臨牀消化器内科 33巻10号 (2018年8月)

特集 十二指腸上皮性非乳頭部腫瘍の診療を巡って―現状と課題

巻頭言 藤城 光弘
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本誌2014 年11 月号で,「十二指腸腫瘍性病変に対する診療の進歩」と題して筆者が編集を担当させていただいたが,約4 年の時を経て,一瀬雅夫先生の手により,新たな十二指腸腫瘍の特集が企画された.今回は,上皮性非乳頭部腫瘍,とくに,内視鏡治療の適応となりうる「早期の」腫瘍性病変を対象とした内容である.1970 年代に多賀須らが,胃透視なしに細径前方視鏡により食道,胃,十二指腸を同時に検査すること(パンエンドスコピー)を提唱して以来,今では当たり前のように,上部消化管内視鏡検査として十二指腸下行部までの観察が行われている.何気なく挿入した下行部で「早期の」上皮性非乳頭部腫瘍に“出くわす”ことがある.食道,胃のように,高危険群や背景粘膜などの解明が進んでおらず,疾患頻度の低い十二指腸では,まさに“出くわす”という表現がぴったりである.

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十二指腸非乳頭部腺腫・癌はまれな疾患であるが,腺腫は近年の内視鏡検査の頻度や精度の上昇に伴い発見例が増加している.腺腫は前癌病変と考えられるが,症例集積からすべての腺腫が癌化するわけではなく,de novo癌などの他の発がん経路も推測される.従来の内視鏡的治療法では穿孔リスクが高く,重篤であることが報告されているが,cold forceps polypectomy,cold snare polypectomy,underwater EMR,D—LECSといった新たな治療法の登場により比較的安全な切除が可能となってきている.

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十二指腸非乳頭部腫瘍はまれな腫瘍であるが,近年,その切除検体数は増加傾向である.十二指腸非乳頭部腫瘍は第1~2部の発生がその大半を占め,肉眼型は隆起型が多い.筆者らは十二指腸非乳頭部における低異型度高分化型上皮性腫瘍の細胞形質発現に基づく診断アルゴリズムを提唱した.鑑別困難な症例があるものの,同腫瘍の病理診断は基本的に胃型形質の有無を中心に判定すればよい.症例数が少なく,また,取り扱いが統一されていないため,その臨床病理学的特徴が明らかになったとは言い難い.症例の集約化およびさらなる解析が必要と考える.

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表在性非乳頭部十二指腸腫瘍(SNADET)はまれな疾患であるが,近年,内視鏡機器の進歩により発見される機会が増加している.しかし,その病態については未だ明らかにされていない.今回筆者らは粘液形質と悪性度の相関について明らかにするため,内視鏡切除したSNADET 138病変を用いて検討した.組織学的異型度は低異型度腺腫と高異型度腺腫/癌の2群に分けて検討した.高異型度腺腫/癌では,低異型度腺腫と比較してMUC5AC (p=0.002),MUC6(p<0.001)発現が有意に多く,CD10(p=0.002),CDX2(p=0.029)発現が有意に少なかった.また,多変量解析で高異型度腺腫/癌のリスク因子として,MUC6 expression (p=0.001)発現が抽出された.SNADETにおける胃型形質発現は高異型度の指標になる可能性が示唆された.

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原発性非乳頭部十二指腸癌はまれな疾患であり,発癌機序は未だ明らかでない.遺伝子変異の特徴としてERBB2,GNASなどの変異やERBB/HER signaling pathwayや,Wnt signaling pathwayの存在が指摘されている.しかし,十二指腸腫瘍には亜型の存在や,解剖学的部位により細菌叢や胆汁刺激なども異なるといった,複雑な要因もあり,それぞれで発癌機序が異なるともいわれている.大腸癌同様に,十二指腸腺腫/腺癌にもadenoma—carcinoma sequenceが成り立つかどうかも明らかでない.当教室では,WHO分類に従い腺管構造別に組織をサンプリングした.それぞれの腺腫,腺癌の遺伝子変異を解析したところ,KRAS変異は低度異型腺腫に対し,高度異型腺腫および腺癌に多く,TP53変異は低度異型腺腫,高度異型腺腫に比べ腺癌に頻度が高い傾向があった.また,明らかな変異の蓄積を示す例は少数であり,adenoma—carcinoma sequenceの関与は十二指腸癌では限定的であると考えられた.一方でAPC変異が腺癌で少なく腺腫で多かったことは大腸癌とは異なるパターンであり,十二指腸癌の進展にはde novo発癌など,他の発癌様式も重要である可能性が考えられた.また,APCのT1556fs変異およびSTK11の変異頻度が高く,これらの遺伝子変異が十二指腸腫瘍の発生に重要な役割を果たしていると考えられた.

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十二指腸の上皮性非乳頭部腫瘍は低頻度ながら昨今発見率が上昇しており,通常内視鏡検査でも十二指腸下行部を油断なく検査し隆起や陥凹,また白色調の色調変化を探す必要がある.色調や腫瘍径,白色の色調変化の分布パターンなどから高異型度腺腫や癌をある程度診断できるが例外もあり,一方で生検診断の正診率も決して高くはなく内視鏡診断を凌駕するものではない.生検により腫瘍直下の粘膜下層の線維化が生じ内視鏡治療が困難になることも報告されており,現時点では内視鏡診断を正確に行うよう努めつつも必要に応じて最小限の生検診断を行い,総合的にSNADETの診断を行う必要があると考えられる.

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十二指腸上皮性腫瘍はまれであるが,近年早期発見例が増加している.しかしながら,その疾患頻度の低さから,標準的な診断や治療法は確立されていない.十二指腸では,非腫瘍性病変が多く存在するために,非腫瘍性病変の内視鏡的特徴を理解することは重要である.腺腫と癌の鑑別診断においては,通常内視鏡診断のみならず術前生検においても困難とされているが,NBIなどの画像強調観察や拡大内視鏡の有用性が報告されている.しかし,内視鏡診断や病理学的診断ともに他の消化管に比し課題解決すべき検証や課題が多く,今後より多数例での検討が必要であり,診断や取り扱いについて一定の基準を確立することが望まれる.

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本稿では腺腫や粘膜下層浸潤までの癌を表在性十二指腸上皮性非乳頭部腫瘍(superficial non—ampullary duodenal epithelial tumor;SNADET)として取り扱い,SNADETの外科治療,とくに縮小手術に関して述べた.腺腫やリンパ節転移のないM癌のうち,腫瘍径が大きいものや,乳頭に近接あるいは表層進展しているもの,遠位に存在するもの,内視鏡操作に制限が加わるもの,などが内視鏡的切除困難病変であり,縮小手術の良い適応となる.十二指腸の縮小手術法には,経十二指腸的切除術(±乳頭切除),全層部分切除術,十二指腸切除術(胃切除併施や膵温存術式を含む),分節切除術(膵温存術式を含む)などが挙げられ,いずれも腹腔鏡補助下アプローチが可能である.また,ESD+腹腔鏡下漿膜側補強縫合という新しい術式も登場している.リンパ節転移の可能性を無視できるSNADETのほとんどで,これら縮小手術が適応でき,膵頭十二指腸切除術が必要な局面は少ない.

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近年,無症状で診断される表在性非乳頭部十二指腸腫瘍(SNADET)が増加している.十二指腸癌の5年生存率は胃癌,大腸癌よりも低く,SNADETの内視鏡的粘膜切除術(EMR)は早期治療の点から重要であり,その適応は原則として一括切除の可否,質的診断,腫瘍径,肉眼型,線維化の有無,年齢等を考慮して判断する.実際のEMR手技では,粘膜下局注,スネアリング,切除後潰瘍への処置など,十二指腸の特性を理解して行うことが必須であり,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を含むSNADETの内視鏡治療においてマスターすべき基本手技である.

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乳頭部を除く表在性十二指腸腫瘍は,従来まれな腫瘍といわれていたが,近年になり内視鏡機器の開発,内視鏡医の技術の進歩および認知度の上昇などによりその報告は徐々に増えてきている.腺腫や粘膜内癌に対しては低侵襲治療が求められているが,その臓器特異性および治療難易度の高さから大型の十二指腸腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は一般化できていないというのが現状かと思われる.われわれの部門では十二指腸ESDの際の工夫としてwater pressure methodおよびstring clip suturing methodを治療および術後偶発症対策として行っている.今後の課題としては治療症例の集約と保険の見直しが必要かと考える.

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表在性非乳頭部十二指腸腫瘍(superficial nonampullary duodenal epithelial tumors;SNADETs)に対する内視鏡治療は,十二指腸の解剖学的な特徴により偶発症が問題となる.内視鏡的粘膜切除術(EMR)や粘膜下層剝離術(ESD),cold snare polypectomy(CSP)が行われているが,治療の標準化に至っていない.われわれは10~20 mmのSNADETsに対する治療として浸水下EMR(UEMR)が有用と考え実践しており,治療の概説を行った.

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これまでは十二指腸の小腺腫は生検などを行いながら経過観察されることが多かった.しかし後になってからEMRやESDを行うと生検瘢痕の影響などで偶発症発生率がさらに高くなり,治療に難渋してしまうことがある.われわれはより早期での治療介入が望ましいと考え,大腸で有用性が報告されているcold snare polypectomy (CSP)を10 mm以下の十二指腸腺腫に対して導入した.当院における後方視的検討の結果,CSPおよびEMRは十二指腸の小さな上皮性非乳頭部腫瘍に対してESDに比べてより短時間でより安全に施行できる可能性が示唆された.

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十二指腸ESDによる遅発性穿孔は他の消化管ESDより高率であり,その理由は潰瘍底に膵液・胆汁が曝露することが挙げられる.予防する方法は潰瘍底を縫縮またはシートで保護するか,膵液・胆汁の体外ドレナージであると考える.クリップ縫縮で潰瘍底を完全縫縮することも有用な方法だが,ESD術後潰瘍底は切除径が大きいためクリップ縫縮が難しい.ポリグリコール酸シートという外科領域では以前より頻繁に使用されている吸収性シートを潰瘍底に敷き詰めてフィブリン接着剤で接着させる内視鏡的被覆法をわれわれは行ってきた.また,膵液は体内でもっとも強力な消化酵素であることより膵液曝露予防が重要と考え,内視鏡的経鼻膵管ドレナージ術を遅発性穿孔予防に行ってきた.本稿では同法の成績と工夫およびその有用性と課題について報告する.

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表在性非乳頭部十二指腸腫瘍(superficial nonampullary duodenal epithelial tumor;SNADET)に対する内視鏡治療(endoscopic resection;ER)は,治療そのものの難易度が高いだけではなく,切除後の潰瘍底に胆汁・膵液が曝露することで生じる遅発性穿孔や後出血が問題となる.したがって,安全にERを行うためには,切除後の潰瘍底を確実に縫縮することが必須である.潰瘍底の縫縮に関してわれわれは,2016年4月よりOTSC®(Over—The—Scope Clip)システムを積極的に導入し,その有用性や安全性について報告してきた.OTSCによる潰瘍底の縫縮は強力かつ簡便であり,遅発性穿孔や後出血といった術後の偶発症に対して有用な手段と考えられる.潰瘍底の縫縮法の一つとして,OTSCの特徴や実際の手技を理解しておくことは,SNADETに対して内視鏡治療を行ううえで肝要である.

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近年,地震,豪雨など各地で記録的な災害が発生しています.1995 年に発生した阪神・淡路大震災以後,災害に対する関心が高まり,さまざまな疾患で対策が必要と認識されています.高齢者や障害者など災害弱者への迅速な対応がまず重要ですが,時間の経過とともに透析,在宅酸素療法,インスリン治療を要する患者などが医療的な災害弱者として問題となってきます.炎症性腸疾患(IBD)では在宅経静脈栄養(HPN)患者,経腸栄養患者,ストーマを有する患者(オストメイト)などがこれらに相当し,災害時支援が必要となることが想定されます.ここではこうしたIBD 患者が被災した際にできる情報提供,今後の課題について述べます.

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B型肝炎およびC型肝炎は,ともに肝炎ウイルスにより引き起こされる感染症であり,持続的な肝炎によって肝硬変や肝細胞癌が引き起こされる.B型肝炎ウイルス(HBV)とC型肝炎ウイルス(HCV)の重複感染は,それぞれが単独で感染した慢性肝疾患に比して進行は早く,その際はウイルス量が多いほうを治療対象とすることが推奨されている.また重複感染の際にHCVに対してインターフェロン・フリー治療を行うとHBVの再活性化が起こることが確認されているが,再活性化の明確な診断基準や治療に関する明確な定義は確立されていない.

今回われわれはHBV とHCV の重複感染に対して治療介入した1例を経験したため提示する.

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腫瘍が免疫チェックポイントを介して免疫細胞からの攻撃を逃れていることが近年の研究で明らかにされ,免疫チェックポイントを阻害して免疫活性を高めることにより抗腫瘍効果を発揮する薬剤が登場した.国内では悪性黒色腫,非小細胞肺癌,腎細胞癌,古典的ホジキンリンパ腫,頭頸部扁平上皮癌,尿路上皮癌に引き続き,2017年9月22日に胃癌に対して,ニボルマブが適応拡大された.現在,悪性胸膜中皮腫,悪性黒色腫の術後補助療法などについても適応拡大が申請されており,すでに日本,韓国,台湾,米国および欧州連合を含む60カ国以上でニボルマブが承認されている.

連載 ESD―手技の工夫

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早期消化管癌に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)はさまざまなデバイスや手技の工夫により低侵襲な手技として確立されつつあるが,出血や穿孔などの偶発症,治療時間の長さが問題となっている.粘膜下層剝離時の良好な視野確保のためさまざまなトラクションデバイスが開発されているが,今回われわれが行っているmagnetic anchorを用いたESDを紹介する.

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目次

英文目次

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第54 回日本肝臓学会総会は2018 年6 月14 日(木),15 日(金)に西口修平先生(兵庫医科大学内科学肝胆膵科 主任教授)を会長として,大阪国際会議場およびリーガロイヤルNCB で開催された.テーマは「肝臓学の変革に挑む―新天地への船出」である.

次号予告

編集後記

基本情報

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臨牀消化器内科
33巻10号 (2018年8月)
電子版ISSN:2433-2488 印刷版ISSN:0911-601X 日本メディカルセンター

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