- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
小児の抗菌薬マニュアルと言えば,評者はこの本が真っ先に思い浮かびます.John D. NelsonやJohn Bradleyといった小児科の重鎮の名を冠するこの黄色い本は米国の小児科診療の現場で長年愛用されてきた名著です.15年前,米国で小児感染症フェローとして働いていた評者も本書を“Red book”(American Academy of Pediatrics)とともにカバンに忍ばせ,コンサルトのたびに引っ張り出して抗菌薬の投与量を参照していました.今は,当院の感染症科フェローのポケットに収まり,他科からの診療相談のたびに活躍しています.
本書は,抗微生物薬の適応・用量・用法の詳細が記されたいわゆるマニュアル本です.しかし,40年以上にわたる実践の中で精度を高め,2年に1回(2014年以降は毎年)新たな知見を基に改訂され進化してきた実績があり,これに比肩するものはありません.特に治療薬選択の根拠となるエビデンスや注意事項が参考文献と共に記載されているのは本書の特徴です.例えば中耳炎の治療など議論の的となる事項については,ガイドラインの推奨やシステマチックレビューをまとめた「メモ」があります.また,壊死性筋膜炎や慢性骨髄炎に対する外科的介入の推奨など,最善の感染症治療について薬以外の治療にも言及されています.さらに,新生児,肥満児,市中MRSA感染症,小児特有の病態における予防投与などについても具体的な処方が記載されていて,包括的な内容になっています.もちろん米国のマニュアルを日本に導入するには,疫学や人種の違い,保険診療との齟齬がないかなどの検討が必要となります.そこは日米両国をまたぐ小児感染症のエキスパートである齋藤昭彦先生を中心に翻訳者陣が注釈を加えられており,大変助かります.
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.