臨床外科 63巻8号 (2008年8月)

特集 St. Gallen 2007に基づいた乳癌テーラーメイド補助療法

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はじめに

 乳癌の術後補助療法(補助療法)は患者の生命予後を左右する重要な治療である.近年の補助療法の進歩は著しい.LHRHアゴニスト(以下,LHRH-A),アロマターゼ阻害剤(aromatase inhibitor:以下,AI)などのホルモン療法剤,抗癌剤タキサン(T)が登場し,従来のアントラサイクリン(A),抗エストロゲン剤タモキシフェン(TAM)との組み合わせによる補助療法の成績が欧米を中心に次々に報告され,治療成績の向上がもたらされている.また最近,分子標的治療薬トラスツズマブが補助療法に加わり,さらに大きな進歩を遂げつつある.わが国の補助療法は,ここ10年間で専門施設を中心に標準化され,主としてSt. Gallen(ザンクトガレン)コンセンサス会議(以下,St. Gallen会議)の推奨と日本乳癌学会の乳癌診療ガイドライン1)に基づいて行われている.最近のSt. Gallen会議は2005年と2007年に行われ,大幅な改訂が行われた2,3).また,2007年には日本乳癌学会により薬物療法のガイドライン第2版が刊行されている1).本稿では乳癌術後補助療法の進歩と今後について概説する.

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要旨:St. Gallenカンファレンスのハイライトは,最終日の午後に全世界の乳癌専門家が一堂に会して,前回から2年間の進歩を勘案して術後補助療法に関するコンセンサスを形成するセッションである.米国からも専門家は参加しているが,欧州の専門家が主体の会議である点をコンセンサスの背景として考慮しておく必要がある.2007年のリスク分類は小幅な改定にとどまっている.主な変更点は,不完全内分泌反応性や広範な脈管浸潤の定義が明らかにされたことである.St. Gallenガイドラインの特徴は非常に簡便なことであり,今回ハーセプチン反応性が加わったが,それでもルールは非常に簡単である.最近の傾向としては治療ターゲット(効果予測因子)を優先する流れが挙げられる.また注意点として,病理所見がリスク分類の大部分を占めることが挙げられる.病理所見の場合には病理医の主観的な判断となるため,判断基準の決め方と,検査のquality controlが問題となる.

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要旨:第10回St. Gallenコンセンサス会議において,ER,PgR,HER2の三つのバイオマーカーの検査結果を参考に術後補助全身療法を選択することが推奨された.しかし,これらのバイオマーカーだけでは,予後や治療効果の予測には限界がある.そこで乳癌組織における複数の遺伝子の発現を同時に調べるマイクロアレイが開発され,遺伝子発現のプロファイルと予後や治療効果との関連が調べられている.本稿では,遺伝子発現プロファイル研究の流れと,そのなかで注目されている「intrinsic subtype分類」に照準をあて解説する.さらに,本分類の免疫組織化学的アプローチを用いた日本人乳癌の特徴分析に関するわれわれの研究結果についても触れる.

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要旨:ホルモン感受性(+)・HER2(-)群は乳癌全体の70%程度と最も高頻度にみられるが,低リスク群はそのうちの10~20%程度でしかない.この群には全身療法としてホルモン療法のみが適応される.閉経後であればタモキシフェン,アロマターゼ阻害薬が適応され,閉経前であればタモキシフェンと卵巣機能抑制療法の併用またはタモキシフェンの単独療法が適応される.投与期間については5年間が標準であるが,卵巣機能抑制の期間については意見が分かれ,低リスクであれば2年でよいとの意見もある.内分泌療法はきわめて低リスクの微小浸潤性癌あるいは非浸潤性乳管癌にも適応されるが,各薬剤の利益と有害事象のバランスから選択すべきである.

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要旨:2007年のSt. Gallenのコンセンサス会議では,術後の薬物治療の選択にあたっては「治療の反応性」を重視するということが強調された.ホルモン感受性があるHER2陰性の中間リスク群の薬物療法ではホルモン療法を施行することが大前提となり,化学療法はホルモン受容体の発現程度や再発リスクからその併用が考慮されることになる.本稿では最近の内分泌療法の知見を整理して,術後薬物療法の現状と問題点について考えた.

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要旨:ホルモン受容体陽性かつHER2陰性乳癌は内分泌療法の効果が期待され,一方,化学療法に対する感受性はホルモン受容体陰性乳癌あるいはHER2陽性乳癌に比べると劣る可能性が推測される.しかしこのサブセットのなかでも高リスク群(リンパ節転移が4個以上)の場合は,化学療法ならびに内分泌療法の適応となる.Taxane系薬剤の追加がこのサブセットにどの程度有効か現時点では明らかでないが,高リスクであることを考慮すれば,anthracycline系薬剤にtaxane系薬剤を含むレジメンを採用することが推奨される.さらに化学療法後の内分泌療法として,閉経前乳癌の場合はtamoxifenの5年投与に加え,LHRH agonistも5年間投与することが有用かもしれない.閉経後乳癌にはアロマターゼ阻害剤の5年間投与が,またtamoxifenを5年間投与した場合はアロマターゼ阻害剤を追加投与することが推奨される.

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要旨:2007年のSt. Gallenコンセンサス会議のリスク分類では,HER2陽性症例は中間リスクあるいは高リスクに分類される.薬物療法としては,ホルモン反応性群ではホルモン療法,トラスツズマブおよび化学療法,ホルモン不応性群では,トラスツズマブおよび化学療法が推奨されている.すなわち,本症例群についてはトラスツズマブを中心的薬剤と捉えて治療戦略を構築する必要がある.そこで本稿では,HER2陽性の早期乳癌における補助療法に関して,トラスツズマブを中心とした知見を紹介するとともに,治療アルゴリズムを考察した.

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要旨:エストロゲン受容体陰性,プロゲステロン受容体陰性,HER2陰性のいわゆる“triple negative”乳癌は,治療選択肢の乏しさとその生物学的特徴などから予後不良の乳癌とされている.なかでも半数以上を占めるといわれるbasal-likeは,特に予後が不良である.しかしながら,これらに対する特異的な治療法はまだ確立されておらず,St. Gallen 2007でも明示されていない.本稿では,triple negativeあるいはbasal-like乳癌の臨床的・病理組織学的特徴,および分子生物学的アプローチによる治療戦略と現在進行中の臨床試験を紹介するとともに,今後の展望について述べる.

カラーグラフ 外科手術における新しいテクニック―new art in surgery・17

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はじめに

 乳房温存手術は腫瘤性の乳癌に対する標準治療となり,外科医はこのなかで根治性(断端の陰性)と整容性の両立を求められるようになってきた.さらに最近では,これまで適応とならなかった非腫瘤性の乳癌に対してもその応用が期待されている.しかし,病変範囲の同定が難しい非浸潤性乳癌(ductal carcinoma in situ:以下,DCIS)を代表とする非腫瘤性の乳癌に対しての乳房温存手術において根治性と整容性を両立させることは容易でない.非腫瘤性乳癌は乳管内病変を多く含んでおり,乳房温存手術においてはこの同定が重要な鍵となる.世界的なコンセンサス会議においても,従来の乳房温存手術のガイドとして用いられてきたマンモグラフィや超音波よりも乳癌の乳管内病変の描出に優れた乳房MRI(magnetic resonance imaging)を用いた次世代の外科的アプローチが切望されていた1).ところが,従来の乳房MRIの撮像は腹臥位で行われるため,体位を異にする手術への直接的な応用が困難であった.

 そこで,われわれは進化する画像診断と乳癌手術とを直接的にリンクさせ,切除範囲の同定が困難な非腫瘤性乳癌病変に対する正確な乳房温存手術の確立を目的として,仰臥位斜位MRI(サージカルポジションMRI)撮像法を新規に開発し,さらに,この画像情報の乳房皮膚上への投影法を用いた乳癌手術(MRI navigation下の乳房手術)を考案した.われわれのアプローチの特筆すべき点は①乳房温存手術の適応の決定や切除ラインの設定が手術体位と同一のイメージで可能となったこと,②非腫瘤性病変に対して腫瘤性病変と同等のアプローチが可能となったこと,③MRI画像診断と病理が直接的に対比可能となったことなどが挙げられる.さらに,われわれのアプローチでは病変の情報を記憶し,手術前に投射することから,④術前化学療法によって完全奏効(complete response:以下,CR)となった症例の加療前の病変範囲を復元することも可能となった.

 当科では2005年1月より現在まで乳房温存手術が困難であったDCISや術前化学療法後CR症例に対して本アプローチを臨床応用しており,本稿では,これによる乳房温存手術とその手術成績を報告する.

外科診療に潜むピットフォール―トラブル回避のためのリスクマネジメント講座・5

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 うつ病,統合失調症などを含む様々な精神疾患に罹患している方の診察をする機会は意外に多く,ふだん外科医があまり使用しない内服薬の内容確認が必要になる場合もありますし,臨床症状が典型的でないこともあり,通常以上に慎重な診察が必要となる場合があります.また,様々な訴えを単なる不定愁訴と決め付けてしまうと重大な見落としにつながってしまうこともあります.今回は,アルコール多飲の習慣があり,うつ状態にあった男性に発症した急性壊死性膵炎の発見が遅れ,患者が死亡してしまうという深刻な結果に至った事例について検討してみます.

元外科医,スーダン奮闘記・28

ダルフールからの攻撃 川原 尚行
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銃撃戦

 ロシナンテスで母子保健を行っている矢野医師,野口看護師,向井看護師,そして私とで首都ハルツームを出発し,プロジェクトサイトのあるガダーレフ州に向かったのが休日の正午過ぎであった.道半ばにさしかかったところで,ハルツームにいるスポーツ事業部の三田から電話があった.

 「所用でオムドルマンに行こうとしたのですが,多くの兵士が出ていて,ナイル川にかかる橋が封鎖され,家に帰れと連呼しています」

病院めぐり

甲州市立勝沼病院外科 萩原 純
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 東京からJR中央本線で西へ特急あずさで約1時間半,昨年のNHK大河ドラマ「風林火山」の舞台になった武田信玄公のお膝元である甲府盆地の東の入り口に甲州市勝沼町はあります.

 当院は人口約9,000人のワインとぶどうの町にある病院です.昭和25年に診療所として開設され,平成3年より病床の増設とともに病院化されました.(財)山梨厚生病院に業務委託をしており,常勤は私が1人院長というかたちでやっています.ただし,外来は厚生会山梨厚生病院,塩山病院,山梨大学から各科の先生がパート診療を担当してくださっています.病床数は51床で,入院患者さんはご高齢の方がほとんどであり,内科的あるいは整形外科的な慢性疾患のフォローをしています.

聖粒会慈恵病院外科 蓮田 慶太郎
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 当院は明治31年にマリアの宣教者フランシスコ修道会によって慈恵診療所として創設されました.昭和53年から病床数98床の医療法人聖粒会慈恵病院となり,外科,産婦人科,内科,小児科を柱に急性期型病院として地域医療を担って現在に至っています.病院は熊本城から西約1km,熊本市の中心部である商業地区に車で5分ほどの便利な場所にありながら,近くに海抜655mの金峰山があり,四季を通じて木々が美しく自然を感じることができます.病院のすぐ隣には現在も修道院や司祭館があり,カトリックの病院として始まった当院の原点をみる思いがします.平成20年4月現在,常勤医師は外科3名,産婦人科4名,内科2名,小児科1名となっています.

 外科の3名は九州大学医学部消化器総合外科(第2外科)の出身であり,病院長,長男,三男でもあります.また,熊本大学医学部消化器外科教室より2名の非常勤医師を派遣していただき,外来診療を手伝ってもらっています.平成17年から19年までの外科手術件数は甲状腺3,乳癌53,大腸癌16,胆囊90,急性虫垂炎54,腸閉塞5,肛門198,鼠径ヘルニア65,体表部67,そのほか59でした.

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はじめに

 後腹膜線維症は水腎症の原因として主に泌尿器科領域で遭遇する.しかし後腹膜腫瘍や,稀に腸管狭窄の原因として外科治療の対象となることがある.S状結腸狭窄および両側水腎症をきたした特発性後腹膜線維症に対し,柴苓湯を単独で用いて有効に治療し得た症例を経験した.文献的考察を加えて報告する.

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はじめに

 腹壁瘢痕ヘルニアや腹壁ヘルニアに対する腹腔鏡下手術(laparoscopic incisional and ventral herniorraphy:以下,LIVH)は1993年にLeBlancら1)が報告して以来欧米を中心に広く行われており,近年わが国でも報告例を散見するようになった.しかし,わが国では未だ保険適用を受けていないこともあって,標準術式としてはあまり普及していない.今回,当院でこの3年間に行ったLIVHの13例について報告するとともに,本術式の問題点に対して考察を加える.

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はじめに

 乳腺紡錘細胞癌は全乳癌に占める割合が0.08~0.72%1)と非常に稀な疾患で,肉腫様の紡錘細胞部分と上皮性の癌腫の部分とが混在する特徴的な病理組織学的所見を有している.今回われわれは紡錘細胞癌の1切除例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

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はじめに

 肛門管癌は大腸癌のなかでも発生頻度が低く1~3),さらにそのなかでも肛門腺由来癌はきわめて稀とされている1,4,5).今回われわれは,薄筋皮弁による再建術を伴った肛門腺由来粘液癌の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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はじめに

 これまで,小腸出血は内視鏡検査が困難であるため,診断・治療に難渋することも少なくなかった.近年,内視鏡機器の進歩に伴い,小腸に対しても胃や大腸と同じように診断・治療が行えるようになりつつある.今回われわれは,ダブルバルーン内視鏡が診断・治療に有用であった回腸angiodysplasia(以下,AGD)の1切除例を経験したので報告する.

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はじめに

 直腸肛門部原発悪性黒色腫は稀な疾患であり,5年生存率は4.6%と予後不良である1).今回われわれは1.5cm大の粘膜下腫瘍として発見したものの,1か月後の診断確定時には10cm大にまで増大し,多発肝転移を伴うほどきわめて急速に進行した直腸原発悪性黒色腫の1例を経験したので報告する.

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はじめに

 わが国における転移性卵巣腫瘍の原発巣は胃癌が最も多く,大腸癌は比較的稀であり,予後は不良とされている1).今回われわれは,大腸穿孔にて発症した卵巣転移を伴うS状結腸癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

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はじめに

 ガストリノーマは主として十二指腸,膵に発生することが知られているが1),その術前診断は画像所見のみでは困難なことが多い.またガストリノーマが膵外へ発育した報告2)は稀である.今回われわれは,膵外発育を示し,生検により確定診断を得られたガストリノーマの1例を経験したので報告する.

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はじめに

 近年の大腸癌に対する診断技術の進歩に伴い,早期癌が発見される機会が増加してきた.現在のところ粘膜内癌(以下,m癌)に関しては文献上転移の報告はなく,その治療はポリペクトミーないし局所切除で十分とされている.粘膜下浸潤癌(以下,sm癌)では約10%の頻度でリンパ節転移があるとされており1~3),その治療方針に関しては未だ議論の多いところである.

 今回,われわれは深達度が粘膜筋板内浸潤癌(以下,mm癌)でありながら壁在リンパ節転移を認めた症例を経験した.第7版2006年3月の大腸癌取扱い規約4)によれば,広義にはmm癌はm癌に含まれ,大腸mm癌自体を論じた文献は少なく,医学中央雑誌にて「大腸粘膜筋板内浸潤癌」と「リンパ節転移」をキーワードとして検索したところ報告例はみられなかった.今日,大腸m癌でのリンパ節転移はきわめて稀であると考えられる.文献的考察を加えて報告する.

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はじめに

 Meckel憩室は胎生期の卵黄腸管の遺残であり,消化管の先天異常としては最も頻度の高い疾患である1).しかし日常の臨床で遭遇することは非常に稀であり,通常は無症状で,開腹手術時あるいは剖検時に偶然発見される例が多く,術前診断は非常に困難である2~4)

 今回,われわれは虫垂切除施行時に判明したMeckel憩室茎捻転の1例を経験し,腹腔鏡下での手術が非常に有効であったため若干の文献的考察を加えて報告する.

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はじめに

 経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:以下,PEG)施行後2年で横行結腸皮膚瘻をきたし,保存的治療で改善した稀な症例を経験したので報告する.

コーヒーブレイク

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 三題噺のようですが,キーワードは「最近のお医者さん」です.「ははぁ~ん」と思われた先生方は,私と同じく若手医師の指導に悩んでおられるものとご同情申し上げます.

 「エビデンス」

 本誌の62巻8号(2007年8月号)の草地先生の論文から(1025頁).「“エビデンスがない”ことはすべて“正しくない”とさえ考えがちである.……私はエビデンスのないことはしたくありません”などと頭から否定して息巻く若い医師が多いことは由々しきことである」と医学におけるエビデンスの危うさを指摘されています.私の知る最近の先生の1人は「それってエビデンスがあるの」とナースにまで言い放ち,経験豊かな職場の先輩から学ぶ機会をみずから放棄していました.学生時代は優秀だったのでしょうが,この感覚のズレは個人的資質の問題なのか大学教育の問題なのか,私にはわからないでいます.ただ,この先生は,どうやら最初に習ったことだけを金科玉条のごとくに思っているようでしたので…….

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 日本歯科大学新潟生命歯科部に,日本で唯一の医の博物館がある.ここは医学の歴史において残された貴重な古医書や浮世絵,医療器具,道具など約5,000点が展示,保存されている.この博物館の特徴は,医の歴史を眺めているうちに,見終わる頃には医の文化がみえてくることだ.

 『まんが 医学の歴史』は,医の歴史が面白おかしく読み取れるだけではなく,偉人たちが伝えた貴重な遺産と,関わった人々の情熱にグイグイと引き込まれる.そういう意味では表現は違うが,医の博物館と本書の感動には,似たところが感じられる.

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 腸疾患の種類は多いが,腫瘍の診断と治療については比較的単純である.良悪性を鑑別し,次いで内視鏡で処置できるか否かを判断すればよい.内視鏡治療が不適切と判断すれば外科手術に委ねるので手順としては単純明快である.問題は炎症性疾患で,種類が多く症状も多彩であり,内視鏡所見も病期によって変化するので臨床医を悩ませる.腸管の炎症が疑われるケースに遭遇すると,まるで推理小説の謎解きである.画像診断だけで直感的に診断が下せないこともあり,系統的に,論理的に思考を組み立てなければ解決できない.

 さらに,腸炎の治療も難解なことが多い.補液しておくだけで自然治癒が期待できる疾患もあれば,難治性で医者泣かせのIBDも少なくない.腸疾患を取り扱う場合,日頃から診療過程を論理的にまとめるトレーニングを積み重ねておく必要がある.

外科医局の午後・47

フリーター医師 岡崎 誠
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 最近,フリーターの医師が増えているらしい.特に,麻酔科では各地で常勤医師が退職し,病院では手術に支障をきたしている.手術ができなくなると病院の収入も激減する.したがって,病院はパートで麻酔科医師を招聘しようとする.パートの麻酔科医師は常勤のときより収入が2~3倍になることもざらにあるらしい.この傾向は今後,麻酔科にとどまらず,外科や内科にも拡大する可能性が大いにある.実際,私の後輩でも,ある特殊な分野の技術を身につけ,各病院をまわって手術している,俗に言うフリーター医師がいる.自治体病院から常勤要請があるが,収入や気楽さの点で断っていると聞く.昨年末にお会いしたが,羽振りはいかにもよかった.

 常勤医師とフリーター医師を比較して長所,短所を考えてみた.常勤医師の長所はとにかく,俗に言う「身分」がとりあえず安定していること,患者を継続的に診ることができること,部長や副院長,院長という役職を得ることができることなどが挙げられる.短所としては,収入は総じて少なく,色々な規制があり,患者から感謝されることもあるが,逆に恨まれたり,訴えられたりするリスクが高いことなどが考えられる.

ひとやすみ・36

自分への褒美 中川 国利
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 「自分で自分を誉めたいと思います」.この言葉は,有森裕子が1996年のアトランタオリンピックで42.195kmという長距離を走り終え,苦しみを耐え抜いた自分の体を誉め称えた言葉である.常日頃,酷使している自分の体を労わり,ときに褒美を与えることは大切なことである.

 20年近く前のことであるが,ディズニーランドに近接する浦安のホテルで学会が開催された.会場で割引券が配布されたこともあり,まだ入ったこともないディズニーランドへ行くことにした.1日券を購入し,開場早々に入園した.アトラクションの乗り物に乗って気づいたことは,多くの乗り物が2人乗りであり,個人では侘しさを感じるということであった.また,園側にとっても2人乗り用に1人が乗るため効率が悪い.そこで,1人で来ていた新進気鋭のA先生に若輩である私は意を決して話しかけた.A先生も寂しさを感じていたらしく,同行を快く同意してくれた.

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あとがき 畠山 勝義
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  2006年の第61巻8号のこの「あとがき」で,佐渡におけるトキ(朱鷺)の「野生復帰への弾み」について述べたが,その後の進展状況を紹介したい.トキはコウノトリ目トキ科の鳥で,日本古来のトキ(Nipponia Nippon)は全滅し,現在のトキは中国から借りてきたペアのトキからの子孫であること,2008年の試験放鳥,2015年の野生復帰を目指していることは前述した.

 この2008年の試験放鳥が今秋にも実現されようとしている.佐渡市新穂にある「トキ野生復帰センター」では,15羽が自然の山野に野生復帰できるように訓練を受けている.この訓練により,冬の雪が積もり凍った水辺でも餌となるドジョウが捕れるようになったという.また,さらに大きな進展は,トキのつがいがこの春につがい自身で巣作りを行い,自ら生んだ受精卵を温め雛が誕生したことだ.これまでは人工孵化または自然孵化が主体であり,2006年からは自然孵化が多くなってきたとはいえ,自然に限りなく近い状態でヒトの手助けなしにトキが繁殖したのは初めてであり,これは野生復帰に向けての大きな進歩と言えそうだ.これらトキの半年の野生復帰へ向けた訓練の状況は5月23日午後7時30分からNHK総合テレビで放送されたので,目にした読者もあるかもしれない.この秋の試験放鳥の結果が大いに期待されている.

基本情報

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臨床外科
63巻8号 (2008年8月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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