関節窩骨欠損への対応 林田 賢治
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要旨:関節窩骨欠損に対し骨移植を併用したRSA症例は関節窩コンポーネントの緩み率が高く,安定して良好な成績を維持するには,良好な初期固定と良好な生着を得られるような術式,また初期固定に応じた後療法を考えなければならない。周到な術前計画と術中の対応,および術後後療法の配慮が必要となる。

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要旨:リバース型人工肩関節の代表的な合併症としては術中術後のインプラント周辺骨折,神経損傷,血腫形成,脱臼,感染,関節窩ベースプレートの緩み,scapular notchingが挙げられる。対策として,最重要なことは入念な術前の準備,計画である。症例に応じたインプラントの選択および設置計画はもちろんのこと,骨粗鬆症などの骨脆弱性を含む全身状態の評価と骨修飾薬を含む治療を術前から長期的に計画的に行うことが重要である。また,術中にできる対策としては,ナビゲーションシステムやpatient-specific instrumentation(PSI)を用いた術前計画に沿った至適位置へのインプラントの設置がある。これらの実施により,合併症の発症率および重症度の低下に寄与すると考える。術後は,合併症の発生を常に念頭に入れ,定期的な診察,画像および血液学的検査を行うことで,合併症の早期発見に寄与することを考える。

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要旨:リバース型人工肩関節置換術(RSA)の適応として腱板断裂症性関節症が最も良い適応とされ,本邦の日本肩関節学会におけるガイドラインでも最も良い適応と示されている。当院での腱板断裂症性関節症,修復不能な腱板広範囲断裂に対するRSAの術後臨床成績でも良好な成績が得られているが,術後の内外旋機能の改善が乏しい場合や合併症の発生が大きな問題となる。外旋機能に関しては術前小円筋の断裂や脂肪変性が強い場合,大円筋・広背筋を外旋筋として移行するL’Episcopo変法を追加することやインプラントの外方化(on-lay typeの使用,Bony increased offset-RSA)を行うことによりある程度良好な成績が得られる。また術後再手術となる合併症を避け,より良い術後成績を得るためにはインプラントの適切な設置が最も重要になると考えられる。

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要旨:リバース型人工肩関節置換術の主な適応は,70歳以上の腱板断裂性関節症や修復不能な腱板広範囲断裂であるが,近年,高齢者の肩関節外傷に対する実施例も増加している。粉砕の強い高齢者の上腕骨近位端骨折では,人工骨頭置換術と比べて安定した臨床成績が期待できる。また,陳旧性脱臼や骨折続発症(fracture sequelae)についても良好な臨床成績が報告されている。しかしながら,実施対象が高齢者であるため,受傷前からの腱板断裂や腱板機能不全,関節窩の関節症性変化や骨欠損,術後の回旋可動域低下や手術合併症などの問題点も指摘されている。肩関節外傷に対してリバース型人工肩関節置換術を実施する場合は,慎重な術前計画と,それに基づく上腕骨長の再建や確実な結節修復が肝要である。

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要旨:関節リウマチによる肩関節障害の頻度は高く,身体機能障害に与える影響は大きい。関節リウマチでは病期の進行に伴って上腕骨頭は内側かつ上方に移動する。このことは肩甲上腕関節の破壊とともに早期から腱板断裂を生じていることを意味し,人工骨頭置換術や解剖学的人工肩関節置換術では満足のいく成績が得られないことが多く,リウマチ肩に対する手術は敬遠される傾向にあった。しかし,本邦でもリバース型人工肩関節が使用可能となりリウマチ肩に対する手術成績の向上が期待されている。手術は慣れたアプローチで行うのがよいが,関節リウマチ特有のグレノイド形態のバリエーションを意識して手術計画を立てる必要がある。また,骨強度の低い症例が多く,骨折の合併症が多く報告されているため注意が必要である。グレノイド側はbony erosionに伴う楕円状の骨欠損を伴うことが多く,軟骨下骨の強度を初期固定に用いながら,適時骨移植を行うことが重要である。

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要旨:RSAが本邦に導入され良好な短期成績が報告されるようになった。欧米では10年以上の長期成績が報告され,その成績は良好であるが,解決されていない問題も残っている。本稿ではこれまでの報告のreviewを行い,現状について考察した。再手術をエンドポイントとした生存率は10年で9割程度と判断でき,10年の臨床成績は良好であるが,10年未満で臨床成績が落ちる可能性がある。Scapular notchingは10年でも進行を認めるが,臨床成績には影響しないとする報告が多い。通常のRSAでは外旋の改善は期待できず,小円筋の萎縮が強ければさらに外旋は低下する。CLEER症例に対する広背筋移行は外旋の改善が期待できるが,その反面,内旋を低下させる可能性がある。回転中心の外方化にせよ,上腕骨の外方化にせよ,外方化することによってscapular notchingを軽減し,残存腱板の機能を改善し,肩の形態を解剖学的に近づける効果はあるといえる。

Personal View

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最近は,90歳以上の患者さんも珍しくなく,私の外来で1日に数人診察することもある。人工関節のフォローで受診してもらっている患者さんには,1年後の予約を取ってお帰りいただくが,「元気で来年も来るから,先生も頑張ってね」と,90歳を超えている患者さんに私を気遣ってもらうこともある。「人生100年時代」の到来を実感する瞬間である。

整形外科手術 名人のknow-how

両十字靱帯温存TKA 乾 洋
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近年本邦に導入された両十字靱帯温存型(bi-cruciate retaining;BCR)TKA(total knee arthroplasty)は膝関節全靱帯を温存することにより,生理的なキネマティクス,安定性,proprioceptionが温存され,良好な手術成績につながると期待されている1)2)。本邦ではVanguard XP(Zimmer Biomet社)とJOURNEYTMⅡ XRTM(Smith and Nephew社)が使用可能である。しかしBCR TKAが本邦に導入されて約4年経過した現在,BCR TKAは期待どおりの成績が得られていないと感じている術者も多いとされる。

机上の想いのままに

起承転結の呪縛 西野 仁樹
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どうも子供時代の自由作文教育で刷り込まれた起承転結の呪縛から逃れられない。個人的趣味で書いていた「リウマチ読本」を読み返してみても,おのずと起承転結になっている。

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要旨:変形性膝関節症(膝OA)は罹患率の高い疾患であり,進行性の関節軟骨破壊によって特徴づけられている。OA関節軟骨細胞で高発現されたHYBID(CEMIP/KIAA1199)は膝関節軟骨中のヒアルロン酸分解に中心的な役割を果たし,OA滑膜細胞で発現されたHYBIDは関節液中ヒアルロン酸の低分子化を通して膝OA関節軟骨破壊に関わると推定される。本論文ではHYBIDのOA病態での役割について概説する。

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要旨:超音波ガイド下頚部神経根ブロックをより安全に実施するために,標的神経根周囲,針刺入経路の血管存在リスクを明らかにすることを目的とした。超音波ガイド下頚部神経根ブロックを施行した頚椎症性神経根症患者12例および神経根症を有さない健康ボランティア12例の合計24例を対象とした。標的神経根周囲と針刺入経路にカラードップラーで判別可能な血管が存在する場合をリスクありと判定した。標的神経根周囲リスクはC5,C6神経根では,それぞれ8.3%,3.7%だったが,C7神経根では23.1%と高頻度であった。針刺入経路リスクはC5,C6神経根ではそれぞれ4.2%,7.4%であったが,C7神経根では19.2%とC7神経根でよりリスクが高かった。C7神経根はC5,C6と比較し,標的神経根周囲,針刺入経路の血管存在リスクが高いため,より注意が必要であること,血管誤穿刺を予防し,安全にブロックを実施するためにカラードップラーによる確認が有用であることが明らかとなった。

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要旨:大腿骨転子部骨折において,術前単純X線正面像のみでラグスクリュー(ラグ)挿入部骨折の予測が可能かどうか,大転子骨片の大きさに注目し検討した。大腿骨転子部骨折にネイルを用いて骨接合術を行い,CTを術前後に撮影した129例のうち,大転子に二次骨折線を伴う骨折85例(男性16例,女性69例,平均87歳)を対象とした。術前単純X線正面像で二次骨折線が大転子近位1/2にある場合をA群,遠位1/2にある場合をB群とした。B群で無名結節を二次骨折線が通過していた例が有意に多く,ラグ挿入部骨折も有意に多かった。また,無名結節を通過する二次骨折線があると,ラグ挿入部骨折は有意に多かった。大腿骨転子部骨折の術前単純X線正面像における大転子部の二次骨折線の位置は,ラグ挿入部骨折を予測する指標となると考えた。

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要旨:高エネルギー外傷である若年者の骨盤骨折は静脈血栓塞栓症(VTE)の発生リスクが高いとされているが,低エネルギー外傷で生じた高齢者の骨盤骨折と同列に扱うことについては疑問がある。今回,保存療法を行った高齢者骨盤骨折のうち,低エネルギー外傷で合併外傷のなかった33例(男性6例,女性27例,平均年齢80.3歳)に対して超音波検査を用いて下肢深部静脈血栓症(DVT)の発生状況を調査し,性別,年齢,BMI,骨折型,併存疾患,抗凝固薬・抗血小板薬内服の有無,骨折から入院までの期間と併せて検討した。結果は10例(30.3%)にDVTを認め,2例は近位型に進展しており,うち1例は肺塞栓症(PTE)を合併していた。統計学的検討では年齢が高くなるほどDVTの発生が有意に多かった。低エネルギー外傷で生じた高齢者骨盤骨折患者においてもVTEの発生が多く認められ,十分な予防が必要である。

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要旨:本邦での報告の少ない大転子疼痛症候群の10症例を経験し文献的考察を加えた。高齢者に多く,変形性腰椎症の合併が多かった。骨盤MRI検査ではすべての症例に中小殿筋腱炎像がみられたが,股関節X線検査では石灰化陰影はみられなかった。誘因なく発症するものが多く,NSAIDs投与と殿部痛部位へのステロイド注射が有効であった。本邦における報告例が少ない理由として,本症候群に対する認知度が低いことに加え,症状が変形性腰椎症に類似しているための誤診,また保存療法が有効で診断が確定する前に治癒していることなどが考えられた。愁訴の主体が殿部痛で知覚障害が目立たないような症例では,たとえ股関節X線検査で明らかな異常がなくても,また腰椎MRIで腰部脊柱管狭窄症と診断されていても,本疾患の可能性を念頭に置いて骨盤MRIや大転子周囲組織のエコー検査を行うべきである。

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要旨:43歳男性で,糖尿病性Charcot足に対側の脛骨内顆疲労骨折が続発したまれな症例を経験した。Charcot足に対しては,初回手術で変形矯正とIlizarov創外固定器による固定を行い,仮骨形成を確認後,内固定に変更した。脛骨内顆疲労骨折に対しては保存療法を行い,両下肢とも良好な骨癒合が得られた。重症糖尿病患者においてはCharcot足のみならず,骨質劣化が潜在することから各所に骨折を起こしうることについても留意し,治療を行う必要があると考えられた。

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基本情報

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整形・災害外科
62巻12号 (2019年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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