整形・災害外科 62巻13号 (2019年12月)

特集 骨粗鬆症リエゾンサービス

萩野 浩
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わが国で2007年に生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推計されている。一昨年,政府に「人生100年時代構想会議」が設置され,人生100年時代を見据えた取り組みが始められている。日本の多くの高齢者は「長く」生きることよりも,「健康に」生きたいという思いが強い。本誌の読者は,骨折予防が健康寿命延伸のために重要であることは十分に理解していると思われる。しかしながら,社会全体で高齢者骨折の予防の重要性が共有されているとは思われない。それは骨粗鬆症治療が患者全体の30%程度しか実施されていないと考えられることや,治療薬の1年後の継続率が50%程度まで低下すること,大腿骨近位部骨折の患者の20%ほどしかその後の骨折予防の治療がなされていないことから推し測ることができる。その原因の一つに「骨折」という疾患に対する認識不足があげられる。

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要旨:骨粗鬆症治療の課題は,治療率が低い,薬物治療の継続率が低い,二次骨折予防が不十分な点である。このような課題を解決する目的で進められているのが,骨折リエゾンサービス(FLS)と骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)である。FLS,OLSはいずれもコーディネーター(リエゾン)が中心となり,骨粗鬆症治療を実施するシステムである。FLSが二次骨折予防を活動の中心とするのに対し,OLSは二次骨折予防に加えて,一次骨折予防も包含する。日本骨粗鬆症学会ではOLSの役割を担う骨粗鬆症に関する知識を有するメディカルスタッフを「骨粗鬆症マネージャー」と呼び,2015年から学会による認定制度が開始された。FLS,OLSともに診療報酬上のインセンティブがないため,その活動には制限がある。またFLSは既に多くの経験が蓄積され,マニュアルが作成されているのに対し,OLSにおける一次骨折予防にはロールモデルが少ない。

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要旨:日本の骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)は欧米で展開されているfracture liaison service(FLS)に加えて,骨折の一次予防も盛り込まれている。FLSでは二次骨折予防を有効に行う方法として5IQがある。OLSの一次骨折予防も5IQに沿って考える必要がある。Identifyでは対象者が未だ骨折を起こしたことがないため,骨の健康に接する機会を増やすことが必要である。Investigateでは対象者が多いため,identifyと連携して骨折リスクの高い人を効率的に評価することが重要である。Informでは,検査結果から骨折リスクを正確に理解してもらうことで,治療アドヒアランスを向上させる必要がある。Interveneでは治療介入だけでなく予防介入も必要である。これらの情報はintegrateされOLS活動に反映していくことが求められる。この流れに従いOLSマネージャーが専門性を生かし質の高い骨粗鬆症診療を提供することが必要である。

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要旨:脆弱性骨折は軽微な外力によって発生し,1つの骨折を受傷すると次の骨折を招くという骨折の連鎖を生じる特徴がある。橈骨遠位端骨折は,活動性の高い,比較的若い高齢者に発生する脆弱性骨折であり,脆弱性骨折の中でも最初に生じる骨折である。したがって橈骨遠位端骨折の症例に適切な骨粗鬆症治療が行われれば骨折連鎖の危険性を軽減できるはずで,骨粗鬆症リエゾンサービスを行う意義が存在する。大腿骨近位部骨折地域連携パスは,医療機関が役割を分担して,患者の移動能力の再獲得を目指す医療体制であるが,骨粗鬆症治療による二次骨折予防も重要な目的である。この地域連携パスでは,急性期病院から骨粗鬆症治療を開始することがポイントで,持参薬の継続により生活期医療機関での骨粗鬆症治療の継続が期待できる。これには,急性期,回復期,生活期の医療機関,調剤薬局などの多職種が連携して関わっていく必要がある。

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要旨:大腿骨近位部骨折の地域医療連携パスは診療報酬が認められてから広く国内で行われているが,われわれの連携会では,そこに転倒予防と再骨折予防の啓発活動を加えている。急性期,回復期,生活期で同じ指導箋を使い,転倒予防と二次性脆弱性骨折予防を行う。すなわち地域での治療とともに予防の標準化である。さらに市民公開講座や行政とも協働し運動器疾患の地域包括ケアを目指す。いまや「地域連携」や「多施設・多職種連携」は医療・介護領域におけるキーワードで,地域でのチーム医療を意味している。フレイル,ロコモ,サルコペニアのいずれにおいても運動と栄養が重要である。われわれは骨粗鬆症の再脆弱骨折予防からロコモ予防に視点を広げ,地域での健康寿命の延伸事業に取り組んでいる。八事整形会,八事整形医療連携会,そして特定非営利活動法人名古屋整形外科地域医療連携支援センターを設立し継続的な活動を行えるようにした。

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要旨:当院では,2014年10月に11名の骨粗鬆症マネージャーを中心に骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)チームを立ち上げた。病院でのDXAを地域診療所で有効活用するために,骨粗鬆症マネージャー以外に地域医療連携部門の事務スタッフ,診療放射線技師もOLSチームに加え,委託契約型のDXA地域共同利用システムを構築した。現時点では想定よりも利用件数が伸びておらず,内科診療所のサポートを急性期病院としてどのように行うべきか,診診連携の仕組みをどのようにつくるか,などの課題が残っている。一方,多職種による地域連携の仕組みづくりの経験は職員の能力向上や病院,地域の活性化に役立つ。

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要旨:超高齢社会を迎えたわが国では,脆弱性骨折はますます増加が見込まれる。特に大腿骨近位部骨折は大きな機能障害をもたらし,生命予後にも影響する重篤な骨折であり,患者本人のみならず,介護する家族,社会全体への負担も大きい。しかし現状は,非常に長い手術待機期間,低い骨粗鬆症治療率など大きなケアギャップがある。これに対しわれわれの施設では,多職種で連携して治療にあたることにより,① 安全・円滑な早期手術,② 既存疾患を含めた周術期の全身管理,③ 二次骨折予防を行うことが可能となった。その結果,手術待機期間は平均1.6日となり,各科との協働により周術期の管理がスムーズになった。また退院時の骨粗鬆症治療薬の投与率は90%近くとなった。また骨折リエゾンサービスにより,手術1年後の骨粗鬆症治療継続率は84%になった。多職種連携診療を充実させることにより,脆弱性骨折治療のケアギャップを埋めることは可能である。

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要旨:Fracture liaison service(FLS)は骨折患者の二次骨折予防を目的にした多職種でのケアシステムであり,優先的に取り組むべき医療の課題とされている。二次骨折予防のためのFLSクリニカルスタンダードが2019年6月に公表された。本クリニカルスタンダードは対象患者の特定,二次骨折リスク評価,投薬を含む治療開始,患者の追跡,患者および医療従事者への教育と情報提供の5つのステージからなり,病院における行動指針となっている。FLSクリニカルスタンダードには骨折後患者に対して骨粗鬆症治療を行うことを医療者が再認識すること,骨折高齢者に対する多職種での実際の活動につながること,脆弱性骨折の重大性について地域社会や行政側に啓発が広がり二次骨折予防が普及することが期待される。そのために骨折患者の全体像を理解し,FLSクリニカルスタンダードに基づいた医療者側からの行動が求められる。

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要旨:効果的な診療支援を組織化するためには,専門性の高い医療スタッフの存在と知識・手法の標準化が重要である。日本骨粗鬆症学会では,骨粗鬆症リエゾンサービス推進のために,メディカルスタッフの認定システムである骨粗鬆症マネージャー認定制度と,医療職の認定システムである骨粗鬆症認定医制度を策定した。骨粗鬆症マネージャーの資格取得者は看護師を中心に多職種にわたっており,また骨粗鬆症認定医取得者も整形外科,内科,婦人科など複数の診療科にまたがっている。このような多様性はわが国に特徴的で,職種間連携による集学的治療が行われている状況を反映していると考えられる。これらの資格は,5年ごとの更新が必要であり,生涯教育と知識の共有により骨粗鬆症リエゾンサービスの推進に寄与することが期待されている。

Personal View

爺の独り言 高橋 寛
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医師になって早くも30年が経過した。気がつけば研修医は子供のような年齢になっている。医師という職業は非常にやりがいがある仕事だと思う。珍しい症例にあたれば色々と調べ,可能性のある疾患を疑い,診断が得られればこの上ない喜びである。また新しい手術方法を知り,それを勉強し,実際にできると非常に達成感が得られる。しかしながら楽しいのは最初のうちだけである。年齢を重ねると次第に色々と肩書きがつき,仕事の内容が変わってくる。最近では,手術室に行ける時間まで制限されている。今頃になってあれもしたい,これもしたい,自分にはこれが欠けていると思いを巡らせている。

整形外科手術 名人のknow-how

膝蓋大腿関節症の手術治療 大槻 周平
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膝蓋大腿関節症は,若年期における膝蓋骨脱臼の既往や,膝蓋骨高位を伴った膝蓋骨不安定症の症例がそのまま放置され,関節症性変化が進行して発症することが多い。その発生頻度は単純X線評価では全人口の25%1),MRI評価では50%2)と報告されており,決してまれではない疾患である。

机上の想いのままに

結果か過程か 西野 仁樹
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隣のブースで患者さんの家族が手術の結果について大声で怒鳴っているのを聞きながら,漠然と考えている。

新しい医療技術

出産後の骨粗鬆症性椎体骨折 宮本 健史
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要旨:妊娠,出産,授乳はその間の月経停止に始まり,様々な代謝的な変化を母体にもたらす。骨代謝については,胎児や乳児に供給するカルシウムは母体由来であるため,骨からカルシウムを動員するための変化ともいえる。出産後にまれにみられる椎体骨折は,こうした骨代謝の変化に起因する可能性が考えられるが,その詳細は不明であった。筆者らは,こうした出産後の骨粗鬆症性椎体骨折の発生要因について,おそらく妊娠前からの原発性骨粗鬆症による低骨量が原因ではないかと考えるに至った。

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要旨:鎖骨骨幹部骨折に対するプレート固定法は,侵襲性や整容面,インプラントによる膨隆,さらに抜釘後の再骨折が問題視される。これらプレート固定法の欠点を克服するために,当施設では,高度な長斜骨折や粉砕骨折を除く鎖骨骨幹部骨折に対して,スクリューによる髄内固定法を施行してきた。今回,筆者らは,髄内スクリュー固定法を施行したAO分類type B,C群が,AO分類type A群と同様の成績が得られるかどうかについて調査した。AO分類type B,C群においてもtype A群と同様の臨床成績が得られており,また,鎖骨短縮量は許容範囲内であり,インプラント抜去を要する合併症は少なかった。鎖骨骨幹部骨折に対するHCSを使用した髄内固定法は,高度な長斜骨折や粉砕骨折を確実に適応から除外し,術中に両骨片に対する十分なスクリュー把持力を獲得することができるのであれば,ある程度の粉砕骨折に対しても適応可能であると考えられる。

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要旨:投球時に左肘痛を繰り返した14歳男子の症例に,単純X線像で古島分類移行型の左肘頭疲労骨折を認めた。骨折部を挟んで櫛形になるよう肘頭背側を骨切り・開窓し,硬化組織の掻爬と遠位髄腔からの骨移植を行った。骨片を反転して還納し鋼線締結法で固定した。術後3カ月で骨新生を認め,抜釘した。術後4カ月で骨癒合したため投球を再開した。本法は従来の局所反転骨移植が困難な移行型肘頭疲労骨折に有用と思われた。

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要旨:大腿骨転子部骨折の小転子骨片により仮性動脈瘤を生じた1例を経験した。術後に左大腿部痛と腫脹,貧血の進行を認め,造影CTにて外側大腿回旋動脈からの出血と仮性動脈瘤を認めた。仮性動脈瘤に対してコイル塞栓術を施行し,その後,小転子骨片の摘出を行った。小転子骨片の形状や転位の位置によっては血管損傷が起きることがある。治療としてはあらかじめコイル塞栓術を行うことで安全に小転子骨片を摘出することができた。

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要旨:長期透析患者においてアミロイド股関節症により急速に股関節の破壊を生じた1例を経験した。関節破壊が急速に進行したため,化膿性股関節炎と鑑別を要した。生検,培養検査を施行し感染がないことを確認した後に,二期的に人工股関節全置換術を施行した。術後1年半を経過し,人工関節の緩みや感染なく,経過良好である。

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要旨:環指MP関節掌側脱臼例を経験した。症例は38歳男性,自転車走行中に転倒し受傷した。MP関節は高度の不安定性を呈し,背側関節包の縫合縫縮,橈尺側側副靱帯の縫合では安定性が得られず,掌側板の縫合にて安定性が得られた。術後6カ月の時点で,不安定性なく経過良好である。整復位保持が不能な不安定性を伴うMP関節掌側脱臼に対しては,橈尺側側副靱帯の修復が必須であるが,掌側板の縫合によってさらに安定性が増すと考える。

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整形・災害外科
62巻13号 (2019年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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