理学療法と作業療法 21巻12号 (1987年12月)

特集 寒冷地におけるリハビリテーション

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 Ⅰ.初めに

 近年寒冷と環境の問題に対する関心が高まってきた.1986年札幌で開催された第2回寒地技術シンポジウムの関連研究の分野として,寒さと暮らし,冬と遊び,雪と街づくり,冬と交通・通信,寒地における農・林・水産,寒さとエネルギー,雪と応用技術,寒地と環境,氷と構造物,などに関する広範囲な研究が取り上げられている.

 リハビリテーション医学領域では,治療上利用される局所温冷に対する組織反応の研究や脊髄損傷患者の体温調節機構障害の研究,すなわちうつ熱,発熱や寒冷の生体への適応性に関する研究などが行われている.

 今回脳卒中,切断患者を中心に,フィールドの立場から寒冷地におけるリハビリテーションについて検討したので報告する.

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 Ⅰ.初めに

 寒冷地特に積雪期を中心としてその実態を報告し,アンケートを通じて全体像を掌握してみたいと思う.

 東北の中でも山形県は皆様よく御存じの花笠音頭に出てくる歌詞に雪を眺める尾花沢とあるとおり,雪の多い所である.また厳冬期の寒さだけでなく暑さにおいても日本一(40.8℃)を記録するという寒暖の激しい地域であり,そこで生まれ育った者がほとんどで,子供のころというより代々雪との闘いの中に生きぬいてきた人たちである.すなわち子供のころから冬は寒くて,冷たくて,雪があって,滑って,外出は控えてと教えられ,大人になるとそれが自然に身に付いていて我慢の一生を過ごすのが常であって,最近になってようやく,克雪シンポジウムなどがいろんな土地で開催されるようになり,雪を生活の中に取り入れ楽しめるものへと,あるいは地域の活性化のため利用するような動きがみられるようになってきている.このように健康な人間のあいだですら克雪に対する考えが芽生えただけの現在,障害者と雪の関係はこれからという感が強い.

 今回は北村山公立病院通院患者と北村山地区リハビリテーション協会事業に関連する人たちとの合計50名に直接面接によるアンケート調査を実施し,それを基にして寒冷地におけるリハビリテーションについて考えてみたいと思う.

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 Ⅰ.初めに

 北国の冬は長く,人々は雪と共存して生きてきた.昭和30年代の初めまでは,雪が降り積もると,生活道路はもちろん国道,県道の一部を除いて積もるにまかせ,道路は子どもたちの恰好な遊び場所となっていた.

 昭和30年代後半,急激なモータリゼーションにより,それまでの冬ごもりの生活が大きく変化し活動的となった.しかしまだ一般市民の冬期間の生活は厳しく,身体障害者にとっては,ことさら大きなハンディキャップとなっている.特に外出が制約され一部の者を除いては,冬眠状態の生活が強いられ,問題解決にはほど遠いものがある.筆者らの住む青森市における雪に対する総合対策(青森市雪総合対策室1987年4月設置)は始まったばかりで,雪を征服するまでには至っていない.

 一方雪に関連する人身事故は予想以上に多く,人命にかかわる事故をはじめ,神経損傷による運動障害や骨折など多岐にわたっている.これらの事故は,日常茶飯事に発生していたため,慣れすぎて問題にされない面があった.そこで今回は、冬期間に発生する雪による人身事故と冬場における身体障害者の抱えている理学療法上の問題について私見を述べたい.

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 Ⅰ.初めに

 寒冷が及ぼす入院患者への影響は,痙性の増大,しびれや痛みの増悪などの訴えとしてみられることがあるが,入院生活という保護・管理された環境にあっては,一般的にそれほど重要な問題として扱われることは少ない.

 また,退院患者への影響は,積雪・路面凍結のため外出が制限されることにより,運動機能の低下をきたす例としてみられるが,寒冷が直接及ぼす影響については,患者自らの具体的な訴えとして得られる機会は少なく,また,そのフォローも充分とは言い難い.

 これまでに折居ら1)は,雪や寒さによる影響について,脳卒中陳旧例の越冬入院の示唆とその位置づけを報告している.

 また,進藤ら2)は,冬の寒さと雪が及ぼす脳卒中退院患者への影響を,機能障害・ADL・その他の項目について調査,報告している.

 本稿では,当院における入退院の月別動向と,寒冷が及ぼす入院患者への影響および退院患者への影響について,それぞれ,折居ら1),進藤ら2)による調査を基に追試報告するとともに,今後の課題について私見を述べる.

とびら

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 猛暑の続く去る7月25日,川崎市の某教会で,刃物を持った40過ぎの男性が,夏休み合宿中の小学生の寝込みを襲い,数名に重軽症を負わせたという事件は記憶に新しい.結局,その男性は,かけつけた警官にその場で射殺された.この男性は,教会近くの飲食店で従業員として働いていたが,精神分裂症でこれまでに,2,3回入・退院を繰り返し,この5月から外来受診をしていなかったようである.いろいろな意味で痛ましい事件である.

 精神障害者が地域社会の中で働きながら,単身生活を送っていくことは並たいていでない.服薬管理はどうなっていたのか,悩みごとや生活相談する人がいたのか,友人とのつきあいは,病院や保健所とのかかわりはどうなっていたのか,等々気になる点ばかりが胸を刺す.そして事件の報道内容は,障害者の社会参加をより遠ざけ,またいっそう,精神病への偏見を募らせるのではないかと懸念する.

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 Ⅰ.はじめに

 発足して間もなく5年になろうとしている老人保健法は老人の医療の在りかた全般にわたって大きな影響を与えたし,現在も与え続けているが,リハビリテーションもその例外ではない.老人保健法とリハビリテーションとがかかわるところは主に二つの点であって,その第一は市町村が主体となって行う,地域における老人保健事業の中のいわゆる「機能訓練」であり,これはすでに約5年の実績をもっている.第二は昨年末に成立した老人保健法改正案によって新たに設けられることになった老人保健施設という,病院でも特別養護老人ホームでもない新しいカテゴリーの中間施設におけるリハビリテーションの問題である.老人保健施設は施設自体の性格づけがまだ不明確な点が多く,現在行われている7か所のモデル事業で試行錯誤的な検討が進められているが,リハビリテーションの在りかたについても明瞭でない点が多く,今後いっそうの検討を必要とすると思われる.

 本論文では本講座の先行論文(1~5)を受けて,上記二つの問題に絞って検討を加えたい.

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 Ⅰ.初めに

 視機能検査は大きく分けて,自覚的な検査法と他覚的な検査法とに分けることができる.前者には視力検査,視野検査,色覚検査などがあり,認知されたものが判断される過程までを評価するものであり,後者は主として認知の段階を評価するものである.

 障害者にとっては障害別に特色があり,視覚障害者の場合は認知のレベル,すなわち網膜レベルでの障害によるケースが多く,脳における障害の場合は,認知,判断の両者にまたがることが多い.判断の部分が正常に機能する場合には自覚的検査法により視機能の認知レベルが評価されるが,判断過程が障害されていると自覚的検査のみでは認知の部分が障害されているのか,判断過程が障害されているのか評価できない.そのために脳傷害を合併する視覚障害者の場合には他覚的な生理学的検査法が特に重要となる.

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 Ⅰ.初めに

 Duchenne型進行性筋ジストロフィー症患者(以下DMDと略)のリハビリテーションの目的は,筋の廃用や変形の増悪を防ぎ,残存筋を可能な限り利用して,少しでも自立した生活が送れるように援助することである1).そしてVignosは,可能な限り独立歩行を維持させることを,その目的の一番目に挙げている2).DMDでは歩行不能となった時期より,急速に体幹や四肢の変形や拘縮が進行することが報告されている3).本症では歩行不能となることは不可逆性のものであり,悪化の一途をたどることになる.このため患児の歩行可能な期間を延長することはきわめて重要である.

 DMDでは筋力が低下して,関節の拘縮が進行すると,より安定した立位姿勢を保つために,前方に重心を移動させていることが解明されている4,5).したがって,足・膝・股の各関節(以下,下肢関節と略)の拘縮は立位バランスの不安定を招き,自立歩行の大きな阻害因子となる.このような理由で,下肢関節の可動域訓練は理学療法の中で重要な位置を占めている.その一つの方法として起立台の使用がある.我々はこれまでこの方法でDMD患者の下肢関節可動域訓練を行い,その直後に歩行スピードの改善や歩行距離の延長がみられることを経験している.起立台使用直後は拘縮している下肢関節の可動域が一時的に改善するが,これがどのような理由で歩行能力に効果をもたらすかの報告は無い.今回我々は,この点に関し以下の仮説を立て,これらを確かめる目的で本研究を行った.

 (1)重心点がより支持面の中央に移動し安定性が増加する.

 (2)尖足の軽減で,下腿三頭筋が伸長され生体長に近づくことにより,歩行時の推進力が増大する.

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 Ⅰ.初めに

 身体障害者更生援護施設は,リハビリテーションの理念をもっとも強くその使命としている社会福祉施設であると言われている.

 当施設は社会復帰を目指す訓練の場としての役割を担う目的で,1985年4月に設立された.

 設立当初の入所者数がまだ少ない時期に構成した訓練プログラムは,その後入所者数の増加に伴い必然的に変更せざるをえなくなり,理学療法,作業療法の質を落とさずに日常生活の質を高めるプログラムが必要となった.そのため施設生活における質的向上を目指して,今日まで4回のプログラム変更を行ってきた.今回,それらプログラムの変更に伴う脳卒中片麻痺者(以下CVAと略す)の生活時間の変化を調査し,他の疾患群と比較検討するとともに,日常活動量,ADLテスト,ニード(need)などについても,若干の考察を加えて報告する.

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 Ⅰ.初めに

 在宅障害者に対するリハビリテーション(以下リハと略す)については人口構造の変化などとそれに対応する政策とによりPTも関与せざるをえなくなっている.

 筆者は1976年2月より埼玉県K市の福祉事務所を拠点にした在宅重度障害者のリハ事業に参加している.本事業はソーシャルワーカー(以下SWと略す),PT,家庭奉仕員(ヘルパーと略す)などでチームを組み訪問の形態で開始した.1983年より老人福祉センターへの通所の形態(以下訓練会)も加えた.1986年4月より訓練会は老人保健法を適用したため保健課の保健婦が主体となったが,訪問は福祉事務所を拠点に継続中である.

 本事業の対象者の中にリハ専門病院(PTやOTなどリハ医学の技術を有し,対応する病院や施設の総称とする)で治療,訓練を受けて最大限の能力を獲得しても在宅になると習得した動作としてのADL1)が生活技術の習得につながらず貧困な生活状況(低いQOL)に陥る例がみられた.しかし,このような例も本事業が関与している間に,病院で習得したADLが回復,さらに拡大し,生活技術の習得に至ることが多い.

 そこで,生活展開の過程でADLの能力を回復させ,生活技術を習得した3例の在宅生活に移行したときの生活展開上の問題,およびADLが生活過程に組み込まれ,生活技術に高まっていく経過を述べ,その要因を考察する.

プログレス

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 三重大学でみられた2人の医師のB型劇症肝炎による死亡の報道以来,B型肝炎ウイルス(HBV)感染に対する関心が高まっている.

 そこで,HBV感染の現状と予防の実際について簡単に紹介したい.

インタビューPT・OTと職域拡大

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 <東京都養育院勤務時代に大学(経済学部)に通われたとのことですが,それはなぜですか?>

 池谷 僕は養成校を出ないで,特例措置でPTの資格を得たので大学くらい出ておきたかったんです.その後にも短期大学で事務能率を勉強したし,厚生省の病院管理研究所にも通って専攻科を終了しました.

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 身体や精神に障害のある者を速やかに社会生活に復帰させるためのリハビリテーションの根幹をなすと言うべき理学療法,作業療法職種の資格制度について,今回取り上げることとする.

 これらについては,先進諸国においては,早くからその専門技術者である理学療法士(PT)および作業療法士(OT)の資格制度が設けられていたが,我が国には,永きにわたり,これらの者の資格制度が無く,医学的リハビリテーションの本格的な普及発達を図るため,関係諸方面からその制度化が強く要請されていた.

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 Ⅰ.初めに

 偽関節による動揺性の出現と支持性の低下は,著しくその部位の機能を低下させる.特に下肢の偽関節の場合,歩行が障害され患者にとって大きな問題となる.このような偽関節を起こした患者において,運動療法を施行する困難さとともに,装具の必要性もまた容易に考えられる.

 今回大腿骨骨幹部骨折後偽関節を呈した患者に対し理学療法(以下PTと略す)を施行する機会を得,周辺関節のROM訓練,筋力増強訓練などの運動療法実施上の困難を経験したが,装具のくふうによりADLの拡大を図ることができたので,装具へのくふうを中心に運動療法実施上の問題にもふれ若干の考察を加え報告する.

研究と報告

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 Ⅰ.初めに

 脊髄損傷者あるいは脊髄疾患(以下「脊損」と略す)による対麻痺,四肢麻痺の患者は車椅子使用まで自立すれば一日の大半の時間を坐位姿勢で過ごすことが多くなる.彼らのほとんどは通常,車椅子を足代わりとして使用しておりつねに坐面との接触部に生ずる褥瘡の危険性に曝(さら)されている.褥瘡は周知のとおり易発生,難治性,易再発牲であることから予防が第一であると言われながらも,その予防にはつねに難渋を極め現在でも深刻な問題の一つであり,まだ完全に解決されていない.ことに車椅子使用まで自立していながらなお褥瘡のためにリハビリテーションプログラムを中断し多くの貴重な時間を褥創の治療だけに費やさねばならないことは,患者の社会復帰にとっても大きな損失である.

 褥瘡の発生原因の主なものは物理的要因として皮膚に対する圧迫力の強さと,その持続時間である1).その対策として車椅子での坐位時の姿勢や車椅子との適合性,除圧のために開発された各種のクッション材の使用,自力でのプッシュアップ(両上肢で身体を押し上げ坐面から殿部を持ち上げる)動作を30分ないし15分間に1回1分間定期的に励行することなどのような坐圧の分散が図られている.著者はそのような条件をさらに満たすため,坐圧分散の検定と除圧のくふうとしてシートソケットを考案試作したので報告する.

FORUM フォーラム ふぉーらむ

実習生は鏡 長田 正章
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 養成校の学生時代に,実習先によって随分と雰囲気が違うものだと感じた.職員の数の多少や受け入れる実習生の数の差から,実習生への関心度に微妙な違いが生じていたのだろう.実習は見学・評価・インターンと3年に跨(またが)り延べ36週に及ぶ.臨む実習生の立場からすると良い勉学の機会であると同時に,非常に厳しい試練の場でもある.一方,指導者にとっては後輩を育成・指導することになるが,通常業務に加えて評価・治療について学生を教育するわけだから負担は否めない.私の指導者であったある先輩は,私の不勉強をひどく心配してくださり,心労をおかけしたが,今深く反省し感謝している.しかし,こうした指導者と学生の関係は実習先の院所によって大きく異なっている.

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 この度,某養成校の非常勤講師の機会を与えていただき,後期「ADL」を担当しました.私個人としてはかねてからの念願達成であったわけですが,3年前に当FORUMにて,専任教官の先生方に対して,言いたい放題のことを書いた前科があるので,若干のプレッシャーを感じながらも頑張ってみました.(その割には,毎回出たとこ勝負の感はぬぐえませんでしたが….)

 良かったことはまず,俗に言われる“新人類”たちの『当世学生気質』に直接ふれることができたということです.次に感じたのは,専任教官の苦労ということです.(氷山の一角にすぎないでしょうが….)

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 1987年3月7日に第1回神奈川県作業療法学会が開催された.これに参加し考えることが多かったので,ここに紹介し感想を述べてみたい.

 学会は2題の特別講演と8題の一般演題の発表が中心であった.特別講演はリハビリテーション医の立場から横浜市立大学医学部附属病院の大川先生が,「医療における卒後教育」を,そして作業療法士として東京都立医療技術短期大学の寺山先生が,「作業療法の展望」というテーマで講演された.大川先生の講演から,卒後の自己研鑽のためには積極的な努力が必要になるのだと痛感した.

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 今,理学療法士(RPT)にとって,標記の2点の命題については,よく議論されるところである.

 業務独占:これは,古くて新しい我々の願いである.何をもって業務独占とするか,業務内容や範囲など,その他種々異論があろうが,現在の名称独占からさらに業務独占を目指すことについては,異論の無いところであろう.

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文献抄録

編集後記 大喜多 潤
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 暖冬を思わせるような太平洋沿岸の気候ですが,冬の足音は確実に近づいてきています.冬の季節を迎え今月は,これにふさわしい「寒冷地におけるリハビリテーション」を特集のテーマに選びました.

 まず皮切りに弘前大学医学部附属脳卒中研究施設・福田先生に“その特殊性”について広く全般にわたり具体的にお書きいただき,北村山公立病院・駒沢先生にも“寒冷地におけるリハビリテーション”と題してアンケート結果を通して,寒冷・豪雪地域のリハビリテーションについて解説していただきました.

基本情報

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理学療法と作業療法
21巻12号 (1987年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9849 医学書院

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