medicina 54巻6号 (2017年5月)

特集 プライマリ・ケア医のための消化器症候学

小林 健二
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 一般内科医が初診患者を診るとき,専門外来と異なり,すでに診断がついた状態であることは稀です.そのため,症状や身体所見,患者背景から鑑別診断を考えて検査を選択したり,必要に応じて症状を軽減する対応を行ったりすることが多いでしょう.日々の診療において,これらの作業が占める割合は非常に大きいと思います.そして,それは消化器症状を訴える患者の場合でも同様です.

 症候から診断に至るまでの過程では,個々の症例で考えるべき鑑別診断が異なりますし,落とし穴も潜んでいます.例えば,消化器症状を訴えていても,その原因は消化器疾患とは限りません.消化器だけに目を向けていると,重大な徴候を見落としてしまう恐れがあります.しかし,だからと言って,その症候から疑われる鑑別疾患をしらみつぶしにチェックしようと検査を乱発することは,非効率的であり,限られた医療資源の濫用につながります.それに,何よりも患者に負担を強いるだけです.

特集の理解を深めるための26題

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外来で消化器症状を訴える患者さんは非常に多いのですが,消化器以外の疾患であることも少なくないため,最初に消化器内科を受診すると,診断がつかないこともあります.また,高齢者は複数の疾患を有することが多く,臓器別の対応は非効率的と言えます.こうしたことから,消化器症状を訴える患者さんの初期診療は,全身を総合的に診られる内科医のほうが適しているのではないかと考え,本特集を企画しました.本日は柳秀高先生と須藤博先生をお招きし,一般内科医や総合内科医といったプライマリ・ケア医が消化器診療を行ううえでの課題について,お話を伺いたいと思います.(小林)

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Point

◎定義としては6〜12カ月の間に体重が5%以上減った場合を指す.

◎原因として,悪性疾患,消化器疾患が多いが,内分泌・代謝疾患,精神疾患,感染症などでもきたすことを念頭に置く.

◎意図した体重減少かどうかを確認し,そうでなければ食欲の有無を確認することが重要である.

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Point

◎食欲低下とは摂食に対する欲求の低下であり,口腔や消化管,心肺機能,筋骨格系など全身の臓器が関与しているため,漏れなく鑑別を挙げることが重要である.

◎非特異的な症状であるため,食欲低下に加え,何らかの合併症状があるかどうかを聴取することが,診断への近道である.

◎特に若年者の場合は,専門家に早期に紹介すべき疾患として神経性食思不振症などの精神疾患を除外すべきである.

◎高齢者の場合は悪性疾患や感染症を特に念頭に置くが,診断がつかない場合はanorexia of agingの病態として捉える必要もある.

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Point

◎悪心・嘔吐の原因となる疾患は多岐にわたるが,随伴症状を認めることが多い.

◎問診・身体診察・検査によって,いかに緊急に対処すべき重症疾患を見逃さず,的確に診断・治療するかが重要である.

◎悪心・嘔吐を伴う重症疾患には脳神経疾患や消化器疾患が多いが,循環器疾患にも注意が必要である.

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Point

◎吃逆は「横隔膜の痙攣」ではない.横隔膜の収縮と声門閉鎖が同期して発生する呼吸器系反射運動である.

◎反射弓は背側鼻咽頭の粘膜,舌咽神経咽頭枝,延髄疑核近傍網様体,横隔神経,反回神経からなる.

◎受容器から中枢にかけての,求心路のどの部位が刺激されても反射運動が生じるため,中枢神経系疾患の関与が稀ではない.

◎胃食道逆流症(GERD)による粘膜刺激が原因の場合は,投薬治療だけでなく,特に生活習慣是正の指導が大切である.

◎まったく関係なさそうな部位の悪性腫瘍が原因と考えられる症例があり,難治性吃逆症例では全身の検索が必要である.

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Point

◎黄疸では,「直接ビリルビン・間接ビリルビンのどちらが優位か」が鑑別に重要である.

◎体質性黄疸以外は,見逃してはいけない重要な疾患が背景にあるため,迅速に専門医に紹介する必要がある.

◎まず胆管炎かどうかが重要であり,採血検査ではビリルビンのほかに,炎症の有無に注目する.

◎専門医に紹介する場合,鑑別疾患を念頭に置いた問診や採血を行っておくと,紹介先での診療が円滑に進む.

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Point

◎腹水をみたら,原因として最も多い肝硬変の身体所見に着目する.

◎必ず試験的腹腔穿刺を行う.

◎血清と腹水中のアルブミン濃度勾配が1.1 g/dL以上なら,門脈圧亢進による腹水である.

◎感染症に伴う腹水の可能性を常に疑う.

◎鑑別診断に応じた適切な初期対応が求められる.

口腔および上部消化管に関連した症状

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Point

◎味覚障害は,常に薬剤が原因の可能性を念頭に置くべきである.

◎片側性味覚障害には特に注意を要する.

◎治療前から血清亜鉛(できれば血清銅,血清鉄も)を経時的に測定する.

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Point

◎嚥下障害は,障害の部位により口腔咽頭性嚥下障害と食道性嚥下障害に分けられる.また,原因により器質性嚥下障害と運動性嚥下障害に大別される.

◎医療面接ではつかえる部位,経過(進行性か慢性か),嗄声,構音障害,胸やけ・呑酸の有無,喫煙・飲酒歴,アレルギー歴などを聴取する.

◎身体診察では口腔・咽頭の視診が重要であり,食道病変では身体所見に異常を認めないことが多い.

◎下位脳神経(舌咽・迷走神経)の障害が疑われた場合は耳鼻咽喉科に紹介し,脳血管障害(球麻痺,仮性球麻痺)や神経筋疾患が疑われた場合は神経内科に紹介する.

◎食道病変が疑われた場合は上部消化管内視鏡検査が施行可能な消化器内科に紹介する.

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Point

◎咽喉頭の異常感を訴えるが器質的病変を認めないものを真性咽喉頭異常感症,後に疾患が確認されたものを症候性咽喉頭異常感症と呼ぶ.

◎その要因は局所的,全身的,精神的の3つに大別され,多岐にわたる.

◎局所的要因のなかでも,胃食道逆流症や咽喉頭逆流症の関与が多い.

◎中・下咽頭癌などの悪性腫瘍を見逃してはならない.

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Point

◎胸痛を訴えるにもかかわらず,循環器系にその原因となりうる疾患が存在しない病態を非心臓性胸痛(NCCP)と呼ぶ.

◎患者の現病歴や背景だけでは,食道起因性の胸痛と,心臓性胸痛を区別することは困難である.

◎NCCPの原因として多い消化器系疾患は,胃食道逆流症と食道運動障害である.

◎消化器疾患の鑑別には,上部消化管内視鏡検査や24時間食道インピーダンスpHモニタリング検査,食道内圧検査,食道バリウム造影検査などが有用である.

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Point

◎胸やけとは,「胸骨後部の灼熱感」と定義される.

◎胸やけは胃食道逆流症(GERD)の特徴的な症状である.

◎患者はしばしば,胸やけを正しく理解していない場合がある.

◎GERDが疑われる症例では,診断的治療としてプロトンポンプ阻害薬を投与する.

◎警告症候がある場合やGERD以外の疾患が強く疑われる場合,専門医に紹介して上部消化管内視鏡検査を行う.

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Point

◎胃もたれ症状の原因の大部分は,機能性ディスペプシアである.

◎胃もたれ症状の原因は胃の病気だけでない.

◎胆石,急性胆囊炎,急性虫垂炎の初期,急性膵炎,腹腔内の悪性腫瘍,糖尿病などの除外が必要である.

◎詳細な問診や病歴聴取,身体所見が病態の鑑別に重要である.

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Point

◎「第一の原則は,もっぱら病歴と身体所見から,厳密で正確な診断を心掛けることである」(Cope著『急性腹症の早期診断』より).

◎急性上腹部痛の鑑別診断は部位別に整理しておくとよい.

◎急性腹痛の約20%で重篤または手術が必要となり,0.5%未満で致死的となることがある.

◎急性腹症を見極める診断力はプライマリ・ケア医に必須である.

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Point

◎問診と身体所見から緊急性を判断する.

◎高齢者では腹部所見に乏しいことがあり,緊急性の判断が難しい.

◎鼠径部,大腿部,会陰部にも注意を払い,消化器領域外の疾患も鑑別に入れる.

◎患者背景からハイリスク疾患を想定し,見逃されやすい疾患を積極的に疑う.

◎Alvarado Score 4点以下では急性虫垂炎の可能性は低く,除外診断に有用である.

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Point

◎慢性上腹部痛は,悪性腫瘍を含む器質性疾患でも,生命予後に関わらない機能性ディスペプシア(FD)などの機能性疾患でも起こりうる.

◎慢性上腹部痛の原因となる疾患のなかでは,FDの有病率が最も高い.

◎病歴と身体所見のみから器質性疾患とFDを鑑別することはきわめて困難である.

◎器質性疾患の可能性が低い場合には対症療法が行われるが,4週間以内に専門医による精査が行われるべきである.

◎対症療法としては胃酸分泌抑制薬の有用性が高いと考えられる.

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Point

◎慢性下腹部痛を呈する疾患は数多く,消化器疾患に限らず婦人科疾患,全身疾患と多彩である.

◎大腸癌に代表される悪性腫瘍,Crohn病,子宮内膜症は見逃してはならない疾患である.

◎過敏性腸症候群,中枢性腹痛症侯群は,知っておかねばならないcommonな疾患である.

◎慢性下腹部痛の診断には医療面接,身体診察とともに種々の検査を系統的に行う必要がある.

消化管出血

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Point

◎吐血患者に対しては,迅速に対応しつつ,的確な診断を行うことが重要である.

◎悪性腫瘍や食道・胃静脈瘤破裂は,見逃してはいけない重要疾患である.

◎日常診療で頻度の高い疾患として,胃・十二指腸潰瘍,急性胃粘膜病変,Mallory-Weiss症候群などが挙げられる.

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Point

◎メレナは主に上部消化管出血だが,小腸や右側結腸出血でも起こりうる.

◎約50%の患者では,病歴および身体所見から診断の予測が可能である.

◎ルーチン検査は血液検査(血算,生化学,凝固能),心電図,胸腹部単純X線検査である.

◎出血源の検索と止血は消化器専門医へコンサルテーションし,適切なタイミングで上部消化管内視鏡検査を施行する.

◎上部消化管出血患者のリスクを層別化するためのスコアとして,Glasgow-Blatchford Scoreが有用である.

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Point

◎鮮血便とは,鮮紅色の血便が肛門から排泄される状態で,その多くは左側大腸から肛門までの出血である.

◎鑑別診断では,年齢,既往歴,食事,内服歴,随伴症状など慎重な問診が重要である.

◎腹部診察は,見逃してはならない緊急疾患の診断に繋がることがあるので決して怠ってはならない.なかでも直腸診は必須である.

◎診断では下部消化管内視鏡検査が中心的な役割を果たすが,造影CTは迅速な診断と有効な治療法の選択にきわめて重要である.

◎緊急止血処置が必要と思われる大量出血患者は,輸液や輸血でバイタルサインを安定化させ,速やかに専門医のいる病院へ転送する.

便通異常

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Point

◎診療の初期においては,脱水,電解質異常などの全身症状の程度を把握する.

◎抗菌薬など薬剤の服用歴,生ものの摂取歴,海外渡航歴などを中心とした詳細な病歴の聴取が不可欠である.

◎病状の種類や程度に応じて,適切なタイミングで専門医への紹介を行う.

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Point

◎慢性下痢症とは,4週間以上持続する下痢症である.

◎急性下痢症と異なり,原因として感染症が占める割合は少ない.

◎原因は多岐にわたるため,安易な診断はせず,症状や検査結果を組み合わせて診断し,適切な治療を行う必要がある.

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Point

◎大腸や周囲臓器の器質的疾患を完全に除外せよ.

◎内分泌・代謝・神経疾患からの症候性便秘を見逃すな.

◎併存疾患がある場合は,内服薬の把握と薬剤性便秘を検討せよ.

◎上記3つが否定されたら食事・生活習慣の改善を指導し,浸透圧性下剤で便性状をコントロールして,朝食後の排便習慣で自己排便を目指す.

◎刺激性下剤や浣腸は,腹部膨満や腹部違和感を目安に適宜使用する.長期連用は「弛緩性便秘」の主因である.

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Point

◎便失禁とは自らの意思に反して液状または固形の便が漏れる状態を指す.

◎便の性状を改善することで,便失禁の多くは軽快する.

◎難治例や直腸脱,高度な分娩時会陰裂傷を伴う症例は専門医へ紹介する.

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Point

◎腹部膨満は,一般内科医が診療する疾患と,専門的加療が必要な疾患とに大別される.

◎器質的原因や病的な腸管拡張の有無が鑑別診断に重要である.

◎慢性偽性腸閉塞(CIPO)や小腸内細菌異常増殖症(SIBO)はその可能性を認識していないと診断できない疾患である.

◎目には見えない腹部症状をいかに診療できるかが,今後の臨床現場に求められる課題である.

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Point

◎肛門病変は外来診療でよくみられ,主訴は出血,疼痛,腫脹,搔痒である.

◎出血や脱出を主訴とする場合は内痔核主体の痔核が,疼痛を主訴とする場合は血栓性外痔核や嵌頓痔核が多い.痔瘻や肛門周囲膿瘍では腫脹,疼痛や排膿を主訴とする.

◎内科医ができる対応として,生活・排便習慣の指導,Goligher分類Ⅰ・Ⅱ度の痔核と裂肛に対する保存的療法がある.

◎Goligher分類Ⅲ度以上の痔核,肛門狭窄などを伴う裂肛,肛門周囲膿瘍,痔瘻,直腸脱は外科的療法の適応で,専門医に紹介することを勧める.

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Point

◎デルマドロームとは,内臓病変を発見するきっかけになる皮膚病変のことである.

◎内臓悪性腫瘍に伴うデルマドロームのうち,皮膚病変が先行するものとして皮膚筋炎は重要である.

◎皮膚病変の診断には皮膚生検や蛍光抗体法が必要なことが多く,皮膚科へコンサルトすべきである.

連載 フィジカルクラブpresents これって○○サイン!?・2

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右下腹部痛を訴えて来院した50代男性.

後屈を指示すると…

連載 心電図から身体所見を推測する・1【新連載】

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 身体所見の診察では,鑑別疾患を考えながら所見を得ようとしないと,なかなか有用な所見が得られない場合が少なくない.しかし,心電図や胸部X線から身体所見を推測し,または身体所見から心電図や胸部X線所見を推測することで,身体所見をもれなく観察することができ,相互に補填してより良い診療につなげることが可能になる.

 本連載では約1年間にわたり,どのように心電図や胸部X線から,胸郭,肺野,腹部,頭頸部,四肢の身体的特徴や,聴診所見,腎機能,投与薬剤などを推測するかについて解説し,心電図や胸部X線と身体所見,病態の橋渡しをしていきたい.

連載 内科医のボクらに心療ができないはずがない・1【新連載】

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汝の敵,その名は「不定愁訴」

コイズミ:ボクは卒後6年目の消化器内科医です.ゆくゆくは開業も考えています.でも,内視鏡一本で食っていける自信がないので,いろいろな病気を広く診なくてはと思って,この病院では,総合診療外来も担当しています.

イデ院長:そりゃ,いいね.総合診療外来って,どんな感じ?

連載 Inpatient Clinical Reasoning 米国Hospitalistの事件簿・10

原点回帰 石山 貴章
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「ホルモン剤を飲んでいた? …もしかして!!」

 キラリと一瞬,私の脳裏に閃くものがあった.

 本連載は基本的に,私のclinical reasoningにおける失敗例を紹介していこうと思っているが,今回はなんと,まったく失敗例ではない(ごめんなさい).受け取る人によってはむしろ,単なる自慢話にしか聞こえないかもしれない.しかし,長い人生,たまにはそういう「誰も褒めてくれないので自分で自分を褒めよう」みたいなことも必要なのだ.ぜひ,生暖かい目で見守ってほしい.…のっけから,何というひどい弁解.まあ,始めよう.

連載 内科医のための 耳・鼻・のどの診かた・4

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内科医にもできる!

診療に必要な知識・スキル

症例1

 71歳男性.高血圧症,2型糖尿病,脂質異常症の既往がある.

 深夜1時に寝返りを打った際に目が回りそうな感覚があったが,落ち着いていたためそのまま寝ていた.朝5時に起床した際に目が回るような感じがあり,気分が悪くなったため救急要請し,6時に救急搬送された.

連載 目でみるトレーニング

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西原先生の説明能力は池上彰を超える! 一番わかりやすい心房細動指南本

 循環器内科の外来でもっともエネルギーを使うことの1つが心房細動患者への対応である.心房細動とは何かを説明することから始まる.さらに脳梗塞発症の懸念があることを伝え,抗凝固薬の必要性を説き,抗凝固療法にともなう出血性リスクについて説明し,ワルファリンと新規経口抗凝固薬(DOAC)の得失やアブレーションについても理解してもらって・・・・と多くのことを語らなければならない.ご高齢であることが多い心房細動の患者は理解できているのであろうか.中には消化不良に陥っている患者・家族もいることであろう.説明を受ける側にとって理解が不十分となるのは,説明する医師の頭の中でポイントの整理が十分になされていないことも理由の1つではないか.

 日本一わかりやすく説明してくれる解説者といえば,池上彰さんの名前があがるのではないか.池上彰さんの凄さは,難しい話を,わかりやすく伝えてくれるところにある.今まで興味を持てなかったような政治や社会の難しいニュースでもわかり易い事例に例えて平易な言葉で語ってくれる.西原崇創先生が書き下ろした『患者の声から理解する心房細動診療の見方・考え方』を読ませてもらい,西原先生は医療業界の『池上彰』であるとの思いに至った.語り口は判りやすく平易でありながら,その記されている内容のレベルは非常に高い.数多くの臨床試験のデーターを掲載しながら展開されているので,心房細動について解説した類書に劣ることなく専門的知識に到達できる医学書である.池上彰さんがインタビューで,判りやすく解説する秘訣は,インプットした知識に自分なりの視点や意見を加えて,パワーアップさせたものをアウトプットできるかという問題であると語るのを聞いたことがある.西原先生は,心房細動についての知識を高いレベルでアウトプットしている.まさに池上彰さんの奥義に到達しているといえよう.

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 この度,『上部消化管内視鏡診断マル秘ノート』が,野中康一(埼玉医科大国際医療センター消化器内科准教授),濱本英剛(手稲渓仁会病院消化器内科医長),田沼徳真(手稲渓仁会病院消化器内科主任医長),市原真(札幌厚生病院病理診断科医長)という新進気鋭の4名の著者により,医学書院から刊行された.

 筆頭著者である野中康一先生との初めての出会いは,2015年4月ポルトガルのリスボンで開催された共焦点内視鏡の国際会議である.当時,野中先生は,NTT東日本関東病院に勤務されており,共焦点内視鏡に関する研究成果について,多くの症例経験に基づくエビデンスを根拠に理路整然と流暢な英語で講演されていた.その姿は,度胸の据わった類いまれな優秀な青年医師として光輝いて見えた.その後,個人的にも交友関係が続き,謙虚で真面目な性格ながら,大変ユーモア溢れる親しみやすい先生だと理解してきた.本書でしばしば使用されている「モテる」内視鏡医の模範であろう.

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 腎臓内科には日々,さまざまな急性腎障害(Acute Kidney Injury:AKI)症例の相談があり,その中でも薬剤性のものが少なくない.薬剤性腎障害は重篤な感染症の治療など,患者の生命を救うためには避けがたい場合もあるが,その多くは少し注意すれば避けることができ,また腎機能をモニタリングしていれば重症化する前に対策を講じることができる.私たち腎臓専門医にとってみれば当たり前のことだが,では腎臓病を専門としない医師や薬剤師が具体的にどうすればよいのか? 本書はその解決となる良書である.

 監修の向山政志先生,平田純生先生による類書は多いが,本書では難しくなりがちな薬物動態や腎機能の評価法を興味深く学ぶことができるよう随所に工夫が認められる点が特筆される.まず第1章「この副作用,防げますか?」では,SU薬やダビガトラン,NSAIDsなど,処方機会の多い薬物の副作用を中心に,症例を通じて病態から具体的な対策までわかりやすく学ぶことができる.薬剤性腎障害の分類など,より専門的な情報はコラムにまとめられている.

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 小児の抗菌薬マニュアルと言えば,評者はこの本が真っ先に思い浮かびます.John D. NelsonやJohn Bradleyといった小児科の重鎮の名を冠するこの黄色い本は米国の小児科診療の現場で長年愛用されてきた名著です.15年前,米国で小児感染症フェローとして働いていた評者も本書を“Red book”(American Academy of Pediatrics)とともにカバンに忍ばせ,コンサルトのたびに引っ張り出して抗菌薬の投与量を参照していました.今は,当院の感染症科フェローのポケットに収まり,他科からの診療相談のたびに活躍しています.

 本書は,抗微生物薬の適応・用量・用法の詳細が記されたいわゆるマニュアル本です.しかし,40年以上にわたる実践の中で精度を高め,2年に1回(2014年以降は毎年)新たな知見を基に改訂され進化してきた実績があり,これに比肩するものはありません.特に治療薬選択の根拠となるエビデンスや注意事項が参考文献と共に記載されているのは本書の特徴です.例えば中耳炎の治療など議論の的となる事項については,ガイドラインの推奨やシステマチックレビューをまとめた「メモ」があります.また,壊死性筋膜炎や慢性骨髄炎に対する外科的介入の推奨など,最善の感染症治療について薬以外の治療にも言及されています.さらに,新生児,肥満児,市中MRSA感染症,小児特有の病態における予防投与などについても具体的な処方が記載されていて,包括的な内容になっています.もちろん米国のマニュアルを日本に導入するには,疫学や人種の違い,保険診療との齟齬がないかなどの検討が必要となります.そこは日米両国をまたぐ小児感染症のエキスパートである齋藤昭彦先生を中心に翻訳者陣が注釈を加えられており,大変助かります.

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54巻6号 (2017年5月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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