看護教育 59巻4号 (2018年4月)

特集 問題解決志向に疲れたら……

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 1980年以降,看護は問題解決思考を基盤にした看護過程によって大きく発展を遂げてきました。問題解決能力の向上とは,迅速な判断,高度な専門性,強い思考力を求めるものです。確かに,科学の進展とは,こうした側面ももつでしょう。そして看護には,問題解決を優先する,問題解決志向と呼べる文化が醸成されてきました。

 しかし,特に近年,精神科看護や慢性期看護など,疾患をかかえたまま生きていく患者を支える領域から,ネガティブケイパビリティ,ストレングスモデル,当事者研究など,問題解決だけではとらえきれないケアの諸相が描かれるようになっています。そうしたケアは,看護師などの医療者が,患者の問題を解決しようとする前提となる発想自体への深い問いかけが秘められています。

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学生と同じく,弱さを抱えた私

清水隆裕 聖隷クリストファー大学看護学部 助教

教員と情緒的に出会えないことに対する怖さと諦め

 学生時代の私は,看護以外の本を読むか,楽器を弾くか,ゲームをするか,夜通し漫画喫茶にいるか……そんな生活して,かつ無口で無愛想でしたので,多くの教員からは「やる気がないから変われ」「看護師になる資格がない」と言われ続けました。反論はありません。その通りだからです。しかし,看護が何かとは思考していました。ただ対人関係が苦手な私は,相手が自分にとって安心だと確信してからでないと,自分のことも看護も語ることができませんでした。私は教員に対して,まずそういう人格をもっているのだと理解してもらえることを,渇望していたところがありました。

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これからの医療に求められるネガティブ・ケイパビリティ

─先生は書籍『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』で,教育が問題解決に傾きすぎている問題点などを指摘されていました。看護教育にも,とても重要な示唆が含まれているように感じています。まず,ネガティブ・ケイパビリティとはどういう意味ですか。

帚木 ケイパビリティ(capability)つまり能力というと,ふつうは,何か問題をさっと解決していく力のことをイメージされると思います。しかし,ネガティブ・ケイパビリティは,むしろ問題を解決できない状態,答えの出ない事態に耐えていく力のことを指しています。単純に言えば「もちこたえている力」です。

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教育は「管」護を変えられるか

向谷地 今回は問題解決志向についての特集とのことですが,まず,どこが悪いかを特定して,取り除く,対処して解決する問題解決のモデルは医療に絶対に必要だし,それはなくてはならない。

 それにしても,あまりにも当たり前のことだけど,医療には,その現実を生きているのは人間なのだということが,軽視されてしまう傾向もありますね。

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はじめに

 「ストレングスモデルは,患者さんの強みにも目を向ける」。この一文に,すでに看護師の価値観が反映されている。この文はこうも読める。「患者さんとは病気をもっている人で,弱い存在です。でも強みもあるのだから見つけてあげましょう。」

 しかし私たち自身が病気をもったとき,こう考えるだろう。「私は私で変わらないが,今は病気の状態で誰かの力を借りたいだけ。病気になっても,患者さんという名前の,医療関係者や看護学生に何もかも委ねる存在に変わるわけではない」。

 ストレングスモデルを教えることは,「患者さんは弱い。保護してあげなくては何もできない」という前提をやめようとすることだ。そして「私たちは患者さんのことをよく知らない。だから教えていただかないとわからない」という自然な姿勢を伝えることでもある。

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現象学で教育を考えること

西村 教育学では,現象学はどのように浸透しているのでしょうか。

守屋 教育学に現象学を導入したのは,私の指導教官であった吉田章宏先生です。吉田先生は,もともと自然科学的な教育心理学から入った方ですが,昭和40年代に,当時の教育界では有名な実践者,斎藤喜博先生を中心とした「教授学研究の会」にかかわるようになって,そこで斎藤先生から「教育の研究者といっても授業のことは何も見えないじゃないか」と指摘されてしまった。

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 初中等教育の学習指導要領の大幅な改訂が直前に迫っているが,今回の改訂は大学教育や看護教育にどのような影響を与えるか,読者の皆さんは考えておられるだろうか。前後編に分けた本稿のねらいは改訂の内容と影響について読者に理解していただくことにある。果たして学習指導要領の改訂は,看護教育にとって対岸の火事なのであろうか。なお,本稿では大学を中心に述べるが,専門学校も当然関係してくるのは言うまでもない。

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LAシステム創設に向けて

 2017年1月,聖路加国際大学(以下,本学)にLearning Assistant(LA)システムが創設された。LAとは,科目を既習した学部の上級生が,履修生である下級生の学習支援を役割として担うもののことをいう。これまで看護基礎教育においては,4年生が3年生の実習前訓練に指導的にかかわることで相互に学び合う屋根瓦式教育の効果1)2)が報告されている。屋根の瓦が重なる様子に例えた,上級生が下級生の学習支援を行う教育は看護のみならず,医学教育や理学療法教育などにおいても実践されつつある3,4)

 LAシステムでは,基礎教育を終えて臨床経験をつんだ大学院生が教育補助を行うTeaching Assistant(TA)とは異なり,学部の上級生であるLAが既習科目において,下級生に対して,より学習者に近い視点で学習支援を行う。また,相互に学びあう屋根瓦式教育の利点を取り入れ,より少数の支援学生でさまざまな科目にかかわることができる。

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活気あふれる講義・演習へのきっかけを求めての参加

 臨床で二十数年勤務した経験のなかで得た看護の楽しさや喜びを学生に伝えたい,よりよい看護を提供するために考えることのできる学生を育てたい,という思いで大学教員になり,2年目となった。学生が目を輝かせて自ら積極的に学ぶ活気あふれる講義・演習を実践するという理想はあるものの,現実はほど遠く自分の未熟さを痛感している。相当な時間をかけて講義・演習の準備を行い「これなら学びが深まるはず!この方法なら興味をもつはず!」と実践してみても,学生の反応が鈍いときがあり,理想と現実のギャップを埋めるためにどこをどのように改善すればよいかわからず困惑し,焦り,自分を責め,脱出口が見えない日々が続いた。

 「近ごろの学生は……」と,基礎学力低下や学習意欲の低下を嘆く教員の声をたびたび耳にするが,大学全入時代となった今,高等教育の場としての大学がどうあるべきかが問われており,教員も変わらなければならない状況となっている。2012年中央教育審議会答申では,主体的に考える力を育てるために能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要1)とされ,2016年医道審議会保健師助産師看護師分科会保健師助産師看護師国家試験制度改善検討部会報告書では,出題内容について「基礎的知識を状況に適応して判断を行う能力を問う」と提言され2),実際に思考力を試すような問題が増加している。このように社会から求められることが変化し,自分が学生時代に経験してきた知識の伝達を中心とした講義のみではなく,学生が主体的に考える力を身につけられるような講義・演習をどのように行ったらよいか方法を模索していたところ,今回の研究会に参加する機会を得た。

連載 NとEとLGBTQ・1【新連載】

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 最近では,恋愛感情や性的な興味・関心が主にどの性別に向いているかを表現する性的指向(Sexual Orientation)や,誕生時に与えられた性別に対して自分の性別が何であるかという本人の感覚である性自認(Gender Identity)という言葉が広く知られるようになりました。これらを略してSOGI(ソジ)と呼び,性的指向や性自認に関する嫌がらせやいじめは,「SOGIハラスメント」として認識されるようになりました。

 一方,LGBT(エルジービーティー)とは,レズビアンLesbian,ゲイGay,バイセクシュアルBisexual,トランスジェンダーTransgenderの頭文字です。レズビアンとは女性の同性愛者,ゲイは男性同性愛者,バイセクシュアルは両性愛の人を指し,トランスジェンダーとは出生時の性別に違和感をもち,男性から女性へ,あるいは女性から男性へ,または別の性別へと,自分に与えられた性別の括りを超えていこうとする人を指します。GLBTと言うこともありますが,女性を最初に言うことを意識した言葉がLGBTです。そして,クイアQueerというかつては蔑称であった言葉を,むしろ積極的に多様な性的在り様を称揚する言葉として用いるようになった歴史もあります。「LGBTQなど」という場合の「Q」とは,このクイアを意味していたり,クエスチョニングQuestioning,すなわち性的在りようを追求している途上,という意味合いを示そうとしている場合などがあります。

連載 ティーチング・ポートフォリオ作成講座・1【新連載】

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はじめに

 昨今の「いかに教えたか」から「いかに学んだか」への転換や,それにともなうアクティブラーニングの方法など教育方法の革新,そして,大学の機関別認証評価制度導入やFDの義務化などに象徴される教育の質保証の流れなど,教育は過渡期にあります。

 そして,これらには,教員個人の教育力が大きくかかわります。教育の質は,結局教員1人ひとりの教育活動にあります。教育者としてどうあるべきか,どう教育を担っていくのか,そうした問いにただ1つの「解答」があるわけではなく,組織としての教育のあり方を考えることは当然としても,まずは各教員が自身に問うものでしょう。

 本講座は,この答えを見つける一助となるはずです。第1回は,本講座の概要とティーチング・ポートフォリオ(以下,TP)について解説をしていきます。

連載 つくって発見! 美術解剖学の魅力・4

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 腋窩とは,腋の下にある“縦のトンネル構造”のことです。生体でトンネルは見えませんが,手のひらを机などに押しつけると腋が窪んで,隠されていた下のトンネル出口が皮膚越しに現れます。これは胸郭側面と上腕の間で,その前面が大胸筋,後面は肩甲骨や広背筋によってふさがれた空間です。上のトンネル出口には僧帽筋が蓋のように覆い被さりますが,完全に閉じるのではなく頚椎側は開いています。そして頚椎から腕神経叢が,胸郭からは動脈が,ともにこの隙間から腋窩のトンネルへと入り込み上腕へと通過します。それゆえ,ここは重要な部位です。

 腋窩の後壁には隙間が2か所開いており,腋窩隙といいます。腋窩隙の“窓枠”を構成する構造は立体的に組み合っているので,粘土で造形すると理解しやすいでしょう。

連載 専門家と市民の架け橋 CoSTEP・10

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 みなさん,こんにちは。ここ札幌はまだまだ寒く,厚手のコートと手袋が手放せません。今月はCoSTEPスタッフの村井貴がお届けします。

 本誌の先々月号(59巻2号)の特集「VRで未来を変える!」では看護教育でのVR活用法が紹介されていました。今回はCoSTEPにおける,科学技術コミュニケーションの事例として,VRの取り組みを紹介します。

連載 キネステティク・クラシック・ネオ 動きの言語化のツールが可能にすること・4

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環境整備としてキネステティク・クラシック・ネオを使う

 看護学生が実習に出て,いちばん着手しやすいところは,環境整備です。患者さんのベッド周りをきれいにすることです。ナイチンゲールも『看護覚え書』で環境整備の重要さを説いていました。「看護がなすべきこと,それは自然が患者に働きかけるに最も良い状態に患者を置くことである」1),あるいは,「看護とは,新鮮な空気,陽光,暖かさ,清潔さ,静かさなどを適切に整え,これらを活かして用いること,また食事内容を適切に選択し適切に与えること。こういったことのすべてを,患者の生命力の消耗を最小にするように整えること,を意味すべきである」2)などと述べています。

 現在,環境整備としては,積極的なベッド周辺の清掃や,事故防止のための片づけが行われています。しかし,「生命力の消耗を最小にするように整える」までの環境整備にはなかなかたどり着くことができません。なぜなら,その考え方を活かす道具をもっていなかったからです。

連載 授業を良くする! 教育関連理論・6

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授業において大切な「伝える力」

いよいよ「実施」

 これまでADDIEモデルに沿って,Analyze(分析),Design(設計),Develop(開発)と進めてきました。今回からImplement(実施)に入ります。これまでのADDはいわば授業を始めるまでの準備でしたが,これからは授業本番の実践スキルを扱います。本来,ADDIEモデルにおけるImplementには2つの意味があるとされます。1つは,「パイロットテスト」や「フィールドテスト」といわれるような本番前の試行の意味です。もう1つは「リリース」といわれるような本番そのものの意味です。これから扱うものは後者にあたります。

 いかに優れた分析や設計,開発をしたとしても本番の実践力が乏しければ思ったような授業づくりができません。これから数回に分けて,授業の実践力を高めるためのスキルや技法を説明していきます。

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目次

新刊紹介

INFORMATION

基本情報

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看護教育
59巻4号 (2018年4月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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