THE GI FOREFRONT 15巻2号 (2020年2月)

特集 CURRENT TOPICS  4th GAST SUMMIT JAPAN学術講演会ハイライト

巻頭言 浅香 正博
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JAPANGAST Study Group(JGSG)講演会からGAST SUMMIT JAPAN(GSJ)として再出発してから本講演会も4年が経過し,今回はこれまで開催されていた札幌から東京に会場を移して行われた。夏の暑い盛りなので参加者が減るのではないかと心配したが,100名を超える方が来られ,活発な討論がなされたのでほっと胸をなでおろした。特別講演は山岡先生のlife workである「H.pylori遺伝子解析による人類の起源について」という壮大なものであった。H.pyloriのcagA遺伝子には東アジア型と欧米型の存在が知られていたが,解析方法の進歩により多くの型の存在が明らかになってきている。日本のH.pyloriは東アジア型といわれてきたが,沖縄では欧米型も存在する。その起源を探ったところ,日本人のH.pyloriは韓国人や中国人よりアメリカ先住民との類似性が見られたという興味深い報告であった。

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H.pyloriの遺伝子型には地域性があり,多型が認められている。遺伝子型が異なれば,病原因子としての影響力にも差のあることが知られており,胃がん発症率の地域差の要因の1つとして研究が進んでいる。一方,もう1つの大きな課題として,H.pyloriの遺伝子型から民族の移動の歴史を明らかにし,人類の起源を探る研究も行われている。こちらはいわば人類学としてのH.pylori研究といえ,独自の成果をあげている。米国のDouglas Burgらのグループは2000年に発表した論文で「新大陸におけるH.pyloriは,ヨーロッパ人の征服者によって持ち込まれた」という説を提示した1)。それによれば,ほんの500年前まではアメリカ大陸にはH.pyloriは存在しなかったとしている。

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H.pylori除菌後に発見される胃がんは“がんらしさ”に乏しく,質的診断や範囲診断が難しい症例が稀でないことが報告されている1)。われわれは,狭帯域光観察(narrow band imaging:NBI)で緑色に見える上皮(green epithelium)2)に注目して除菌後症例を検討した結果,診断に有用な知見が得られた。このgreen epitheliumの紹介を含めて除菌後発見胃がんに関して述べる。まず症例1を示す。他院にて胃潰瘍で除菌を行い,その後,同院で年一回の内視鏡検査を行っていた。発赤部位を生検したところtub1がんの診断であったが,がんが視認できず当院に紹介された。当院の内視鏡でも通常内視鏡ではがんを視認できなかったが(図1A,実際のがんは白矢印),NBI観察に切り替えたところ,緑色の背景粘膜に囲まれた不整な粘膜像が視認できた(図1B,がんは黄色矢印)。緑に縁どられた茶色の病変としてがんの存在は指摘できたわけである。

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近年,各種メディアで「AI」「人工知能」という言葉を聞かない日はない。医療現場においても導入が進んでいる。そもそもAIとは,明確な定義があるわけではなく,「人間の知能をコンピュータ上で再現したもの」を大まかに指す言葉である。大別して,強いAIと弱いAIの2種類があるといわれる。強いAIとは汎用型のAIであり,SF漫画に登場する『ドラえもん』のように,幅広く何でもできるAIのことである。今のところこれは実現困難であると考えられている。一方,弱いAIとは特化型のAIであり,たとえば自動運転やチェスなど,何か1つのことができるAIである。現状では,この特化型のAIが,あくまで人間の道具という位置付けで活用されている。

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H.pylori未感染胃がんの形態・組織学的特徴について自験例を基に研究からまとめたい。H.pylori未感染の定義としては,感染診断,内視鏡診断,組織診断のいずれにおいても未感染と考えられるものを指す。H.pylori未感染胃がんは従来,胃がんの約1%とされていたが,その頻度は増加している。当院で直近4年間に内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)を行った早期胃がん症例における感染状況からも,H.pylori未感染は増加しており,胃がん罹患者の全体としては少数ながらも無視できる割合ではなくなってきている。当院では2005年4月から2019年6月までにH.pylori未感染胃がんを64症例経験した。大部分は早期胃がんかつ粘膜がんであり,分化型と未分化型の比はおよそ同程度であった。病変は部位別に大まかに3タイプに分類できた。噴門部または食道胃接合部領域の腺がん,胃型の形質を有する超高分化型ないし低異型度の腺がん,そして印環細胞がんである。

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日本における胃がんによる死亡数は近年低下の傾向が見られるものの,罹患数はいまだ横ばいである。世界的に見ると,各年代において胃がんの死亡者数は低下傾向にある。要因としては生活環境の変化や医療技術の進歩,およびH.pylori感染率の低下が挙げられる。しかし日本においては,人口構成の変化によって超高齢社会となり,80歳代のがん患者数が増加していることが罹患者数の減らない状況につながっている。一方,2000年度に消化性潰瘍へのH.pylori除菌療法が保険適用となり,2013年度にはH.pylori感染胃炎にも適応拡大となった結果,30年間およそ5万人で推移してきた胃がん死亡者数がようやく下がり始めている。近年は4万4千人まで減少してきており,疫学的な予測死亡者数に比して10%近い減少である。これは除菌療法の普及の成果と考えられる。

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山形県における除菌療法の普及を中心とした約20年間の取り組みについて報告する。1994年WHO/IARCがH.pyloriを胃がんの原因と認定した。その前後に米国では消化性潰瘍に対する除菌療法のガイドラインができ,追ってヨーロッパでもガイドラインが成立した。日本の山形県では1997年に山形H.pylori研究会が設立された。これは除菌療法が保険適用になった際,スムーズに移行できるようにするため,14医療機関でクローズドに設立した研究会である。そこでは情報交換や症例検討をはじめ,識者の講演会などの活動を行い情報共有を進めてきた。2000年,消化性潰瘍に対するH.pyloriの除菌療法が国内でも保険適用となった。それと同時に,山形県臨床H.pylori研究会が設立された。これは前述の研究会を発展させた形で,全県下で行う会として設立されたものである。

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H.pylori除菌の推進には,自覚症状のない感染者の拾い上げが重要となる。各自治体が行っている対策型検診を利用することが望ましいが,そのためには行政と基幹病院と医師会との緊密な連携が不可欠となる。横須賀市では2012年度から胃のX線検査を全廃して,胃がんリスク層別化検査を40歳以上の市民全員を対象に行っている。リスク層別化検査を導入する以前は,2001年度からペプシノゲン(PG)法を用いた胃がん検診を保健所で始め,X線検査とPG法のどちらかを選択する形式になった。翌年から市内の一般医療機関にもPG法が導入され,2011年までの間,市内ではPG法による胃がん検診とX線検査とが並行して行われていた。この間,約85%の受診者がPG法を選択しており,X線検査の受診者は15%であった。

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H.pyloriが発見されてからおよそ半世紀になる。H.pyloriが胃がんの原因であり,除菌が胃がんの予防に寄与することは明確になっている。早い段階での除菌療法がより効果的ということも科学的には了解が得られている。一方で,悪性腫瘍による死者は37万人にのぼり,部位別のがんによる死亡率で見た場合に胃がんによる死亡は男性で2位,女性で4位となっている。近年は減少傾向にあるとはいえ,いまだ高い死亡率であることに変わりはない。学術的な知見を治療につなげて最終的に国民の生命を救うためには,法律の制定なども視野に入れた政策的な取り組みが必要となる。

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公衆衛生環境が整った日本において,H.pylori感染はそのほとんどが家族内で幼少期に起こっている。幼少期に感染すると,除菌療法を行わない限り基本的には一生にわたって感染が持続し,胃がんリスクが上昇するほか,その他のH.pylori関連疾患のリスクも高まっていく。感染早期の除菌ほど胃がん予防効果が高いことについては多くのエビデンスがあり,早期除菌が望ましいことは科学的に明らかである。ただし,小学生以下では成人と同様の検査や治療が行えないこと,再感染の問題があることもわかっており,これらの点は考慮が必要である。

INTERVIEW 対談

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浅香 本日は東京大学医学部附属病院放射線科の中川先生をお招きし,がんの予防対策についてお話をしたいと思います。私は数十年,北海道大学消化器内科で消化器がんの診断・治療に携わってきましたが,2011年に北海道大学を定年退職した後,「がん予防内科」という寄附講座で5年間,特任教授を務めました。そこでの経験を通じて痛感したのは,がんの予防対策がうまくいけば,多くの命が助かる可能性があるということです。そこで予防に目覚め,日本のがん予防対策の状況について考えるようになり,この分野で多くの発言をされている中川先生を知りました。今日は胸襟を開いてがんの予防について話し合いたいと思います。中川先生は以前,がん対策推進協議会に属しておられましたね。中川 はい。2007年に「がん対策基本法」が発足して,その中で制定された「がん対策推進協議会」で10年間,委員を務めました。浅香 がん対策基本法は画期的といわれましたが,当初は抜け穴だらけだったと思います。タバコ1つとっても最初,未成年者の喫煙をなくそうというものの,成人には具体的な対策の指標はありませんでした。その後,かなり充実してはきたようですが。中川 そうですね。発症リスクを減らす一次予防という趣旨で足りない部分はあったと思います。胃がん対策については,特定健診において40歳以降で毎年胃X線検査となっていたところ,2016年度からは50歳以降で偶数年あるいは内視鏡検査が選べるとなりました。一次予防という趣旨では,がんの原因を知ることが重要ですが,日本におけるがんの原因のトップは,男性は喫煙ですが女性は感染症で,実に原因の20%を占めている状況です。

CLINICAL CONFERENCE 症例から学ぶ上部消化器疾患

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消化性潰瘍の多くは,ヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ)感染かNSAIDs(nonsteroidal anti-inflammatory drugs)などの薬剤に起因するが,最近,ピロリ陰性かつ薬剤の既往例のない消化性潰瘍が増加している。Helicobacter pylori-negative and NSAIDs-negative peptic ulcerあるいはidiopathic peptic ulcer(IPU)と呼ばれ1)2),ピロリ感染率の低下とともにその頻度の増加が指摘されている。その頻度は北米では消化性潰瘍のうち20~40%,国内でも10~30%と報告されている1)。IPUの臨床的特徴は出血を主訴とすることが多く,また,再出血や再発の頻度が高く3)4),発生部位は十二指腸に比べわが国では胃に多い5)。IPUに関する報告は多いが,ピロリ陽性潰瘍やNSAIDs潰瘍との臨床像を比較したものが大半で,意外と内視鏡所見を検討したものは少ない。今回,IPUの1例を経験したので,内視鏡像と臨床経過を提示するとともに,若干の考察を加え報告する。

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十二指腸腺腫・腺がんの取り扱いについては,内視鏡治療のリスクが高いと報告されていることもあり,コンセンサスは得られていない。十二指腸腺腫・腺がんが,どのような自然史をたどるかについては疾患の頻度が低いこともありほとんどわかっていないため,経過観察することにより浸潤がんになった場合,治療の機会を逸したり,病変の増大により初回発見時より治療が困難になるおそれがある。内視鏡診断および生検による病理診断は必ずしも容易ではなく,生検により粘膜下層に強い線維化をきたすことも報告されているために経過観察も容易ではない。患者にとっては発見された病変を切除せずに経過観察することで生じる心理的負担も考慮する必要がある。内視鏡治療については,小型の病変に対するEMRは比較的安全に実施可能であり,ESDは偶発症のリスクは高いものの,その成績は向上してきている。以上のことからわれわれは,十二指腸腺腫に対する完全摘除生検,局所治療として積極的に内視鏡治療を行っている。●本企画は問題点をクローズアップすることを目的としており,テーマに対してあえて一方の見地に立った場合の議論であり,必ずしも論者自身の確定した意見ではありません。

十二指腸腺腫の治療 コメント
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SUMMING UP 消化器研究最前線

第30回 杉山 敏郎
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本号では2019年上半期に一流誌に掲載され,インパクトの大きかった論文を5名の消化器病医に選んでいただき,解説をお願いした。

TOPICS OF GI 消化器疾患のトピックス

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胃がんや消化性潰瘍をはじめとする上部消化管疾患の発生にHelicobacter pylori(H. pylori)感染に伴う胃粘膜の炎症と萎縮が強く関連していることはすでに明らかになっている。そして,2000年に胃潰瘍・十二指腸に承認されたH.pylori保険診療の適用は,2013年には慢性胃炎にまで拡大された。すなわち,H.pylori感染者すべてが除菌治療可能になったが,上部消化管内視鏡検査(内視鏡)で胃炎と診断することが前提条件である。また,2016年2月に一部改正された厚生労働省健康局長通知「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」では,対策型胃がん検診の方法として,胃X線検査とともに内視鏡が認められた。今後,対策型検診においても内視鏡が主役になることが期待されるが,その際も胃がん診断に加え,H.pylori感染状態など背景胃粘膜状態の把握も大切と思われる。これまで多くの胃炎診断・分類が行われてきたが,それらを踏まえた上で,H.pyloriについて未感染・現感染・既感染(除菌後を含む)を区別できる分類とすることを最大の目的として,2014年9月に「胃炎の京都分類」が発刊された1)。その後,2017年にQ and A,2018年1月に改訂第2版が出版された2)。また,英語版が2017年に,中国語版が2018年に出版され,韓国語版も準備中である。

MY SETBACKS 私が挫折しそうになった経験

第5回 浅香 正博
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本誌『THE GI FOREFRONT』の編集委員は私を入れて5名であるが,発刊15年目になると現役教授は三輪先生ただ一人となり,他は名誉教授になり教室経営の重責から解放されるとともに学会運営からも離れることになった。そこで大所高所から本誌の若い読者へ向けてのメッセージを送るには成功談より1つ間違うと失敗につながった挫折経験を語ってもらうのがよいのではないかと編集会議で提案したところ,一人の反対もなく承認された。これまで4人の編集委員に書いてもらったが,なかなか普通の雑誌では公表できないことまで語ってくれており,当初の目的は達成できていると感じている。私の場合,表面上明るく楽天的に見えるため挫折経験などないのではと誤解されている可能性が高い。しかしながら,私のこれまでの人生を振り返ると挫折の連続であり,よくここまでたどり着いたものだと時折考えることがある。挫折は何かにチャレンジした結果生じるものであるから,好奇心旺盛な性格が幸いして何にでもチャレンジして跳ね返されいくつもの挫折を味わった。その中から挫折寸前までいきながらそれを跳ね返すことができた数少ない経験について話をしたい。

MESSAGE FROM EDITOR エディターズ・メッセージ

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奇妙なタイトルだが,今,上級国民・下級国民がSNS上で炎上中である。退職してもっともありがたいことは「自分の時間を自分で配分できる」こと。とはいえ今も国立大学研究部門の常勤特任教授職なので「部門設置目的に沿った研究と関連する臨床(外来)」は必須ではあるが,何より学生教育や講座・大学運営管理業務から解放されストレスは激減した。欧州ヘリコバクター学会への出席と夏休みを兼ねた1週間の海外旅行の帰路の空港ラウンジで本文を書き終えた。

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基本情報

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THE GI FOREFRONT
15巻2号 (2020年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-9629 メディカルレビュー社