手術 75巻2号 (2021年2月)

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頸部食道癌の発生頻度は5%以下と非常に低く,臨床試験を組むことができず標準治療も存在しないため,各施設で独自に治療を行っているのが現状であり,頭頸部外科が取り扱う施設も存在する。しかし,頸部食道癌は容易に下咽頭や胸部食道へと進展し,上頸部や上縦隔にリンパ節転移をきたすため,食道癌取扱い規約ではリンパ節No.102upは2群,No.106recはⅠ群リンパ節に所属し(図1)1),頸部および縦隔解剖も熟知する食道外科医が扱わねばならない領域である。頸部食道癌を取り扱うために必要な解剖構造と手技を概説する。

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食道癌は腫瘍進展の早い段階でリンパ節転移を起こし,縦隔のみならず腹部・頸部も含めて広範にリンパ節転移をきたしやすいことから,これまでわが国では局所制御を重視して,リンパ節郭清を拡大する方向で術式開発が行われてきた。1980年代初頭からは,中下縦隔・腹部リンパ節郭清を行う従来の胸腹2領域郭清に上縦隔リンパ節(両側反回神経周囲リンパ節)の徹底郭清が加えられ,さらに頸部傍食道リンパ節(No.101)と鎖骨上リンパ節(No.104)の頸部リンパ節郭清を追加する拡大郭清が開発され,報告されてきた1,2)。

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頸部からは大動脈弓以深,腹部(経裂孔)からは左下肺静脈以深として認識される深部縦隔は,縦隔アプローチによるリンパ節郭清において最も習熟を要する領域である。食道癌取扱い規約によれば,胸部上部(Ut)と胸部中部(Mt)にまたがる領域である。安全かつ過不足のないリンパ節郭清を行うためには,縦隔アプローチ特有の手術解剖の理解はもちろん,特有の術野展開と郭清手技の習得が不可欠である。

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食道癌のリンパ節転移は反回神経周囲リンパ節に高率に認められ,治療成績向上のためにはそのリンパ節郭清が重要である1)。この反回神経周囲リンパ節郭清操作が原因で胸腔鏡手術後の反回神経麻痺が34%の頻度で発症した報告もあり2),食道癌手術において注意すべき術後合併症である。術後反回神経麻痺を防ぐため,反回神経の同定や神経機能の把握などを行う術中神経モニタリング(intraoperative nerve monitoring;IONM)は,甲状腺・副甲状腺手術に続いて,食道癌手術にも行われてきたが3),2020年度診療報酬改定で食道癌手術におけるIONMの保険適用が拡大され,各施設での導入が容易となった。

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食道胃接合部癌のリンパ郭清で重要な食道裂孔部は腹側に心臓や肝臓,背側に椎体や大動脈,左右には肺が存在する閉ざされた領域である。そのため長らく直視下の手術では胸腔からも腹腔からも局所解剖の認識が困難であった。しかし,近年の内視鏡手術の普及に伴い,その微細な解剖が再現性をもって詳細に認識されるようになってきた。そのなかでわれわれは食道胃接合部の右側に存在する閉鎖腔に注目し,発生学的知見から心臓下包として報告してきた1)。

本稿では胎生期における網嚢と心臓下包の発生過程を詳記し,食道胃接合部リンパ郭清における心臓下包の同定方法とその意義について概説する。

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食道胃接合部癌は,縦隔および腹腔への2つのリンパ流があることから領域リンパ節も広範囲に及んでおり,リンパ節郭清の方法にもさまざまなバリエーションがある。1990年代から2000年代にかけて,縦隔リンパ節郭清のアプローチ法に関する2つのランダム化比較試験が国内外で行われ,2010年代にはわが国で日本胃癌学会と日本食道学会が合同で,初の多施設共同前向き試験を行った。これらの結果について概説するとともに,現在,われわれが行っている体腔鏡下での下縦隔リンパ節郭清手技を紹介する。

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癌手術の基本的な考え方は,原発巣の切除とリンパ節郭清,すなわち,“リンパ系の切除”を行うことである。“リンパ系の切除”とは,実際的には系統的に腸間膜を切除することに当たる。胃のリンパ系は非常に複雑であるが,胃の腸間膜の概念を知ると,胃癌のリンパ節郭清の理解が深まる。腸管原基は,発生の過程で回旋や回転,膜の癒合を経て,複雑なリンパ系を形成する。胎生5週頃まで遡ると,この概念がみえてくる。

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上部進行胃癌に対しては,脾門リンパ節の完全郭清を目的とした脾臓摘出(脾摘)が行われてきた。しかし,JCOG0110「上部進行胃癌に対する胃全摘術における脾合併切除の意義に関するランダム化比較試験」の結果,脾摘は術後合併症発生割合を増加させるにもかかわらず生存には寄与しないことが示された。この結果を受け,大彎線に浸潤のない上部進行胃癌に対する標準治療は,脾温存胃全摘となった1)。一方で,大彎線に浸潤を伴う上部進行胃癌では,脾門リンパ節に一定の郭清効果が報告されている。そのため,JCOG0110では除外されており,これらの対象に対する脾摘あるいは脾門郭清の要否は,いまだにunanswered clinical questionであり,治療開発が望まれる。

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傍大動脈リンパ節は領域外リンパ節と考えられており,定型的なリンパ節郭清の範囲には含まれない。以前は手術の根治性を高めるとして,傍大動脈リンパ節郭清による生存転帰の向上が期待されたが,JCOG9501にて予防的傍大動脈リンパ節郭清の意義は否定された。

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胃癌に対する根治手術の基本は,リンパ節郭清を伴う胃切除術である。胃癌治療ガイドラインには予防的なリンパ節郭清の範囲が提案されており,進行胃癌にはD2が,早期胃癌にはD1+(もしくはD1)が推奨されている。D2を練り上げたのはわが国の胃癌外科の先達たちである。胃癌のリンパ節転移はリンパ流に沿って拡散し,郭清で局所制御が可能と推測した梶谷らは,胃癌研究会を結成し,胃の所属リンパ節をナンバリングし,全国胃癌登録を開始,リンパ節転移症例の転移状況と治療成績の膨大なデータから,D2(当時はR2)を練り上げていった1)。よって,その範囲は,治療成績を参考にしつつ,解剖学的知見に経験則を加えて,最大公約数的に決められたものである。またD1+は,胃癌治療ガイドラインの上梓とともに示された。その内容は,2群リンパ節のなかから,転移頻度が高く郭清効果が期待できるNo.7,8a,9をD1に追加したものである。

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食道癌取扱い規約 第11版1,2)において,No.112aoリンパ節(胸部大動脈周囲リンパ節)には,腹側(aoA)と背側(aoP)の亜分類が加えられ,No.112aoPは4群リンパ節の扱いとなった。No.112aoPは下行大動脈の周囲に存在するリンパ節のうち,食道から大動脈の直線を引き,直行するラインの食道対側にあるリンパ節と定義されている(図1a)。まれではあるが,No.112aoP転移もしくは再発症例が存在し,その際,外科的切除が考慮されることがある。しかしながら,右胸腔からのアプローチでは,下行大動脈や椎体が存在するため視野確保が困難である(図1b)。

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噴門側胃切除術は,上部胃癌に対する機能温存手術の1つである。最近では接合部癌症例の増加傾向があり,また,その至適リンパ節郭清範囲の検討も進み,噴門胃側切除が選択される機会も増加している。再建法は,逆流防止を目的とした工夫を伴う食道胃吻合として,観音開き法やSOFY(side overlap with fundoplication by Yamashita)法が報告されているが,食道浸潤例や残胃が小さな例,腹臥位で再建が必要となる症例などではその適応は限られている。

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近年の内視鏡外科手術器械の発達と手術手技の向上により,多くの領域において腹腔鏡手術の有用性について報告がなされている。とくに腹腔鏡下大腸癌手術は全国的にも広く普及し,進行癌に対しても年々増加傾向にある。大腸癌治療ガイドラインでは,腹腔鏡下大腸癌手術においてD3リンパ節郭清を伴う手術や横行結腸癌手術はチームの習熟度を十分に考慮して適応を決定すること,とされており,横行結腸癌に対する腹腔鏡手術は比較的難度が高いとされている1)。その理由としては,リンパ節郭清手技の困難さが挙げられる。結腸右半切除術では中結腸動脈(middle colic artery;MCA)や胃結腸静脈幹(gastrocolic trunk;GCT)は血管走行の破格が多い。とくにGCTは発生学的に複雑な解剖変異を伴い,術中損傷の可能性が高く,いったん損傷した場合には止血が困難で,開腹術に移行する可能性が高い。

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右側結腸癌の授動操作では内側アプローチが広く適応されているが,多数のアプローチ法が存在する1-3)。後腹膜アプローチは,後腹膜からの腸間膜授動操作を先行する手技であるが,内側アプローチと比較すると画一的な方法が確立しておらず,安全に施行するためにはその定型化が望ましいとされている4-6)。当科では十二指腸水平脚前面より後腹膜アプローチの授動操作を先行して行う多方向アプローチ(duodenum-first multidirectional approach;DMA)を適応しており,若手外科医でも安全に施行できるような手技の定型化に努めている。当科で行っているDMAの手術手技とその工夫点について解説する。

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直腸癌に対する腹腔鏡手術の有効性の検証が行われてきたが,いまだ開腹手術に対する腹腔鏡手術の非劣勢は証明できていないとする報告が多い1,2)。癌に対する腹腔鏡手術の問題点としてラーニングカーブの長さ,高い開腹移行率そして環状側切除断端(circumferential resection margin;CRM)確保の困難性が挙げられる3)。これらの問題を克服すべく新たなアプローチとして登場したロボット支援手術は,その安定した視野や操作性で神経温存に利点があると考えられるが,いまだその有用性を示せていない4)。

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大動脈食道瘻(aortoesophageal fistula;AEF)は治療法が確立されていない。また,その成因によっても治療方針が異なり,患者ごとに最適な対応が求められる。今回,弓部大動脈人工血管置換後のAEFに対して,治療の一環として食道切除を胸腔鏡下に行った症例を経験したので報告する。

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大腸GIST(gastrointestinal stromal tumor)は消化管GISTの5%前後と報告され,比較的まれであるが,多くは下部直腸に認められる1)。GISTの治療は外科的切除が第一選択である2)。しかしながら,小骨盤腔を占居するような腫瘍径の大きな症例において経腹アプローチのみでは視野確保に難渋することがしばしば経験される。また,消化管GISTにおいて被膜損傷は予後に悪影響を与えるとされ2),皮膜損傷を回避した完全切除が望まれる。そこで経肛門アプローチを併用することで,至適な剥離層を頭側,肛門側から連続させ,腫瘍周囲切除断端を確保した切除が可能となる。

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A型急性大動脈解離術後に残存entryが原因と思われる溶血性貧血を発症し,この治療のためにentry閉鎖の胸部ステントグラフト挿入術(thoracic endovascular aortic repair;TEVAR)を施行した。その後,貧血が改善した症例を経験したので報告する。

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手術
75巻2号 (2021年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4423 金原出版

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