臨牀透析 29巻10号 (2013年9月)

透析患者の中枢神経系障害

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慢性維持血液透析(HD)患者では脳血流量や脳酸素代謝率が低値である.すなわち,貧血時に上昇すべき脳血流量の代償反応に障害があり,脳酸素代謝率はきわめて低値である.これらはrHuEPOによる部分的な貧血是正によっても改善しない.また,脳血流量は透析期間の長期化に伴って減少し,このことは前頭葉で顕著である.これらの異常の要因としては,慢性的な尿毒症状態による脳神経細胞の代謝障害,動脈硬化症による血流障害,自律神経系障害などによる循環制御機構の異常などが考えられる.通常の透析によって脳血流量は減少し,除水に伴う循環血漿量減少や血液濃縮が寄与している.さらに,透析低血圧や透析後の起立性低血圧発症時には血圧低下とともに脳血流量は急激に減少して意識障害の原因となる.脳を保護する観点からは,適正なドライウエイト設定による血圧安定化を基本に,低血圧例では脳血流量保持効果を有する昇圧薬の使用を考慮することが重要となる.

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加齢とともに脳は萎縮するが,透析患者では,加齢で説明できない機序により脳萎縮が急速に進行することが明らかにされている.その機序としては,脂質異常症や高血圧による脳動脈硬化症,貧血,心不全,アルミニウム毒性,尿毒症物質,血液透析に伴う脳浮腫などの関与が考えられているが,十分には解明されていない.また,認知機能障害も高頻度に認められ,エリスロポエチンによる貧血改善や腎移植への移行によって改善する可能性が指摘されているが,頻回透析による認知機能改善効果はあまり期待できない.脳萎縮や認知機能低下を予防するためには,高血圧,低栄養,貧血,脂質異常症などの是正可能な病態をしっかりと管理することが重要と考えられる.

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心血管疾患(CVD)とは,心疾患,脳血管障害,末梢動脈疾患などを含む概念であり,とくに日本人において脳血管障害はCVDで大きな位置を占める.慢性腎臓病(CKD)では,心疾患のみならず脳血管障害の発症リスクが高い.無症候性脳血管障害(ラクナ梗塞,微小脳出血,大脳白質病変など)は,症候性脳血管障害(脳卒中)に先行する病態であると考えられ,将来の脳卒中,死亡,認知症,ADL低下などの予測因子である.無症候性脳血管障害は,CKD stageとともに合併頻度が高まるため,透析患者で認められる脳血管障害は保存期腎不全からの「持ち越し」であると想定される.いわゆる「脳腎連関」を説明する仮説の一つに「strain vessel仮説」がある.高血圧は脳腎両者に対する共通で最大の危険因子であり,十分な降圧とともに下げすぎにも注意した,適切な血圧管理が重要である.

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日本透析医学会の統計調査によれば2012年度末の透析患者の死亡原因分類では,脳血管障害(7.5%)は,心不全(27.2%),感染症(20.3%),悪性腫瘍(9.1%)に次いで第4位を占めている.透析患者に臨床的によくみられる脳血管障害としては,症候性の脳卒中では,脳出血,脳梗塞,一過性脳虚血発作,クモ膜下出血,慢性硬膜下血腫等が,無症候性脳血管障害では,無症候性脳梗塞,無症候性脳血管閉塞・狭窄,無症候性微小脳出血,大脳白質病変,無症候性未破裂動脈瘤等が列挙される.本稿では,それらの透析患者の脳血管障害のうち主要な疾患に対する診断と対応の要点に関して解説していく.

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透析患者においては薬剤の代謝が変化し,副作用として中枢神経系障害を生じることがある.薬剤あるいはその代謝物の血中濃度の上昇が原因とされるが,血液脳関門の異常も指摘されている.性格の変化,傾眠,異常行動,痙攣,昏睡など多彩な症候を呈する.これらを生じやすい薬剤として抗生剤(セファロスポリン系,ペニシリン系),抗ウイルス薬(抗ヘルペスウイルス薬,オセルタミビル),H2ブロッカーがある.これらの投与にあたっては厳密に投与方法を検討することと,十分な観察が必要である.治療としては投与を中止することが第一で,重篤な場合,血液浄化療法を検討することもある.

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透析患者は腎機能低下に伴う免疫能の低下,および栄養状態の悪化によって感染症の罹患率が高く,重症化しやすい.中枢性感染症(細菌性髄膜炎,ウイルス性脳炎)は,バスキュラーアクセス感染や肺炎などと比べて発症頻度は低いが,罹患すると重篤化しやすく,早期診断,早期治療が非常に重要である.診断の際には,尿毒症性神経症との鑑別が問題となるが,尿毒症性神経障害は透析療法によって症状の改善を見るため鑑別可能であり,中枢性感染症が疑われた場合は,時期を逸することなく画像検査,髄液検査を施行することが必要である.

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透析の目的は,透析患者の生命予後を改善することはもちろんのこと,透析患者の日常生活を維持・改善し,QOLを改善することにある.そのためには,心血管系・脳血管系などの急性期合併症から,その他の慢性期合併症を理解し,適切な対応をすることが重要である.可逆性後頭葉白質脳症(PRES)は高血圧や免疫抑制薬との関連が指摘され血圧上昇や血管透過性の亢進の関与が考えられている.血液透析を受けている患者はこのような状態に比較的陥りやすいと考えられ,意識障害などの発生を見たときは本症の関与を念頭において検査,治療を行う必要があると思われる.

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尿毒症や慢性炎症のほか,視床下部に作用するレプチンやグレリンなどの内因性ホルモン物質が透析患者の食欲低下に関与する.さらに,食事制限や透析により一部の微量元素やビタミンは喪失する.微量元素,ビタミン欠乏による中枢神経系障害のなかで,ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症はもっとも重要であり,頭部MRIなどに異常がなくても,軽度の意識障害,複視,歩行障害など疑われる神経症状があれば,ビタミンB1の血中濃度の結果を待たずに速やかにビタミンB1の静脈投与をすべきである.

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透析患者における認知症の有病率は,一般人口調査の結果に比較して高く,とくに周辺症状は治療とケアの際に大きな問題になる.周辺症状の治療とマネジメントでは,非薬物療法と十分な社会的支援が中心になり,薬物療法は補助的な手段として用いられる.周辺症状に対する非薬物療法の基本は,できるだけよい身体状態を保つこと,身体的自覚症状の緩和,よい感情的交流を保つこと,無用の刺激を避けることなどであり,そのうえで,個々の患者ごとに,透析中に生じる周辺症状をよく観察し,それに基づいて対策を工夫することが重要になる.

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認知症透析患者は,中核症状や周辺症状により,CKD保存期を上手く管理できないことや透析導入や維持透析治療の継続に困難をきたすことがある.中核症状と周辺症状を察知する力とコミュニケーション能力がスタッフに求められる.また,療法選択時には,日常生活に協力できるキーパーソンの存在は重要である.認知症症状出現前に透析室看護師が患者・患者家族と信頼関係を築き統一した関わりを継続することが,認知症の進行防止の要素となりうる.透析治療を維持するためには,周辺症状により発生する危険防止に努めることが重要である.家族の負担軽減に努め,患者の住み慣れた環境を維持する地域包括的な関わりも重要である.

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脳卒中急性期を経て退院し,在宅・在所復帰を成し遂げた外来透析患者に焦点を当て,retrospectiveにその傾向を分析し,患者・家族の望む社会復帰の生活像に近づけるためわれわれが提供すべき事項を検討した.介護保険利用可能者は,全患者に比べて脳卒中既往患者において有意に高く,介護保険利用状況では要介護2・3が有意に高かった.また,2010年に発症直後のKDQOLを評価し,現在再評価しえた症例で検討したところ,包括的尺度で下降する傾向であったにもかかわらず,「日常役割(身体)」と「日常役割機能(精神)」は有意に上昇していた.これはリハビリなどにより身体機能が改善した結果,活動時間が増加した効果と考察する.よって,われわれが留意すべき事項は,(1)早期からの十分な介護保険の利用,(2)要介護2・3取得を念頭におき主治医意見書作成,(3)通常より患者家族との信頼関係を構築する,と考える.

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エポエチンβペゴル(C.E.R.A.)の基本の投与頻度を2週に1回とした場合のHbの動き、C.E.R.A.投与量の変化を検討した。9ヵ月間継続して経過をみることができた血液透析患者71例を対象とした。エポエチンβ、ダルベポエチンαから換算式を用いてC.E.R.A.に切換えた。Hbが目標値内に収束する傾向を示し、経時的Hb変動幅は減少した。C.E.R.A.の使用量は減少した。ヘモグロビンサイクリングの傾向を減少させ、安定化することができた。鉄動態は、フェリチンが上昇していることから、持続的な鉄剤投与により貯蔵鉄は増加したが、T-SATの上昇はごく軽度で、MCVはむしろ有意に低下していたことから、投与した鉄の量は過剰ではなかったと考えた。投与開始からMCVは低下し、透析患者にありがちな大球性貧血が改善しているという可能性が示唆された。ESAに有意に変化は認めなかった。

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68歳男。定期検査で肝障害を指摘され、精査目的で入院した。腹部CTで肝内胆管と主膵管の拡張、膵頭部腫瘤を認めた。膵頭部癌による胆道閉塞に基つく肝障害と診断した。入院第3病日、発熱と黄疸を認めた。閉塞性化膿性胆管炎に対し胆管ドレナージ術を予定したが同意が得られず、保存的にスルバクタム/セフォペラゾンの投与で経過観察した。翌日、黄疸の増悪と腹痛に加え、高熱が出現した。内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査で総胆管と主膵管の途絶を認め、経皮経肝胆管ドレナージ術を施行した。入院第7病日に中心静脈栄養を開始したが、翌日より心拍数100回/min、収縮期血圧50mmHgとなり、炎症反応の上昇を認めた。MRSAによるCRBSIを疑い、バンコマイシンを追加した。重症敗血症によるショック状態で、エンドトキシン吸着および血漿交換療法を施行し、病状の改善がみられた。

基本情報

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臨牀透析
29巻10号 (2013年9月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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