整形・災害外科 62巻11号 (2019年10月)

特集 脊椎疾患・関節疾患による慢性疼痛治療 update

川口 善治
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整形外科を標榜する医療機関には毎日慢性疼痛を抱える多くの患者が来院する。我々はこれらの患者に対し様々な手段を駆使しながら疼痛の治療に当たっている。しかし必ずしもその結果は良いとはいえず,満足度の高くない患者が少なからず存在しているということも事実であり,このことを多くの医師は認識している。その問題を解決する一助として「脊椎疾患・関節疾患による慢性疼痛治療 update」をテーマとする特集の企画を行った。

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要旨:疼痛は,「急性疼痛」と「慢性疼痛」に分類される。慢性疼痛は,生物学的因子と心理社会的因子の両方が共存する生物心理社会モデルとして捉える必要がある。慢性疼痛患者に対する疼痛管理のポイントは,「急性疼痛と慢性疼痛を鑑別すること」と「疼痛の多面性」に注目することである。疼痛の遷延化を説明するモデルとして「恐怖-回避モデル」が提唱されている。疼痛の病態による分類には,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,それらの両方の要素を有する混合性疼痛,および心理社会的疼痛がある。慢性疼痛の診療における整形外科医の重要な役割は,疼痛の原因となりうる組織障害・器質的な異常所見を見逃さないための十分な評価と正確な診断を行うことである。その上で多職種の専門家と協力して集学的な診断・治療を行う必要がある。

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要旨:慢性疼痛の中で脊椎疾患によるものは多く,神経痛と非神経痛では薬物療法の方針も異なる。慢性腰痛をはじめとする非神経痛性慢性痛ではアセトアミノフェン,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬,オピオイドが推奨される。NSAIDsは長期使用には向かないので,慢性疼痛に使用するときは使用期間を限定するべきである。神経痛では神経組織への圧迫や牽引などで生じる圧迫性神経障害と神経変性によって神経伝達に異常をきたしてしまっている非圧迫性神経障害(神経障害性疼痛)がある。圧迫性神経障害の保存療法では,ADL指導を基本に薬物療法と神経ブロックを併用するなどして比較的短期に改善してしまえるものもあるが,非圧迫性の神経障害では薬剤に頼らざるをえないケースが多い。神経痛にはプレガバリン,オピオイド,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液などが使用されることが多い。

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要旨:慢性腰痛の原因は筋膜性腰痛,椎間板性腰痛,椎間関節性腰痛,仙腸関節痛,椎間板症および脊柱変形など様々であるが,病因がはっきりと診断がつくものは少ないとされている。これらの腰痛の原因となる病態のうち,腰椎椎間板症および脊柱変形による腰痛については手術療法の有効性があり,保存療法を十分に行っても症状が改善しない場合には手術適応を考慮する。ただし,手術の可否は患者の手術侵襲,社会的背景などまで配慮して考える必要がある。慢性腰痛の治療は保存療法が原則であるが,腰痛の原因となる病態が診断できれば手術療法で良好な結果を得られる症例があることも念頭において診療にあたるべきである。

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要旨:脊椎疾患による慢性疼痛で治療上最も問題となるのが,原因の特定できない腰痛,すなわち非特異的腰痛である。本症は腹筋・背筋など脊柱を支える体幹筋の筋力および筋持久力の低下,神経と筋肉および表層筋と深層筋の協調運動の異常といった複数の要因が関与して生じると考えられている。われわれは,本症を改善する目的で,第1に腰への負担をかけない姿勢や動作をとることと,第2に筋力トレーニングやストレッチングなどの体操を行うことを習慣化するよう患者に指導している。これら2つの習慣化によって,脊柱アライメントが理想的な状態に改善し,それが維持されることで腰への負担が軽減され腰痛の改善と予防につながると考えられる。こうしたわれわれが行っている腰痛改善・予防のための運動療法を総称して,「腰みがき」と呼称している。毎日の習慣として「歯みがき」と同じように「腰みがき」を患者に指導し実践してもらうことを旨とする。

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要旨:慢性疼痛の治療ストラテジーにおいて,薬物療法は運動療法の次に位置づけられている。変形性関節症においても,効果的な運動療法のため,運動療法を後押しするため,そして,手術療法の成績を向上させるためと,薬物療法の果たす役割は大きい。近年多くの新規鎮痛薬が処方可能となっているが,患者の疼痛に合わせた適切な処方を行うことは容易ではない。適切な処方を行うためには,変形性関節症の疼痛発生メカニズムと,薬剤の鎮痛効果発現機序を十分に把握しておく必要がある。

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要旨:慢性の関節痛の中で変形性膝関節症(膝OA)は疾患頻度が高く幅広く研究されており手術療法も発達している。単一コンパートメントのOAで不安定性がない場合,活動性の高い若年者には骨切り術を,活動性の低い高齢者には単顆型人工関節手術(UKA)が適応となる。人工膝関節置換術(TKA)は複数コンパートメントの関節症を認める患者にも適応できる。それぞれ適応が異なるため成績の比較は困難であるが,TKAはUKAや骨切り術より長期的に安定している。UKA,骨切り術の残存コンパートメントの変性による痛みの再燃は再手術に至る原因であり,手術適応を厳格にし,過矯正や矯正不足などの手術手技エラーを避けることが重要である。全コンパートメントを置換するTKAにおいても遷延性術後疼痛が問題となっており,膝局所の滑膜炎,神経障害性疼痛の要素,神経感作などが原因と考えられ,原因を究明し治療につなげることが今後の課題である。

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要旨:現在,日本では急速な高齢化が進んでおり,加齢が原因の慢性疼痛を伴う肩関節周囲炎や変形性関節症などの変性疾患が増加すると予想される。肩関節周囲炎は疼痛とともに関節可動域(ROM)やADLなどの改善を治療効果の指標としており,ROM訓練と徒手療法は推奨される。一方で物理療法は,単独ではなく,ストレッチングなどの運動療法と組み合わせることで疼痛の有意な改善効果が報告されている。変形性股関節症では患者指導(病識の向上およびホームエクササイズの指導)と運動療法,さらにその組み合わせが疼痛の改善に有効であるが,物理療法の効果は不明とされている。変形性膝関節症では定期的な筋力増強・有酸素運動,協調性訓練の継続が有効とされるが,ROM訓練と物理療法は各ガイドラインで一定の見解が得られていない。理学療法の問題点として,ホームエクササイズは多くの論文で取り入れられているものの,その実施の検証が困難であることが挙げられる。また,慢性疼痛に特徴的な運動恐怖症や悲観的な解釈をする破局的思考などの問題にも対応する必要があり,「いきいきリハビリノート」を用いた認知行動療法に基づく運動促進法が新たな治療手段の一つになりうる。

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要旨:慢性疼痛は複雑な病態であり,単一の治療方法で対処することは困難である。このために心理的アプローチの必要性が高まっている。しかし,この治療方法を導入するためにはまず正確な病態分析が必要である。精緻な身体的評価による器質要因の探索から始まり,精神障害の有無,個別的な心理・社会要因の分析が欠かせない。それらを踏まえて,心理療法が開始されるが,どのような治療においても時間をかけた導入また治療関係の成熟が重要である。一般的な精神療法のエッセンスである小精神療法は治療者の基本姿勢として見直したい。また第二世代認知行動療法(cognitive behavioral therapy;CBT),第三世代CBTとしてマインドフルネス,アクセプタンス & コミットメント・セラピー(acceptance and commitment therapy;ACT)の有効性は実証されている。

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要旨:慢性疼痛は器質的な問題のみならず,心理・社会面の影響を受けやすく,単一診療科によるアプローチでは治療が困難であるため,多職種による多面的な評価,病態分析に基づいた集学的治療が必要とされる。わが国における集学的治療の体制は,欧米に比べて大きく遅れをとっていたが,近年になりようやく,行政による取り組みが進められるようになった。集学的治療に携わる各専門スタッフは,集学的カンファレンスにて “red flags” を除外した上で,知識や技術を活かした評価・介入を行い,定期的に治療の効果判定および見直しを行う。また治療においては,日常生活の活動性を安定させ,苦悩などの情動的な問題を改善させることをゴールとする。しかし,こうした集学的治療によっても効果が得られにくい難治性の症例に対しては,短期集中型のグループプログラムであるペインマネジメントプログラムの有効性が高いとされ,われわれの施設でも良好な成績を得ている。

Personal View

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「なんちゃって整形外科専門医の会」という,一風変わった名前の会がある。かくいう私もその一員である。その名の通り基本的には整形外科専門医の集まりなのだが,専門医資格をもっていない先生も交じっている。整形外科専門医でありながら基礎研究を精力的に行っている先生方が集っており,そういった意味でなんちゃって整形外科専門医,と専門医であることに謙遜を含めて呼称する。自然発生的に始まった会で,今から10年前の2009年(平成21年)5月に福岡で開催された第82回日本整形外科学会学術総会において記念すべき第1回が開催された。参加者に多少の変動はあるものの,ほぼ同じメンバーで毎年1回欠かさず開催されており,今年開催されれば記念すべき第10回目の会になる。

整形外科手術 名人のknow-how

Ender nailing 早川 和恵
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現在の長管骨骨折に対する骨接合術は固定材料,手術器械,手術手技まで確実に進歩してきた。近年,大腿骨骨折に対するinterlocking nailは非常に使用しやすくなった。その一方,古いものは使用されにくい現状がある。Ender法もその一つではなかろうか。

机上の想いのままに

Critiqueと批判の違い 西野 仁樹
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日本で「批判」というと欠点や瑕疵をあげつらい,対象を否定することへと力点が傾くニュアンスがあり,しばしば「非難・論難」になりがちである。実際,peer reviewでのreviewer’s commentを読むと「非難されて人格まで否定された」ような気分になり落ち込んでしまうのは,私が日本人であるからであろうか。

新しい医療技術

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要旨:Dual energy CT(DECT)は,異なる2つのエネルギーを用いて画像データを取得する手法である。整形外科領域では,特に金属アーチファクトの低減に関する有用性が知られている。まだ発展途上の分野でもあり,限られた新しい装置でなければ施行不可能な技術ではあるが,今後も様々な側面から研究が行われ,その有用性が確立されることを期待する。

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要旨:われわれは上腕骨幹部骨折に背側プレート固定を行った症例のプレート固定後のX線像と臨床写真を検討し,橈骨神経の上腕骨背面での正確な位置を計測した。対象は2010年1月~2018年6月に非開放性の上腕骨骨幹部骨折に対して当科で手術を行った10例である。術後のX線像と術中のデジタルカメラの写真から上腕骨背側中央部での橈骨神経の位置を判定し上腕骨全長に対する橈骨神経の位置をパーセント表示した。上腕骨長は287~343mmで,平均306±5.7mmであった。橈骨神経と上腕骨下端との距離は150~181mmで,平均161.7±2.8mmであった。上腕骨全長に対する橈骨神経の位置は50.2~54.7%で,平均52.9±0.47%であった。上腕骨の全長は平均306mmであったため,3%は約9mmに相当する。したがって,橈骨神経は,平均すると上腕骨の中心から近位9mm付近に存在する可能性が高いことがわかった。

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要旨:腰椎後方椎体間固定術(PLIF)において移植骨形状を論じた報告は渉猟しうる限り存在しない。当院ではcage内には顆粒状の移植骨,cage外には直方体形状の移植骨を使用している。術後9カ月での骨癒合率は顆粒状の移植骨が86%,直方体形状の移植骨が84%,椎間外骨性架橋は2%,椎間関節癒合は3%,椎体終板骨囊腫は5%,椎弓根スクリューの緩みは5%であった。過去の報告を鑑みるとこれらの結果は良好であった。これらの偽関節の危険因子の発生率が低率であったことから,直方体形状の移植骨を用いることは椎間を安定化させる作用を有することが示唆された。また,移植骨形状の差異による骨癒合の優劣は認められなかった。

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要旨:骨折手術における,初回から31日以内の再手術の発生率を質指標(QI)として設定した。2016年の診療実績では鎖骨遠位端骨折において不具合症例が多く発生していることが,QIの算出から判明した。当院ではインシデントの基準は診療科ごとに明確化されており,予定外の再手術はインシデントレポート(IR)の提出症例に該当する。2016年に施行した鎖骨遠位端骨折手術21例の後ろ向き調査では,再手術は4例あったがIR提出は2例であった。IRは自主的な報告制度であり,全例報告されているかを管理するシステムが構築されていない。一方でQIは医事課情報から算出されるので有害事象の発生率を客観的に表示しうる。QIを検討することで従来のIRでは評価できなかった有害事象の発生率が明らかになった。IRは注意喚起材料であったが,QIは医療の質を示す客観的かつ定量的な指標の一つとなり得ると考えられた。

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要旨:広範囲の膝関節軟骨欠損に対する治療法は確立されていない。今回われわれは欠損面積が10.5cm2の膝離断性骨軟骨炎(ICRS grade Ⅳ)に対しpoly-L-lactic acid-hydroxyapatite(HA/PLLA)ピン固定と自家培養軟骨移植術の併用手術を行った。症例は34歳男性で活動性の高い症例であったが,術後1年でバスケットボールへ復帰し,良好な結果が得られた。

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要旨:症例は慢性腎不全に対する腎移植術後の47歳男性である。急性副鼻腔炎に対しレボフロキサシンを処方された後より左アキレス腱部痛が発生し,2週間後,アキレス腱断裂を生じた。腱縫合術を施行し,ギプス固定からアキレス腱装具を用いて荷重歩行訓練を開始し,術後は特に問題なく経過した。ニューキノロン系抗菌薬にはアキレス腱障害の副作用がある。リスクファクターとして加齢,透析,臓器移植術,ステロイド長期投与などが加わる場合には,腱断裂の認識と注意が必要である。

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整形・災害外科
62巻11号 (2019年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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