The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 54巻9号 (2017年9月)

特集 嚥下障害に対する新たなアプローチ

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 摂食嚥下障害はリハビリテーション科医および関連専門職種が中心的な役割を担う分野であり,精力的な研究が進められてきています.近年,その病態機序に対する理解が進み,さまざまな評価法や治療法などが開発されてきたことで,嚥下障害に対するアプローチは飛躍的進歩を遂げています.本特集では,摂食嚥下障害に対するさまざまな技術革新とその臨床応用について第一線の先生方にご解説いただきました.本特集が,先生方の日常診療のお役に立てれば幸いです.

▷ 担当:三原雅史,企画:編集委員会

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要旨 リハビリテーションは障害を扱う医学であるが,その捉え方扱い方は歴史的に変化している.現在はICFに基づいており,評価や訓練が計画され,運動学習の視点が重視され,新たな機器の導入もあり進歩がみられている.評価には診断だけでなくその後の治療を念頭に置いた治療的評価が必要である.スクリーニングと精密検査の違いと意味をよく理解して訓練を組み立てることが大切である.訓練では従来の代償法主体から,運動学習の理論に基づいて機能回復を目指す訓練が導入され,成果を上げている.予後予測をしながら明確なゴールをめざして行うリハビリテーションが大切である.

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要旨 嚥下運動は高度に組織化されたsequentialな運動であり,随意的要素および不随意的要素が混在したものである.その神経系のプロセスとしては,口腔内をはじめとする感覚入力,食認知・食欲を含めた認知機能,さまざまな情報の統合・分析,感覚フィードバックを含む嚥下運動,の要素からなり,延髄のみならず大脳も関与している.臨床的には,このプロセスの異常の部位によって,異なるパターンの嚥下障害をきたすことが知られている.現在の医学では,嚥下障害の治療およびリハビリテーションは困難を極めることが多いが,嚥下運動の神経学的メカニズムのいっそうの解明により,新たな治療法・リハビリテーション法の開発が期待される.

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要旨 摂食嚥下関連筋の形態や嚥下運動を超音波装置を用いて評価する方法が数多く報告されている.超音波検査は筋,軟部組織の描出に優れており,また場所を選ばず施行することができる.筋の形態評価では,舌,舌骨上筋群の,嚥下運動については舌や舌骨の運動報告が多い.嚥下造影検査(VF)のように食塊の移動と嚥下運動を全体として捉えることは困難であるが,その特質を生かした臨床応用が期待される.今後の知見の積み重ねに期待したい.

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要旨 嚥下障害の評価としては,嚥下造影検査,嚥下内視鏡検査が標準的である.これらの検査は,臨床場面で広く用いられており,食塊の通過の確認,すなわち誤嚥の有無や咽頭残留を評価するのに適した評価法である.しかし,嚥下関連器官のダイナミックな三次元的評価や嚥下障害の神経生理学的機序を正確に捉えるには不向きである.これらを補完する検査法として,320列area detector CT(320列CT),高解像度マノメトリー,筋電図などがある.320列CTは最も新しく登場した検査法であり,嚥下動態の立体的動態の描出が可能となり,最近の嚥下動態の理解と機能評価にブレークスルーをもたらした.本稿では,320列CTの登場によってもたらされた嚥下動態の解明,日常臨床での嚥下評価について,いくつかの具体例を挙げて紹介する.

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要旨 極薄型の舌圧センサシートを口腔内に貼付することにより,自然な嚥下時の舌圧を多点で測定することができる.舌圧の持続時間,最大値,順序性,左右バランスなどのパラメータの変化は,脳卒中,神経筋疾患,口腔中咽頭がんなど各疾患特有の舌のmotor controlの異常と関連しており,不顕性の嚥下機能低下を捉えるうえで有用である.また,嚥下時舌圧データは,嚥下手技の舌に対する効果検証や,患者個々の舌機能に応じた食品性状の設定に応用することによって,摂食嚥下リハビリテーションにおけるさまざまなアプローチの合理化や効率化に貢献する可能性をもつと考えられる.

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要旨 リハビリテーションの分野において,電気刺激療法は鎮痛や筋力強化などの目的で古くから使用されてきた.筋力強化をめざした電気刺激療法は,脳血管疾患患者の摂食嚥下障害に対する理学療法として浸透してきたが,その効果に関するエビデンスはいまだ十分に得られていない.一方,筋力強化とは別に,感覚神経への刺激を通して,中枢神経系に働きかけることによって嚥下運動にかかわる中枢神経系の改善をめざした治療法もある.本稿では,電気刺激療法の種類や原理を紹介したうえで,中枢強化を目的とする電気刺激療法にも触れ,摂食嚥下障害への応用について,今後の展望と課題を解説する.

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要旨 嚥下障害の治療の第一選択はリハビリテーションであるが,嚥下障害の程度が重度であり,リハビリテーションの効果がこれ以上見込めないと判断された場合には,外科的治療の適応となる場合がある.患者がまったく,あるいはほとんど食物を経口摂取できない重度嚥下障害の状態で,患者が再度経口摂取できるようになることを希望する場合には嚥下改善手術の適応が,患者が嚥下機能を再獲得できる見込みがなく,誤嚥のために肺の障害が進行して生命に危険を及ぼすと予測される場合には誤嚥防止術の適応が考慮される.本稿では,喉頭挙上術,輪状咽頭筋切断術,および,さまざまな誤嚥防止術のそれぞれの術式についての文献をもとに,主に適応と治療効果についてまとめた.

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要旨 脳卒中後の摂食嚥下リハビリテーションを進めるにあたり,予後予測に基づき,対象者を層別化し目標設定やアプローチ方法の検討を行う必要がある.重症例では,口腔ケアと姿勢管理による誤嚥性肺炎の予防が重要である.直接訓練開始例では,誤嚥を防止し効率的な経口摂取を確立するために,多様な訓練技法の中から最適な方法を選択する必要がある.軽度群では,食形態の調整に代表される代償的方法に頼るだけではなく,機能改善に向けての練習を積極的に実施すべきである.

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要旨 摂食嚥下障害患者に対する地域包括医療における看護の役割とリハビリテーション科医への期待を論じた.摂食嚥下リハビリテーションは専門職によるtransdisciplinary teamとして機能するため,診療の補助を広範囲に実施できる看護師の役割拡大が期待される.摂食・嚥下障害看護認定看護師は卓越した看護実践によって実績を重ね,地域包括医療においても核となる役割が期待できる.診療の補助として摂食嚥下療法を行うには医師からの指示が必要である.所属が異なる専門職が協働するには,目標を提示するリーダーとしてリハビリテーション科医が重要であり,主治医と連携して指示することができる仕組みの構築が望まれる.

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要旨 わが国ではおもてなしの気持ちが強いので,咀嚼機能や嚥下機能の低下した高齢者にさまざまな嚥下調整食が提供できるように工夫されてきた.しかし,病院や施設ごとに呼称や形態が異なっていては連携がしにくいため,いくつかの嚥下調整食分類が提案された.最近では日本摂食嚥下リハビリテーション学会が作成した学会分類2013が医療現場では浸透し始めている.市販介護食の分類としては農林水産省のスマイルケア食が活用されると期待される.学会分類2013とスマイルケア食は形態が同じであれば,コード番号も同じになるように設定されているため,病院から在宅に戻った際にも,嚥下調整食の選択が容易になり,在宅療養しやすい環境が整ってきた.

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 今年の日本リハビリテーション医学会学術集会で,「リハビリテーション科卒後教育の課題〜新専門医制度に向けて〜」のタイトルでお話しさせていただく機会を得て,あらためて日本リハビリテーション医学会における卒後教育の歴史を振り返り,関連する情報を調べた.1963年に設立された本医学会は,大学などにおけるリハビリテーションに関する卒後教育の不十分さを認識し,1975年から卒後医師研修会を開催した.1980年には専門医,認定医の制度が開始されている.その後,研修会などは徐々に充実し,また専門医,認定医制度は時代と共に変化したが,現在専門医は2,200名を超え,今後も増加することが見込まれる.最近の調査では,専門医試験受験者の8割が10年以上の医師経験をもつことから,他科からの転向が多いことは明らかであるが,周囲を見渡すと初期臨床研修終了後にリハビリテーション科医を目指す若手が多くなっているのも事実である.受験者の3割が女性であり,若い学会員ほど女性の比率が高いことから,今後も女性受験者が増えていくであろう.つまり,これからのリハビリテーション科卒後教育には,ますます多様性に対応した取り組みが必要になる.

 このような状況の中,来年度から新専門医制度がスタートする予定になっている.研修プログラム制を基本とするが,一定の条件を満たす医師は研修カリキュラム制を選択することもできる.研修プログラム制では,基幹研修施設,回復期リハビリテーション病棟での研修を義務づけている.関連施設として指導医が勤務しない医療機関などでの研修も可能で,地域医療の経験などへの活用が期待される.これらをうまく活用することで,リハビリテーションの各相(急性期・回復期・生活期),疾患分野(神経系,運動器系,など)にわたる幅広い研修を専攻医に提供することができる.しかし,ここで大事なのは,「専攻医に漫然とルーチンの仕事をさせているだけでは不十分」ということである.これではリハビリテーション医学・医療の魅力が専攻医に伝わらないし,その専攻医が将来指導医になっても,専攻医に魅力を伝えることができないであろう.指導医,特にプログラム責任者は,専攻医の多様性に配慮しつつ,プログラムを工夫して多くの経験を専攻医にさせるように配慮すべきである.プログラム内でできないことは各種研修会など外部を頼ることも必要であり,医学会で充実を目指している教育コンテンツ(テキストやe-learningなど)も活用していただきたい.

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はじめに

 人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)は,最もpopularな整形外科手術の1つであり,数多くの整形外科手術の中で最も術後患者満足度が高い手術の1つであるといわれている1).現代の医療分野において最も成功を収めた手術だといっても過言ではない.医療技術の向上,人口の高齢化による患者数の増加,医療制度改正に伴った社会的ニーズの向上などの背景も加わり,本邦におけるTHAの年間手術件数はこの10年間で倍増している2).従来は60歳以降の比較的高齢者に適応のあった本術式は,徐々に若年者や超高齢者にも適応されるようになってきており,医療サイドは,それに応じた多種多様な対応を今後求められるようになるだろう.

 良好な機能回復のためには,正確かつ侵襲の少ない手技による手術が求められるのはいうまでもなく,それに加えて適切なナーシングと周術期リハビリテーション,および患者教育は必須事項である.それらを適切に行うために,医師とメディカルスタッフはTHAの基本的知識を十分に理解し共有する必要がある.そこで,周術期リハビリテーションを行うにあたり,最低限知っておきたいTHAに関する基本的知識についてまとめてみた.

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はじめに

 コーチングは,相手(クライアント)の目標を達成するための自主的な行動を促進するコミュニケーションであり,一方向の教示ではなく,コーチとクライアントの間で双方向の対話が交わされる.コーチは傾聴し,承認によって相手への関心を示し,その人の物語りを引き出し,聞き分け,質問によって別の視点を与え,選択肢を増やす.また,1回きりの対話ではなく,行動の結果を振り返り継続的にかかわる.

 筆者らは2002年頃からコーチングを研究テーマとして,その構造と機能の解明,医療への応用に取り組んできた.学び始めた当初は,リハビリテーション科の診療において患者の目標達成を支援するためのコミュニケーション,とコーチングを位置づけたが,研究を進めチーム医療への応用までを扱うに至った.図1にコーチングの臨床応用に関する私たちの研究の概要を示す.患者をクライアントとしたコーチングが役に立つことがわかったので,保健医療福祉職および学生にコーチングを教えるプログラムを実施し,その有効性と限界を示した.また,コーチングが企業の人材育成に活用されていることから,医療組織への導入を着想した.

 本稿のタイトルは「患者教育に活かすコーチング」であるが,「患者と学び成長するためのコーチング」のほうが内容をよく示している.コーチングというコミュニケーションを通して学ぶのは患者だけではない.また,医療者個人のコミュニケーションだけではなく,医療チーム内のコミュニケーションも患者ケアに影響する.本稿では,患者教育と医療チームのコミュニケーションを通して医療の質向上に寄与するためのコーチングの活用を述べる.

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はじめに

 脳損傷による高次脳機能障害者を支援する場合,診断,治療,リハビリテーションの医療面だけでなく,社会的支援を同時に行うことは,退院後のQOL維持・向上に欠かせない.社会的支援とは,障害年金などの経済的補償や,介護保険制度,障害者総合支援法などを活用したサービスの提供について,活用可能な法制度に基づき支援することである.社会的支援は,一般に院内の医療ソーシャルワーカー(MSW)が専門とする領域であるが,医師をはじめとする多職種の医療従事者が熟知していることで,患者やその家族に対し,より質の高い医療が提供できる.高次脳機能障害者やその家族を前にした際,まずは,退院後の地域・社会生活の継続を見据えた支援が必要である.病前に就労していた者であれば,就労(復職)に向けたサポートや経済的困窮などの解消であり,重度高次脳機能障害者であれば,居場所の確保やサービスの利用,そして家族負担感の軽減などである.すなわち,社会的支援の戦略を組み立てる場合,「お金」と「サービス」の視点が重要となる.治療の継続に関しても,お金がなければ中断を余儀なくされ,予後は悪化する.在宅などで適切なサービスが受けられなければ家族は疲弊し,結果的に当事者の生活が脅かされる.したがって,本稿では,「高次脳機能障害者を支える法制度」1-5)と称し,経済的補償と各種支援制度とに分け,特にリハビリテーション関係者が知っておくべき法制度のポイントについて概説する(図1下線部).

連載 参加してためになる国際会議・第8回

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 きたる2019年10月4日(金)〜10月8日(火)(5日間)に,国際義肢装具協会(International Society for Prosthetics and Orthotics:ISPO)本部が開催母体団体として,そしてホスト国として,国際義肢装具協会(日本支部)と日本学術会議が主催する国際大会が行われます.開催場所は神戸コンベンションセンター(神戸国際会議場,神戸国際展示場,神戸ワールド記念ホール)です.

 参加予定者は世界68カ国,2地域で5,000人(国外2,000人,国内3,000人)です.

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要旨

目的:ラット後肢不動モデルを用いて皮質骨と海綿骨の3次元微細構造を分析した.

方法:8週齢Wistar系ラット24匹を対象とし,両側後肢をギプス固定する不動群(n=12)とコントロール群(n=12)に振り分けた.4週間後に大腿骨を摘出し,骨幹部と遠位骨幹端部をµCTで撮影した.皮質骨と海綿骨の各組織形態パラメータ値を計測して統計学的に分析した.

結果:骨幹部では不動群の全断面積,皮質骨面積,皮質骨幅の値がコントロール群よりも有意に低かった.また,骨幹端部海綿骨では不動群の骨組織容積比,骨梁幅が低下し,骨梁形状を示すSMI値は増加した(p<0.05).

結論:本研究では「荷重を許容した不動化」が骨微細構造に与える影響を評価した.不動性骨萎縮の構造的特徴は,皮質骨幅の菲薄化と海綿骨の骨梁幅減少による骨容積比の低下である.

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 2017年6月,「日本生活期リハビリテーション医学会」が設立され,今年度内には急性期・回復期それぞれの医学会の設立も予定されている.リハビリテーション医学のめざすもの,そして急性期,回復期,生活期の3学会を設立する経緯や目的について久保俊一理事長にうかがった.

(聞き手:広報委員会)

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リハビリテーションと基礎研究

 前号に引き続き,本項ではリハビリテーションの特に分子レベルの知見を概説し,再生医療との併用に関して述べる.

リハニュース【医局だより】

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 横浜市立大学医学部リハビリテーション科学教室は,臓器別医療の基本を踏まえたうえで患者個人を全人的に理解することにより,機能障害や能力障害を治療し,生活機能の改善を図ることのできるリハビリテーション医療の実践に取り組んでいます.そのため,急性期から回復期,生活期,終末期まで,そして新生児から小児,成人,高齢者までを対象とした横断的診療を行い,幅広い領域で活躍しています.

 横浜市立大学リハビリテーション科は,独立したリハビリテーション診療科としてはわが国で最も早く,1968年に開設されました.以来,多くの専門医を育成し,横浜市内,神奈川県内の主要な医療機関への専門医の派遣を通して強固な医療連携を構築し,自治体の福祉行政とも良好な協力体制を確立しています.このような努力が実を結んで,横浜市では現在,他の自治体の模範となるような,急性期から生活期までの一貫したリハビリテーション医療,小児療育とリハビリテーションサービスが提供されています.大都市圏という多くの疾患や症例を経験できる地の利を生かして,急性期,回復期,生活期,社会復帰のすべてのステージにおけるリハビリテーション医療に対応することができ,関連施設には地域・在宅医療や小児疾患,頭部外傷,脊髄損傷などに特化した特徴的な施設も含まれています.また,2016年1月には横浜市立大学附属病院リハビリテーション科から横浜市立大学医学部リハビリテーション科学教室へと講座化され,臨床に加えて,医学教育や研究を含めた体制の強化,スタッフの増員が行われました.臨床研修と合わせて大学院における研究活動を行うことも可能となり,基礎研究や臨床研究を行うことによって学位も同時に習得することが可能です.

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基本情報

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The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine
54巻9号 (2017年9月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1881-3526 日本リハビリテーション医学会

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