臨牀透析 29巻11号 (2013年10月)

わが国におけるAKI診療の現状と課題

AKIの疫学 加藤 明彦
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ここ10年間,AKI(acute kidney injury)患者は増え続けている.海外からの報告によると,一般人口において透析治療の不要なAKI患者は人口10万人当り200~500件/year,透析治療が必要なAKI患者の発症頻度は人口10万人当り20~30件/yearである.われわれの検討では,透析治療が必要なAKI患者は人口10万人当り13.3人であり,米国やスコットランドからの報告とほぼ同じであった.また,入院患者においては,AKIの罹患率は毎年10%ずつ増えており,とくに75歳以上の高齢者や男性においてAKIを発症しやすい.ICU入室患者では10~60%でAKIを合併しており,とくに敗血症患者で高率に合併している.AKI患者の生命予後は悪く,長期的には末期腎不全の危険因子である.さらに,AKI治療には高額な医療費がかかることなどより,いかに早くAKIを見つけ,AKIのステージの進行を抑制するかが重要な課題である.

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2012年3月,KDIGO(Kidney Disease:Improving Global Outcomes)がRIFLE(Risk,Injury,Failure,Loss,End-stage kidney disease)分類およびAKIN(Acute Kidney Injury Network)分類をまとめた形でAKI(acute kidney injury)の定義を改定し,AKIガイドラインを作成した.その特徴としては,AKIN分類同様に,48時間以内での0.3mg/dL以上の血清クレアチニン(Cr)上昇をAKIと定義している点に加え,RIFLE分類の7日間以内の血清Crの1.5倍以上の上昇が加わっている点である.今回,今までのAKIの定義の流れや改変されたKDIGOガイドラインについて簡単に述べる.

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AKI(急性腎障害)は急性期入院症例の5%程度に合併する臓器障害であり,院内死亡や入院期間延長と有意に関連するのみならず,慢性腎臓病(CKD)への移行・進展に対しても大きく寄与しうる予後不良の疾患である.周術期においてAKI発症頻度は高く,とくに心臓血管手術術後症例ではさらに頻度が上昇し,予後も不良となる.術後AKIのリスク因子の同定,早期診断バイオマーカーの性能評価が精力的に行われているが,今後は得られた知見をもとに画期的な術後AKI治療戦略の開発が進むことが望まれる.

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本稿では,薬剤性腎障害の分類について総括し,抗癌剤・抗菌薬・非ステロイド系消炎鎮痛薬によるAKIの新規バイオマーカーを用いた早期診断,薬物モニタリング,補液によるAKIの予防などについてAKI診療の現状を考察する.

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2012年には造影剤腎症に関わるガイドラインが二つ発表された.一つは「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン」であり,もう一つはKDIGOの「急性腎障害ガイドライン」である.前者は造影剤腎症はヨード造影剤使用後,72時間以内に血清クレアチニン値(sCr)が前値より0.5mg/dL以上または25%以上増加した場合と定義され,後者は48時間以内のCr 0.3mg/dL以上ないし50%以上の増加と定義している.いずれにせよ,早期から経時的なsCr評価を行うことが重要である.予防法は,生理食塩液もしくは等張性重炭酸水素ナトリウム液を造影剤投与の前後に補液する.本稿では造影剤腎症に関する現状,今後解決すべき問題点について概説する.

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感染症,とくに敗血症に伴う急性腎障害(acute kidney injury;AKI)は予後不良であり,予防や早期発見・早期治療が求められている.近年,新規尿中バイオマーカーが注目されており,そのなかで尿中liver-type fatty acid-binding protein(L-FABP)は本邦の保険診療で用いることが可能である.予防および治療には,early goal-directed therapyが有用であることが知られており,集中治療室での基本的な治療となっているが,体液過剰はAKIの予後不良因子であり,輸液過多には気をつける必要がある.適切な腎機能代替療法は予後を改善する可能性がある.

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急性血液浄化療法への導入・中止の判断についてはこれまで明確な「診療ガイドライン」は示されてこなかった.本稿では,最初に導入・中止に関する教科書の記載を概説した.急性腎不全から急性腎障害への用語の変化と,AKINによる急性腎障害の定義と病期分類への流れを述べたあと,この定義を用いた研究の集積としてのKDIGOによる急性腎障害診療ガイドラインにおける腎代替療法の導入と中止に関するステートメントを紹介した.AKIN分類の導入による今後の診療経験の蓄積と介入研究の成果を取り入れた,診療に役立つエビデンスに基づく急性腎障害診療ガイドラインの作成が待たれる.

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KDIGOガイドラインに示された急性血液浄化法に関する推奨項目を紹介し,わが国の急性血液浄化法の現況と比較した.血液浄化法の選択やバスキュラーアクセスに対する考え方には大きな違いはなかった.抗凝固薬は欧米ではナファモスタットが,わが国ではクエン酸が抗凝固薬として使用できない状況にあるため,推奨内容はわが国の現況とは大きく異なっている.透析液/置換液や透析膜についてはわが国の現況で大きな問題はないが,サイトカイン除去を企図した透析膜の選択についてはさらなる研究を要すると考えられた.わが国の急性血液浄化法施行時の浄化量については保険診療の制限から欧米のガイドラインに比して圧倒的に少なく,今後の課題である.

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AKIに対する薬物治療について,KDIGOのガイドラインにおいて,高いエビデンスレベルをもって推奨されている薬剤はない.利尿薬は実臨床でしばしば使用されるが,短期的に尿量を増加する効果が認められているものの,長期的な予後を改善させないとされ,体液量過多のとき以外には使用が推奨されていない.心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)に関しては,低血圧を引き起こす可能性があるものの,少量をAKI初期から持続的に用いることで,予防や治療に役立つ可能性があり,さらなる臨床試験が望まれる.

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KDIGOのAKI(急性腎障害)に関するガイドラインには栄養管理についての記載もあるが,この領域の性質からエビデンスレベルの高いものではない.しかしながらこれまでと異なり,処方についての具体的な数値が記載されているためにこれを日常診療に活かすべきである.わが国のAKI治療においては栄養管理に対する意識が非常に低く,数値を云々できる状態にない可能性がある.腎臓専門医がAKI症例のコンサルトを受けたら,必ず栄養状態の評価と処方調整を行うべきである.

AKI後の長期管理 伊藤 純 , 西 慎一
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近年ではAKI(acute kidney injury)の頻度は年々増加している.AKI症例の予後はその原因により大きく異なり,集中治療室症例において多臓器不全の一症候として出現する場合の致死率は約50%という報告もあり,非常に不良である.一方,腎前性もしくは腎後性AKIや,薬剤によるAKIなどではその原因を除去することにより腎機能は回復することが多く,腎予後,生命予後とも比較的良好と考えられてきた.しかし,近年,AKIはCKD,末期腎不全の重要なリスクファクターであり,AKI発症後にいったん腎機能が回復した症例においても,長期間の観察により,腎予後,生命予後への影響が明らかにされてきている.

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症例は60歳代男性で、3ヵ月前に右鼠径ヘルニア嵌頓に起因する閉塞性腸炎による穿孔で、結腸右半切除・人工肛門造設が行われたが、腎前性と思われる急性腎障害(AKI)が生じ、一時血清クレアチニンの高値を認めるも退院時に回復した。また、HbA1c:8.0%のためインスリン治療が導入された。今回、嘔吐の繰り返しで受診し、イレウス疑いで入院となった。腹部膨満、脱水徴候が認められた。CTで胃、小腸の著明な拡張を認め、両腎とも腸管による圧迫でサイズは縮小しており、イレウスと診断した。入院後は無尿、血清クレアチニン6.11mg/dLでAKIと診断した。輸液を行うも無尿が続き、2日目より持続式血液濾過透析(CHDF)を開始した。CTで入院前に比べ両腎の容積縮小を認め、胃管挿入で減圧を図り、翌日迄に3400mLの排液を認め、腎の圧迫は徐々に解除され、尿量も徐々に増加した。8日目に血液透析を離脱し、全身状態が改善して35日目に退院した。

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症例は72歳男性で、61歳時より糖尿病性腎症による慢性腎不全で透析療法となり、両側後天性多発嚢胞腎(ACDK)の状態であった。63歳時に二次性甲状腺機能亢進症で副甲状腺亜全摘術の既往があった。今回、左背部痛で受診し、脊椎疾患疑いで整形外科に入院となったが、Hb値低下で緊急CTにて左腎周囲血腫を認め、当科に転科した。造影CTで両側腎多発嚢胞を認め、左腎後外側を中心に血腫が認められた。出血源となる所見はなく、血腫は腎被膜内にあると思われ、Gerota筋膜内に留まってタンポナーデ状になっていると考えられた。ACDKに合併する腎癌からの出血を疑い腎摘除術を勧めるも患者・家族は保存的治療を希望し、血液透析と輸血にてHb値の改善を認め、CT上血腫の増大を認めず、14日目に退院した。退院後3ヵ月間のフォローアップCTで血腫の縮小傾向が認められた。

基本情報

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臨牀透析
29巻11号 (2013年10月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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