臨牀消化器内科 33巻6号 (2018年5月)

特集 ガイドラインに基づいた肝癌診療

巻頭言 國土 典宏
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「肝癌診療ガイドライン」は初版(2005 年版)が厚生労働省診療ガイドライン支援事業のサポートを受け作成された後,日本肝臓学会に改訂作業が引き継がれ第2 版(2009 年版),第3 版(2013 年版)と4 年ごとに新しいエビデンスを取り入れて改訂されてきた.evidence based medicine(EBM)の手法を原則として用いて作成された本診療ガイドラインは,わが国の肝癌診療の現場で広く使われ普及している.そして,第4 版(2017 年版)が2017 年10 月に刊行され本特集が企画されるに至ったと理解している.

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肝癌の多くは慢性肝炎を背景として発症し,ウイルス性肝炎がもっとも多い.近年,本邦では非ウイルス性肝炎からの発癌が増加傾向である.また,ほかの環境要因(飲酒,喫煙など),宿主要因(遺伝的素因など)も関連しているが,これらのリスク因子の評価が重要であり,サーベイランス対象の肝疾患となる.肝硬変は肝発癌の高リスク群であり,とくにウイルス性肝硬変は超高危険群である.抗ウイルス療法の進歩は目覚ましいが,ウイルス排除後の肝発癌も一定の頻度で認めるため注意が必要である.

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肝細胞癌は,高危険群の設定が容易な癌であり,慢性ウイルス肝炎患者,非ウイルス性肝硬変患者を対象に早期発見を目的として,超音波検査に腫瘍マーカーを組み合わせたサーベイランスが行われる.超音波で腫瘍が描出された場合,dynamic CT あるいはMRI を撮影し,鑑別診断を行う.近年Gd‒EOB MRI が登場して早期濃染・後期washout を伴わないような症例でも肝細胞癌の画像診断が可能となった.

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画像診断機器の進歩によって,現在肝細胞癌の診断は画像診断を中心に腫瘍マーカーを補助的に用いて行われ画像診断をもって確定診断としている.この領域ではGd‒EOB‒DTPA やSPIO,超音波用造影剤など,診断薬剤の進歩が診断能向上に与える影響が大きく,とくにGd‒EOB‒DTPA の登場は診断体系をも変化させてきている.2017 年「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン」の改訂が行われた.本項ではこのガイドラインに沿って,肝癌サーベイランスのための画像検査について解説する.

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「肝癌診療ガイドライン」第4 版の治療アルゴリズムは,従来の「エビデンス」をベースとしたガイドラインと,「コンセンサス」を重視して作成された肝癌治療アルゴリズムを統合するべく作成された.全体的な方針は踏襲されているが,フローチャートの入り口が従来の「肝障害度」から「Child‒Pugh 分類」に変わった点,これまでは欄外に記載されていた肝外転移と脈管侵襲がフローチャートの中に取り込まれた点と,従来は「化学療法」とされていた選択肢がソラフェニブあるいは新規に有用性が示されつつあるレゴラフェニブ,レンバチニブを意識して「分子標的薬」という名称に変わった点がおもな変更点であり,実臨床での使用がしやすいように考慮されている.

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肝細胞癌に対する肝切除術の適応と術式は腫瘍条件と肝機能予備力から決定される.腫瘍径に制限はないが,腫瘍数3 個までが良い適応である.一次分枝までの門脈侵襲例は手術適応となる.切除断端距離は必要最低限でよい.術前肝機能予備力評価にはICG 負荷試験が用いられる.間欠的肝流入血流遮断法や下大静脈圧低下によって肝切離中出血量が減少する.腹腔ドレーンは必ずしも必要としない.肝前下領域(segment 2~6)に存在する単発5 cm 以下の腫瘍に対する肝部分切除術や肝外側区域切除術が腹腔鏡下肝切除術の良い適応である.腹腔鏡下広範囲肝切除術では十分な腹腔鏡下肝切除術の経験と術前の難易度評価などを考慮することが必要である.

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穿刺局所療法における2017 年版の肝癌診療ガイドライン改訂のポイントとして,① TACEとRFA の併用療法に関して「比較的大型の腫瘍に焼灼療法を適応する場合には,TACE との併用で予後改善が期待できる」と格上げの内容となったこと,② 新設clinical question( CQ)として「穿刺局所療法の治療効果予測因子は何か?」が追加されたことが挙げられる.その他の四つのCQ は前版からの引き継ぎであり,エビデンスは追加されたが推奨内容については前版を踏襲したものとなった.

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2017 年版の「肝癌診療ガイドライン」においては肝動脈(化学)塞栓療法に関するclinicalquestion(CQ)として従来の4 項目に加えて分子標的治療薬との併用およびTACE 不応の定義に関する2 個のCQ が加えられた.前者は分子標的治療薬の急速な普及に伴ったもので,後者はTACE に使用可能な塞栓物質や抗癌剤の選択肢が増加していることおよび分子標的治療への移行を視野に入れてTACE 不応の基準を提唱する必要から新設されたものである.また,塞栓療法に関する新しいトピックとしては薬剤溶出性ビーズによるTACE が従来型のリピオドール® およびゼラチン粒によるTACE と同等の位置づけで推奨に盛り込まれたことが大きい.

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2017 年10 月に改訂された「肝癌診療ガイドライン」に基づいた肝細胞癌に対する薬物療法では,治療対象は肝外転移のある症例,脈管侵襲のある症例,肝動脈化学塞栓療法にて制御できない4 個以上の肝内多発例である.分子標的薬としては,Child‒Pugh 分類A の症例に一次治療としてソラフェニブまたはレンバチニブが強く推奨されるが,レンバチニブは新たに登場した薬剤であるのでその実臨床での評価は未定である.二次治療としてレゴラフェニブが適応の限られた症例で推奨される.主要脈管侵襲や腫瘍量の多い肝内多発例などの肝内進行例に対しては肝動注化学療法も選択肢となる.現在用いることのできる薬剤を適正に使用し進行肝細胞癌の予後改善を目指す必要がある.

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肝細胞癌に対する肝移植は肝癌診療ガイドライン改訂においても患者条件はChild‒Pugh C,腫瘍条件はミラノ基準が推奨され,これは脳死・生体を問わず肝移植の保険適応である.ミラノ基準から約20 年経過しており,新たな基準も報告されているが,本ガイドラインではエビデンスとしては低く,推奨されるに至っていない.ダウンステージングや肝移植後の再発に対する治療についてもエビデンスの高い新たな推奨はないが,再発予防についてはmammaliantarget of rapamycin 阻害薬による再発抑制効果が示唆されており,本邦でも肝移植後の免疫抑制薬の使用法が再考される可能性がある.

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肝細胞癌は放射線感受性の腫瘍と考えられており,放射線治療はその肝内病巣,肝外転移ともに治療対象とする局所治療である.治療の目的は局所治癒から緩和まで,病態に応じて対応できる幅の広さもある.単独で局所治癒を目指す場合は定位放射線治療あるいは粒子線治療を適用するのがよいと考えられる.局所制御率は約9 割が期待できる.標準治療と併用した3 次元原体照射も有用であり,TACE と組み合わせて門脈腫瘍栓の治療等に適用されている.

4.肝発癌予防 安井 豊 , 泉 並木
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肝細胞癌は正常肝からの発症が少なく,ウイルス性肝炎や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を背景として発症することが多い.背景肝疾患に応じた治療は肝細胞癌発症の予防策として重要であり,核酸アナログ薬はB 型肝炎を背景として発症する肝癌症例に考慮すべき治療である.また,近年進歩が目覚ましいC 型肝炎に対するDAAs 治療についても発癌抑制効果のエビデンスが積み重ねられつつある.一方,NASHを背景とした肝癌に対する予防治療は糖尿病や脂質異常症などの並存疾患のコントロールが重要と考えられており,背景肝への根本治療の進歩は今後に期待される.このように慢性肝疾患においては背景肝に応じた発癌予防が必要である.

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肝細胞癌は根治的治療が行われても,高率に再発する.初回治療後のサーベイランス・再発予防・再発治療はきわめて重要で,患者の最終的な予後に大きく影響する.肝切除後・穿刺局所療法後には,初発時の超高危険群に対するサーベイランスと同様に腫瘍マーカーと画像検査の併用によるフォローアップが推奨される.再発予防法の確立は急務で,ウイルス肝炎に起因する肝細胞癌において,肝切除後や穿刺局所療法後の抗ウイルス療法は,再発抑制や生存率の向上に寄与する可能性がある.再発に対しては,初回治療時と同じ治療アルゴリズムを適用する.肝移植後の再発に対しては可能であれば再発病巣の切除を考慮する.

連載 Dr. 平澤の上部消化管内視鏡教室―この症例にチャレンジしてください

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Jackhammer 食道とは,食道の強収縮に伴い,胸痛やつかえ感,通過障害などを呈する一次性食道運動障害の一つであり,2012 年に改訂されたhigh resolution manometry (HRM)による食道運動異常症の新分類(Chicago 分類)において,新たに提唱された疾患概念である1).Chicago 分類は2015 年にも改訂が行われ,Jackhammer 食道は食道内圧検査でIRP(integratedrelaxation pressure,平均積算弛緩圧)が正常かつDCI (distal contractile integral,食道蠕動波の強さ)が10 回の水嚥下中2 回以上で8,000 mmHg/sec/cm を超えるものと定義されている2).また,HRM を施行された患者のうち,本疾患は5.5%であったとする報告もあり,まれな疾患といえる3).

連載 薬の知識

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炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)の病態には,tumor necrosis factor‒α(TNF‒α)が深く関連している.そのため,多くの抗TNF‒α抗体製剤の開発が積極的に行われてきた.モノクローナル抗TNF‒α抗体インフリキシマブ(IFX)およびアダリムマブ(ADA)はIBD の治療に大きなインパクトを与えてきたことは多くの方々の知るところである.

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超音波内視鏡下穿刺術(EUS‒guided fineneedle aspiration;EUS‒FNA),およびこれを用いた治療EUS を行ううえで,もっとも大切なことは,コンベックス型EUS の解剖を理解していることである.今回と次回では,コンベックス型EUS による胆膵標準描出法について詳述する.

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目次

英文目次

次号予告

編集後記

基本情報

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臨牀消化器内科
33巻6号 (2018年5月)
電子版ISSN:2433-2488 印刷版ISSN:0911-601X 日本メディカルセンター

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