食道胃接合部癌のリンパ郭清で重要な食道裂孔部は腹側に心臓や肝臓,背側に椎体や大動脈,左右には肺が存在する閉ざされた領域である。そのため長らく直視下の手術では胸腔からも腹腔からも局所解剖の認識が困難であった。しかし,近年の内視鏡手術の普及に伴い,その微細な解剖が再現性をもって詳細に認識されるようになってきた。そのなかでわれわれは食道胃接合部の右側に存在する閉鎖腔に注目し,発生学的知見から心臓下包として報告してきた1)。
本稿では胎生期における網嚢と心臓下包の発生過程を詳記し,食道胃接合部リンパ郭清における心臓下包の同定方法とその意義について概説する。