臨牀消化器内科 33巻5号 (2018年4月)

特集 緊急内視鏡の適応と実際

巻頭言 髙橋 寛
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緊急内視鏡の定義は症状の発症から24 時間以内に行う検査・治療であるが,とくに緊急で検査・治療が行われなければ生命予後が左右されるような病態で施行される症例が対象である. 救命・救急における内視鏡の役割として鈴木1)は“rescue endoscopy”の重要性を報告している.この報告を踏まえて,“life‒saving endoscopy in emergency”という概念が提唱された.これは従来の緊急内視鏡(emergency endoscopy)より,さらに救命処置が必要な重症例を対象とした内視鏡検査・治療という意味合いを大きく反映させた表現である.

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消化器領域における緊急内視鏡診断・治療を要するおもな疾患は,消化性潰瘍,静脈瘤破裂をはじめとする上部・下部消化管出血,消化管異物の除去,大腸癌による腸閉塞,S 状結腸軸捻転,胆膵系では総胆管結石,悪性腫瘍による閉塞性黄疸が挙げられる.内視鏡技術・機材性能の向上により,多くの症例で内視鏡で治療を完結することが可能となっている.遭遇頻度の高い疾患を中心に緊急内視鏡治療の実例を示し,診断,治療のコツと留意点を概説する.

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緊急内視鏡は日々の診療で施行する機会が多い.対象疾患は緊急を要し,不安定,かつ重篤な場合もある.緊急内視鏡を安全に,かつ確実に施行するためには適応疾患,緊急内視鏡の禁忌の把握,処置前の十分な問診,診察,検査,またバイタルサインの安定化,出血源予測などが重要である.さらに前処置,鎮静,使用デバイスなどの特徴を把握する必要がある.加えて,内視鏡医単独で処置を行うことは不可能であるため,各施設の緊急体制を確認しておくこと,また設備,人員の把握,内視鏡スタッフ以外にも外科医や放射線科医などを含むほかのスタッフとの連携が必要不可欠である.

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食道・胃静脈瘤出血の診断と治療に緊急内視鏡が重要な役割を担っている.まずは食道・胃静脈瘤内視鏡所見記載基準による発赤所見や出血所見の診断,治療適応の理解が重要である.食道静脈瘤に対する内視鏡治療として,内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation;EVL)と内視鏡的硬化療法(endoscopic injectionsclerotherapy;EIS)が実施されている.とくにEVL は手技の簡便性と確実性から止血法の第一選択となっている.ただし,EVL での治療困難例があり,EIS にも習熟しておく必要がある.胃静脈瘤(Lg‒f)に対してはヒストアクリル® による内視鏡的塞栓療法が止血法の第一選択となりつつある.各施設で経験できる症例が少なく,指導医のもと安全に配慮し実施すべきである.

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ガイドラインに基づき非静脈瘤性上部消化管出血における緊急内視鏡の適応と実際について解説した.上部消化管出血が疑われる際は,まず患者の重症度を評価し,輸液によるバイタルサインの安定化をはかる.次に理学的所見,検査結果から緊急内視鏡検査の適応を検討する.止血術の第一選択は内視鏡的止血術である.さまざまな方法が考案されており,単独あるいは組み合わせて行う.非静脈瘤性上部消化管出血のほとんどの例で内視鏡的止血がコントロール可能であるが,困難な場合はinterventionalradiology( IVR)あるいは外科手術を考慮する.非静脈瘤性上部消化管出血に対する内視鏡での止血率は良好でありプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H2RA)が再出血予防に有用であるが慢性疾患に伴う血管性病変では多発病変からの繰り返す出血により複数回の止血術を要することがある.

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小腸出血の診断はカプセル内視鏡(capsuleendoscopy;CE)とバルーン内視鏡(balloon‒assisted endoscopy;BAE)を中心に行う.2015年12 月に小腸内視鏡診療ガイドラインが提唱された.小腸出血が疑われた場合,まず問診により,年齢,基礎疾患,薬剤内服歴,既往歴などをチェックする.上下腹部造影CT 検査を施行し,腸管内への造影剤の漏出がないか,出血源となる炎症疾患,腫瘍や憩室がないか,またCE 滞留の原因になるような閉塞機転がないかを確認する.CT で異常があればダイレクトでBAE を,CT で異常がなければ小病変を考慮しCE を行う.小腸出血における緊急内視鏡では,持続出血と画像による出血の所見がその適応となる.持続出血は今もまさに出血中,もしくは最後の出血から48 時間以内の場合である.緊急内視鏡によって診断される出血源は血管性病変が半数以上であり,緊急内視鏡時には血管性病変を念頭に検査に臨む.

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急性下部消化管出血の診療において,大腸内視鏡を緊急で施行することは,待機的な内視鏡と比較して出血源の同定率や内視鏡治療移行率の向上が見込まれ,偶発症増加にはつながらない.検査結果を含む来院時の臨床因子から初期評価を行い,緊急内視鏡の適応を判断し,さらに内視鏡時に出血源同定率を上げる工夫をすることで,より有効な緊急内視鏡を目指すことができる.ただし,これまでに緊急内視鏡が再出血率や死亡率の低下につながるという知見がないことは留意すべき点である.

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腸閉塞は急性腹症のなかの1 疾患であり,腸管の機械的/物理的な閉塞,いわゆる機械性イレウスのことである.閉塞部位により小腸閉塞と大腸閉塞に分類される.閉塞部位により治療方法が異なるため,閉塞部位を的確に診断することが重要である.腸閉塞では早急な腸管内減圧が必要である.この際に,緊急内視鏡のもとで腸管内減圧を施行する機会が増加している.具体的には,小腸閉塞では経鼻内視鏡を用いたイレウス管留置,大腸閉塞では大腸内視鏡を用いた経肛門イレウス管留置および大腸ステント留置である.これらの方法で適切に腸管内減圧を施行できることが重要である.

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膵臓関連の救急疾患のうち,緊急での内視鏡処置を要するものとして,胆石性膵炎,閉塞性膵管炎や外傷性膵損傷が挙げられる.胆石性膵炎は急性膵炎の約1/3 と頻度が高く,胆道通過障害が遷延する場合には早期の内視鏡処置が必要である.慢性膵炎に伴う膵石や膵腫瘍により主膵管に閉塞機転が存在する場合,閉塞性膵管炎をきたすことがあるが,時に敗血症を伴うほど重症化することがあり,緊急膵管ドレナージの適応となる.また,外傷性膵損傷においては主膵管損傷の有無が治療方針決定に重要である.その診断法として膵管造影がもっとも有用とされ,早急な判断が求められる.主膵管損傷が存在する場合は膵切除・再建を伴う外科手術の適応となるが,膵管ステント留置による保存的治療が奏効したとする報告もあり,治療においても内視鏡処置が重要な役割を担っている.

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急性胆道炎(急性胆管炎,急性胆囊炎)における緊急ドレナージ治療としては,侵襲性の低さから内視鏡的ドレナージ術が重要な位置づけとなってきている.治療のタイミング,ドレナージ方法に関しては「急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2013」を参考にすべきであるが,患者背景や施設が得意とするドレナージ法を考えたうえで治療を選択することも重要である.なかでもこれまでは内視鏡的胆管ドレナージ術が困難であった術後再建腸管症例やERCP 不成功症例などでは,内視鏡機器の開発に伴い,小腸内視鏡やEUS を用いてのドレナージ術が可能となり,また急性胆囊炎においてもEUS ガイド下ドレナージ術が新たな治療法として展開されてきている.今後このような治療法が標準化されることで,さらなる内視鏡治療が発展することが期待される.

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消化管異物は日常診療で頻繁に遭遇する疾患である.内視鏡的異物除去を行う判断基準はその異物が人体に影響を及ぼすものかどうかである.緊急性が考えられる異物としては,① 消化管壁を損傷する可能性のある形状が鋭利な異物,② 消化管を損傷する可能性のある大きな異物,③ 内容物が消化管内に排出されると人体に重篤な影響が生じうる異物である.異物を除去する場合には先端透明フードやオーバーチューブなどの装具の使用も有効である.今回は具体的な症例として,Press‒Through‒Package(PTP)シート・義歯・魚骨・アニサキス症例を提示する.

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消化管軸捻転は大腸に発生することが多く,とくにS 状結腸に多く発生する.腹部単純X 線写真のcoffee bean sign は有名であるが,CT で穿孔,腸管壊死の徴候がないことを確認する必要がある.徴候があれば手術を考慮する.内視鏡を挿入する際には,少量の送気で愛護的に捻転部を越え,拡張腸管部のガスを吸引し,脾彎曲部まで挿入して直線化する. 胃軸捻転はまれな疾患であり,その多くはCT で診断される.こちらも穿孔,胃壁壊死の徴候があれば手術を考慮する.まずは胃管を挿入して減圧を期待する.送気が過剰にならないように注意しながら内視鏡を肛門側に挿入し,十二指腸下行脚まで挿入して直線化する.いずれも整復後に繰り返す場合は待機的手術を考慮する.

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小児の緊急内視鏡のおもな適応は,活動性消化管出血と異物誤飲である.小児の活動性消化管出血の原因は多様で,全身状態を安定させた後に出血源の同定と止血術が行われる.異物誤飲は,小児科医が対応に苦慮する訴えの一つである.緊急異物摘出術は,症状のある食道異物,すべての食道に滞留したボタン電池が良い適応とされる.基本的な内視鏡操作や治療手技は,小児と成人で同様であるが,体が小さい乳児や幼児では細い機器を選択しなければならない.また,一般的に胃内容物の誤嚥もしくは不安定な呼吸循環動態のため,合併症のリスクが高くなる.重症例では気道の確保,呼吸循環の管理,体動がないという利点から全身麻酔が望ましい.

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高齢者における緊急内視鏡検査において,上部消化管出血はもっとも頻度の高い疾患であり,なかでも出血性胃十二指腸潰瘍の割合が高いが,その成因として薬剤起因性潰瘍の重要性が増している.上部消化管出血患者のなかで,高齢者では非高齢者に比べ,重篤な併存疾患をもつ患者,およびNSAIDs や抗血栓薬を使用する患者が高率に存在する.上部消化管出血に対する内視鏡的止血術の成績は概ね良好であるが,高齢者,とくに重篤な併存疾患を有する患者では,出血イベントをきっかけに併存疾患の悪化により予後不良の転帰をたどる者があり,注意を要する.急性期に予後を予測すること,またそもそも消化性潰瘍出血を起こさせないよう予防することが肝要である.

連載 薬の知識

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炎症性腸疾患は再燃・寛解を繰り返す慢性の炎症性疾患である.近年その治療の開発は進み新たな選択肢が増えている.とくに2000年代に登場した生物学的製剤は炎症性腸疾患の治療体系に大きな変革をもたらした.本稿では,2017年3 月に承認された新規の生物学的製剤であるウステキヌマブについて,クローン病に対する適応,治療法を中心に説明する.

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肝膿瘍の起因菌としてはKlebsiella pneumoniaeやEscherichia coli が知られており,通常この2 菌で全体の2/3 ほどを占める1).一方,少数例ではあるが,口腔内常在菌のFusobacteriumやStreptococcus anginosus group による肝膿瘍も知られている2).これらは嫌気性菌であったり,発育速度が遅く,初代分離時には5~10%炭酸ガス培養や嫌気培養で増殖が促進されるなど培養条件に工夫や困難を有することから,検出の難しい菌とされている. われわれは,抜歯歴のある健常男性の,Fusobacteriumによると考えられる肝膿瘍症例を経験した.治療後半に肺血栓塞栓症を合併し,Fusobacterium 感染に伴うLemierre(レミエール)症候群と診断した点も珍しく,考察を加えて報告する.

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臨牀消化器内科
33巻5号 (2018年4月)
電子版ISSN:2433-2488 印刷版ISSN:0911-601X 日本メディカルセンター

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