総合リハビリテーション 41巻9号 (2013年9月)

特集 アンチエイジングとリハビリテーション

今月のハイライト
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 加齢のプロセスが大きく関わる病態を介入対象と捉えるアンチエイジングという概念は,近年,高齢者の健康保持・増進や介護予防を目指したリハビリテーション領域においても大変注目されています.今回の特集では,アンチエイジングの視点から加齢関連疾患として,サルコペニア,骨粗鬆症,動脈硬化症,および認知症を取り上げ,リハビリテーションの臨床に役立つアンチエイジングアプローチに関する最新の知見をご解説いただきました.

現状と課題 米井 嘉一 , 八木 雅之
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はじめに

 予防医学におけるリハビリテーションは三次予防として,例えば,脳卒中により生じた麻痺を回復させるための療法として位置づけられ,これを実践することが脳卒中の再発予防に有効であると期待されていた.すなわちリハビリテーションは後遺症に対する治療的側面が強かったわけである.医療費の高騰化が問題となっている近年では,予防医学,特に一次予防の重要性が認識されつつあり,リハビリテーション療法を積極的に利用する方法を模索する時代に入った.本稿では老化に伴う退行性変化に対する一次予防としてのリハビリテーションについて,抗加齢(アンチエイジング)医学の観点1)から考えてみたい.

サルコペニア 若林 秀隆
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サルコペニアの定義

 サルコペニアは1989年にRosenbergによって,加齢による筋肉量減少を意味する言葉として提唱された1,2).サルコは肉・筋肉,ペニアは減少・消失を意味するギリシャ語である.

 2010年のEuropean Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)のコンセンサス論文では,サルコペニアは進行性,全身性に認める筋肉量減少と筋力低下であり,身体機能障害,生活の質(quality of life;QOL)低下,死のリスクを伴うと定義された3).原因別では,加齢のみが原因の場合を原発性サルコペニア,その他の原因(活動,栄養,疾患)の場合を二次性サルコペニアとしている(表1)3)

骨粗鬆症 萩野 浩
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はじめに

 骨粗鬆症は易骨折性の高まった状態であると定義され,骨量の低下によって惹起されるものと理解される.しかしながら,加齢に伴って骨折リスクが上昇することが広く知られていて,加齢自体が骨量減少とは独立した骨折の要因であることが明らかとなっている.すなわち骨量をいくら維持しても,加齢とともに骨折が容易に生じることとなる.

 骨粗鬆症は骨折が生じるまでは臨床症状に乏しく,日常生活動作(activities of daily living;ADL)上での障害は少ないが,ひとたび骨折を生じれば,著しい疼痛と,機能障害をもたらす.そこで骨粗鬆症の予防や治療の目的は脆弱性骨折の予防である.骨折は「骨の脆弱化」と「転倒による外傷」の両者の結果発症する.したがって骨折予防のための骨粗鬆症例に対するリハビリテーションでは骨量維持・増加と転倒予防をめざす.

動脈硬化症 家光 素行
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はじめに

 現在,高齢化社会が進むなか,国内の年間死亡原因の約26%程度(死因の第2位:心疾患および第4位:脳血管疾患)が動脈硬化性疾患である.「血管は年とともに老いる(ウィリアム・オスラー)」と言われるように,中高齢期から動脈硬化性疾患(虚血性心疾患,脳血管疾患)などリスクは急増する.さらに近年の生活習慣病の急増が,動脈硬化リスクファクターを増大させ,医療保険にかかわる国民負担の増加によって生じる介護保険財政の圧迫を促進させている.そのため,加齢に伴う動脈硬化性疾患リスク増加の予防・改善は重要な課題である.これまでの研究結果から,継続的な有酸素性運動は,動脈の内皮機能を亢進・改善させ,平滑筋のトーヌスや増殖を抑制することで動脈硬化に対して有益な効果を及ぼすことが知られている.近年,中高齢者における有酸素性運動を用いたトレーニング介入だけでなく,レジスタンス運動やストレッチ運動などさまざまな運動様式における動脈硬化リスクへの効果が報告されてきている.そこで本稿では,加齢に伴う動脈硬化リスクの増大と運動様式による効果の違いについて最新の知見を含めて概説する.

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はじめに

 加齢により筋や骨などの運動器,眼や耳などの感覚器,心臓や血管などの循環器など,全身のあらゆる臓器は構造的にも機能的にも退行する.このような加齢に伴う身体の変化は避けることのできない生物学的現象であり,脳もまたこれに漏れない.しかしながら,脳は可塑性に富んだ臓器であり,日常生活に根付いた予防的リハビリテーションによってこのような退行を遅らせ,加齢による認知機能障害に歯止めをかけることができる.そのなかでも,運動は誰にでも比較的取り組みやすく,かつ確実な効果を期待できるアプローチとして注目されている.本稿では,動物やヒトでの研究から得られた知見をもとに,運動がもつ脳のアンチエイジング効果をとりわけ海馬と前頭前野に焦点を当てて概説する.そして,最近の研究から徐々に明らかとなりつつある,運動療法として実用性の高い(実践しやすい)低強度運動の効果を紹介したい.

巻頭言

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 目の前の患者さんをよくすること,が毎日の目標だった.

 内科研修医時代,受け持ち医の割り当てのボードを確認することから1日は始まった.予定入院だけではなく夜間に救急で入院した人たちがあるからである.指導医がいるとはいうものの,いつも緊張しながらそのボードを覗き込んでいた.当時の一般病院での研修は上席医も激務で指示を仰ぐのも一苦労である.これでいいのかと思いながら患者さんの担当であり続けた日々.ほとんどの病気は完治しない.短い入院,障害を抱えたまま退院や転院する人たち,医師としての役割の意味.勉強がしたくなった.そんななか,いくつかの大学ではリハビリテーション医学教室があることを知った.それから数年たっての入局となる.

入門講座 アジアのリハビリテーション事情

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はじめに

 シンガポールの医療システムは,良好な治療成績,効率性,公正な保障範囲,財政的安定性で国際的に知られている.2000年には,世界保健機関のランキングで医療制度パフォーマンスが191か国中第6位であった1).最近では,国際経営開発研究所(International Institute for Management Development;IMD)による保健インフラのランキングが第3位となり2),世界経済フォーラムの2012~2013年版国際競争力レポートでは乳児死亡率が世界で3番目に低く,平均余命の長さは6位であった3)

 シンガポールは716平方キロの国土に人口530万人という,世界でも2番目に人口密度が高い国である4).高齢化が急速に進んでおり,合計特殊出生率は1.29,平均余命は男性80歳,女性85歳である.2030年までに国民の5人に1人は65歳以上となり,現在の3倍に増加する5)

 このような急速に高齢化する人口に対応するのに十分な医師数(千人当たり1.9)ではある4)が,リハビリテーション科の認定医は28人,つまり,人口19万人当たり1人しかおらず,彼らは一般病院,地域病院,個人診療所などに勤務している.医療の向上により,人口が高齢化し,病因からの生存率が良好となるにつれて,リハビリテーション専門職と包括的なサービスに対するニーズは,急激に高まると予想される.

実践講座 訪問リハビリテーションの実際・第4回

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はじめに

 横浜市では,発症から地域生活あるいは職業復帰に至るまでの一貫・継続したリハビリテーションの提供を目標に地域支援システムの構築に取り組んできた.このシステムの特徴は,従来の保健指導を中心とした地域ケアに,リハビリテーションの視点を導入したことである.システムの構築にあたり,障害児・者や高齢障害者を対象とした地域リハビリテーションの中核施設として横浜市総合リハビリテーションセンターを開設し,在宅リハビリテーション事業を開始した.在宅リハビリテーションは,この地域支援システムを全市に展開していく実行部隊として,また,地域で求められるニーズを把握する窓口として位置づけられている.

 本稿では,われわれがリハビリテーションセンターを中心に行ってきた在宅リハビリテーションの概要を紹介するとともに,直面している新たな課題と高次脳機能障害者や難病者に対する取り組みについて,現況を報告する.

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要旨:〔目的〕地域リハビリテーションとして歩行習慣化を目指した認知機能低下予防教室で成果を示し,パッケージ化して市町村の事業として全国に普及することを目的とした.このため「高崎ひらめきウォーキング教室」プログラムを刷新し,介入効果を維持しつつ介護保険事業者への委託を行った.〔方法〕2011年度前半は市職員が中心にモデル事業として,後半は事業者への委託事業として(前半解析対象34名,後半70名),地域の高齢者を対象に週1回90分で12回実施した.作業療法士が脳活性化リハビリテーションの考えを取り入れて歩行習慣化のための教室運営マニュアルを作成し,委託事業者への研修を行った.全12回の教室前後で認知機能,運動機能,生活満足度などの評価を行うとともに,前半教室終了後6か月での歩行習慣などを調査した.また,後半事業終了後に事業者や行政担当者と改善点・簡素化の意見交換を行った.〔結果と結語〕前半後半ともに山口符号テストと老研式活動能力指標で有意な改善を認めた.後半ではさらにRBANSの10単語遅延再生と言語流暢性,TUG,5m通常歩行速度,片脚立位,主観的生活満足度で有意な改善を認め,介入の有効性を確認した.参加者の多くが歩行を継続し,自身の身体的・心理的な改善や運動の習慣化を報告した.改善版運営マニュアルと評価法のパッケージを完成させ,全国の市町村で活用できる介護予防事業を示すことができた.

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要旨:〔目的〕大腿骨頸部/転子部骨折患者の退院後の身体機能の変化を外来リハビリテーションの有無と年齢別に分け比較検討を行った.〔方法〕対象は大腿骨頸部/転子部骨折により手術施行された19名とし,退院時,退院1か月後,退院3か月後にFunctional Reach Test(FRT),5回立ち上がり時間,片脚立位時間,膝伸展筋力,快適歩行速度,最大歩行速度を測定した.退院後の身体機能の変化を,外来リハビリテーション施行の有無と,年齢(75歳未満,75歳以上)による違いに分け比較検討した.〔結果〕5回立ち上がり時間,膝伸展筋力は外来リハビリテーション施行群,75歳未満群において,退院時に比べ退院3か月後まで有意に改善した.歩行速度は外来リハビリテーション施行の有無や年齢の違いにかかわらず退院3か月後まで有意に改善した.〔結論〕外来リハビリテーションにより,5回立ち上がり時間や膝伸展筋力などの身体機能は改善することが示され,外来リハビリテーションが転倒発生による再骨折予防につながる可能性が推察された.

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はじめに

 加齢に伴って腱板は変性し,軽微な外傷をきっかけとして腱板断裂が生じる.腱板断裂の中でも腱板広範囲断裂では,筋力低下,肩関節可動域制限および疼痛によって日常生活が著しく低下する.さらに高齢かつ腱板断端部の脂肪変性が著しい場合,手術による修復術は困難であることが多く,保存療法が選択されるケースがある.保存療法としてリハビリテーションによる肩関節可動域訓練や残存腱板筋の筋力強化,体幹・肩甲胸郭関節運動が行われる.しかし,健常な肩関節機能は,上肢の挙上角度変化に対応した肩甲上腕関節の安定化機能が必要となることや,腱板機能が破綻した症例においては,上肢末梢への力の伝達障害が生じているため,画一的なリハビリテーションを施行しても,肩関節機能を改善させることは困難であることが多い1).今回,上肢挙上困難な腱板広範囲断裂の1症例を経験した.座標移動分析法2)による肩甲帯の動態と,表面筋電図検査による肩関節周囲筋の機能評価を基に,肩関節運動プログラムを作成したことで,肩関節機能の改善を認めたので報告する.なお,本稿作成にあたり,本症例患者には十分な説明を行い同意を得た.

連載 リハビリテーションとまちづくり

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 超高齢社会を目前にして,病院の役割のパラダイムシフトを促すムーブメントが世界に広がりつつある.病院の伝統的な機能は治療,看護であることは言うまでもない.しかし,高齢化が進行し多くの人が何らかの慢性疾患や障害をもちながら生活する時代にあっては,治療や看護にとどまらない役割が病院に要請されている.その役割とは,誰もが地域で健康に生活できるように,病院がヘルスプロモーション活動を実践し健康な地域づくりに貢献することである.こうした活動の推進者として開始されたのがヘルスプロモーティング・ホスピタル(The International Network of Health Promoting Hospitals and Services;HPH)である.日本では,2008年に千鳥橋病院が初めて加入した.2012年に,たたらリハビリテーション病院が加入し,現在日本で12病院が加入している.

 HPHの理念と実践は障害をもつ人たちの社会参加を支援するリハビリテーション医療にとっても有用なものと考えられる.そこで,HPHの紹介とたたらリハビリテーション病院における地域での認知症に対するヘルスプロモーション活動の実践と構想を紹介したい.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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 1901年に発表されたヒルティの『眠られぬ夜のために』(草間平作・大和邦太郎訳,岩波書店)の序文は,「眠られぬ夜はたえがたい禍いである」という一文で始まる.この序文では,文字通り不眠に関するヒルティの見解が示されているのである.

 ヒルティはこの序文の中で,「一時的な不眠にせよ,あるいは永続的なものにせよ,適当な有効な療法があればそれを用いるか,それとも,せめて不眠そのものをできるだけ利用するほかはない」と,不眠をいたずらに嘆くのではなく何らかの救いの手段を試みることが必要だとしているのだが,彼は不眠にもさまざまな原因があるとして,次のように述べる.「不眠はたいてい病気や,心配事や,不安な物思いから起る.だが,ときには,休息のとりすぎ,安逸な暮し方,いろいろな不節制,あるいは不適当な時間の昼寝などから起ることもある」.また,ヒルティは睡眠については未だにわかっていないことが多いとしながらも,健康を保つためには適度の眠りが必要で,特に神経系の病気には欠くことのできない治療手段であることや,人工的な睡眠剤はできるだけ避けねばならないことなどが経験的にわかっていると述べる.

Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション

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 「くちづけ」(監督/堤幸彦)は,宅間孝行が,自身の劇団「東京セレソンデラックス」のために書き下ろした戯曲を映画化したものである.

 「長万部くん」などのヒット作のある漫画家愛情いっぽん(竹中直人)は,知的障害のある娘マコ(貫地谷しほり)を男手ひとつで育てるために,この30年間漫画家を休業していた.マコは施設に入ってもすぐ逃げ出してくるので,いっぽんはマコが生活するグループホームひまわり荘に住み込みで働くことになる.いっぽんがそばにいるならマコも逃げ出すことはない.マコはトラウマを抱えており,時折パニックに襲われることもあるが,ひまわり荘の仲間たちや職員によって癒され,和らいでいく.とりわけ,うーやん(宅間孝行)には奇跡の王子様の如く心を開く.うーやんもまたマコとの結婚を夢見る.

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1.超音波Elastographyによる客観的な筋硬度測定

 徳島病院リハビリテーション科

  宮脇 鈴子・他

 超音波Elastographyは生体組織の硬さを非侵襲的に評価する方法である.本研究では,徳島病院に入院または外来通院している整形外科疾患患者36名を対象に,健側大腿直筋・内側広筋の安静時の筋硬度を測定し,年齢・性別・筋の部位による筋硬度の違いについて比較検討した.筋硬度は年齢・個々の筋によって有意差が認められ,性差は認めなかった.超音波Elastographyは単一筋のみの測定が可能であり,筋硬度の客観的指標となり得る.

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 理学療法における評価の重要性は改めてここで説くまでもありませんが,学内教育はもとより,臨床教育の場面でも,評価の占める割合は大きく,多くの時間が割かれています.

 臨床場面で行われる評価は,実際の患者様に対し,さまざまな制約の中で効率良く進める必要があり,初めて臨床実習に臨む学生の多くが臨床における評価の難しさを実感します.

ニュース/お知らせ

第25回ADL評価法FIM講習会

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文献抄録

投稿規定

投稿および著作財産権譲渡承諾書

次号予告

編集後記
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 「じぇじぇ!!」というのが流行っています.件のドラマに嵌っているのは80年代に青春を送った30代後半から50代前半ぐらい.普段あまりTVを観ない働き盛りの世代が深く嵌っている模様.私もまさにドンピシャ世代.十分に嵌っているわけですが,先日遊びに行ったお宅では,奥さまはまさかの「北の海女」のTシャツ姿でお出迎え.夫婦そろっての嵌りっぷりに,さすがにちょっと引いてしまいました.いったい何が私たち世代をこんなに虜にするのかと考えていたところ「ミドルエイジクライシス」の言葉を目にしました.以前にも書きましたが,老いていく自分を認められず,若かった自分に執着する…….なるほど一番輝いていたころに思いを馳せ,ドラマに出てくるあのころは楽しかった……という感じでしょうか.そういえば「アンチエイジング」という言葉にもつい敏感に反応してしまいます.「若さ」と「老い」がせめぎ合う微妙なお年頃.無駄な悪あがきはせず,「老い」をうまく受け入れ,自然に,上手に歳をとっていきたいものです……といいつつ,戻ってきた健診の結果に「じぇじぇじぇ!!!」……前言撤回,アンチエイジングに励みます.

基本情報

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総合リハビリテーション
41巻9号 (2013年9月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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