臨床眼科 70巻8号 (2016年8月)

特集 第69回日本臨床眼科学会講演集[6]

原著

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要約 目的:LENSTAR LS900®(以下,LS900)のDense Cataract Measurementモード(以下,DCMモード)による測定可能率と術後屈折誤差について検討した。

対象と方法:対象は白内障手術を施行した連続156名282眼,平均年齢74.1±7.9歳。術前にLS900で測定可能であったものを良好群,Peak(+)群,Peak(−)群に分類し,測定可能率を評価した。また術後に(0.7)以上得られた症例のそれぞれ3群における術後屈折誤差を比較検討した。

結果:良好群は243眼,Peak(+)群は27眼,Peak(−)群は7眼であり,測定可能率は98.2%。術後屈折誤差は,良好群−0.15±0.49D,Peak(+)群−0.07±0.57D,Peak(−)群+0.21±0.60Dであり,良好群で術後屈折誤差は小さく,Peak(−)群にて大きくなる傾向となった。

結論:DCMモードにより測定可能症例は増えるが,合成波形の形状を確認し,信頼に足るデータであるがどうか判断する必要がある。

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要約 目的:5歳以下で発症した重症筋無力症4例の報告。

症例:4例すべてが女児で,初診時の年齢はそれぞれ1歳2か月,1歳4か月,3歳2か月,5歳10か月であった。

所見と経過:4例すべてに日内変動を伴う眼瞼下垂があった。テンシロン試験が陽性で,重症筋無力症と診断した。全例がMGFA(Myasthenia Gravis Foundation of America)分類のClass Ⅰに相当する眼筋型であった。抗コリンエステラーゼ薬(メスチノン®)内服で治療を開始し,1例で寛解した。症状が改善しない他の3例ではステロイド薬とタクロリムスの全身投与で寛解した。片眼の眼瞼下垂が4か月間続いた1例では,弱視が生じた。

結論:小児の変動する眼瞼下垂または斜視では,重症筋無力症の可能性がある。片眼の眼瞼下垂が持続すると,廃用性弱視になる危険がある。

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要約 目的:血管新生緑内障に対する,硝子体手術を併用したバルベルト®緑内障インプラント手術の治療成績の報告。

対象と方法:過去16か月間に,血管新生緑内障に対してバルベルト®緑内障インプラント手術を行った9例10眼を対象とした。男性6眼,女性4眼で,平均年齢は59.2歳であった。原因疾患は,糖尿病網膜症が5眼,眼虚血症候群が4眼,網膜中心静脈閉塞症が1眼であった。全例に虹彩前癒着を認め,高眼圧があった。手術前に可能な限り汎網膜光凝固を行った。術前後の眼圧,点眼スコア,視力,合併症を検討した。

結果:平均眼圧は,術前の42.3±15.8mmHgから,術後1か月に16.4±6.1mmHgに下降し,以後術12か月後まで有意な下降が得られた。点眼スコアは,術前の4.2±1.1から,術後1か月に1.1±1.5に減少し,以後術12か月後まで有意な減少が得られた。術前視力と術後視力の間に有意差はなかった。術中または術後に重篤な合併症はなかった。

結論:硝子体手術を併用したバルベルト®緑内障インプラント手術は,血管新生緑内障に対して安全であり,良好な眼圧下降が得られた。

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要約 目的:広義の急性視神経炎での,MRI所見と,疼痛と視力転帰との関連の報告。

対象と方法:過去8年間に急性視神経炎で初診し,診療録に十分な記録のある29例を対象とした。男性5例,女性24例で,平均年齢は44歳である。16例が特発性,8例が多発性硬化症,5例が視神経脊髄炎またはその関連疾患であった。全例にガドリニウム造影による冠状断のMRIを行い,病巣の局在と長さを評価した。視力はlogMARとして評価した。

所見と経過:病巣の部位は,眼窩内が23例,眼窩外が6例であった。疼痛は20例にあり,そのすべてが眼窩内に病巣があった。眼窩外に病巣がある6例には疼痛がなかった(p<0.001)。疼痛がある症例は,病巣の範囲が有意に長かった。病巣の長さは治療前後の視力と有意に相関した。病巣長が20mmを超えると,治療後の視力が不良であった。

結論:広義の急性視神経炎に対し,造影MRIにより病巣の局在と長さを検索した。病巣が眼窩内にある症例では疼痛が有意に多く,病巣長が大きいと治療前後の視力が不良であった。

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要約 目的:急性隅角閉塞症の既往眼に対する超音波水晶体乳化吸引術(PEA)+眼内レンズ(IOL)挿入後,前囊収縮によるIOL偏位の1例を報告する。

症例:急性隅角閉塞症後PEA+IOLを受けた64歳の女性が,術1か月後前囊収縮に伴いねじれたように変形したIOL偏位がみられ,術4か月後IOL摘出+IOL強膜内固定を受けた。摘出した前囊下の組織には免疫組織学的に筋線維芽細胞が検出された。最終矯正視力は角膜浮腫のため左(0.5)であった。

結論:狭隅角眼などZinn小帯脆弱が疑われる症例での白内障手術では水晶体囊の収縮が生じやすく,IOLの材質の選択や水晶体囊拡張リングの使用について考慮すべきである。

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要約 目的:最近5年間に経験したサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の全身状態の報告。

対象と方法:2015年までの5年間にCMV網膜炎と診断された6例7眼を診療録の記述に基づいて検討した。

結果:男性4例5眼,女性2例2眼で,年齢は33〜69歳,平均57歳である。基礎疾患として,白血病などに対する骨髄移植後の移植片対宿主病3例,類天庖瘡1例,関節リウマチ1例,糖尿病1例があった。5例がステロイド薬と免疫抑制剤の投与中であり,3例が中心静脈栄養中,1例がカリニ肺炎を発症していた。糖尿病の1例では,血糖のコントロールは良好で,血液の免疫機能は正常であった。CMV網膜炎が再発した2例3眼では,基礎疾患が悪化していた。

結論:CMV網膜炎は免疫抑制状態で好発したが,免疫機能が正常でも発症することがある。

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要約 目的:Peripapillary choroidal cavitation(PCC)部分で網膜神経線維層の伸展と菲薄化を光干渉断層計(OCT)で認め,視野障害への影響が推定された2症例の報告。

症例:強度近視を伴う緑内障眼の視神経乳頭にradial scan OCTを施行し,脈絡膜内に空隙形成を認め,PCCと診断した。PCC部分では網膜神経線維がハンモック状に牽引・伸長されており,この部分に一致した網膜神経線維層厚の菲薄化が認められ,視野障害への影響が推定された。

結論:PCCでみられる緑内障様視野障害には,脈絡膜の空隙形成に伴う網膜神経線維の機械的伸展が関与している可能性がある。

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要約 目的:黄斑円孔に対して内境界膜翻転法を行った成績の報告。

対象と方法:過去33か月間に内境界膜翻転を併用する硝子体手術を行った黄斑円孔18例18眼を対象とした。男性9例,女性9例で,平均年齢は66歳であった。円孔径は500μm以上,または推定発症後1年以上とした。視力はlogMARとして評価した。

結果:平均視力は,術前0.99±0.45から術後0.55±0.40に有意に改善した(p<0.01)。初回手術で18眼中16眼(89%)で円孔が閉鎖した。初回非閉鎖の2眼では,内境界膜剝離を行うことで円孔が閉鎖した。

結論:大きな円孔径または陳旧化した黄斑円孔に対し,内境界膜翻転を併用する硝子体手術を行い,初回成績で89%,再手術で100%の円孔閉鎖が得られた。

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要約 目的:線維細胞層除去術による超音波乳化吸引術の最新方法について報告する。

対象と方法:豚眼水晶体の前面の表層皮質を吸引する変化を三宅-Apple viewで観察した。その後,線維細胞層除去術をヒト白内障眼で行った。

結果:豚眼水晶体の前面の表層皮質を吸引すると下方水晶体内容は水晶体囊から分離し,空隙ができた。これを線維細胞層除去術の下方分離とした。ヒト白内障眼で下方分離に続き核の2分割による上方分離を行った。

結論:線維細胞除去術では下方分離と上方分離の2段階で核皮質分離が成り立っていた。線維細胞層除去術は単独で施行でき,ハイドロの補助的な手術手技としても併用できる。

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要約 目的:非外傷性角膜穿孔の治療成績の報告。

対象と方法:非外傷性角膜穿孔に対して過去8年間に治療した27例29眼を対象とした。男性19例,女性8例で,年齢は46〜98歳,平均70歳である。角膜穿孔の原因,治療内容,視力予後,合併症について,診療録の記録に基づいて検討した。治療方針は,視力改善が期待できる症例には全層角膜移植,期待できない症例には層状角膜移植,角膜の入手が困難な場合には羊膜移植を行った。

結果:角膜穿孔の原因は,感染性17眼,非感染性11眼,不明1眼であった。層状角膜移植を14眼,全層角膜移植を7眼,眼球摘出を2眼,保存治療を6眼に行った。羊膜移植は4眼に行ったが,全例で追加手術が必要であった。全層角膜移植により,7眼中6眼で視力が改善した。合併症として移植片感染,拒絶反応,眼圧上昇が生じ,全例で鎮静化した。

結論:非外傷性角膜穿孔に対し,層状または全層角膜移植は穿孔創閉鎖に有効であった。全層角膜移植では,7眼中6眼で視力が改善した。

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要約 目的:特発性アルドステロン症に対するエプレレノン投与で中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)が軽快した症例の報告。

症例:64歳の男性が右眼のCSCとして当院に紹介され受診した。15年前に左眼のCSCと診断され,再発を繰り返していた。14年前に高血圧と診断され,加療中であった。

所見と経過:矯正視力は右0.8,左0.3で,両眼にCSCの所見があった。腹部CTで左側の副腎腫瘤があった。血液の検査所見から原発性アルドステロン症が疑われ,精査の結果,アルドステロンが両側の副腎から分泌され,左側のコルチゾール産生腺腫(無症候性Cushing症候群)と診断された。高血圧に対し,選択的アルドステロン拮抗薬であるエプレレノンの経口投与を開始した。投薬開始から3週後,右眼のCSCは著明に改善し,左眼のCSCも軽快した。以後4か月間,CSCの再発はない。

結論:エプレレノンの経口投与で,特発性アルドステロン症に併発したCSCが軽快した。

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要約 目的:線維柱帯切除術の標準方式と,深層強膜弁の形状を改変した変法の,術後早期成績と合併症の報告。

対象と方法:過去58か月間に線維柱帯切除術またはその変法を行った原発開放隅角緑内障と落屑緑内障29例33眼を対象とした。術後3か月までの眼圧,視力,屈折,合併症を診療録の記述に基づいて検索した。

結果:術前の眼圧は,標準手術群28.3±15.1mmHg,変法27.6±8.2mmHgであった。術後の眼圧は,術後1週,1か月,3か月とも両群で有意に下降した(p<0.01)。術後の眼圧,視力,屈折については,両群間に有意差はなかった。術後早期の低眼圧と術後浅前房の頻度は,標準群よりも変法群で有意に少なかった。

結論:原発開放隅角緑内障と落屑緑内障に対して行った線維柱帯切除術の標準方式と,深層強膜弁の形状を改変した変法の3か月間の成績は,眼圧,視力,屈折については有意差がなく,合併症は後者が少なかった。

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要約 目的:網膜と網膜色素上皮過誤腫の3症例3眼をスペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)で観察した所見の報告。

症例と所見:3症例はそれぞれ7歳女児,12歳男児,53歳女性である。過誤腫は乳頭部を含む眼底の後極部にあり,網膜血管の異常とともに網膜色素上皮(RPE)の脱色素と色素沈着が混在する境界不鮮明な病巣であった。矯正視力は3例とも1.0以上であった。フルオレセイン蛍光眼底造影では,腫瘍内の毛細血管が拡張増生し,インドシアニングリーン蛍光造影では,腫瘍部は低蛍光を呈した。SD-OCTでは,網膜全層の肥厚と層構造の消失,網膜外層の萎縮,RPEラインの肥厚,脈絡膜の菲薄化と反射亢進があった。

結論:網膜と網膜色素上皮過誤腫の診断にはSD-OCTが有用であり,脈絡膜の萎縮が生じていた。

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要約 目的:激痛があり,過去のマイラゲル®を使用した網膜剝離手術との鑑別を要した転移性眼窩腫瘍の症例の報告。

症例:63歳の女性が右眼の眼痛で紹介受診した。15年前に網膜剝離に対するマイラゲル®強膜スポンジによる手術が両眼に行われた。2か月前に子宮頸癌が発見され,化学療法と放射線照射を受けている。

所見と経過:矯正視力は右0.8,左1.2で,両眼にほぼ−4Dの近視があった。バックルによる眼底の隆起が両眼にあり,結膜下のバックルが透見または触知された。右眼の眼球運動が制限され,外転時に疼痛が増強した。マイラゲル®による合併症が疑われたが,4日後に眼痛が増悪した。MRIで右眼の内直筋に腫瘤があったが,マイラゲル®の膨化が疼痛の原因と考えて除去した。その8日後に眼窩内腫瘍が増大し,これを摘出した。病理学的に子宮頸癌の内直筋転移と診断された。その後全身への転移が多発し,2か月後に不帰の転帰をとった。

結論:転移性眼窩腫瘍が疼痛を伴うことは少ないが,本症例では腫瘍の急速な増大が激痛の原因になったと推定される。

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要約 背景:一過性骨髄異常増殖症(TAM)は,Down症候群などの新生児期に白血病様芽球が末梢血に増加する疾患である。眼底病変を合併した報告はほとんどない。

目的:TAMに網膜出血が併発したDown症候群の1例の報告。

症例:在胎41週で生まれた男児で,生下時体重は3,420gであった。出生直後に呼吸が緊迫し,血中酸素濃度が低下して,出生当日に新生児集中管理室に入院した。TAMを併発したDown症候群と診断された。日齢21に眼科を受診した。

所見と経過:Down症候群に特有な顔貌があった。角膜は透明で,両眼に網膜動静脈の拡張と蛇行,左眼に網膜出血があった。日齢45に左眼の硝子体出血と線維性増殖膜が発症し,汎網膜光凝固が行われた。左眼の網膜出血は改善し,1年後の現在まで眼底病変の悪化はない。

結論:本症例では,TAMにより過粘稠度症候群と網膜内虚血が生じたと推定され,新生児期からの眼科受診が有用であった。

今月の表紙

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 症例は22歳,男性。母親がvon Hippel-Lindau病と診断され,本人も遺伝子検査により保因者であることが確定したため,11歳の時に眼科的精査目的に当科へ紹介された。初診時,視力は左右ともに(1.2),眼圧は右18mmHg,左19mmHgであった。両眼の眼底所見上には網膜血管腫など明らかな異常はなかった。これまでのところ視力と視野には異常はないが,14歳頃から左眼視神経乳頭上に血管腫が認められるようになり,徐々に拡大してきた(a:17歳時,b:22歳時)。

 撮影にはTOPCON社の眼底カメラTRC50-DXを用い,画角は35°を使用した。本症例の血管腫の直径は視神経乳頭径のおよそ半分を占め,硝子体側に隆起している。そのため,血管腫表層の血管に焦点を合わせることが必要であるが,血管腫側に焦点を合わせすぎると乳頭と網膜の血管がぼやけてしまい,乳頭を含む全体像がわかりにくくなるので,ある程度網膜側にも焦点を合わせて撮影することを意識した。撮影光もハレーションが起きないよう注意した。

連載 今月の話題

白内障手術の変遷 清水 公也
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 白内障手術は眼科において最も多く行われている治療であり,筆者が入局した約40年前と比べて目覚ましい進歩を遂げている。本稿では自身の経験を振り返り,将来の白内障治療がどうあるべきか考察した。

連載 熱血討論!緑内障道場—診断・治療の一手ご指南・第7回

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今月の症例

【患者】65歳,女性

【主訴】霧視

【現病歴】近医眼科で緑内障治療中,精査目的で紹介された。以後年一度当院コンサルトを継続していたが,5年目の受診時に右眼霧視が気になることが多いと訴えられた。1年前は両眼ともルミガン®点眼液,エイゾプト®点眼液の2剤を使用していたが,半年前に近医で右眼にアイファガン®点眼液を追加され,眼圧は両眼12〜14mmHgで推移していた。

連載 蛍光眼底造影クリニカルカンファレンス・第8回

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疾患の概要

 糖尿病黄斑浮腫(diabetic macular edema:DME)は糖尿病網膜症のどの病期においても発症しうる病態であり1),視力低下の主な原因である2)。DMEの分類としては前号と同様にAmerican Academy of Ophthalmologyにより提唱された眼底所見によるDiabetic Macular Edema Disease Severity Scale3)(表1)や,フルオレセイン蛍光造影(fluorescein angiography:FA)により局所浮腫とびまん性浮腫の2パターンに分類するもの4)がある。

 眼底所見による重症度分類では浮腫の黄斑に対する位置関係により区別される。浮腫の範囲が黄斑中央に近づくとともに重症度は増加する。一方でFAによる分類では主に病態により区別されており,局所浮腫では毛細血管瘤や透過性の亢進した血管からの漏出を主体とし,脂質を含む血漿成分が局所的に貯留し,典型例では毛細血管瘤を囲むように硬性白斑がリング状に配列する輪状網膜症(circinate retinopathy)を認める。FAでは輪状硬性白斑の中心に蛍光漏出を伴った毛細血管瘤がみられる。一方で,びまん性浮腫はFAで明らかな漏出源を認めないが,網膜血管床からのびまん性漏出が主体とされている。黄斑全体に浮腫が及び,典型例では囊胞様黄斑浮腫(cystoid macular edema:CME)や漿液性網膜剝離(serous retinal detachment:SRD)を伴う。

連載 目指せ!眼の形成外科エキスパート・第24回

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はじめに

 流涙症にアプローチする際,最も重要なことは,流涙症が症状ではなく疾患であることを理解することです。眼脂に悩む慢性涙囊炎の患者に日々涙洗を行うのは,一時的に症状を改善することにはなっても,疾患に対する根治的治療とはなりません。

 外来で,長期間涙洗をされている患者さんが来院することがあります。治療のムンテラを行い,長年治ることはないと言われ続けていたのが,治癒することを想定され,感極まって涙を流した(涙道閉塞だからではなく)ケースが多数あります。白内障や緑内障,網膜硝子体疾患では経験したことがありません…。

 などと,エラそうに述べてきましたが,かくいう筆者も流涙症に携わる前は,そのような症例を多数生み出してきております。

 流涙症に苦手意識があるとすれば,日常診療で時間がないなか,多種多様で,全く異なる病態(例えばドライアイと涙道閉塞)が混在する複雑な疾患と捉えるからではないでしょうか? たいていの場合は,涙を止めるためには,どの点眼薬が良いだろうかと最初から治療を意識してしまい,診断を順序立てていない場合が多いのではないでしょうか。例えば涙道疾患を得意とする先生※1の場合,「この症例は涙道閉塞だ!」と決めつけて,いきなり侵襲的な通水検査を行ってしまい,

 先生「ほら,流れてないでしょう!?」

 患者「いえ,しょっぱい味がしますけど?」

 先生「…いや,それ鼻水でしょ!」

 などとわけのわからない状態となり,それ以降の検査,例えばTMH(tear meniscus height:涙液メニスカス高)測定,BUT(tear film break-up time:涙液層破綻時間),Schirmerテストなどができなくなり,診断不能な状態に陥ってしまうかもしれません(※1:筆者のこと)。

 この稿では,「流涙診療事始め」として,難しい話は成書に譲り,あくまで臨床に即した短時間でできる診断アプローチを4つの段階に分けて述べたいと思います。

海外留学 不安とFUN・第8回

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サンディエゴ ラ・ホヤ

 私は現在,米国カリフォルニア州サンディエゴのスクリプス研究所フリードランダー研究室に所属しています。サンディエゴは米国西海岸の最南端,メキシコとの国境に位置する都市です。「America's finest city」とも呼ばれており,美しい自然と快適な気候に恵まれ,暑すぎず寒すぎない気候で湿度が低いことが特徴で,1年を通して快適に生活できる場所です。

 スクリプス研究所はサンディエゴ市のLa Jolla(ラ・ホヤ)という地域にありますが,ラ・ホヤはいわゆる高級住宅街があり,治安もよく,太平洋に沈むロマンチックな夕陽も相俟って,アメリカ人が住んでみたい場所のナンバーワンというアンケート結果もあるとききます。また日系のレストランやスーパーなども数多いため,日本人として食生活を大きく変えずに暮らせるのも大きなポイントで,世界最大級のシーワールドや動物園,世界的なサーフスポットなど,レジャー施設も充実しています。

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要約 目的:網膜剝離に対して用いられたマイラゲル®が結膜外に露出し,これを摘出する手術中に強膜が穿孔した症例に,後日行った強膜短縮術が奏効した報告。

症例:62歳の女性が24年前にマイラゲル®を用いた網膜剝離手術を受け,3か月前からマイラゲル®が結膜外に露出して紹介受診した。10年前に白内障手術を受けていた。

所見と経過:矯正視力は右0.02,左0.03で,左眼には約−16Dの近視があった。右眼の鼻側球結膜に,白色透明で膨化したマイラゲル®が露出し,眼底にマイラゲル®による隆起が全周にあった。マイラゲル®の摘出中に強膜が穿孔したので,部分摘出のみで手術を終了した。低眼圧と脈絡膜剝離が生じたため,4週後に再手術を行った。残存したマイラゲル®を摘出し,菲薄化した強膜の周囲をマットレス縫合し,強膜短縮術を行った。術後の合併症はなく,眼圧が正常化した。

結論:マイラゲル®を摘出するときには,強膜穿孔の可能性があることと,強膜穿孔には強膜短縮術が有効であることを,本症例は示している。

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要約 目的:脈絡膜母斑に併発したポリープ状脈絡膜血管症の1例の報告。

症例:61歳の女性が4か月前からの右眼の変視症で受診した。矯正視力は右0.1,左1.2で,右眼の黄斑部より鼻上側に扁平で淡い黒色の病変,網膜色素上皮剝離と漿液性網膜剝離があった。光干渉断層計などの所見から,脈絡膜母斑に併発したポリープ状脈絡膜血管症と診断した。ラニビズマブ硝子体注射が6回,アフリベルセプト硝子体注射が14回行われた。改善と悪化を繰り返し,3年後の視力は0.6で維持されている。

結論:脈絡膜母斑によって脈絡膜循環障害が生じ,ポリープ状脈絡膜血管症になったと推定される。抗VEGF薬の硝子体注射が奏効したが,複数回の治療が必要であった。

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要約 目的:突然の片眼性視力低下をきたし,網膜電図(ERG)にて網膜中層の機能障害が考えられた1例を報告する。

症例:糖尿病網膜症で経過観察を行っていた75歳の男性が,急激な右視力低下を自覚して受診した。

所見:2か月前に矯正0.7であった右眼の視力は0.1まで低下していた。暗順応下のフラッシュERGで陰性型波形を認め,錐体系ERGの振幅が低下していた。ERGの結果,不全型停在性夜盲と同様の片眼性の網膜中層障害が疑われた。

結論:双極細胞を含む網膜中層障害が原因と考えられた急激な片眼の視機能障害をきたした貴重な症例を経験した。原因は不明だが,肺腺癌の病歴もあることから,腫瘍関連網膜症の可能性も考えられた。

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 評者が初めて医学部生向けに臨床研究について講義した際,参考にしたのは学生時代に受けた講義であった。一方,大学院教育はまったく受けていなかったが,ありがたいことにNIH(National Institutes of Health)で臨床研究に参加して,臨床研究に必要な事項を学ぶことができた。(研究デザインをした上で)研究倫理委員会への申請,研究参加した患者を含む一般へのアウトリーチ活動,そして統計学の重要性といった事柄である。

 当方の大学院生には,〈患者・家族のニーズを踏まえ,日々の臨床疑問の解決と病因・病態を解明し,病因・病態に即した診断・治療・予防法の開発をめざすことが基本方針〉であり,〈臨床研究のしっかりしたお作法,すなわち研究デザインやデータ解析などを身につけることが重要〉と説明し,参考図書を紹介してきた。ところが,研究デザインやデータ解析に関する図書は,臨床的観点が乏しい,あるいは数式が多すぎて取っ付きの悪いものになりがちである。さりとて,あまりに簡略化したものは食い足りず,良い臨床研究の教科書はないものかと,探し続けていた。

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 医学書院から《眼科臨床エキスパートシリーズ》に『角結膜疾患の治療戦略—薬物治療と手術の最前線』が加わりました。編集ご担当は日本角膜学会理事長の島﨑潤教授(東京歯科大学市川総合病院)です。手に取ると厚さ2cmで索引を入れると405ページから成るちょっと厚い教科書ですが,ひとたびページをめくると,検査法や疾患ごとに細かく段落が分かれているので,目次を見て関係するページを開くことで,日常診療の中の疑問に即座に,かつわかりやすく答えてくれる構成となっています。それぞれの項目も長文ではなく豊富に図を交え,細分化された項目構成なので,詳細な内容であるものの,多忙な中で効率よく読むことに適していると思います。さらに疾患のページの前に,それぞれに検査法に関する項目別の記載があり,眼科コメディカルの皆さまにも有益な情報が盛り込まれています。

 一方,角膜・眼表面を専門とする眼科医や角結膜専門医をめざす若手にとっては,日々の業務の合間を縫って通読することで,知識・経験の整理や新たな知識の習得に役立つことが大いに期待できる1冊でしょう。

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欧文目次

第34回眼科写真展 作品募集

ことば・ことば・ことば 大
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 英語は8年間習いましたが,largeとbigの違いを教わった記憶がありません。急に気になり,少し調べてみました。

 このような問題では,PODという辞書が頼りになります。Pocket Oxford Dictionaryを略したもので,簡潔でありながら,語感が上手に説明されています。

べらどんな 三四郎
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 旧制で学位をいただくときには,語学の試験があった。試験官は眼科の教授である。何人かの先輩が受験したとき,「次の文章を英語にせよ」という問題が出た。

 「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」

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次号予告

あとがき 坂本 泰二
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 4月から始まった熊本の大地震では,甚大な被害が発生しました。被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。私事になりますが,私の生まれは熊本市の水前寺です。子供時代に慣れ親しんだ水前寺公園の石灯籠が,地震のために倒壊した姿を見て,何とも悲しい気持ちになりました。しかし,一時は水が枯れた水前寺公園の池にも,少しずつ水が戻ってきていると聞きます。熊本の方々の1日も早い復興をお祈りいたします。

 さて,今月の話題は清水公也先生の白内障手術の変遷についてです。清水先生は白内障手術や眼内レンズのパイオニアとして,我が国のみならず世界中で御活躍されました。かつては夢物語だったことを次々に実現されたエピソードは,まるで物語のようです。その物語の中を実際に生きた清水先生の言葉は大変な重みがあります。ぜひお楽しみください。好評を博している連載も,今月は特に充実しています。「蛍光眼底クリニカルカンファレンス」では,遭遇頻度が高い糖尿病黄斑症について,「目指せ!眼の形成外科エキスパート」では,なじみのある流涙症についてです。それぞれ,診断や操作のコツがわかりやすく解説されています。また,「緑内障道場」では判断に悩む症例について,複数の意見が述べられています。現在の医学教育では,単一の正解提示よりも,複数意見の中から最適なものを考えださせる教育が推奨されています。今後,特に若い読者にとってはこのような記述の方が受け入れられやすくなるでしょう。

基本情報

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臨床眼科
70巻8号 (2016年8月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

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