総合リハビリテーション 22巻9号 (1994年9月)

特集 慢性腰痛

今月のハイライト
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■生体力学,栄養代謝からみた椎間板の機能とその障害の基礎

 椎間板は振動荷重に対し位相差のある振動変位を生じ,振動数は比例してその散逸エネルギーが増大する.また,あらかじめ荷重をかけておくと,その衝撃緩衝機能は低下する.このように力学的ストレスは椎間板の物性に影響する.一方,椎間板は無血管組織で,アミノ酸,糖,酸素などは拡散により浸透し,酵素や高分子の老廃物は椎間板容積変化に関係する液流により出納が行われる.このように力学的ストレスはその栄養代謝の面にも影響する.(大島博氏ら,727頁)

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はじめに

 現代社会においては腰痛に悩む人は多く,腰痛の予防を目的としたリハビリテーションに対する期待と需要はきわめて高い.疫学調査によれば全人口の約8割の人は生涯のうち何等かの腰痛を経験し1),重労働者の45%,タクシー運転者の60%が腰痛のため加療を受けたことがあるとの報告2,3)もある.

 腰痛に対するリハビリテーションを指導する場合,椎間板の生理学的特性と変性の機序を理解したうえで患者を指導し,生活や労働のあり方を助言できることはきわめて重要であると思われる.

 本稿ではまず椎間板の生理学的,生体力学的特性をまず述べ,次に力学的ストレスのもとで椎間板の栄養・代謝がいかに変動し椎間板変性に導くか,その予防対策はいかにあるかについて当教室の10年来の椎間板の基礎的研究成果4-11)をもとにまとめた.

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はじめに

 近年平均寿命の伸びに伴い高齢者人口の増加は著しく,活動の範囲も広がっており,腰背部痛を訴える高齢者は多い.慢性腰背部痛は肉体的活動性を低下させるのみならず,抑うつ的傾向や不安などから精神的活動をも低下させてしまうため,その問題は大きい.

 われわれはこれまで高齢者における慢性腰背部痛に関して姿勢との関係で捉えてきた8,9).今回の報告ではこれまで行ってきた検診の結果ならびに慢性腰背部痛の原因について述べたい.

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はじめに

 体幹筋力と腰痛を考えるにあたって,まず体幹筋の解剖と生理について簡単に復習しておきたい.体幹の運動には多くの筋が関与しており,それぞれの筋はいくつかの作用を持っている27).また同時にどのような運動も1つの筋に特有のものではなく,いくつかの筋が協同して体幹に必要とされる働きを可能にしている.たとえば体幹の伸展運動には主に多裂筋と脊柱起立筋が作用するが,腰椎部の主に腱として存在する最長筋と腸肋筋も重要な働きをし,また股関節を伸展させる大殿筋やハムストリングスも体幹の後方靱帯系を介して伸展筋として作用している.さらに屈曲筋である腹筋も胸腰筋膜を側方に引っ張り28),また腹腔内圧を上昇させる39)ことで伸展運動に作用する.

 人間の筋はType1とType2の筋線維から成り立っており(表),その比率は筋肉により異なる.体幹筋はType1の筋線維が多く,静脈系が発達しているのが特徴であり19,32),持久力も他の筋に比し高いことから,疲労しずらく姿勢を維持する筋として適合していることがわかる19)

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はじめに

 腰椎背筋群が1つのコンパートメント内に存在するという解剖学的事実はPeckらによって初めて報告された.これ以降,腰痛の原因として腰椎背筋群のコンパートメント症候群が新しい疾患概念であるという可能性が示唆されてきた1,15,17).慢性腰痛の一つに,腰痛性間欠跛行がある.われわれはこの症状が腰椎背筋群のコンパートメント内圧上昇に由来している可能性が高いと考えている6,11,12).また,腰椎背筋群のコンパートメント症候群という病態は,報告されている18)ような稀なものではなく,高齢者ではよく遭遇する病態である6,12).特に,腰部変性後彎を有する場合には,標準姿勢や胸椎後彎を有する群と比較して腰痛の頻度および程度が高く9),さらに腰部変性後彎例では,腰椎背筋群の筋内圧が上昇している症例が多いことから,本症の病態には長期間にわたる慢性筋血流障害が関わっている可能性が高い5)

 本論文では慢性腰痛の一因子としての慢性コンパートメント症候群の概念と病態を中心に述べる.

慢性腰痛症の治療 鐙 邦芳 , 大矢 卓
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はじめに

 腰痛疾患の治療は,原則として保存療法が主体となるが,臨床の場での具体的方法はさまざまである.なかでも,体幹筋の弱化や筋持久力の減少は腰痛症発現の重要な要因の一つと考えられている現在,体幹筋力増強のための運動療法は腰痛症の治療において重要な役割を担う.また,腰痛の大多数は日常生活あるいは就労中の何らかの動作を含む生活動作によって発生したり悪化するものであり,生活動作との関連は密接である3,5,12).したがって,適切な生活動作の指導は,腰痛症の保存治療の実際においてきわめて大きな意義を持つばかりでなく,腰痛発生予防の意味からも重要である.

 本稿においては,具体的な生活・作業動作の指導と,運動療法の適応・実際の治療について述べるとともに,腰痛症患者に対し,当科で実施している腰痛学級についても紹介し,慢性腰痛の手術適応にも言及する.

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 言語障害のリハビリテーションの分野にこのところ明るい展望が見え始めている.第1は,大学におけるST養成を目的とした学科の開設である.1991年4月の川崎医療福祉大学を皮切りに,本年4月には北里大学,そして来年は4年制の私立大学1校と3年制の公立短大1校が新設予定となっており,大学レベルでのST養成がいよいよ本格化する.このことは知識・技術レベルでのST教育の「標準化」を可能にするばかりではなく,大学という恒常的な研究機関の設置によって,これまでST個人の努力に依存していた研究面での環境が改善され,格段の発展が期待できる点でもその意義は大きい.

 第2は,STの専門性に関わる学術面での前進というべき言語障害臨床学術研究会の設立である.医学系の学会では,発表時間が短く,実のある討論が行えないという制約があった.一方,ST固有の学会活動は,日本聴能言語士協会と日本言語療法士協会に事実上分かれて行われているため,総合的な交流は進まなかった.また,多忙な臨床のかたわらこつこつとデータを積み重ねているSTは少なくないが,研究指導体制がないこともあり,せっかくの成果が論文の形で公表されず退蔵され,共通の資産としての知識の蓄積につながっていかないという問題があった.

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はじめに

 近年,障害児も可能な限り健常児とともに社会生活を送ることが望ましいとされ,統合教育の重要性が指摘されている.実際にわれわれの施設に通う肢体不自由児のなかでも,以前より普通学級で教育を受ける機会が増えていると思われる.しかしながら,学校側の受け入れ体制は必ずしも十分とはいえず,就学後に運動機能面以外のさまざまな問題をきたした児童についても経験している.今回われわれは,小学校就学前の痙直型両麻痺(以下,両麻痺)児を対象として,麻痺の原因と知的発達の予後について,さらに言語性,動作性能力の発達の特徴について詳細に検討した.

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はじめに

 身体部分の欠損や変形,機能障害,慢性の身体疾患などを有した患者は,リハビリテーション医療の対象となる.その対象となる疾患はさまざまであるが,近年になり脳血管障害や頭部外傷など脳損傷に伴う精神症状を「器質性精神障害」として捉えた研究が多く報告されてきた3,6).しかしこれらの患者のなかには,症候学的に「内因性うつ病」と同じ臨床像を呈する例があることはよく知られ,脳損傷により内因性うつ病が誘発されるという報告も見られるようになった5,8).たとえばRobinson RG12,13)らによると,脳損傷により身体機能障害を生じた患者の約50%に抑うつ症状を認め,疾患別では,臨床的に脳血管障害で60%以上,頭部外傷で約20%において抑うつ状態を認めたとしている4,14)

 一方,リハビリテーション医療の対象となる患者は身体像の喪失,身体機能の喪失,社会的立場の喪失といった,さまざまな意味での「対象喪失」を体験し,リハビリテーション患者のほとんどは,この対象喪失体験によるさまざまな情緒的反応を引き起こしているということは一般によく知られていることである11).これまで筆者らがコンサルテーション・リエゾン精神医学7)の実践を通して関わったリハビリテーション医療の場でも,さまざまな情諸問題を扱ってきた16).今回,筆者らはリハビリテーション医療の途上で患者に生じる情緒障害に着目し,実際に患者と面接を行い,身体機能喪失が患者の情緒状態に及ぼす影響について調査し,身体障害と精神障害との関係,および診断的問題点について検討した.

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はじめに

 福祉機器はリハビリテーション機器,介護機器とも呼称され,機能回復訓練や日常生活や介護などの場面で広く用いられている.これらの機器は,ユーザーのニーズに対応し,かつ専門家による適合判定を受け,ユーザー自身が選択できる多種多様な機器が期待される.そのため福祉機器の製造・販売企業は単に製造・販売だけではなく,ユーザーに対してニーズに対応する良質の福祉機器やそれらの情報を提供・供給し,かつ必要に応じた改良・改造などもできる企業が望まれる.しかし,これらの製造・販売企業の実態についてはほとんど知られていない.

 今回,福祉機器を取り扱っている製造・販売企業の現状とその問題点を調査で明らかにし,良質な福祉機器を普及するための条件を検討した.

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はじめに

 多胎児は,単胎児に比較し周産期死亡率が数倍高く,中枢神経系におけるさまざまな後遺症を残す例も多い.そのなかで双生児は早産,低体重児が多いことや第2出生児に仮死を伴いやすいことはよく知られている.また,脳性麻痺(以下,CP)において双生児は5~10%を占め,双胎出生はCP発生の危険因子としてきわめて重要であるにもかかわらず,中枢神経障害の成因についての報告は比較的少なく,いまだ不明の点が多い.

 今回われわれは,双胎出生のCP児において,周産期の状況,臨床症状などを調査し,CPの成因について検討を行ったので報告する.

講座 リハビリテーション医療の経済と経営

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はじめに

 今回は,主として,理学療法士と作業療法士の給与分析を行う.講座第2回のリハビリテーション部門の原価計算調査で明らかにしたように,理学療法士,作業療法士の給与は,リハビリテーション部門の原価の大半を占めている.にもかかわらず,両職種の給与の実態(水準と特徴)を実証的に検討した文献は,筆者の知る限り,皆無だからである.ただし,ここではデータの紹介・分析のみを行い,両職種の「あるべき」給与額や給与算定方式については触れない.

 その前に,「プラスワン」として,1992年4月診療報酬改定の影響の推定を行いたい.これは,講座第1回のリハビリテーション医療のマクロ経済分析の「補遺」である.

実践講座 リハビリテーション看護テクニック

3.急性心筋梗塞患者 藤原 泰子
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はじめに

 最近の医療技術の発展,薬剤の開発,集中治療室の充実などにより,心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患の急性期の救命率が画期的に改善した.

 しかしながら,この疾患はその発症が急激であり,もし一命を取り留めたとしても,その後に残る心機能低下により日常生活の制限を強いられたり,再発作,心不全などの発生におびえ,精神的に不安定になりやすく,スムーズに社会復帰できない人が多い.

 そこで,これらの患者に対するリハビリテーションの必要性,期待が高まり,その役割が看護婦にも求められ始めている.

 わが国における心臓病,特に虚血性心疾患のリハビリテーションについては,昭和58年(1983年)に厚生省から4週間の「急性心筋梗塞のリハビリテーション・プログラム」が発表された頃から関心が高まり,その後各施設で3週間,2週間,1週間などのリハビリテーション・プログラムが作られるようになってきた.

 心筋梗塞のリハビリテーションについては,急性期(入院から退院まで),回復期(退院から社会復帰まで),維持期(生涯にわたる快適な生活を維持していく)の3期に分けて考えられている1)

 今回は,東京都済生会中央病院における急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)の急性期のリハビリテーション看護の実際について紹介する.

一頁講座 リハビリテーション関係法規

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 労働者災害補償保険法が,わが国の大部分の労働者をカバーする労働災害補償制度であることは言うまでもない.この法律は,「業務上の原因による労働者の負傷,疾病,障害又は死亡に対する保護に必要な保険給付を行い,また,これら労働者及びその遺族の援護,適正な労働条件の確保等を図る事を目的」(法第一条,抄)として制定されたものである.

 わが国の公的な労働災害補償制度は明治6年制定の日本坑法から始まったが,現在の労働基準法,労働者災害補償課保険法(以下,労災保険法)は昭和22年に制定され,その後十数回の改正を経て現在に至っている.

Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション

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 エイズを題材にした映画は少なくない.洋画では「ムーンリット・ナイト」,「ロングタイム・コンパニオン」等,邦画でも「私を抱いてそしてキスして」等がある.しかし,これらは,いずれも「マイナー映画」であり,観客はごく限られていた.それに対して,「フィラデルフィア」(ジョナサン・デミ監督)は,ハリウッドのメジャー系映画会社が正面からこの問題に取り組んだ初めての映画だ.エイズ差別と戦う弁護士アンドリュー・ベケット役を熱演したトム・ハンクスが,今年のアカデミー主演男優賞を受賞したことは記憶に新しい.

 ベケットは,フィラデルフィア屈指の名門法律事務所に勤める若手敏腕弁護士.その輝かしい実績を認められて「上級弁護士」に抜擢され,事務所の最重要訴訟をまかされる.しかし,その任命の折に,経営者の1人は,ベケットの額にある小さなカポジ肉腫に気付く.実はベケットは,芸術家の男と同居する同性愛者であり,数年前にエイズを発症し,その治療を続けているが,この事実を事務所には隠し通していたのだ.ベケットは病気の進行と戦いながらモーレツに働き,訴訟の準備書面を完成するが,それが突然,コンピュータ内の電子文書ともども,一時的に,「粉失」する.この直後,事務所は,ベケットを弁護士として「無能力」を理由にして,一方的に解雇する.

スコープ

最新米国リハ事情 水落 和也
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 昨年9月からニューヨーク大学で研修中である.日本のリハビリテーション医療は質的にはアメリカに追いついたと思われるが,量的な差はいかんともしがたい.以下にその具体的数字をあげ,リハビリテーション医療に関連したアメリカの医療の現状を紹介する.

 1,000人―マンハッタンのアッパーイーストにあるMt.Sinal病院に働くボランティアの数.アメリカの病院は圧倒的なマンパワーに支えられている.

学会印象記

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 第33回国際パラプレジア学会は5月30日から6月2日まで,神戸国際会議場で開催された.幸いに開催期間中は天候に恵まれ,遠来の客人達も国際港湾都市神戸の昼夜を堪能できたことと思う.

 幕開けのセッションは疫学調査が多くを占めた.開発途上国での調査報告が昨年と同様に眼をひき,常に国際社会全体へ注目している本学会の姿勢が感じられた.今回のメイントピックは,1)先進国・開発途上国におけるフォローアップ,2)神経因性膀胱,3)脊椎の運動学,4)性機能,5)褥瘡の予防と治療,の5点であった.筆者は脊髄損傷者の性機能に関心があり,学会前からどのような演題が出るか楽しみであった.この分野では日本が立ち遅れているのは多くの臨床家が感じている通りで,国内で開催されたにもかかわらず,8演題中国内からの発表は1題であった.予想通り泌尿器科的なアプローチに関する演題が多かったが,リハビリテーション科医としての関わりがもっと必要ではないかと感じられた.

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 1.慢性関節リウマチにおける上肢人工関節置換術―ADLが著明に改善した2症例

  東京都リハビリテーション病院整形外科

   竹内裕人・東 晃・林 泰史

   吉田耕志郎・郡司直哉・和宇慶晃一

 リハビリテーション医療の対象となる代表的な疾患である脳卒中片麻痺や脊髄損傷については下肢の機能回復が移動に関与するADLを改善し,上肢の機能回復が身辺処理動作を中心とするADLを改善することをしばしば経験する.ところが,慢性関節リウマチ患者においては,上肢の機能回復が身辺処理動作のみならず移動能力も著しく改善することを経験したので,その詳細について考察を加えて報告する.これら新しい経験は慢性関節リウマチ患者のADLについて,機能的自立度評価法「Functional Independence Measure;FIM」を用いて評価することによって得られたもので,従来のSteinbrockerのクラス分類では明らかにできなかった.

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文献抄録

編集後記
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・私は腰痛持ちである.父も腰痛持ちであった.「腰を裸足で踏んでくれ」というので小学生の私は父の腰の上で5分間ほど足踏みをした.愚娘(?)に同じことを頼むと「面倒だから嫌だ」という.父の権威は地に落ちた世紀末だと諦める.私の腰痛は約10年前の引っ越し荷物運びから始まった.長く車を運転した後など疲れたなと感じると腰痛が起こる.この夏休も猫の額ほどの庭の雑草むしりに取りかかって間もなく腰部に違和感を感じた.かまわず1時間ほど続けたら案の定腰痛だ.“痛む腰―やさしくささえてあたためる”『腰痛××』なる貼り薬をはって寝た.

基本情報

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総合リハビリテーション
22巻9号 (1994年9月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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