The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 54巻8号 (2017年8月)

特集 電気刺激療法—最新の知見と展望—

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 電気刺激療法は,運動機能再建を行う機能的電気刺激,随意運動回復を促す治療的電気刺激,CI療法・促通反復療法・ボツリヌス療法などとの併用療法,さらに内部障害や尿路機能など内臓機能障害に対する刺激療法まで,応用範囲は多岐にわたります.刺激装置も,近年実用的で使用しやすい製品が増えてきました.そこで,各専門分野の第一線で活躍されている先生方に,さまざまな電気刺激療法に関する最新の知見と将来展望についてご寄稿いただきました.本特集を契機に,電気刺激療法がよりいっそう臨床の場で活用されることを願っています.

▷ 担当:松永俊樹,企画:編集委員会

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要旨 機能的電気刺激(FES)は,中枢神経障害による運動麻痺に対し,プログラムされた刺激による機能再建を行う治療法である.適応として,脳卒中・脳外傷,脊髄損傷,脳性麻痺,多発性硬化症などがあり,治療効果のエビデンスも豊富になりつつある.FESは,上肢用では手指把持動作再建,下肢用では麻痺性内反尖足・下垂足の歩行再建などが可能であり,表面電極システムを中心に臨床的に十分利用可能な実用的な製品がある.今後は費用面での患者家族負担が軽減されるよう,公的支援の拡充に期待したい.

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要旨 機能的電気刺激の慢性期脳卒中片麻痺下肢に対する効果を考える際には,効果を時系列と,機能的電気刺激の装着の有無により,即時効果,訓練効果,治療効果,複合効果の4つに分けて考えるとよい.本稿では3つの多施設共同無作為化前向き比較研究に関して10m歩行試験を中心に検討した.4つの効果ともにそれぞれ臨床的に意味があるが,AFOと比較し有意とはいえなかった.現状では脳卒中片麻痺でfoot dropを呈する患者に対し,機能的電気刺激を用いるとAFOと同等の歩行能力の改善が得られるといえる.今後は,効果のメカニズムの検討や病態に応じた機能的電気刺激とAFOの使い分けを検討した報告が望まれる.

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要旨 Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation(HANDS)therapyは,脳卒中片麻痺患者における上肢機能を改善させる目的に開発された新たな治療法で,随意運動介助型電気刺激装置と上肢装具を1日8時間装着し,3週間行う治療である.中等度〜重度の上肢麻痺において有意な上肢機能の改善ならびに日常生活での実用性を改善させることが可能である.機序に関しても脊髄相反性抑制の改善,運動野皮質内抑制の脱抑制などが電気生理学的に確認されている.近年は外来でのプログラムも開発され,またbrain machine interfaceとの併用により,重度片麻痺患者においても実用性の改善が認められている.

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要旨 脳卒中リハビリテーションの歴史の中でも強いエビデンスを有するconstraint-induced movement therapy(CI療法)に電気刺激が併用されたのは,対象症例におけるさらなる機能改善や元来のCI療法適用基準外症例(より重度な麻痺を呈した症例)への適応を目指したためである.実際に併用されている「電気刺激」は,経頭蓋直流電気刺激(tDCS)と筋電誘発電気刺激(ETMS)が多く,慢性期脳卒中患者に対しては,臨床運動機能評価における改善が比較群と比べて介入前後で大きくなる傾向があることを示している点において結果は統一的である.

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要旨 促通反復療法は,促通手技による意図した運動の実現とその集中反復により運動性下行路の再建,強化を目指した新たな運動療法で,主に軽度から中程度の片麻痺に対して良好な治療成績が得られている.一方,重度麻痺や痙縮などのために麻痺肢の随意性が低い場合,促通反復療法と他の治療法との併用療法が重要となる.われわれは低振幅の持続的低周波電気刺激と促通反復療法との同時併用,すなわち,わずかに筋収縮を生じる程度の神経筋電気刺激下に促通反復療法を行う方法を考案し,特に中重度の片麻痺に対して応用している.本法は患者の麻痺の程度や回復段階に応じて電気刺激強度を調整することで促通反復療法の適応を広げることが可能と考えられる.

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要旨 ボツリヌス療法は局所の痙縮の抑制を目的として行われる治療法であり,本邦では四肢痙縮に対して広範に使用可能である.また,痙縮の抑制には電気刺激も用いられており,「脳卒中治療ガイドライン2015」においても,両者の記載がみられる.ボツリヌス療法と電気刺激を併用するときには,①ボツリヌス療法の痙縮抑制効果をさらに増強させる,②ボツリヌス療法により痙縮を抑制し,電気刺激によって筋力増強,機能改善を目指す,③①と②の両者を目指す,の3通りが考えられる.電気刺激の併用によりボツリヌス療法の痙縮抑制効果は増強するようであるが,まだ十分なエビデンスがあるとは言い難いのが現状である.

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要旨 リハビリテーション医学は物理療法(physical therapy)とともに発展してきた.電気刺激療法は物理療法の1つである.電気刺激療法は骨格筋に対して最初に臨床応用され,治療と機能回復に用いられている.治療を目的とした治療的電気刺激(therapeutic electrical stimulation:TES)と,機能回復を目的とした機能的電気刺激(functional electrical stimulation:FES)は厳密に区別される.電気刺激療法は,筋力増強や鎮痛,麻痺筋の機能制御などに使用されるが,運動障害以外にも創傷治癒促進や排尿機能改善,嚥下機能改善に用いられる.また,筋肉を刺激することで疑似的に運動した効果が得られ,糖や脂質代謝を活性化し,肥満や糖尿病,サルコペニア,寝たきり患者にも適応が拡大されている.

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要旨 下部尿路機能障害に用いられる電気刺激療法(神経変調法:neuromodulation)には,骨盤底電気刺激療法,干渉低周波療法,体内植え込み式の仙骨神経電気刺激法などがあるが,本邦では,干渉低周波療法に保険適用がある.電気刺激療法のメカニズムは,腹圧性尿失禁に対しては,骨盤底筋群の収縮性の増強,切迫性尿失禁に対しては,主に仙髄領域の求心路刺激による排尿反射の抑制によると考えられている.電気刺激療法の尿失禁に対する有効性は,治癒30〜50%,改善60〜70%と報告され,dummy(プラセボ)装置を使用した二重盲検試験によりその有効性も裏づけられている.非侵襲的な刺激法として,磁気刺激療法が開発され,2014年に保険適応となった.仙骨神経電気刺激法は,侵襲的であるが,難治性の過活動膀胱の治療として注目されており,保険適用となる予定である.

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 2013年9月7日,ブエノスアイレスで開催された国際オリンピック委員会総会において,2020年に東京でオリンピックとパラリンピックが開催されることが正式に決定した.オリンピックと同様,日本で開催される2回目の夏季パラリンピックとなる.最初に日本で開催されたパラリンピックは,1964年の東京オリンピックの年に東京で開催されている.実は,このパラリンピックは,第1回のローマ大会に続く第2回大会であり,パラリンピックという名称も日本で考案されている.ちなみにパラリンピックという言葉は,もともとはパラプレジアとオリンピックを合わせて作った言葉であるが,現在はパラレルとオリンピックを合わせた「もう1つのオリンピック」という意味で使用されている.この東京で行われた第2回大会から約半世紀ぶりに再び,東京でパラリンピックが開催される.2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて国民の関心が高まっている今こそ,障がい者スポーツを振興させ発展させる絶好の機会である.

 日本リハビリテーション医学会では,inclusive society(寛容社会)の実現を目指した社会貢献の1つとして,「障がい者スポーツの振興やパラリンピックへの貢献」を掲げている.もともと障がい者スポーツは,治療スポーツとして障がい者の機能回復を行うリハビリテーションの1つとして,イギリスのストークマンデビル病院のグットマン博士が取り入れたことから始まっている.リハビリテーションとしての障がい者スポーツを通して多くの障がい者が社会復帰を果たした.さらに障がい者スポーツは社会復帰を果たした障がい者の健康維持増強のための生涯(健康)スポーツへと広がり,近年では競技スポーツのレベルへと発展し,障がい者の生きがいの1つとなり,一部では職業(プロ)スポーツとまでなっている.障がい者スポーツは,障がい者の機能回復と活動の改善を図り,障害を克服し全人間的復権を進めるリハビリテーション医療において,その一部であるといっても過言ではない.つまり,われわれリハビリテーション科医がかかわっていくことは当然である.しかも,健常者と違いさまざまな医学的な問題を抱えている障がい者にスポーツを推進するためには,障がい者に精通しているわれわれリハビリテーション科医による医学的サポートが重要である.

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はじめに

 手は小さな領域に複雑な解剖学的構造を有しているため,臨床症状を説明できる病態を把握しづらいことがある.外傷が契機となり,慢性的な疼痛や可動域制限,筋力低下などの臨床症状が生じることがある.中でも,外傷による拘縮,骨壊死,骨折変形癒合,関節軟骨欠損,ヒト咬創,コンパートメント症候群,高圧注入損傷などの特殊な労働災害は,大きな機能障害へ至ることが多い.

 適切な初期治療が予後を左右することについては疑う余地がない.急性期に行うべき処置(洗浄,デブリドマン,減張切開,徒手整復術,創外固定など)については,迅速な判断と行動を要求されることが多く,知識と経験が必要である.リハビリテーションを急性期から介入することは重要である.タイミングを見極めながら可動域訓練を自動,自動介助,他動へと進め,筋力強化を等尺性運動,等張性運動,抵抗運動へと進めていく.苦痛を軽減させるために水治療法や温熱療法などの物理療法を併用し,ダイナミックスプリントなどの装具を活用する.

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サルコペニアとは

 高齢になると,多くの人で筋肉はやせ,筋力の衰えを実感する.このような加齢による筋肉の減少をサルコペニアと呼ぶ.サルコペニアという言葉は,1989年Rosenberg1)によって提唱された造語であり,ギリシャ語でsarcoが筋肉,peniaが減少,消失という意味である.日本語訳では,加齢性筋肉減少症をはじめ,さまざま提唱されたが統一されず,現在はサルコペニアというのが一般的である.サルコペニアの定義は,2010年のヨーロッパのサルコペニア研究班において,「骨格筋量と筋力の進行性かつ全身性の低下に特徴づけられる症候群で,身体機能障害,QOLの低下,死のリスクを伴うもの」とされた2).Landiら3)は,70歳以上のナーシングホーム居住者122名のサルコペニアの有無による死亡率を調査し,サルコペニアではない高齢者に比較し,サルコペニアでは2.34倍死亡率が高いと報告した.骨格筋量では,加齢により上肢より下肢筋肉量の低下が著明であり,85歳以上では18〜24歳の成人の約60%まで低下する.筋力でも同様に,下肢で低下が著しく,70歳以上では,20歳代の約50%まで低下する4).握力など上肢筋力は比較的保たれる.高齢者では,身体機能としてバランス能力も著明に低下し,開眼片脚起立時間では,70歳を超えると平均で20秒,80歳で10秒になってしまう5).サルコペニアは,高齢者の健康寿命を考えるうえで非常に重要な疾患である.

連載 参加してためになる国際会議・第7回

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▶ 会議の概要

 American Society of Neurorehabilitationは神経リハビリテーション分野の発展による専門的研究の必要性の高まりの声を受け,1990年に組織された比較的新しい学会であるが,その対象は慢性期の神経疾病に対するリハビリテーションに関する基礎的検討から臨床応用までと幅広い.近年の神経リハビリテーション分野の発展と注目の高さから,学会誌である「Neurorehabilitation and Neural Repair」に発表される論文のレベルも急激に上昇しており,Journal Citation Report 2015年版で4.086とrehabilitation分野で最も高いimpact factorとなっているなど,まさに神経リハビリテーションの分野をリードする学会といえる.

 2013年から,年次集会は秋の米国神経科学学会(Annual Meeting for Society of Neuroscience;Neuroscience Meeting)のサテライトイベントとして開催されており,2013年はサンディエゴ,2014年はワシントンD.C.,2015年はシカゴ,2016年は再びサンディエゴで開催されている.参加者数も2013年には191名であったのが,2014年には217名,2015年には257名と年々増加傾向であるが,比較的小さな会場で全米のみならず全世界から参加している著名な先生方と身近にディスカッションできる機会も多い.参加者の内訳を見ると,約半数は臨床家,30%は研究者,大学院生と関連職種からの参加が約10%程度となっており,学術色の高い学会であるといえる.

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要旨

目的:立位での一側下肢への側方体重移動における腰背筋群・足部周囲筋の役割を解明する目的で,側方移動中の姿勢変化と腰背筋群・足部周囲筋の筋活動パターンを検討した.

方法:対象は健常男性24名(24.3±2.6歳).直立位から2秒間で側方移動させ,そのときの足底圧中心(COP)と両側多裂筋・腸肋筋・最長筋,移動側足部内反筋群・腓骨筋群の筋電図波形,ビデオ画像を計測した.

結果:骨盤は水平移動した後,COPの移動側変位途中から非移動側挙上を生じた.下肢では側方移動に伴い移動側足部回内による下腿の外側傾斜を生じた.このとき,COPが移動側へ変位する途中から非移動側多裂筋・腸肋筋・最長筋,移動側足部内反筋群・腓骨筋群の筋活動が増加した.

結論:非移動側多裂筋・腸肋筋・最長筋は骨盤非移動側挙上に対する胸腰部非移動側側屈に関与した.このとき,足部内反筋群・腓骨筋群は足底接地した状態での足部回内に関与した.

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はじめに

 脊髄損傷(脊損)の再生医療について次号にかけて概説する.本項ではまず総論をまとめ,次項ではリハビリテーションとの併用に関して述べる.

 脊損に対する細胞移植療法は,胎児脳組織やES細胞由来の神経幹前駆細胞(neural stem/progenitor cell:NS/PC)移植による運動機能回復の報告をさきがけとして隆盛してきた.わが国では余剰胚や中絶胎児の組織の利用は倫理的側面から臨床応用は許容されないため,人工多能性幹(induced pluripotent stem:iPS)細胞が大きな期待を集めている.われわれは京都大学との共同研究で,マウス亜急性期脊損モデルへのヒトiPS細胞由来NS/PC移植を行い,運動機能回復の促進,運動誘発電位の改善,必要な神経系細胞への分化,ドナー細胞とレシピエント細胞間でのシナプス形成などの種々の有効性を示す所見を報告し,臨床治験を開始する準備を進めている1).この他の細胞種としては,骨髄間質細胞(bone-marrow stem cell:BMSC)や嗅粘膜細胞などが注目されている.前者は特に高い間接効果(後述)が,後者は軸索再生の誘導や再髄鞘化などが報告されている.いずれも自己骨髄幹細胞移植や同種骨髄間質細胞から樹立された細胞製剤,自家嗅粘膜移植といった形ですでに治験のレベルまで実用化が進められている.

リハニュース【医局だより】

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 順天堂大学大学院医学研究科リハビリテーション医学は,東京都心を中心に6病院合計3,200床を超える大学病院群のリハビリテーションを担う国内最大級のリハビリテーション部門です.大学病院以外にも関東一円の回復期リハビリテーション病院ならびに在宅医療施設などの11施設を連携施設としています.2017年1月より2代目教授として筆者が着任し,新体制でのリハビリテーション科がスタートしました.

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 2017年6月8日(木)〜10日(土)に第54回日本リハビリテーション医学会学術集会が,椿原彰夫大会長(川崎医療福祉大学 学長)のもと,岡山市の岡山コンベンションセンターをメイン会場として岡山県医師会館,岡山シティミュージアム,岡山国際交流センター,ANAクラウンプラザホテル岡山,そしてホテルグランヴィア岡山において開催されました.学術集会のテーマは「エビデンスに基づく地域包括ケアシステムの推進」でした.わが国では2025年には4人に1人が75歳以上の高齢者という超高齢者社会が到来します.その社会的,経済的そして医学的な方策についての理想形として地域包括ケアシステムの構築が始められています.学術集会において,その成果をエビデンスとして提示し,方向性を打ち出す契機となることを期待する大会長の思いがこのテーマに込められていました.

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The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine
54巻8号 (2017年8月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1881-3526 日本リハビリテーション医学会

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