看護学雑誌 46巻2号 (1982年2月)

特集 入院生活環境を再考する—音への配慮

入院生活と物音 長澤 泰
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はじめに

 近年,医療技術の進歩,看護水準の向上に伴って,病院では多くの急性患者をかかえ,活発な医療・看護活動が行われています.院内では大勢の人びとが動き回り,多種多様の物が搬送され,全体が機能しています.病院建築特有の複雑な給排水関係の配管や,空調・換気関係のダクトは,院内の隅々にまで到達して,ファンやモーターなど騒音源になりやすい機器類も多く設置されるようになりました.

 また,従来は広い敷地にゆったりと建てられていた病院形態も,集中的な建て物構成になり,以前には離れていたために問題にならなかった音源が無視できなくなってきています。一方,病院建築には不可避の間仕切り変更を容易にするため,あるいは建設工期の短縮などの理由で,厚く重い壁に代わって,乾式工法による軽量間仕切り壁が採用されることが多くなり,騒音の伝達防止上,不利な条件となっています.

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はじめに

 神戸市立中央市民病院は1981年3月8日,388名の入院患者と共に新病院へ大移動して,はや半年余りが経過した(まだ半年余りを過ごしただけだというべきかもしれない).新病院は各界に多くの話題を提供しているようで,私ども看護の関係でもいくつかの雑誌に取り上げられ,また見学者もあとを断たないようである.

 今回‘入院生活環境を再考する’をテーマに特集を組まれるとのことで,私どもの新病院設立に当たっての配慮をまとめるようご依頼をうけたので,ここ数年の仕事の整理にもと考え,以下にその概略を述べることにする.

いびきのケア 池松 武之亮
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住宅を持つ時に最も関心を払うものの1つに,‘閑静である’という条件を考えない者はいない.また,他人の家を訪問した際,‘静かですね’とは自然に口をついて出る言葉である.それほど私たちの音に対する関心は,本能的なものなのである.

 いびきは,こうした私たちの,静かなるべき就眠時における騒音の代表的なものの1つである.それは自然界に出現する騒音の中でも,風やせせらぎや渚の音などとは異なって,最も複雑性に富んだ騒音なのである.

続・ホスピス アメリカ合衆国の末期医療の現場報告・2

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緩和ケア病棟とは

 マサチューセッツ大学医学部のメディカルセンターはボストンの西約65kmのウースター(Worcester)にある.このセンターは6年前に建てられた新しい400ベッドの総合病院で,3600人の従業員が働いている.この病院に緩和ケア病棟(palliative care unit)が開設されたのは1978年であった.palliative care unit(以下PCUと略す)はホスピスとほぼ同じ意味に用いられる.

 palliative care(緩和ケア)とは,末期癌の患者に抗癌剤の投与など積極的な治療を施さず,末期癌に伴う痛みや不快な症状を緩和することを目的とするケアを意味する.前回紹介した聖ロカ病院のホスピスは,病棟を持たない,いわゆるホスピスプログラムであったが,このPCUは病棟を持つホスピスと考えてよい.

ベッドサイドの看護

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開腹手術は,小児外科の分野でも最も多く行われる手術である.看護婦は,連日繰り返される手術の中で,手術のある情況そのものが生活の一部となってしまっている.しかし,手術を受ける患児およびその家族の身体的,精神的,経済的負担は,手術の大小にかかわらず,その予想をこえるものである.

 そこで本稿では,下記の項にそって,開腹手術前後の小児およびその母親へのアプローチを考えてみたい.

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はじめに

 今日,家庭崩壊がマスコミ等に報道されているが,被虐待児もその1つの例といわれる.当院でも,主として母子関係に問題があり,子供の成長発達が阻害された,いわゆる愛情遮断性小人症の男児の入院を経験した.

 この患児については,早い時点から地域の保健所や障害児通園施設の人たちがフォローアップしていたが,今回,母子分離,すなわち環境の調整を目的とし,家族の同意を得るために精密検査を理由に入院させた.主に遊びを中心に信頼回復への援助を行った結果,患児がめざましい成長発達を遂げることができたのでここに報告する.

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はじめに

 食道静脈瘤手術は,手術時間が長い,開胸する,輸血量が多い,手術侵襲が大きいことなどにより術後呼吸不全を起こしやすく,また肝性脳症,低酸素血症から,精神面にも異常を来しやすいといわれている.

 私たちは,続いて3例の食道静脈瘤術後看護を経験することができた.初めての経験で,看護計画も手探りと足踏みの状態であり,1,2例とも喀痰喀出がうまくはかれず,気管切開へ移行させてしまったが,2例によって得られた経験に基づいて,特に重要と思われる呼吸管理,精神面の援助を中心に看護評価をし,その後3例目の事例に臨んだところ,比較的良好な結果を得たのでここに報告する.

研究と報告

安楽死に関する一研究 山下 タケ子
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はじめに

 医療技術の進歩に伴って,以前には期待できなかった長期の延命が可能となった.その反面,苦痛を伴った生命と,安らかなより短い生命とどちらを選ぶかの問題が新たに起きている.安楽死の問題は古くからあったが,1975年のカレン事件によって全世界の関心を集めるようになった.

 1976年には,第4回世界医事法会議が開催され,トピックスとして‘生命の始まり’‘生命の終わり’がとり上げられている.同年には東京で安楽死国際会議が開催され,日本安楽死協会も参加している.その後‘末期医療の特別措置法案’が安楽死協会から発表されると,武谷三男氏等が発起人となる‘安楽死法制化を阻止する会’の発足があり,安楽死問題は日本でも注目を集めるようになった.本格的な安楽死立法としては英国の任意安楽死立法が1936年ころにあるが,一般的な法律問題としてはかなり古くからあったと思われる.

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1977年,我が国(訳者注:英国のこと)の厚生省は,医師や教員を含んだ専門職集団のいくつかについて,喫煙の程度に関する調査の結果を発表した.

 その結果をみると,一見,逆説的に思えるような状況が目立っていた.調査対象となったどの専門職集団よりも,病院看護婦がいちばん多く喫煙しているというのである.その調査時点では,病院看護婦の48%が喫煙をしていたのである.

NURSES' VIEW

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私は一昨年まで通算7年間病棟に勤務していたが,院内一斉婦長異動により,〈居宅療養部〉という,往診医療と訪問看護を預かる,これまでの病棟医療や看護とは全く違った分野で働くことになり,既に8か月が過ぎた.居宅療養部にきて,あらためて‘看護とは何か’という問いに自分なりの答えを見いだそうと,意欲をかきたてている毎日である.

 実際に居宅療養部に勤務してみると,これまでの在宅医療や訪問看護についてのとらえ方が常に一面的だったということを深く反省させられている.そして現在の医療構造のためなのか,医療や看護は,地域社会からこれまでは考えられなかったような,いろいろな要求をされ,積極的にそれらに応えていかなければならない任務があるのだ,ということをはっきり知ることができた.そして,その患者や家族の要求にほんとうに答えられる看護とは,形式や方法にこだわらず,自己の持っているあらゆる知識経験,判断,人間性を惜しみなく使いこなしてかかわっていき,看護婦ひとりひとりの努力の中から創り出していくものではないだろうかと考えるようになった.

ホームケア・2 新宿区立区民健康センター訪問看護婦のリレー随筆

老いてゆくこと 新津 ふみ子
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Aさん(78歳,女性)は,最近気にいらないことがあると子供のようにひっくり返り,足をバタバタさせて怒り,とても悔しがる.自分のことなのに自分には話してくれない,つんぼ桟敷にすると繰り返し,話し合いのできない時がある,と娘が言う.

 訪問を始めてから1年半になるが,礼儀正しく迎えてくれ,穏やかな会話しか記憶にない私は,Aさんの行動としてイメージがわかない.老人の子供返りのようなものかと思っていた.

バイタルサイン・23

急性呼吸困難[1] 岡安 大仁
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呼吸困難(dyspnea)とは,息が切れる状態で,客観的にもいかにも息がしにくく,つらそうに見えるものである.そのような状態が,突然あるいは比較的短時日の間に起こってくることがある.それが急性呼吸困難といわれる状態である(図1).

 このような患者では,多くの場合,頻呼吸(tachypnea),頻拍(tachycardia)がみられるし,チアノーゼや発熱を伴っていることもある.

カラーアトラス 褥創・14

大転子部の褥創 大谷 清
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 大転子部は仙骨部とともに褥創の好発部である.

 症例1 26歳,男性.1980年6月転落事故で第6頸椎骨折,四肢麻痺で某病院へ入院した.同年10月当院に転院したが,写真1, 2にみるように左大転子部に褥創が形成されていた.褥創の大きさは約10×10cmで,中心部は壊死組織で覆われているが,その周囲は比較的浅く,腫脹も軽度で分泌液も少ない.しかし,分泌液の培養では黄色ブドウ球菌が検出された.

フレツシュ婦長

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看護学校(熊本大学医学部付属)を卒業後すぐに京都市立病院へ検査科・放射線科・救急室・泌尿器科て仕事をした後,1979年4月から泌尿器科の婦長に。婦長の内示は,自分がたま不在の時に家の方へ連絡があつた.「もし自分が在宅しいて直接うけていたら,あるいは断わることになつていたかもしれない」一晩じつくり考え「スタッフを使おうとは考えず,自分自身が仕事に使われて,仕事を楽しもう」という気持ちで引き受けた.

 19歳を頭に,12歳,6歳の3人の子供を育てながら,仕事に打ち込んでいる.昼休みや時間外に患者さんとゆっくり話をするようにしているが,自分が大病しているだけに患者さんの気持ちや要求がよくわかり,それにできるだけ素早く応えるようにしている.「今の若い者は……という言葉をよく聞くけれども,今の若い人たちから教えられるこも多い.そんな人たちを,私を乗り越えて進んでゆくリーダーに育てることが一番の願いです」

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労働条件の変化がケアの質を変えた!?

 昔は行われていたモーニングケアがなぜできないのか.その内容が次第に省略されてきたのはどうしてか.また,いったいいつごろから変わってきたのであろうか.

 1960年代,それは日本の医療の大きな変革の時代である.抗生物質の開発普及による感染症の克服は,一方で医薬品の使用量を大幅にふやした.また,国民皆保険も達成され,国民医療費は増大しつつあった.

看護ミニ事典

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 人体は水素(1H),炭素(12C),酸素(16O)等,いろいろの元素で構成されていますが,これらは一般にこのまま変化せず安定同位元素(stable isotope)といいます.元素の中には不安定なものもあり,これらは元素の中のエネルギーが多すぎるので,そのエネルギーを放射線として放出して安定な同位元素になるのですが,この不安定な同位元素を放射性同位元素(radioisotope)といっています.日本では略してRIなどといっていますが,これは日本独特の略号で国際的には通用しません.

 このラジオアイソトープは自然にも226Ra(ラジウム)とか224Rn(ラドン)とかがありますが,病院で診断に使っているものはほとんどサイクロトロンや原子炉で元素に無理に余分のエネルギーを加えて作り上げた人工的なものです.

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神戸市立中央市民病院は,市民社会に密着した医療を目指して,1981年3月,新病院としてスタートした.神戸港を蟹むポートアイランドの5万m2の敷地に,延床面積6万m2,高さ64mの近代建築技術の粋を集めた病院がそびえ立つ.三の宮駅よりポートライナー(電車)で4つ目,市民病院前駅を降りると,そこはすぐ外来受付である.広いスペースの各診療科別の外来であり,総合案内には初診患者の相談に応じるべく看護婦が配置されている.

 新病院建設に当たっで看護サイドからの要望も多く取り入れられた。特に強い要望としてだされたのは,患者の居住性の確保と,看護業務上の安全性と効率化であった.患者の居住性については看護婦の臨床体験に基づくきめ細かな配慮がされている.その1つが,病室とナースステーションが一体となったアイコンタクト方式である.この方式では,オープンカウンターのナースステーションの回りを病室が取り囲む形で,病室の窓を介して患者と看護婦の接触が常に保たれるようになっている.病室の2重ガラスの窓は遮音機能を十分に果たし,岡時に内部にブラインドも降ろせるよう設計され,患著のプライバシーの保持にも細かな配慮がなされている.

コンピュータを学ぶ人のために・14

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CPUとは何か

 近藤 せっかくここまできたんですから,コンピュータの仕組みについて,もう少し詳しく習っておきたいんですが.ねえ,佐藤さん.

  佐藤 はい

喫煙の生理・衛生学・7

喫煙時の血液 浅野 牧茂
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喫煙によるニコチン吸収とカテコールアミン分泌

 血液は,いうまでもなく液体成分である血漿と,有形成分である血球とから成り立っている.喫煙時に体内に取り込まれる主要物質のうち,生理学的にも薬理学的にも最も大きな役割を担うニコチンは,血漿部分に存在してほとんどあらゆる臓器・組織に分布すると考えられている.1)

 一般に,たばこ煙中物質は口腔,気道,胃腸管などの粘膜から吸収されるが,肺胞内での吸収が最大で,2)ニコチンはたばこ煙中濃度や吸煙条件に従って,異なる濃度で血中に証明される.喫煙時のニコチン吸収は極めて速やかであり,肺喫煙時には図1に示されているように,3)1本のシガレット喫煙後10分前後に,血中濃度はピークに達する.口腔喫煙では血中濃度のピーク値が低いのみならず,血中への出現時間も肺喫煙に比べて遅れることがうかがわれる.

肝臓病・胆のう病・膵臓病Q&A・11

膵癌 関 孝一 , 松本 和子
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増えている膵癌

アルコール・たばこ・脂肪にご用心

 Q 今日は膵臓にできる悪性腫瘍のうち‘膵癌’についてのお話を伺いたいと思います.

看護に生かす交流分析・9

心理的ゲームの分析[1] 白井 幸子
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時間の構造化

 先月号で,‘時間の構造化’という人間だれもが持つ根源的な願いについて記したが,死に直面して,自分の願いどおりに自分の人生を意義あるものにできたと言いうる人は,極めて少ないと思われる.こうもしたかった,ああもしたかったとの思いに支配されるのが人間の常であり,この意味で‘時間の構造化’は,しばしば人間の悲願であるかもしれない.

 今回は,極限的な状況にありながら,なおも自分の人生を有意義にすべく,必死の努力を続けている全生園の患者,伊郷芳紀さん(仮名,70歳,写真)が,‘らい’と宣告されてから今日までどのように生きたか,彼の時間の構造化の方法を紹介し,さらに心理的ゲームの分析の項にすすみたい.

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看護学校を卒業して東大病院で勤務していたころ、たまたま看護学校の図書館でナイチンゲール書簡集を手にとり、彼女のいくつかの言葉にうたれ、新鮮な出会いともいうべき体験をした。「その時までナイチンゲールについては全く脳裏になく、今のように看護学校でナイチンゲールについて教えられもしなかったし、ヘンダーソンも紹介されていず、看護をする上での自分のよりどころが全然なく、苦しんでいました。飢えた状態だからスッと入れたのかもしれませんね。その時慶応大学の通信教育を受けていたんですが、卒論はナイチンゲールしかないと決心しました」

 当時日本にはナイチンゲールの文献が皆目なく、現代社から著作集第二巻が出るのを待ちわびて卒論を書き上げたが、それまでに六年もかかった。その後、ロンドンの大英博物館やナイチンゲール看護学校図書館などで一か月半ほどの間、ナイチンゲールの著作集を読み暮らす生活も経験した。

エージング・レポート イギリスの老年医療見てある記・2

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ストップヒル病院老年科はイギリス老年医療のモデル的存在

 グラスゴーは人口約80万,イギリスでは4番目に大きい都市です.市街地には産業革命以後の繁栄の名残りをとどめる黒く煤けた建て物が立ち並び,所々に30階建てくらいの高層アパートが建っています。日本の大阪に似た印象の商工業都市で,労働者が多い街です.しかし戦後,造船や重工業などの主要産業が軒並みに斜陽化するにつれて街全体がさびれつつあり,人口流出が続いています.

 街を歩いていても道路の清掃が行き届いてなく,犬の糞やポテト・チップの紙袋などが散らかっているうえ,天気の悪い日が多いので,1年の約3分の2は道路がぬかるみ,じめじめしている感じです.近年は失業率も高く(それも若い人に高い),人々の心も荒んでいるようで,建て物の壁や塀は落書きで汚れ,公共建造物の入口なども荒らされ,数少ない公衆電話ボックスも使えないものが多い状態です.

素手でつかむ看護 心に残るマラウイでの生活・2

ST. LUKE'S HOSPITAL 工藤 芙美子
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日本は日出ずる国.マラウイのお金,クワッチャとは‘夜明け’の意である.この共通した言葉のように,この国の風景は日本の田園風景によく似ている.緑の山と花,だれもがこの姿に親しみを感じるであろうと思う.

 5月,やっと勤務地のマローサに着いた.St. Luke's Hospitalは赤いレンガ造りのきれいな病院である.マラウイでは大きな町にしか電気はないが,この病院は自家発電で1日中電気がある.しかし時々停電することがあり,夜,手術中に懐中電灯を持って走り,ランプと懐中電灯の明かりで帝王切開を続けたことも数回あった.

基本情報

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看護学雑誌
46巻2号 (1982年2月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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