整形・災害外科 60巻11号 (2017年10月)

特集 ステロイド関連大腿骨頭壊死症の予防と新しい治療

序文 山本 卓明
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特発性大腿骨頭壊死症は,昭和55(1980)年に旧厚生省により難治性特定疾患に指定され,医療費補助が開始された。加えて,全国規模の調査研究班(初代班長:故西尾篤人九州大学教授)が組織され,これまで数多くの素晴らしい研究成果が得られている。研究班発足以来,約37年が経過した今,医学・科学の目覚ましい進歩に伴い,これまでになかった数多くの新しい治療や予防法が報告されている。今回,学際的観点から各分野におけるトップレベルの先生方に最新の知見について概説して頂いた。

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特発性大腿骨頭壊死症(ONFH)の疫学について,厚生労働省等の助成による「ONFH調査研究班」の成果から,主要リスク因子であるステロイド投与の知見を中心に概説した。直近の全国疫学調査(2015年実施)によると,ONFH 症例の約半数にステロイド全身投与歴を認め,投与対象疾患は全身性エリテマトーデス(SLE)が最も多かった。研究班の班員所属施設を定点とするモニタリングシステムではステロイド投与対象疾患の経年変化を評価しており,1997〜2011年の15 年間でSLEと腎移植は減少し,肺疾患と皮膚疾患が増加している。ステロイド非投与と比較して,投与によりONFH リスクは約20 倍上昇すると報告されている。SLE 患者や腎移植患者など,ONFH のハイリスク者を対象にステロイド投与量とONFH リスクを検討した研究が複数あるものの,長期にわたって投与量を把握することの困難性などにより,一貫した知見は得られていない。

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大腿骨頭壊死症(ONF)は特に全身性エリテマトーデス(SLE)において高頻度に発生する合併症で,ステロイド剤による治療開始後早期に発生する。以前よりわれわれはSLE患者におけるONF の研究を行ってきたが,SLE 初回治療時のONF 発生の予防効果を検討するため抗凝固薬ワルファリンと高コレステロール血症治療薬であるスタチンの併用による多施設共同研究を行った。投与症例は35 例で,そのうち8例(23%)でONFの発生が認められ,発症に至ったのは3 例(8.6%)であった。これは以前の研究における無治療コントロール群のONF発生率(34%)および発症率(14%)に比べやや低い傾向であった。問題点として腎生検などを行った例ではワルファリン開始が遅れること,治療早期に生じる種々の合併症や検査異常で予防薬の継続率が高くないことが挙げられた。有効なONF の予防法が存在しない現在,両薬剤の併用は本症の抑制に有用である可能性があると考えている。

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日本ではステロイド関連骨壊死の割合が高く,しかも若年層で顕著であることから,ステロイド全身投与症例に対する骨壊死発生予防法の開発は喫緊の課題である。現在われわれは,動物モデルを用いた基礎研究結果を根拠に,既存薬であるクロピドグレル硫酸塩(プラビックス®),ピタバスタチンカルシウム(リバロ®),およびトコフェロール酢酸エステル(ユベラ®)の3剤併用による骨壊死予防の臨床試験を,先進医療として行っている。

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これまでわれわれは,本疾患への酸化ストレスの関与を中心に機序の解明および予防法の検討を行ってきた。今回は,少し検討角度を変えて,骨壊死における新規細胞死necroptosisの関与について調査した。その結果,プログラムされた壊死という新しい概念であるnecroptosis の関与が本疾患モデルでも認められた。したがって,制御不能と考えられていた壊死という概念であるステロイド関連骨壊死にもnecroptosis が関与している可能性が示唆された。また,骨髄間葉系幹細胞(MSC)を低侵襲に経静脈投与を行い,骨壊死の発生率および投与したMSC の生体での分布についての検討を行った。経静脈的に全身投与したMSC は,本モデルの骨壊死好発部位である大腿骨近位部に出現を認め(MSC のhoming作用),骨壊死発生の有意な減少が認められた。MSC の静脈投与は非常に簡便であり,低侵襲であることから臨床応用にも期待がもてると考えられた。

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われわれは自然免疫機構を介した炎症系が特発性大腿骨頭壊死症の発生機序に関与しているとの仮説を立て,独自の動物モデルの作製,発生機序解明ならびに予防法確立に関する基礎研究を実施してきた。それらの結果から,プロトンポンプ阻害剤であるランソプラゾールに大腿骨頭壊死の発生予防効果があることを確認した。それに引き続き,実施した臨床研究では,症例数が少ないなどの限界はあるものの,ランソプラゾールは特発性大腿骨頭壊死症の発生を有意に予防していることが判明した。さらに,大腿骨頭壊死が発生した患者の多くで経過観察中に骨壊死領域の縮小を認めている。これらのことからランソプラゾールには骨壊死の予防効果だけでなく治療効果を有する可能性が示唆され,さらなる臨床研究の継続が望まれる。

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特発性大’骨頭壊死症(ONFH)において,発生した骨壊死自体に修復を促すために行ってきた骨髄単核球移植について概説した。当科では骨頭圧潰前のONFH で,一方に従来手術を行った反対股に対して,同時に本法を行ってきた。術後9 年以上経過例のうち圧潰を回避できたのは47%であったが,ほとんどの症例で移植後早期に壊死領域の縮小が得られ,73%に圧潰進行の抑制効果が得られていた。組織学的評価より,骨頭圧潰進行の有無にかかわらず,本法により壊死領域内に早期に骨・血管形成が促進される可能性が示唆された。本法は壊死体積率が25%未満の症例,骨頭荷重部外側に健常部の残存した症例や若年例に対して良好な臨床成績が期待できると考えられる。

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これまで特発性大腿骨頭壊死症に対する成長因子(bFGF)を用いた再生医療の研究を行ってきた。bFGF には血管新生活性や骨芽細胞前駆細胞の増殖があり,修復が困難とされる骨壊死部の組織修復を低侵襲治療で行うことをコンセプトとしている。家兎動物モデルでの検証を経て,ヒトでの臨床応用をまず2013年,探索的臨床試験として10例に施行した。これはStage 2 までの患者にbFGF を含有したゼラチンゲルを壊死部に経皮的に局所投与する最小侵襲手術で,ゼラチンゲルに含浸させることで局所での定着と徐放を可能としている。術後の投与後に壊死部の骨再生がみられ,良好な短期成績が得られている。安全性に問題はなく,2016年から医師主導多施設治験として64例を対象に投与を行い,現在,効果を判定する2 年間の観察期間に入っている。ここでは,先行10例の短期成績と医師主導治験の概要を述べる。

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大腿骨頭壊死症は青壮年期に好発するため,できる限り関節を温存することが望ましい。1978年に杉岡により発表された大腿骨頭回転骨切り術(TRO)は,圧潰した壊死部を非荷重部に回転移動する手術であり,関節温存には34%以上の術後健常部占拠率を得ることが必須とされている。一方で,十分な術後健常部占拠率が獲得された症例においても回転移動した壊死部の圧潰が進行するものが存在し,術後の関節症性変化の原因となることが報告されている。われわれは,大腿骨頭前方回転骨切り術を施行した症例において,術前の3 mm以上の圧潰が前方移動した壊死部の圧潰進行のリスクファクターであることを報告した。そこで現在は,TRO にリン酸カルシウム骨セメントを用いた人工骨充填を併用し,圧潰した壊死部の再球形化を行うことによるTRO 後の関節症性変化の進行防止を試みている。

Personal View

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私は整形外科医として臨床に従事しながら,その傍らで若手医師らと基礎研究に携わっている。臨床と基礎研究の両分野に従事する中,常々感じていることがある。よく日本人は創造性はないが,模倣や改良が上手いと言われる。本当にそうであろうか? ビタミン,パルスオキシメーター,青色発光ダイオード,蛍光タンパク質(GFP),iPS細胞,3D プリンター,関節鏡など,日本には数多くの素晴らしい発明や発見がある。過去の医療分野においては,当時のドラッグラグやディバイスラグなどの影響もあり,残念ながら欧米で権利化され,皮肉にも日本が輸入するようなケースも少なくない。これらの背景には,医師の特許や権利化への知識と意識不足,ならびに特許や権利化をサポートする国や組織のシステムの欠如があった。たとえば医師が良い発明や開発をした場合,日本では特許出願から製品化や臨床応用までその多くを個人で抱え込むケースが多い。私自身もいくつか経験しているが,発明者個人の負担が余りにも大きい。1998年より多くの大学で産学連携強化を目的に技術移転機関(TLO)が設けられ,近年では多くの公的資金支援,ドラッグラグやディバイスラグなどの解消,臨床研究中核病院制度の導入などで今後の成果が期待されている。

整形外科手術 名人のknow-how

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上腕骨外側上顆炎は成人の有病率が1〜3%と頻度の高い上肢の疼痛性疾患である。保存治療が有効で,ほとんどの例が治癒する。しかし,10〜20%の例は保存治療を行っても症状が改善せずに難治化する。難治例の中で症状の強い例は手術の適応になる。手術治療にはNirschl 法に代表される直視下手術と鏡視下手術がある。筆者らは,低侵襲で関節内病変の観察と処置ができるという利点から鏡視下手術を行ってきた。本稿では,難治性上腕骨外側上顆炎の鏡視下手術のコツを紹介する。

整形外科用語の散歩道

629.Chemotaxis 走化性 国分 正一
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最新の日整会用語集(第8 版)にchemokineが収載された。Chemokinesis化学運動性と対を成す用語と思いきや,1992 年にchemotactic cytokine から造られたblend 混成語であった。Chemotacticはchemotaxisの形容詞である。

630.Cuboid 方形骨 国分 正一
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49 BC,Julius Caesarは禁令を犯しRubicon 川を押し渡る際に,将兵に向ってiacta alea estと叫んだ。The die is cast,賽は投げられた,と英・和訳されている。実は,ギリシャのMenandros(342-290 BC,喜劇作家)の警句,anerriphtho kybos賽を投げるべし,を引用したらしい。

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DMARDsはdisease-modifying antirheumatic drugsの頭字語である。「修飾性」が気になる。Modify は幾分変える,延いては改善,軽減する,の筈。従ってdisease-modifying はESR やRA,CRP の値,関節障害の程度等で評価する病勢を軽減し寛解に導く,である。「改緩性」では如何か。

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知覚神経のneuronは,peripheralとcentralのbranchがT字に癒合したpseudounipolar 偽単極性である。体節毎のneuron のsoma 細胞体が集まりganglion を形成する。Ganglion はギリシャのGalen が皮下の瘤,ganglion cystに用いた。後に神経節にも適用され,脊髄神経では後根にあるのでdorsal root ganglion(DRG)と呼ばれる。

医療史回り舞台

J・F・ケネディ大統領の腰背痛 篠田 達明
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ドイツ帝国に君臨したアドルフ・ヒトラーは見かけによらず酒が飲めなかったそうである。アメリカのトランプ大統領もほとんど酒が飲めず,有り余る精力をもっぱらツイッターによる唯我独尊(アメリカファースト)の発言にふりむけている。少しはワインでも飲んで言動を和らげてはいかがであろう。

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関節表面に限定した病変部のみを置換する人工軟骨の開発では周囲の軟骨に近似した力学特性を有する材料が待望されている。ダブルネットワーク(DN)ゲルは生体軟骨に匹敵する強度と生体適合性などの優れた機能特性を有している。高含水性であるゲルは骨と接着しないという課題があったが,ハイドロキシアパタイト(HAp)を複合化したHAp/DN ゲルの開発により骨とゲルを直接固着させることに成功し人工軟骨としての臨床応用が期待されている。

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腰椎椎間板ヘルニア(LDH)と腰部脊柱管狭窄症(LSS)の予後予測を行う方法として,選択的神経根ブロック(SRB)後の疼痛変化に着目した。対象は画像所見と理学所見から単一神経根障害と診断し,SRB を施行したLDH 53 症例およびLSS 29 症例とした。痛みの評価はNumerical Rating Scale を用いて行った。患者自身に検査前,30 分後,5 時間後,20時間後,24 時間後,30 時間後,2 日から7 日後までの疼痛の強さを,経時的に記入してもらい,両疾患における保存群と手術群での初回SRB 後の疼痛の変化を調査した。その結果,両疾患の保存群ではSRB 後7 日まで有意に疼痛の減少を認めたが,手術群ではSRB後2日目にはSRB 前の疼痛と有意差を認めなくなった。SRB 後の疼痛を経時的・定量的に評価することが,治療の予後予測に有用である可能性が示唆された。

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筆者らは2 ポータル法による鏡視下手根管開放術(ECTR)を安全・簡易に行うため,小皮切の手根管開放術(OCTR)を応用したECTR の手術手技を考案した。本法は先に小皮切OCTR とほぼ同じ皮切で遠位ポータルを作製する。メッツェンバウム剪刀で正中神経と屈筋支帯間を十分剝がし,次に近位手首皮線上で長掌筋腱のすぐ尺側に近位ポータルを作製する。近位ポータルからカニューラを挿入し,屈筋支帯を末梢側から引き切り刀で切離する。ECTR の経験がなかった10 人の術者によって2013 年1 月からの18 カ月間に本法は特発性手根管症候群343例403手に施行された。OCTR への変更は17 手(4.2%),手術時間は平均13.6分,合併症は2 手(0.5%,いずれも小指浅指屈筋腱損傷)であった。本法は合併症がほとんどみられず,開始4 カ月後には学習曲線も平衡になるため,比較的安全かつ短期に習得可能な手術手技と考える。

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両側同時肘関節前方脱臼の非常にまれな1 例を経験した。14 歳男児で鉄棒の大車輪にて受傷した。受傷当日に徒手整復を行い,翌日に合併した上腕骨内上顆骨折に対し観血的骨接合術を施行した。術後3 週間の外固定の後に可動域訓練を開始し,術後6 カ月で可動域制限や不安定性を認めなかった。本症例では,大車輪の練習のため,鉄棒と手関節を連結する練習器具を両手に使っていたことが両側同時脱臼の一因と考えられた。

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脊髄髄膜腫において硬膜から離れた腫瘍内に骨化を伴うことはまれである。今回われわれは胸椎高位で腫瘍内に骨化を伴うmetaplastic meningioma の1 例を経験し,X 線像およびCT で特徴的なdirect tumor sign を認めた。病理組織検査では砂粒体は骨組織へ移行しておらず,骨組織を形成していた部分は線維組織と連続していた。間質細胞が反応性増殖をきたし,骨形成されたと考えられた。

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整形・災害外科
60巻11号 (2017年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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