理学療法と作業療法 21巻2号 (1987年2月)

特集 関節運動学的アプローチ

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はじめに

 運動療法の技術はここ十数年の間に大きな転換期を迎えている.1960年代の神経生理学的アプローチ(neurophysiological approach以下NPA)の完成とともに,運動療法は一応体系化されたかにみえた.しかし,これらNPAを含む従来の技術には不足や欠陥が多く,充分な臨床的効果があげられておらず1),見直しが必要である.運動機能を治療する場合,①骨,関節機能,②筋機能,③神経機能を個別的に考慮した対応がなされければ効果的な治療は期待出来ない.従来の技術の基礎的研究では,関節可動域運動,筋力増強理論あるいは,NPAに代表されるように,骨運動や神経,筋機能に対するものが中心であり,運動機能の基本的構成要素である関節包内運動機能については特別な配慮はなされていなかった.

 関節包内運動障害は,痛みや可動域制限を来たし,さらに二次的に筋力,持久力,協調性などの各機能を障害する原因となる.この関節包内運動の障害は骨,関節疾患のみならず,他の運動障害を来たす疾患においても起こりうる.したがって,運動療法を実施する場合には,この最も基本的な関節包内運動を改善することから出発しなければならない.

 関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach以下AKAと略す)は,関節包内運動障害に対する唯一の基本的な評価および,治療技術であり,今後,理学療法における必須の技術になると思われる.本論文では,その基礎理論である関節運動学を含めて,AKAの概略を述べる.

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はじめに

 関節運動学的アプローチ(以下AKAと略す)の開発を始めて7年が経過した.その間,一貫して「関節包内運動の異常に対する関節運動学的原則にしたがった治療」という治療概念が堅持されてきた.

 治療技術に関しても欧米の整形外科的徒手治療に見られるような暴力的な技術を排し,関節運動学的に矛盾のない技術の開発・改善が重ねられてきた.その結果,現在欧米で見られるマニュアル・セラピーとは異なる,独自の治療技術体系が成立した.

 本編は二部構成とし,総論では治療に用いられる関節運動学的原則を中心に,治療技術全般にわたる基本的な事項について解説する.各論では,新しく開発した椎間関節・仙腸関節・肋椎関節・胸肋関節を中心に治療技術を紹介する.四肢関節については代表的な関節を取り上げ,治療技術の原則論として述べる.

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はじめに

 運動療法は,単に運動をさせることではなく,治療の目的で処方された身体の運動であると定義されている1).その目的は,関節可動域の維持・増大,筋力の維持・増強,持久力の増大,協調性の改善,および全身の生理的機能,特に心肺機能の改善が主なものである.

 関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach,以下AKAと略)は,これらの目的のうち,関節可動域の維持・増大に含まれる技術として位置づけられる2,3)これまでの運動療法が運動として扱ってきたものは,関節以外の骨の運動(osteokinematic)が主であり,関節包内で骨運動に伴って起こる関節面の運動(arthrokinematic)については重要視されていなかった.ところが臨床においては,この関節包内運動が障害されたために,骨運動も二次的に制限され,運動療法の他の目的さえも阻害されることが多い.この原因である広義の関節機能異常の治療法がAKAであり,これまでの運動療法技術,特に関節可動域運動および伸張運動の欠陥を補うために,欠くことのできない技術である4)

 関節機能異常による症状は,機能的に関節の運動を制限するにとどまらず,痛みも惹起することが分かっているが5),これに関しては本号「痛みと関節運動学的アプローチ」(博田)にゆずり,ここでは運動療法におけるAKAの位置づけ,臨床における関節可動域制限に対する評価と治療を中心に述べる.

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はじめに

 痛みは整形外科領域の疾患に限らず,脳卒中,脊髄損傷,切断,慢性関節リウマチなどリハビリテーション医療の対象疾患にも多い.これらの疾患における痛みは,従来の治療法で治癒することはまれで,有痛性整形外科疾患の多くは医療機関よりも民間療法で治療されて来た.このことは医療機関において,ほとんど痛みの原因治療がなされていなかったことを示唆している.

 1980年,著者らは欧米のjoint mobilizationに着目し,これを関節包内運動の治療手段として運動療法の中に位置づけようと試みた7).しかし,欧米における手技は矯正術の域にとどまり,運動療法として利用できるものはほとんどなかった1,2,4,11,15).それゆえ,新しい手技を考案しながら臨床応用を開始したが,その過程において,関節包内運動の治療により消失する痛みの存在が明らかになり5,6),これがMennellの記載したjoint dysfunction13,14)に一致するものと分った.その間,jointmobilizationが暴力的矯正術と誤解されたため,関節運動学に基づく治療という真意を表すarthrokinematic approach(以下AKAと略す)とその訳としての関節運動学的アプローチという用語に変更した8,17).AKAは未知の領域であり,なお研究途上にあるが,痛みの治療としてはすでに80%以上完成したと考えている.以下,現在までに解明し得た事実に基づいて述べてみたい.

とびら

命の器 澤 俊二
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 OTという職業について10年になった.OTになったことも不思議なのに,この間,人嫌いな自分が多くの人達に出会わせていただいたことに,より不可思議な思いがしてならない.

 でもこの頃,何故自分がその人達と出会わなければならなかったのだろうか,との問いに思い沈むことが多くなった.出会いが恐くなってきたのだ.何故なら,自分が担当しなければ,不協和音をおこすこともなくスムーズに気持を表現され,もっと違った良い方向への展開が図られたのではなかろうかと冷汗が出,申し訳ないなと思う患者さんが振り返ってみると大勢いるのだ.

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はじめに

 右半球はどのような働きをもち,左半球はどのような働きをもつのであろうか.左半球と右半球は形がたいへん似ているところから,19世紀になるまで,両者は同じ働きをするものとみなされてきた.人間の体の各部分は形が同じであれば,同じ働きをしており,形が違えば異なる働きをするというのが常識であったからである.

 たとえば,耳と目は形が違っており,その働きも違っている.一方,右耳も左耳も同じ形をしており,音を聴くという同じ働きをしている.左右の大脳半球もその形はほとんど同じなので,左右の耳のように同じ働きをしていると考えられていたのである.

 ところが,この常識は19世紀の初め,フランスの開業医Mark Dax3)の天啓のようなひらめきによって,打ち破られることになった.Dax3)は1811年にフランスの有名な博物学者ブルゾネについて書かれた頌徳文を読んでいて,ブルゾネの左半球に大きな潰瘍があったということを知った.そして,それと同時にブルゾネが失語症にかかっていたこと,ダックスが前に診察した他の2例の失語症患者が,いずれも左半球に損傷があったことを思い出した.そして,そのとき「左半球は言語機能に関係しており,右半球は言語機能をもっていないのではないか」,いいかえれば右半球と左半球は機能が異なるのではないかという卓絶なアイデアに思い至ったのである.

 その後,彼は15年にわたって,失語症を呈する患者が左半球に損傷があるかどうか検討し続け,1836年,40例以上の症例をもって,失語症が左半球の損傷によって生ずることを示したといわれている.

 Dax3)の研究や,その後のBrocaの研究は,失語症が左半球損傷で生ずることを示しただけでなく,左半球が健全な状態では言語を司っていることを推定させた.たとえば、Broca2)は1865年,左半球損傷で失語症が起こり,右半球損傷で失語症が生じないということから,「人は左半球で語る」と述べた.

 しかし,左あるいは右半球損傷患者の研究は間接的に左右半球の働きを推定するのみであり,直接,左右の半球の働きを検索できないという決定的な限界をもっている.

 さて,それでは,左右の半球がどのような精神的機能をもっているかを直接検索するには,どのような方法があるのであろうか? それらには,ソディウムアミタールの頸動脈注入例の研究,片側大脳半球切除例の研究,分離脳例の研究などがある.

 ソディウムアミタールの頸動脈注入法とは,薬剤によって一過性に一方の半球に麻痺をひき起こす手法で,脳腫瘍,脳動脈奇形などのため,脳外科手術を行う際に,その脳腫瘍のある半球に損傷を与えると,どのような障害が起こるかを前もって知るために用いられる.この方法では,一過性の大脳半球麻痺をひき起こすだけで,このような状態を長く持続させることは困難であるために,左右の半球機能について十分な検索をすることができない.また,一方の半球のどれだけの部分が麻痺されているかわからないという欠点がある.

 片側大脳半球切除術とは,一方の半球に限られた脳腫瘍が,他方の半球に転移するのを防ぐため,あるいは,小児片麻痺例などの治療として,左右の半球のうち一方を取り除く手術である.このような手術をうけた症例では,一方の半球しかないわけであるから,左あるいは右半球の機能だけを調べることができる.ただ欠点は,同じ人で左右の大脳半球を検査できないことである.

 さて,最後の分離脳患者であるが,分離脳患者とは,重度てんかんの治療のため,左右の大脳半球を結ぶ脳梁,前交連などの神経線維束(交連線維束)をすべて切断した症例である(図1).

 このような交連線維束の切断手術は,部分的切断手術としては1930年代から行われ,脳梁と前交連を一度に切断する手術は1960年代に行われた.脳梁および前交連を切断した症例では,左半球と右半球はほとんど連絡がなくなるので,左半球の機能と右半球の機能を独立に調べることができる.また,分離脳の研究では,同じ生育歴をもった左半球と右半球の機能を比較できる.これは片側大脳半球切除例にみられない特色である.また,片側大脳半球例に較べ,研究がすすんでおり,重要な知見が数多く明らかにされている.

 ここではSperry(1982)7)らによって行われた分離脳患者の研究の結果を中心に,左右大脳半球の精神機能を述べてみたい.

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はじめに

 理学療法教育における臨床実習に関しては,多くの問題点が指摘されている1~12).しかし,学生の患者評価能力を具体的に分析し,その教育目標や教育指導方法を検討した報告は極めて少ない.

 そこで,今回は,臨床実習開始前の段階における学生の患者評価能力を明らかにするために,臨床実習で最も担当する頻度の高い脳卒中片麻痺例に対する情報収集能力と情報活用能力を分析し,臨床実習教育において考慮すべきいくつかの知見を得たので報告する.

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 Ⅰ.はじめに

 手指切断,特に拇指欠損では手としての機能が著しく障害される5).しかし近年,微小血管外科の進歩に伴い拇指の機能的あるいは美容的再建を目的に,これら拇指欠損例に対し造拇指術(Toe-to-thumb術と略す)6,8,11)が行われる.今回我々は,昭和55年1月から昭和56年12月までに,金沢大学付属病院でToe-to-thumb術を施行された4例に作業療法(以下OTと略す)を実施し,さらにアンケートによる追跡調査を昭和60年8月に行ったので結果を報告する.

クリニカル・ヒント

立ち上がり動作 駒沢 治夫
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 動物の進化の中で人間が立ち上がり,歩行することによって獲得したものは計り知れず,今日の我々へと繋がっている.不幸にして病に倒れ安静を強いられ臥床している者にとっては,人間らしく生きぬくためにどうしても立ちたいあるいは立たせてもらいたいという願望が強く,立った時の喜びもひとしおであろうと思う.立ちたいという臥床者の中には,立てたら歩けるのだという自分なりの計算が含まれている.そこでPTの立場から考えると立たせるということは訓練プログラムの一過程に過ぎないことかも知れないが改めて考えてみたい.

 立ち上がり動作はその面の高さより,平面(床面)上と一定の高さの台すなわち腰掛け位の2つに大きく分けることが出来る.日本の家屋構造上どうしても床面より立つことが重要視され,特に老人は床からの立ち上がりを固執する.

プログレス

老年者の感染症 深山 牧子
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 各種疾患,ことに神経・運動器疾患に対する理学療法・作業療法は寝たきり状態に陥りがちな老年者の日常生活能力を維持し,高める点で重要な役割を果たす.しかし,それらを行う上で,老年者特有の種々の困難に遭遇する.そのひとつが,発熱,急速な全身状態の悪化をもたらす各種感染症の合併である.本稿では,このような老年者に多くみられる呼吸器感染,尿路感染,褥瘡感染について,その概略を述べる.

 肺炎は老年者の感染症の中で最も頻度が高く,死因に占める割合も高い.比較的活動的でADLの保たれている老年者では,気管支肺炎などの型をとり,青壮年者に準じた臨床経過,治療に対する反応を示す.

インタビューPT・OTと職域拡大

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<PTの資格を持っておられながら,改めてOTの資格を取得されたのは>

 久木原 自分が40歳,50歳になった時,果して,PTを続けていけるかなと不安に思ったことがあるのです.体力的なことも考えあわせて.個人的には,OTの使う治療手段―色々なactivity,絵とか手芸とかが好きでしたし,OTの方がPTより人間を包括的に捉えることができるような気がして.また,一人でPTとOT両方できたらもっといいのにと考えていました.

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 「“知恵遅れの子供たち”という理由で,能力はあるのに放ったらかしにされていたから,歩けなかったけど,ちょっと基礎的な訓練をしただけで歩けるようになった.こうやればいいんだと,センターの職員も納得してくれて,みんなでやろう! という雰囲気ができてきた.」「アセスメント・センターにPTAみたいのができて,あちこちで宣伝してくれる地域パワーが少しずつ生まれてきた.訓練を受けて良くなった,もっと受けてみたい,他の子供にも受けさせたい……と,いうふうに.」

 これは,マレイシアに2年間,青年海外協力隊員として派遣された理学療法士隊員の報告の一部である.これまでに,理学療法士10名,作業療法士12名の隊員が,マレイシアの他,ネパールやコスタ・リカなどへ派遣され,開発途上国の人々の福祉向上のため,協力活動を展開してきている.冒頭の報告は,そのような経験のうちの貴重な成果の1例である.協力隊活動は,理学療法士や作業療法士の分野だけではない.現在までに,約130職種の分野で7千名近い隊員が,アジアやアフリカなどの途上国で,協力活動に従事している.

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 Ⅰ.はじめに

 国立呉病院は病床数700の救急総合病院であり,呉市における総合病院の3本柱のひとつである.その中でリハビリテーション科は独立して存在し,専門医の処方に基づき理学療法士(以下RPT)2名,理学療法助手1名,作業療法士(以下OTR)2名で,入院,外来患者のリハビリテーションサービスに従事している.病院の機能上,急性期の患者が多く,治療サイクルは2~6ヵ月が最多で,1年以上サービスを続ける例は少ない.

 その中で発達経過の非常に緩慢な在宅障害児の治療訓練も実施している.しかしながら急性期の患者優先の医療態勢の中で充分な療育を実施するのは不可能である.

 今回,その治療者側の限界から解決策の模索とそのひとつとしての親の会発足という経験をとおして作業療法(以下OT)をみつめ直す機会を得たので報告する.

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 1.はじめに

 日常診療の中で,頸髄損傷による四肢麻痺,脳血管障害による片麻痺,長期臥床後の患者などの起立性低血圧に遭遇することは少なくない.これに対処するために,起立訓練時は下肢の弾性包帯,腹帯などにてアプローチするのが一般的である.当院では,エアーバッグを組み込んだコルヒット式の腹帯を製作し,頸髄損傷者に使用して良好な結果を得ている.

 また,同様のデザインのものをloudnessの乏しいParkinson病の患者にも製作し,腹圧を上げることでその改善を認めたので紹介する.

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 近年急速に普及して来た電気ジャーボットは,従来の“沸かした湯を移し変える”のに比べ,安全であり,失調や不随意運動,その他筋力が弱いケースにも,その管理や操作が可能となった.

 しかしなお,効率よく湯を出すため“押す”には,相当の力を要し,立位のとれない肢体不自由者や力の弱い老人にとっては,残された課題でもあった.

学生から

この時間いくら 木村 朗
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 オレンジ色の夕日が映える病院の屋上で,A氏は瞳をうるましていた.数m離れ立っていた私はA氏とのタイムリミットを控え,何とも言えない気持ちであった.

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文献抄録

編集後記 編集室
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 お屠蘇気分も醒めやらぬまま,もう2月号をお届けすることになりました.

 今月号は,「関節運動学的アプローチ」の特集です.

基本情報

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理学療法と作業療法
21巻2号 (1987年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9849 医学書院

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