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Ⅰ.はじめに
近年,地域医療の概念と相俟って,理学療法士(以下PTと略)による家庭訪問活動の必要性が認識されてきた.リハビリテーション分野では包括的な地域医療の必要性が叫ばれてから久しいが,1975年の第55回WHO執行理事会で決議されたプライマリ・ヘルス・ケアの慨念は,リハビリテーション医療のみではなく,もっと広い包括的な地域医療を含んだものとなって紹介されている.
若月,橋本,能勢1)は,プライマリ・ヘルス・ケアの概念について,WHO事務局長Dr. Mahlerの講演内容から紹介しているが,―住民の健康改善に必要なあらゆる要素をコミュニティ・ベースで統合することであるとし,その対象は医学のいわゆる包括医療のスペクトラムだけでなくて地域開発とか生活を守る一切の手段を含んでいる―と,また―プライマリ・ヘルス・ケアは,個人,家族,そしてコミュニティにとって統合され均衡を持った,予防・健康増進.治療・リハビリテーションサービスであるべきである―と,そして―農業・産業・教育などの社会開発の統合にまで言及している―と.
橋本1)は,―ケアの包括性からみて重要な問題は,コミュニティ・ベースでみた場合,わが国の現状ではリハビリテーションの機能が全く欠落しているという事実である.このことは,脳卒中が死因の25%を占め寝たきり老人40万といわれる現状では真に重大な問題といわれねばならない.わが国のPT,作業療法士(以下OTと略)の養成は,国際的にみて立ち遅れており,今日のところ,ほとんどその活動は施設内に限られているが,その計画的増員と,コミュニティとの関連における有機的弾力的な活動パターンの開発が急務である―と述べている(付点は筆者).
厚生白書2)によると“寝たきり老人”というのは65歳以上で6ヵ月以上床につきっきりの老人を指すらしいが,老人人口の急激な増加に伴い,寝たきり老人も年々増加している.
生活の場である家庭において,家族および地域社会との関わり合いを絶つことなく生活することは,長期療養の必要な患者,特に寝たきり老人にとっては大きな意味を持つものと考えられる.寝たきり老人は,差し迫った救命の処理の必要もなく,入院治療の適応もないままに在宅で家族の介護によって生活しているわけであるが,加齢に伴う障害の重度化,複合化によって介護者の負担は増すばかりで,ついには家庭崩壊に至るケースも少なくないのが現状である.
寝たきり老人の原因としては,50年の老人実態調査2)によれば,脳卒中(35.3%),高血圧(18,1%),リウマチ・神経痛(9.5%)老衰(9.5%)等が主なものとなっている.
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