神経研究の進歩 1巻1号 (1956年1月)

特集 神経系疾患の診断法

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Ⅰ.緒言

 自律神経は生体活動の所有る面に影響を与え,単に神経性機構のみならず,内分泌腺乃至体液性機構とも不測不離の関係を以つて協同的に作用を及ぼしているものと思われる。又自律神経系自体は一般に交感神経及び副交感神経系の拮抗作用に依って,生体活動を円滑に遂行せしめると考えられているが,決して簡単なる拮抗作用ではなく,極めて複雑な相互関係を有し,むしろ両系統は協調作用を以つて生体に影響を及ぼしていると思われる現象も少くない。従つて自律神経系の一変化のみを以って生体変化の決定的な判定根拠を提示出来ると考える事は不可能である。然しながら或る種の自律神経性変化に於ては,極めて明瞭に生体変化を示すものがあり,臨床的立場に於てその個体の状態を説明し得るものも少くない。而して自律神経の診断的応用にあたっては,之を二つの方向に大別する事が出来る。一つは神経疾患を主とする一般疾病に於て所謂自律神経性反射を検索し,之を以つて其の疾病の診断或いは予後を卜せんとするものであり,他の方向は,所謂自律神経系緊張状態を把握し,之によって生体の自律神経活動の偏倚を理解し,或いは疾患の成立原因や各種症候の説明に資し,更には生体の全活動状況を窺わんとするものである。斯る自律神経性反射及び測定法は極めて多数記載せられて居り,それらの成立機序或いは意義判定に関する意見も極めて種々であり,今後の追究を待たねばならぬ問題が多い。

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 神経系の疾患の診断にもつとも有力なものは臨牀神経学的検査であり,脳波の検査などは補助診断法の末席をけがすものにすぎないといのが10年ぐらい前までのわが国学者の間の通念であった。これは現在でもある程度まで真理である。まず第一に脳波の発生機序,本態が良く判らない。Jenaの精神科医Hans Bergerが,人間の頭皮あるいは頭蓋から脳の電気活動を誘導描記し得ることを最初に発表(1929年)して以来すでに4半世紀を経ているが,いまだに一般に認められた確固たる脳波の発生理論のあるを知らないのである。それは神経細胞から発するのであるか,neuron回路から出るのであるか,あるいはそれらの集団から織り成されるのであるか,どういう神経化学的変化がその基礎をなしているのか,確実なことは何も判ってはいないのである。したがって脳波の意味づけは殆んどすべてが経験的なものであり,場合によつては揣摩臆測の範囲な出ぬものがある。

 第2に脳波は解剖学的変化を教えてくれない。そして解剖学的変化こそ多くの神経学者や"organic-minded"な精神医学者の求めるものである。脳の電気的活動性は脳の機能と密接な関係がある。したがって「機能の腫瘍 tumor of function(Gibbs)」とでも云うべきテンカンの診断には脳波は非常な威力を発揮するが,その他の疾患の診断にとくに脳波が必要不可欠であるという場合はほとんどない。

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I.はじめに

 筋電図による診断がわが国で広く臨床的に応用されるようになってから僅か数年の間にそれは飛躍的な発展をとげた。今日では内科,外科,整形外科,神経科,小児科,耳鼻科,眼科等殆んどすべての臨床領域で神経―筋系疾患の診断法の一つとして筋電図が必要欠くべからざるものであることは臨床医家の常識となりつつある。従って筋電図による臨床診断法についてもすでに成書あるいは多くの文献に詳細な記載があるのでここに改めて述べることはやめる。ただ如何なる診断法にも必ずその限界があり,これを越えて一つの方法に頼りすぎるときは大きな誤りを犯す危険がある。筋電図が神経―筋系疾患の診断法として如何に有効な領域をもつているにせよ,これを唯一の診断の根拠にすることは出来ないし,その利用方法についても,また生理学的な基礎に関しても厳しい反省を要する時期に達しているように思われる。

 このことは決して筋電図の応用範囲を狭めることではなく,むしろかえって筋電図に対する誤解―例えば筋電図をみれば何でもわかるという誤解,あるいは筋電図の専門家はそう考えているという誤解―を解き,その正しい発展を進める道であると思う。

脊髄造影 三木 威勇治 , 東野 修治
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 脊髄造影Myelographie,Myelographyは脊椎管腔,脊髄液腔内に注入した造影剤の作る表面像(Relief)に依り,脊髄に障害を及ぼしている疾患の,病変部位様相と種類とを間接的に診断せんとするものであつて,神経学的,電気的診断法と共に脊髄外科に不可欠の手段である。

 脊髄造影には,その造影方法により 1)硬膜外脊髄造形術(Epidurale Myelographie) 2)蜘蛛膜下腔脊髄造影術(Subarachnoldale Myelographie) 3)脊髄内造影術(Endomyelographie) 4)椎間板造影術(Discographie)に分たれる。予測せられる疾患に依り脊髄造影術を選択し,脊髄,馬尾神経或いは脊髄神経根部に於ける病変の診断を行うが,現在一般に脊髄造影術と云えば,蜘蛛膜下腔脊髄造影術を指し,最も用いられ且その価値も他の造影術に比し大きい。本文に於ても,主に蜘蛛膜下腔脊髄造影を中心として以下述べることとする。

髄液の臨床 新 城之介
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まえがき

 髄液採取特に腰椎穿刺と髄液の検査は,殆んど全ての中枢神経疾患の診断に当って,極めて重要な検査法の一つであることは,ここに多言を要しない。今日髄液学の臨床応用は神経病学に限らず,精神病学,内科,外科,細菌免疫学その他極めて多方面に亘つており,夫々多くの業績が報告されているが,その全般を知ることは容易でない。従って自分の主としてたづさわつている所謂神経病学的方面に限って述べたいと思う。髄液検査法の一般については既に多くの記載があるので,その術式の詳細は成書1)2)3)4)にゆづり,ここでは髄液採取特に腰椎穿刺と検査の一般についての必要な事項,並びに髄液検査所見の判定上重要な臨床的意義と主な神経系疾患に見られる特長的髄液所見について述べる。

眼底 鹿野 信一
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詳しい連絡もなしに"眼底"なるテーマを与えられた。眼底という言葉のもつニュアンスは甚だ俗ポイ言葉の様である。それで神経疾患の診断に於て要求される眼底所見の解析という意味で私は筆をとつて書き終えてみた。所が編輯者の意図する所は,より高度な極く最近の話題という事である。全体の雑誌がその様に程度の高いものを要求しているとき,この解析的の一篇は甚だ低いレベルの感じを与えると思う。一時は書き直すかと思つたが,時間の余裕もない。創刊号に於て,眼科医以外の人の眼底所見について興味をもち,又時々は自ら眼底をのぞく方に対し,この様な解析的の一篇も,爾後の程度の高い眼底に関する論文の理解の基礎的なものとして先ず第一段階に掲載する事も意味がない事でもないと思い,そのまま医学書院に渡す事にした。御了承を乞う。—擱筆に際して1955.10.15—

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創刊の言葉
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 紳経学乃至神経病学は欧米諸国に於ては既に古くより広範な分野より研究されて来た。我国に於ては従来比較的限られた分野で取上げられて来たが,最近急激に各分野より注目されるに至り,精神々経学会の会員の増加や,最近発足した脳神経外科学会が急速に発展したこと,又雑誌「脳と神経」の購読者が急速に増加した由を聞くにつけこの感を深くするのである。基礎医学に於ては,解剖,病理,生理を中心とし,又臨床医学に於ては,内科,外科,神経科を中心として,我国に於ても先進国にならつて更に研究のホコ先が神経学に向けられて行くのではないかと思う。

 この期に於て,新しく雑誌「神経研究の進歩」が創刊されることは,この分野に関心を持つておられる関係医家の必要に応じたものと期待して頂きたい。第1号の特集記事は「神経系疾患の診断法,臨床応用とその限界」であるが,脳波,筋電図又レントゲン診断其他に於て各種の方法が取入れられ,広く応用されつつある現状でありながら,之等の診断価値の限界が明かにされておらず,臨床家を困惑させることが少くない現在,眞に時宜を得たテーマだと信する。今後共,特集記事を中心にして,同様に重要な問題を取上げて行きたいと思う。又,広く読者の希望する特集テーマを選んで行くという方法も考えられる。

綜説

平衡感覚批判 福田 精
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平衡感覚という言葉

 平衡感覚,この言葉の意味,定義を先ず検討したい。従来この言葉は全く何気なく一般に使用されている。しかし勿論五感以外の感覚で,判きりした感覚内容をもつ五感より外に位することを先づ注意したい。次ぎに平衡と云う言葉も吟味されねばならない。嗅覚,聴覚,視覚等五感の感覚内容は誠に明白である。しかし平衡とは感覚として如何なる内容を指すのか,考えてみても一向判然としない。平衡とは釣り合いのとれたこと,起立位に就て云えば釣り合いがとれて立つてることである。即ち指摘したいことは釣り合いがとれたと云う結果を意味することである。感覚と反射と云う一般生理学の常識から申せば平衡とは感覚内容とは成りがたく,平衡とは反射に属し,反射によつて生じた綜合結果である。故に平衡感覚の代りに平衡反射なる言葉を用いれば最も適切であろう。何故ならば,平衡がとれた状態,即ち釣り合つた状態を感じることそれを平衡感覚の内容とすれば反射を起す要はサラサラない。しかしこの平衡感覚は又迷路感覚とも呼ばれ,前庭迷路に密切に結びつけられていて,迷路反射を起させる一感覚として考へられ,反射とは切つても切れぬ関係を有する。故に平衡維持のため迷路反射を起す迷路受容器,これから生ずる感覚を設定し,平衡感覚と呼ぶに到つたと私は老える。平衡がとれた釣り合つた状態を感じてみても,更に反射を起す要はない。反射を起し釣り合わせるのは,それは平衡が破綻した場合である。

展望 解剖

大脳皮質について 細川 宏
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 脳殊に大脳皮質に関し,主として解剖学的見地からなされた研究の進歩とその現況を展望するのが本稿に与えられた課題である。しかしこの領域における広汎な研究について適切な取捨選択と要を得た概観をすることは,筆者の狭い知識の限界を遠く超えることであるから,ここには比較的新らしく且つ興味あると思われる知見の二,三を瞥見して,一応の責任を果すことにする。

展望 生理

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 神経の興奮に関するHodgkinなどのNa仮説(Hodgkin,1951;Hodgkin & Huxley,1952)では,神経衝撃の伝導にともないNaとKの移動がおこる。すなわち外部からの電圧または隣接部の活動電流によつて神経の膜が脱分極されると,膜はNaに対し著明にかつ特殊的に透過的になる。外液中のNaの濃度は細胞内の濃度よりはるかにたかいので,Naは膜の外側から内側に急に入ってきて最初膜電位を減少させ,最後には膜電位を約50mVも逆転させてしまう。この活動電位の頂点ちかくでNaの透過性は減少し,一方Kの透過性は著明に増加してくる。ところがKは細胞内部の方が外液中よりはるかに濃いので,Kは外にむかつてでてゆき,膜電位がもとの値にもどるとともにはじめてKの移動はやむ。したがって神経衝撃が通過したあとでは線維は興奮前よりも小量のNaをまし,小量のKを失つているわけである。(Keynes,1951;Keynes & Lewis,1951)。もし長期間にわたり線維が興奮の伝導をいとなんだとすれば,とりいれたNaを排出し,失ったKをとりいれる過程がなければならない。このNaの排出は物理化学的な濃度勾配に反しておこなわれるわけであるから,これは能動的な分泌過程と考えられ,HodgkinなどによりNaポンプ(sodium pump)とよばれていることは周知のことである。

展望 病理

神経系の組織病理学 猪瀨 正
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 展望というものは,大体過去一年間の業績をふりかえつて,それを紹介するのが本筋であろうが,私は期間には余りこだわらないでこの領域の課題の中心がどこにあるかを記してみようと思う。さて組織病理学に関係している者にとつては,戦後既にいくつかの注目に価する出来事があつた。その第一は,1952年に開かれた第一回国際神経病理学会であつて,それは戦前戦後を通じて,最初の国際学会であつた。そこでは組織病理学のほとんどあらゆる分野に渉つて業績の発表と討論が行われた。そして,それによつて戦争中の空白が満されると同時に,新しい研究方向のいくつかが示されたのであつた。第二にはMohrの内科叢書の神経学の3巻1)の出版があつたことである。そして注目すべきは,その執筆者として多くの神経病理学者が参加していることで,神経系の病理解剖に基礎を置いた著書であると云えよう。その記述は新しい研究業績を網羅していて,文献の整理は,1936年に出版されたBumke-Foersterの叢書のその後を補うに足るものである。第三にはHenke-Lubarschの病理学叢書がScholz教授の監修で神経系の部分2)を始めて出版するに至つたことである。既に3巻の中1巻は完成して,われわれの手許に届いている。この二つの出版は,並々ならぬ努力の結晶であつて,敗戦後の独逸医学の意気を示すとともに,その復興の力はまさに世界を圧するほどのものであると云うべきであろう。

展望 生化

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 神経病学領域における生化単的研究は病理形態学的研究,生理学的研究に比べ立ち遅れている。我々の此の方面の知識は断片的で形態学的研究,生理学的研究の如く体系化されていない。然し個々の報告は最近とみにその数を増しつつあり,基礎的業蹟の多くに将来臨床家に大きな影響を及ぼす可能性が暗示される。私は此の紙面を借り,特定の一つの話題を取あげ,それに関するいくつかの代表的な研究を整理して,多少主観的にはなるが,解説を試みたいと考える。今回は中枢神経系の神経体液学説を,Cholinesterase,Cholineacetylase及びSympathinの分布の面より考察することとしたい。

 中枢神経系内の刺戟伝達物質については,従来Acetylcholine(Ach)が専ら重視されて来ていた。そして神経体液学説は交感神経末梢のAdrenaline性神経を除いては末梢より中枢に至るまでAcetylcholineのみを伝達物質として重視して,いわば神経作用を一元的に説明している点に特色があつた。然し最近中枢神経系内の伝達について注目すべき物質としてAch以外にもSympathin,其の他種々の物質が報告され始めた。一方Ach及び之を分解する酵素Cholinesterase(ChE)についての研究が進むにつれ,中枢神経系内のAch代謝は決してすべての部位に均等なものでなく,著明な部位的差異を示すことが明かとなつた。

展望 臨床

神経病学臨床の進歩 後藤 平
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 1955年上半期に発表された臨床方面の業績の一部を紹介しよう(1955年9月上旬迄に利用し得た資料による)。髄液,脳波,神経放射線学,神経外科,小児神経学,耳―神経―眼科学の項目は設けず特別のもの以外は割愛した。

 京都に於て第14回日本医学会総会が開催され,その特別講演,宿題報告のうち次のものが我々の知識を豊富にした。(1)輓近に於けるテンカン研究の進歩(内村1))。(2)Interprétation des symptômes de l'épilepsie psychomotrice en fonction des ldonnées de la physiologie rhinencéphalique(Gastaut2))。(3)脱髄性疾患――臨床方面(冲中等3))。(4)同――病理方面(内村等4))。(5)間脳の臨床(楠及び勝木5))。(6)2,3の向神経性ウイルス並に向皮膚性ウイルスの診断と治療について(北岡6))。

臨床講義

脊髄空洞症 冲中 重雄 , 三輪 史朗
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 本日は脊髄空洞症Syringomyelieの典型的な症例を供覧する。

 患者 久○野○い,67歳の女子。

実験法

電極 平尾 武久
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まえがき

 生体を電気的に刺激する時,或は生体に於ける電位又はその変動を導いて観察する場合,回路に生体を結合する部位に必ずある電極(Electrode)が使用される。この電極の選定はその実験の目的によつて適当なものにしなければならないので,活動電位を導出するような時には増幅器とも密接な関係がある。従つて本稿は電極を中心とし之に密接な関係があると思われる事項について述べたいと思う。

 生体といつても個体全体が材料となる場合もあれば,剔出された一器官の残生状態のものが対象となる場合もあつて,材料としての優劣・実験上の雑易などが一様でない。残生状態にある生物体の一部分を取出したものを生理学では標本(Preparation)といつているが,標本実験に就ては特殊なものを除けば既に成書に記されているから,本稿では中枢神経—脳から電位を導出する場合のような個体の生活状態のままで実験を行う時の問題に重点を置いて記述したい。

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 髄液は最近に至つて,再び諸研究家の注目を浴びるようになつた観があり,外国に於ても我国に於ても,その臨床,生理,病理等に関して,活溌に討議会が開かれ,各方面に進歩を遂げると同時に,更に新生面を開拓しようとしている現状である。

 しかるに髄液の比重に関しては,近年全く疑義の域外にあるごとく,論議の対象となつたと云うことを聞かない。そして又比重に就て多くを記している書籍も,殆んど見当らないところである。従来考えられている髄液比重のその正常値に於てすら,諸家の報告によれば可成り大きな差異があり,1.001〜1.010の開きがある程であつて,一般には1.006〜1.008と認められてはおるものの,何れをもつて正常となし何れをもつて病的となすべきをか,誠に迷わされるわけであるから,遂々軽視され勝ちになつて来ていた一面もあるのではなかろうか。

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Ⅰ.緒言

 或る実験仮説に立脚して研究を進めて行く場合,屡々吾々の予測と反した実験成績を得,其の判断に苦しむ事が多い。吾六は過去数年間肝臓と脳の機能的関連を認める総ての疾患を肝脳疾患と名付け,其の本態,分類及び相互関係に就いて臨床的,生化学的,組織化学的並びに病理学的に考察し発表を重ねて来た。1),2),3),4),5)),6),7)其の間これ等疾患群の独自性,相関性に就き其の都度得られた実験成績から,色々の考察を加え発表してきたが,今迄の実験成績及び其の後に得られた成績を合せ,現在吾々の持つて居る本症候群に関する考え方を報告し,合せて今後の研究への態度を明らかにし度い。肝脳疾患とは次に示す様に臨床的には多くの疾患を含み一つの症候群と考えるのが妥当である。

 1)Wilson民病(進行性肝レンズ核変性症)。

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緒言

 原発性小脳萎縮症は皮質萎縮,求心系萎縮,並びに遠心系萎縮に大別され,Hérédoataxie cérébelleuse(Pierre Marie)及びAtrophie cérébelleuse tardive à prédominance corticale(Marie-Foix-Alajouanine)は皮質萎縮に,Atrophie olivo-ponto-cérébelleuse(Déjérine-Thomas)は求心系萎縮に,Dyssynergia cerebellaris Progressiva(Hunt)は遠心系萎縮に属する。之等疾患の臨床症状は相互に極めて類似し,之等は遺伝的素因の有無並びに発病年令等を基にして臨床診断の決定される場合が多いが,発病年令,遺伝関係必ずしも絶対的区別点とはなり得ない。更に錐体路或は錐体外路症候が小脳症状よりも著明な場合には臨床診断は一層困難となり,剖検を待つて初めて診断可能となる場合が多いと言うも過言ではないであろう。しかも剖検上も之等疾患相互の間には種々の程度の移行乃至類似が見られ,更に大脳皮質,基底核等にも同時に病変の存在する事が知られている。

癌性脳膜炎の一例 服部 尚史
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 転移性頭蓋内腫瘍はMc Leanによると,悪性腫瘍の5.6%にあるといわれている。又、Madow and AIpersは転移性頭蓋内腫瘍の106例中に4例の転移性脳膜炎型癌腫症metastatic meningoencephalitic carcinomatosisを記載している。吾吾がここに報告するのは所謂癌性脳膜炎meningitis carcinomatosaである事が剖検の上確められたが,かかる疾患の存在を知って居れば生前に診断が確定出来たと思われる症例である。

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 昨秋二度目の外遊をして帰つて来て以来,その後,視察して来た各方面の事を少しづつ整理して見たが,全体としての印象記をまとめるようすすめられたので,筆をとることにした。少し日がたつているので今更との感じもするが,ざつと此際旅行全体についての印象を整理してかいて見ることにした。

 1954年9月2日に羽田を出発して,同年11月10日に帰着したのであるから,正味2ヵ月の旅行で昔なら,船でマルセーユを往復することもむずかしい位の期間である。しかし,米国を2ヵ月とびまわって来た今回の旅行は,おそろしく疲れを覚え,当分は外国へ旅行する気持も起らない位であった。一つには年のせいもあるが,近頃の旅行が飛行機のスピードに支配されて,全般として仕事が早くなり,気持もそれに相当してせわしくなるので,それに米国と云う所の能率的でせわしい社会環境に圧迫もされ,その上に外国語の不充分さをおぎなおうとする絶えざる努力によつて,昔とは比較にならない位の疲労が出たのではないかと思う。前の時は,呉建先生のお伴について歩いたので,責任も軽かつたが,今度は妙に責任と云つたものを強く感じたせいもあると思う。

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 色々の事情が我々と彼等の間に介在してとにかく知り得なかったし,又積局的に知る努力をしなかつた国にソ連邦がある。ソ連の医学については,私の感じだが,あまり専門家の正しい見方がされていないようだ。或ものは口を極めて批判し,しかもそれが全くその国の社会政策から出発していて学門的には全く積局性のかける議論だつたりするかと思えば,或者は口を極めてほめすぎる。まるでこれではマネをするだけが残されているように,そして更にこの国の科学の業跡が社会政策の向上のみで可能のやうな口ぶりで,日本のような歴史的に後れた国では全然だめだとばかりである。こんな事は敗戦直後,不愉快にも耳にしたアメリカ医学に関しての紹介にみられたものであつて,とにかく歴史的な後れが気になるだけで学問的な場での話ではない点無意味だ。

 私は,最近自分の専攻の脳の電気現象についての論文を手に入れる事が出来たのでそれについて述べてみたい。この領域はソ連邦でどんなになつているかをみる事は私自身にとつても楽しい事であつた。それにソ連邦のそれが案外進歩しているのに,殊にその考え方が私達のと似ているので驚いたのである。

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(問)病理解剖上の所見より脳血栓症(Gehirnthrombose)と脳栓塞症(Gehirnembolie)とを区別し得るや?

(答)脳栓塞症は,元来脳以外の臓器の病変(例えば心内膜炎や外傷や腫瘍等)に由来する栓子(Enbolus)(血液成分からなる血栓栓子や空気ガス腫瘍細胞等の栓子)が脳にはこばれて何処かの血管を閉塞させた時に惹起される現象であり,脳血栓症は脳の血管自体の病変(血栓性閉塞性血管炎,結節性動脈周囲炎,結核性又は梅毒性血管炎,細菌性血管炎,動脈硬化症など)に由来する現象であって,相互に類似した概念ではあるが過程としては別物と考えておくのが望ましい。

基本情報

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神経研究の進歩
1巻1号 (1956年1月)
電子版ISSN:1882-1243 印刷版ISSN:0001-8724 医学書院

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