理学療法と作業療法 13巻11号 (1979年11月)

特集 老年医学の基礎とリハビリテーション

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はじめに

 人間は25歳を過ぎると,その可能な最大仕事量が毎年およそ1%ずつ低下するといわれる.この減少の程度は女性においてはさらに速い.仕事量の減少とは,好気性代謝,酸素消費量の減少であり,骨格筋の運動量,呼吸器系と循環器系能力の低下などを伴っている.

 通常の運動においては老年者の酸素消費量が若年者と異なることはないのであるが,はげしい運動における最大酸素摂取能力が加齢とともに徐々に減少する.一方運動中の心拍数はその最大値が低下を示し,50歳で160ないし170,70歳では150を越えることがない.

 血管の拡張能は加齢とともに失われる.大動脈をはじめ,大血管の硬化は20歳頃から始まるとされている.ただしこれは血管内膜の変化と平行するのではなく,コラゲンの変性など結合組織の変化によるものである.

 血管の反応も加齢に伴って変化する.血管運動性反応は老年者において低下が認められ,温度変化に対する手足の血管反応は若年者のように著しいものではない.

 末梢血管抵抗の増大は老年者の腎,脳,四肢末梢において観察されており,一方心臓の拍出量は減少してくるが,収縮期血圧は上昇している.心電図所見からは臨床的に心疾患を発見できなくても異常を見ることがある.

 運動に対する老年者の反応が比較的乏しいこと,筋力低下と筋収縮持続能力の低下,運動時の心拍数増加が少なく,運動終了時の心拍数の回復遅延などは一般に広く認められる現象である.

 老人の運動生理学的基礎を述べるとするならば,以上のような問題について論ずることが適当であるとは思われるが,これらはすでにしばしば指摘されていることであるので1,2,3),ここにはやや視点を変えて,老人を対象としたリハビリテーションに参考となる問題を2,3とりあげてみたい.

老年期の精神障害 柄沢 昭秀
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はじめに

 何歳から老年期,というほどはっきりした区切りがあるわけではないが,ふつうは65歳を境にしてそれ以後を老年期と呼んでいる.全般的な心身機能の衰えが目立ってくる時期であるが,この時期には精神障害の出現率もとくに高い.老年期に見られる精神障害の中で最も多いのは,老年期に特有のいわゆる老化性痴呆疾患であるが,そのほかうつ病や神経症,妄想疾患なども稀ではない.すなわち,老年期に特有の疾患もあればそうでないものもあり,老化と関係が深い疾患もあればそうでないものもある.また老年期に初めて発病したという場合もあれば若い頃に発病して治療しないまま老年期に達したとか老年期に再発したという場合もある.これらを含め老年期にはほとんどすべての精神障害が見られる.

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はじめに

 「老人達のリハビリの成績が上がると,それに反比例するように家族の面会がなくなるんですよ.結局,家族は治されちゃたまらないと思ってるんですねえ……」.これは,昨年A新聞社主催の講習会で,わが国の老人リハビリの権威者田中多聞博士が,怒りを抑えた愁い顔でポツリともらされた言葉でした.

 編集部から,何を間違えられたのか門外漢の筆者に原稿のご依頼がありました.筆者は精神病院や老人福祉センターで,いろんな老人達とつきあってきた体験しかありません.むろん学術的な論文など書ける人間でもありません.本誌には,すぐれたPT・OT,ワーカーの方方が,立派な論文を書いておられます.この難題に対し,筆者の出来ることはこんなところでしょう.つまり,16年間老人達とつきあってきた体験から,老人のリハビリ場面で,老人達が悩んだり,こう理解してほしいと思う点を,老人達の口をかりてお話しすることです.「たぶん老人達はこう思い,こう悩んでいるだろう」という架空の物語―実際には現実の話もありますが―をお話したいと思います.あるいはピンボケの話であったり,問題点としてお分かりになったり,問題点などない位に立派におやりになっているかも知れません.

 この小文が,日常のお仕事に何らかのお役に立てますれば幸いと存じます.

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はじめに

 老人対策の基本理念として「老人を単に弱者として保護するのではなく,地域社会の正当な一員として,地域社会の中で自立して,生き甲斐のある生活をおくれるようにすることである」と東京都では規定している.

 老人の地域リハビリテーションを考えるときもその理念は全く同じである.

 本稿では,実際に都内の各地域で実施されている老人に対する地域リハビリテーションの現状を踏まえながら考えてゆくことにする.

 地域リハビリテーションの対象となる老人は何らかの医学的原因により,身体的機能障害があり,そのために生活場面における諸動作を,自立して行うことが不自由である.つまり,家庭において生活動作を遂行するために必要な身体的基本動作に不自由のある肢体不自由老人であり,障害老人なのである.

 このような肢体不自由な障害老人は,生活者としての生活体系そのものに破綻をきたし,日常生活動作(ADL)のある部分または全体の動作を身体的に自立して遂行することが困難であり,あるいは不能になっている.

 人間が生活するということは,朝起きてから,夜寝るまでの時間帯を,目的動作を遂行するため一連の諸動作を連続して行うということである.生活自体が動作の連続によって成り立っているのである.

 生活内容を構成している諸動作のうち基本的な動作と言われる狭義のADLさえも破綻してしまう.それは身体的な姿勢の変容であり,移動動作の破綻によって始まるのである.

 厚生省の調査(昭和50年)によると,全国で寝たきり老人は44万人で,そのうち特別養護老人ホームに入所しているのが5万5千人であると報告している.38万人は家庭にいて家族がほとんど面倒をみているのである.

 寝たきり老人の状態は本人自身の問題であるだけでなく,家族に係わる深刻な問題になり,それは地域全体の社会問題になってくる.

 医学的には,寝たきり老人の大半は脳卒中後遺症によるもので,半身不随の片麻痺を中心とした障害をもつ老人である.

 このような障害老人の地域リハビリテーションの考え方および方法について検討してみることにする.

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 Ⅰ.はじめに

 近年,地域医療の概念と相俟って,理学療法士(以下PTと略)による家庭訪問活動の必要性が認識されてきた.リハビリテーション分野では包括的な地域医療の必要性が叫ばれてから久しいが,1975年の第55回WHO執行理事会で決議されたプライマリ・ヘルス・ケアの慨念は,リハビリテーション医療のみではなく,もっと広い包括的な地域医療を含んだものとなって紹介されている.

 若月,橋本,能勢1)は,プライマリ・ヘルス・ケアの概念について,WHO事務局長Dr. Mahlerの講演内容から紹介しているが,―住民の健康改善に必要なあらゆる要素をコミュニティ・ベースで統合することであるとし,その対象は医学のいわゆる包括医療のスペクトラムだけでなくて地域開発とか生活を守る一切の手段を含んでいる―と,また―プライマリ・ヘルス・ケアは,個人,家族,そしてコミュニティにとって統合され均衡を持った,予防・健康増進.治療・リハビリテーションサービスであるべきである―と,そして―農業・産業・教育などの社会開発の統合にまで言及している―と.

 橋本1)は,―ケアの包括性からみて重要な問題は,コミュニティ・ベースでみた場合,わが国の現状ではリハビリテーションの機能が全く欠落しているという事実である.このことは,脳卒中が死因の25%を占め寝たきり老人40万といわれる現状では真に重大な問題といわれねばならない.わが国のPT,作業療法士(以下OTと略)の養成は,国際的にみて立ち遅れており,今日のところ,ほとんどその活動は施設内に限られているが,その計画的増員と,コミュニティとの関連における有機的弾力的な活動パターンの開発が急務である―と述べている(付点は筆者).

 厚生白書2)によると“寝たきり老人”というのは65歳以上で6ヵ月以上床につきっきりの老人を指すらしいが,老人人口の急激な増加に伴い,寝たきり老人も年々増加している.

 生活の場である家庭において,家族および地域社会との関わり合いを絶つことなく生活することは,長期療養の必要な患者,特に寝たきり老人にとっては大きな意味を持つものと考えられる.寝たきり老人は,差し迫った救命の処理の必要もなく,入院治療の適応もないままに在宅で家族の介護によって生活しているわけであるが,加齢に伴う障害の重度化,複合化によって介護者の負担は増すばかりで,ついには家庭崩壊に至るケースも少なくないのが現状である.

 寝たきり老人の原因としては,50年の老人実態調査2)によれば,脳卒中(35.3%),高血圧(18,1%),リウマチ・神経痛(9.5%)老衰(9.5%)等が主なものとなっている.

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はじめに

 高齢人口の増加に伴い,老人医療・福祉に対して一般社会での関心が示されてきている.もちろんセラピスト間においては,今までのOTの対象分野である身障,小児,精神科といった固着した三パートに加えて,これからの重要な課題として老人に対するOTアプローチの必要性が高揚され,その理解の輪が広がりつつあることは,日常携わっている我々にとっては心強く思う次第である.老年期になると,他の年齢層と比して,身体的,社会的,経済的,教育的各分野からの問題が数多く生じ,それに伴い精神,心理面に生活不適症状があらわれ,異常心理→精神障害へと移行することは,めずらしいものではない.また一般にこれらの老人は,一般病院,老人福祉施設,家庭,精神病院といったところに散在しているわけであるが,今回は,老人の精神障害(特に情動不安を主訴とするもの)に対するOTプロセスを,ナーシングホーム・ケアの立場から,未熟ながらもまとめてみたい.

とびら

落し穴 佐藤 章
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 人間とは,不思議な生き物だと思う.いつもそう思う訳ではないが,ふとそう思うときがある.不思議な生き物と言えば,全ての生き物についてそう言えるのかも知れない.草花や樹木,魚,蟻や蜂そして猿にしろ不思議な生き物であるということは人間以上であるのかも知れない.彼らの行動や生活が,人間のそれとはかけ離れている場合,あるいは,逆にあまりにも人間のそれと彼らのそれとが似ている場合とがある.このいずれの場合でも,人間の目からみると一種の驚きであり,意外性がある.しかし,この意外性もいつの間にか意外性が失われ,極く当り前のこととして人間の目に映る.彼らの行動や生活それ自体にはなんら変化がなくとも,人間は極く当り前のこととして受けとめてしまうようになる.これは,対象が生き物であろうと,自然界の事象であろうと,日常の生活における諸現象であろうと,おかまいなく同じようなことが起こっているような気がする.

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 Ⅰ.はじめに

 AJOTや我国の「理学療法と作業療法」が研究論文を主体に学術的であろうとする努力が伺われるのに対して,英国のそれは形式を重んじる反面,OT実践家のための気軽な雑誌ともいうべき内容の多種多様さには驚かされる.以下,筆者なりではあるが,項目別に内容を整理して要約したところを報告する.

講座

失行症・失認症Ⅷ 失行症 鎌倉 矩子
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 このシリーズの筆者の担当分もこれが最後になった.残っているのは行為(動作)の障害を主症状とする群である.初回評価1)の項目でいえば,第5項に主な欠陥がみられる群である.これはいわゆる「失行症」(ただし構成失行をのぞく,以下同)に相当する.

 残念なことに,筆者自身は,こうした症例の典型例を手がけたことがない.したがってここでは,文献考察から引き出せることを,筆者なりの形でまとめてみることにする.

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はじめに

 CT検査は,すでに述べられて来たように,原則的には身体を輪切りにする横断断層撮影法である.またCT検査には,従来の検査法になかった利点として,病巣の検出のみならず正常構造が詳細に観察出来るという特徴がある.しかし,この横断像は従来あまり見慣れていないので,その読影に当っては図譜などを参照するとともに,従来の解剖学と関連させながら,自分の頭の中で立体的構築を試みる必要がある.本講座の診断Ⅰでは,その様な点に考慮しながら正常CT像について考えて見たい.脳の萎縮の高度な老人のCT像は,脳の諸構造をはっきりと示してくれるので,適宜参考として挿入して行くこととする.現在CT検査の図譜,アトラスは英語で書かれたものが多いので,本講座でも解剖学名は英語を主とし,文章の中では出来るだけ日本語名と併記するようにした.

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臺 昭和40年の精神衛生法改正の時に分裂病患者の入院についてずい分議論されたんですが,それは法文の中にまったく反映されなかったんです.元吉功さん達や松沢病院の連中が,手分けして当時入院してた患者さんの中で,病状のためだけで入院させなければならない人がどのくらいいるかというのを調査したことがあるんです.すると10%から20%でした.あとの80~90%は社会的要因で入院していたか,あるいは入院以外のケアのシステムがなかったことによるんです.

 もっともその傾向は今ではある程度緩和されました.というのは外来が非常にふえましたから.けれども放っておけばまだ上がりそうですよ.先ほどあなたもおっしゃたように,経済的な問題と,それから法律的な問題が外来を伸ばすように働いていませんから,それでも外来がうふえているというのが心強いところです.

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 ギプス自製にまで手をひろげたのは,義肢装具の材料として用いようという考えからであった.WVやWHOではアフガン人にもネパール人にも理屈なしに木製4角形ソケットやジュラルミン筋金や,合成樹脂の積層などを教えて,あとは知らぬ顔である.しかし,あの不整地面や,重作業を考えると,2~3カ月ごとの小修理や2年ごとくらいのオーバホールを当然と考えなければならない.交通機関がなく,あってもバスの屋根の上までいっぱいでそれに乗る金銭を持っていない人たちばかりの社会を想像してほしい.1960年には70を越す医科大学をもつインドでさえ,義肢センターはボンベイとプーナのみであった.

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 Ⅰ.はじめに

 我々は,すべての脳性麻痺児に対して,治療時間中に望ましい反応を確認しながら個々の課題を明らかにし,具体的な治療手技を工夫している.いったん歩行能力を獲得した痙直型両麻痺児に対しても,できる限り正常な歩行パターンに近づける必要がある.それは典型的な“はさみ肢位歩容”や,股関節脱臼,尖足拘縮といった歩行における異常発達を可及的に阻止しなければならないからである.正常歩行パターンへの望ましい治療反応として①正常な抗重力伸展筋活動の発達促進,②それを阻害する下肢痙性の減少,③歩行バランスに必要な体軸内回旋を伴った動的コントロールといったことが挙げられる.今回の研究では45分間の治療時間中に望ましい治療反応を顕著に確認できた症例を通して我々の考察を報告する.

FORUM フォーラム ふぉーらむ

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 夏の富士山は,一般の登山客で賑わいをみせていた.そこへ小型トラクターのような一台の車椅子が姿を現し,周囲の視線を集めた.

本の紹介

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 精神科で働らく人にとって,初心者から長年のプロに至るまで,どのように勉強しても最後まで把え切れないのが,精神分裂病である.あまりにも個人差があり過ぎて疾病の構造論すらも諸説があるのである.そうなると必然的に治療の方針づくりにも多様性がでてくる.

 一般的に結果としては院内での治療効果をあげることに全力投入し,院内寛解と呼ばれる状態まで持っていっても,社会生活をすると再発してしまう.最も難しい問題がこの本の柱である.

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文献抄録

編集後記 福屋 靖子
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 うだるような酷暑をもう忘れたかのようにさわやかな秋,そして冬を迎えようとしております.在宅老人の介護者はこの冬をいかに乗りきるかと頭を悩まし,施設に入れようかと迷っている人も多いかと思います.機能の低下なしに冬を乗りきるためには暖房設備が決め手となりますが,クリーン・ヒーターのような暖房器具もベッドや車椅子のように,サンタクロースがプレゼントしてくれたらなあと祈りたい気持です.

 今回の老人の特集は「老年医学の基礎とリハビリテーション」というテーマで,日頃漠然と見過しがちな,しかしPT・OTの基礎ともなるべき知識についてと,今各方面からその必要性が叫ばれている地域における在宅老人および特養ホームの問題についてとりあげてみました.

基本情報

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理学療法と作業療法
13巻11号 (1979年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9849 医学書院

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