総合リハビリテーション 23巻8号 (1995年8月)

特集 患者家族の障害受容の問題

今月のハイライト
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 患者の障害を家族がどのように受容するかは,患者のリハビリテーションに大きな影響を及ぽす家族の障害受容が困難なために起こる,患者に対する過剰な介入,完全回復への強い期待は時にリハビリテーション過程の進展を遅らすこともある.家族の障害受容は症例毎に個別的であり,それぞれ特殊な側面を持つ.そのため,共通の法則として論じることが難しい問題でもある.幸い,各執筆者は事例を紹介しながら,患者家族の障害受容について各疾患での主要な特徴を明確に指摘している.読者が患者家族の障害受容を理解するための心強い手助げとなるであろう.

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はじめに―障害者家族心理研究のながれ

 リハビリテーション医療において,心理・社会的側面や家族の問題が注目されるようになったのは,1960年代からである1)

 初期の先天性障害児の両親の心理を扱った研究はいずれも両親の罪悪感と過保護を取り上げている2).出生後の心理的変化については,成人中途障害のモデルである「段階理論」を援用する論文が多かった.この傾向は中途障害者の家族でも同様であった3).したがって,両者とも,現在段階理論一般で問題とされている蓋然性の有無の問題4)は同様に内包している.

 しかし,これらの研究を通して,1)家族がリハビリテーション過程に重要な役割を担っていること,そして,2)障害が受傷前の家族内での役割を阻害すること,が明らかになった.

 本稿では,わが国でおもに医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)によって実践されているシステム理論を中心とする家族療法アプローチを紹介し,家族の障害適応への一視点を提供する.

発達障害児家族の障害受容 北原 佶
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はじめに

 わが子が障害児であることが告知されたとき「病名や障害を言われたが,何のことか実感が湧かなかった」,「とにかく正常児ではないのだと思った」,「一生歩けないと思い,目の前が真っ暗になった」等々と,それぞれの親の受けとめ方は多彩である1-3)

 障害児への親の心理的反応は,生直後から障害が明白な場合と生後しばらく育てた後に障害が明らかになる場合,第一子が障害児の場合と健常児を育てた経験の後の第二子以降が障害児の場合,また両親が過去に障害児・者に接したことがあるか否か,その時どのような気持ちをもったか,等々で異なったものとなる.さらには社会全体が障害児・者をどう捉え,日頃どう接しているかによっても親の障害児の受けとめ方は修飾される.障害児であるわが子の受け入れ方,適切な育児のあり方は個々の親の抱く育児観によっても大きく異なろう.

 本稿では,肢体不自由児に限らず,発達障害児の親が,わが子の障害をどのように受け止めていくかの経過とその条件について,文献を参考にしながら,述べることにする.なお日常診療のなかで得られた親の話や態度から筆者が捉えた「障害を持ったわが子への親の心理的受け入れ・適応」が中心になることをお許し頂きたい.

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はじめに

 外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI)は患者に障害をもたらすばかりでなく,家族にも同様の,あるいはより以上の大きな障害を与える.患者を世話する家族にとって,脳卒中や脊髄損傷のような身体障害は時間の経過とともに精神・心理的な負担感は軽減していく.しかしTBIにおける人格や行動の異常,さらに情緒障害は家族に耐え難いストレスであり,これは時間の経過とともに軽減されることはむしろ少ない1).ある意味でTBIの真の問題点は患者と家族の間の軋轢であると言える.

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 患者家族の障害受容の2つの側面

 身体障害を受けた人々が「自らの障害のありのままを認めるだけのことではなく,その内面において,あきらめ観や屈服あるいは合理化や虚栄とは異なった心的過程によって,むしろありのままの自らの姿を悦び,なおかつ前進することを捨てない心的状態」に達することを障害受容と呼ぶ.

 Wrightはその過程に起こる心的変化の本質について,心のなかに起こる価値観の転換註1)であると指摘している1).一般に,身体障害に対する心理的適応過程,障害受容の過程はいくつかの相註2)に分けて考えられている2).これらの相は長さや境界は曖昧だが,その順序は変わらない.人によっては,ある相からなかなか抜け出すことができないとか,逆にある相をほとんど経験しないで通りすぎることも起こる.必ずしもリハビリテーション期間中にすべて出揃い,完結するわけでない3)

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はじめに

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は原因不明の慢性進行性運動ニューロン疾患である.現在までにさまざまな治療法が試みられているが,著効を示したものはない.もちろん,全世界の神経内科医が果敢に立ち向かっているのだが.現状では,対症療法を中心としたリハビリテーションとケアが重要な位置を占めている.特に,リハビリテーションでは医師,看護婦をはじめ,運動療法士,作業療法士,言語訓練士,医療ソーシャルワーカーなどによるチームワークを中心とし,アプローチを行う必要がある.また,ALS患者および家族に対しALSについて十分説明を行う必要がある.告知し,その予後,治療法について説明を行うわけだが,ALSを理解し,受け入れるまでには,患者,家族にとって,そして,医療スタッフにとっても並々ならぬ努力,忍耐が要求される.ここでは,われわれが経験した症例も含めながら,ALSの障害受容について述べる.

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 近年,スポーツ医学が盛んになるにつれて,リハビリテーション領域の果たす役割が重要視されてきた.

 スポーツ医学は基礎,臨床の広い範囲を含む応用医科学であり,人々の健康維持,回復,予防に果たしている役割には大きいものがある.運動生理学,バイオメカニクス,栄養学,心理学,薬学,循環器を主とした内科,スポーツ外傷,障害学,運動療法とリハビリテーションなどが具体的な専門分野となる.

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はじめに

 日常生活活動(ADL)を測定する機能的自立度評価法FIM(Functional Independence Measure)は,1983年,アメリカリハビリテーション医学会の共同タスクフォースにより考案された1).FIMは18項目を7段階評価し,「している」ADL,すなわち介護負担度を測定することを特徴としている.FIMの妥当性は,Barthel Indexなど既存のADL評価法との比較2),検者間信頼性の検討3)により確かめられている.しかしFIMの認知項目を中心に検討した論文はほとんど見当たらない.認知項目の妥当性を確かめるためには,ADLを適応行動という観点から捉えなおすことが有用である.すなわちADLの認知項目は障害を持ちながら日常生活に適応するための能力評価と考えられる.

 適応行動尺度ABS(Adaptive Behavior Scale)は,1967年米国でNihiraらにより発表され,1974年に改訂された米国精神薄弱学会(Association of American Mental Deficiency;AAMD)公認の評価法である4).日本では,AAMDの適応行動の概念「まわりの環境からの自然的,社会的要請にぴったりと合致している行動」に基づき,日本の文化的背景と習慣を考慮し,富安らにより標準化されている5).ABSは元来,精神薄弱者の行動評価尺度測定法として確立されたが,頭部外傷6),精神障害など7),成人疾患にも応用されてきている.

 今回われわれはFIM認知項目(表1)の妥当性を検討する目的で,脳卒中患者においてFIM認知項目とABSの比較を行い,いくつかの知見を得たので報告する.

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はじめに

 脳損傷患者では,知的機能を簡便に評価するためにMini-mental stateや長谷川式簡易知能診査スケールが用いられる.一方,失語症患者では言語障害のためにこれらの検査を施行することが困難であるため,ウェクスラー成人知能検査改訂版(以下,WAIS-R)の動作性IQやコース立方体テストなどの非言語的検査が用いられる.われわれは,立方体模写課題を用いて構成障害を検出しているが,これらが動作性IQと関連する可能性が考えられる.もし,この立方体模写の単一課題で動作性IQのスクリーニングができれば日常診察上,有意義と考えるので,本研究では失語症患者における立方体模写パターンと動作性IQとの関係について検討した.

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はじめに

 1992年4月の診療報酬改訂において,発症後6か月以降は,理学療法(以下,PT)と作業療法(以下,OT)の診療報酬の併用が認められなくなった.日本理学療法士協会診療報酬対策委員会のアンケート調査1)では,発症後6か月を超えた患者のうち,改善が期待できるのは10%未満であるとしたのが34.1%,10%以上20%未満であるとしたのが14.3%であった.両者をたすと約半数の48.4%にのぼる.また,6か月を超えた入院患者のPT・OT併用算定禁止への対応として,特に対処していない施設は22.1%で,その他ではPT・OTどちらかの実施回数を減らすか診療報酬の請求の調整をしている施設が多数あった.

 東京都老人医療センターではここ2~3年,リハビリテーション病棟入院患者の発症からPT開始までの期間が3か月未満の割合は40~50%,3~6か月は30~40%,6か月以降は10~20%となっている.平均PT施行日数は,発症からPT開始までの期間に関係なく約3か月である2).したがって,発症からPT開始までの期間が3か月以上の約50~60%は,訓練前および訓練期間中に発症から6か月を超えてしまい,PT・OTの同一日の併用が打ち切られる可能性がある.脳血管障害患者の発症6か月以降のPT・OTの同一日の併用算定の禁止は,急性期を脱した患者の多いリハビリテーション専門病院もしくは老人病院にとって重要な問題である.

 脳血管障害患者の機能回復に関する多くの報告3-6)では,発症6か月以内の時期に,ほぼ回復が固定するとされている.しかし,実際に6か月を超えた症例に対する訓練効果を,起居移動動作を含めて分析した報告は山本7)や傳ら8)の報告があげられるが,比較的少ないように思われる.

 当センターでは,発症後の期間にとらわれずに,日常生活動作の向上にむけ,リハビリテーション医のもと,コメディカルの組織的な訓練体制をとっている.そこで今回,われわれは発症6か月以上の高齢脳血管障害患者に対する訓練効果に関して,主として起居移動動作の自立度変化を中心に発症6か月未満のものと比較検討した.

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はじめに

 脳性麻痺児は身体発育,運動量ともに一般の児童と異なるために,健常児をもとにした標準エネルギー所要量の算出法をそのままでは使用できない.脳性麻痺児の栄養所要量については,消費エネルギーにかなりの個人差があるため,どうしても個別的に指導せざるを得ない1).そこで筆者らは1984年に肢体不自由児の必要エネルギーの算出法を身体発育,運動量を考慮した方法を発表した2).今回,それらの肢体不自由児の必要エネルギーの算出法が適切であったかどうかを検証するために経時的に身体発育状況を調べたので報告する.

講座 医療・保健で必要なデータベース

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 データベースを定義する

 共同利用することを指向する情報の集まりをデータベースという.これを「医療・保健で必要なデータベース」と限定すれば,「情報」とは患者が発信する信号のことになる.患者をさらに「リハビリテーション専門施設で入院治療する脳卒中患者」と限定すれば,本稿が紹介するRESとなる.

 データベースは共同利用される.大きな病院は医用データベースを使用しているが,これも共同利用である.これをリハビリテーション医療に限定すれば,特殊な事情が生じる.リハビリテーションはチーム医療である.医師だけでなく看護婦から各種療法士にいたる専門職の共同事業である.RESはこれらリハビリテーション専門職の共同利用を指向している.チーム・アプローチとは名ばかり,勝手にやる専門職の寄せ集めという現場も多い.この欠点を克服するにはリハビリテーション医療の理念と共に,対象患者についての共通認識が不可欠だろう.少なくとも,各専門職が共通言語を使わないといけない.共通言語の集まりがデータベースである.

実践講座 ソーシャルワークの技法

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はじめに

 社会福祉は,個人の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を支える種々の社会的サービスの制度・体系であり,ソーシャルワークはその実践の方法である1).ソーシャルワークにはソーシャル・グループワークやコミュニティ・オーガニゼイションといったいくつかの方法があるが,そのうち個人に対する援助をソーシャル・ケースワークと呼んでいる.

 医療におけるケースワークの目的は,個々の患者や家族が直面する社会・経済的問題や心理的問題の解決を,社会福祉の専門的立場から側面的に援助することである.このような仕事は医療ソーシャルワークと呼ばれ,その専門家を医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)という2,3)

鼎談 トータル・リハビリテーションを考える

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アガペ身体障害者作業センターの活動/アジア保健研修所の活動/研修の対象者をどう選ぶか/研修の内容/研修後のフォローアップ/この経験をどう普及するか/研修事業の経済基盤/JANNETについて

 上田(司会) 「トータル・リハビリテーションを考える」のシリーズの一環としまして,今回は「リハビリテーションにおける国際協力」のテーマでお話しを伺いたいと思います.

 日本でリハビリテーションが本格的に始まって30年ぐらい経ちますが,30年前にはアメリカを初めとするリハビリテーション先進国から多くの援助を受け,多くの人たちが欧米に勉強にでかけ,一方,諸外国からもいろいろな形で来てアドバイスをしてくれました.そしてこの30年間の経済の高度成長に伴い,日本のリハビリテーションも高度成長して,気がついてみると,今度は途上国のほうから学びたい,援助して欲しいと言われる側になっているわけです.

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 障害者リハビリテーション分野における国際協力の動きとして1993年12月に設立されたJANNET(障害分野NGO連絡会)を紹介する.これは,障害分野を活動の一部に加えてアジアを中心とする途上国を対象に,国際協力を実施している日本のNGO(民間団体)のゆるやかな連携組織である.

 1992年12月に「国連・障害者の十年」最終年記念として開催された,国民会議の分科会の一つ「国際協力」で17団体が活動報告を行った.その結果,情報不足・関係団体間の協力や連携の欠如・人的資源と資金不足という共通の課題をそれぞれの団体が抱えていることが明らかになった.

一頁講座 リハビリテーション関連法律用語

2.補装具 伊藤 利之
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 「補装具」とは,身体障害者福祉法ならびに児童福祉法に規定された法律上の用語である.すなわち,装具,義肢,車いすなどのように,その使用目的や技術特性によって学術的に分類・命名されたものではなく,社会的ニーズを背景に,法的に給付補償することが決められた用具を総称して命名されたものである.

 「補装具」の種目範囲は,身体障害者福祉法(昭和24年に制定)においては年々その範囲を拡大して現在に至っているが,同法第20条第1項の規定による種目は,義肢,装具,座位保持装置,盲人安全つえ,義眼,眼鏡,点字器,補聴器,人工喉頭,車いす,歩行器,頭部保護帽,収尿器,ストマ用装置,および歩行補助つえとなっている.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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 抱え込んだ問題が深刻で,心の負担が大きくなり過ぎたとき,人は,聞いてくれる誰かにこのことを告白して,精神の解放を得ようとする.作家の場合,その告白は,しばしば作品という舞台の上で行われる.アメリカの生んだ詩的リアリズムの劇作家,テネシー・ウィリアムズ(Tennessee Williams,1911-1983)も,それを試みた一人だった.

 『欲望という名の電車』の作者の人生には,特にその初期の段階において同情するところが多い.父親の失職にともない,南部の平和な田舎から大都会セントルイスに移ってきた彼を待っていたのは,ジフテリア後遺症としての歩行障害と南部なまりの英語に対する徹底的な揶揄だった.絶え間ない両親の不和と経済的な困窮とがこれに追い打ちをかけ,幼い彼の内気な性格と孤独感は次第に深まっていったという.そんな彼にとって,唯一の心のよりどころは,つらさを共に分かちあえる姉ローズの存在であった,しかし,彼女は,徐々に精神の均衡を失っていき,弟が家庭を捨てて作家活動に入った頃,あの前頭葉切除術によって現実との関わりを永遠に失っている.この手術が,彼の知らぬ間に両親の判断でなされたことから,ウィリアムズは,自分の人生にとらわれて,結果的に姉を助けられなかったことに対する罪の意識に苦しめられることになる.

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 1.重複障害例における人工内耳のリハビリテーション経過

  恵寿総合病院 諏訪美幸・埴生知則・川北慎一郎・山崎芳文

  金沢大学附属病院耳鼻咽喉科 能登谷晶子・鈴木重忠・岡部陽三

 視力障害を合併した高度感音難聴者1例における人工内耳移植術後のリハビリテーションの経過を報告した.本例は,視力障害を合併しており読話が有効でないにもかかわらず,現在ではほとんど常用利用者となった.また,音入れ後,約3か月で段階Bへ,6か月で段階Cに達することができた.失聴期間が比較的短かく,50歳代と若く,電極が全て挿入可能であったことなどが,人工内耳のみでの聞き取り能力の改善に影響を与えたと示唆された.

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 この度「分子生物学・免疫学キーワード辞典」が永田和宏,長野敬,宮坂信之,宮坂昌之氏の編集により,医学書院から出版された.

 分子生物学・遺伝子工学,細胞生物学・免疫学で用いられる重要な言葉がキーワードとして選び抜かれ,1,600語が専門家200余名の執筆によって,わかりやすく解説されている.

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文献抄録

編集後記
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・患者自身の障害受容の論文,特集はありますが,家族の障害受容について正面から取り上げたものは少ないと思います.障害者家族だけでなく,これからますます多くなってくる在宅高齢者に対する介護者家族の問題などを含め,このテーマをめぐる議論は一層多くなると思われます.今回の特集は,そのための土台になるようなものになっているのではないでしょうか.

基本情報

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総合リハビリテーション
23巻8号 (1995年8月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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