LiSA 26巻11号 (2019年11月)

徹底分析シリーズ 番外編 もっと知りたい鍼治療

日本鍼灸の段階論—後編 長野 仁
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うちばり(打鍼)・くだばり(管鍼)・けいはり(経鍼)

中国では元代に「子午八穴鍼法」*12が登場するなど,四肢(手足)の要穴を多用するのに対して,日本では五大思想(五輪発生説・諸虫病因論)のバイアスによって体幹(背腹)の要穴を重視するよう変容を遂げた。

 日本でいつから「打鍼」(図6)が行われるようになったのかは詳らかでない。正親町天皇・後陽成天皇に仕えた鍼博士・御薗意斎(1557〜1616)の遠祖で,花園天皇(1297〜1348)に仕えた多田次郎為貞を創始者とする説は時代が早すぎて首肯しかねるが,遅くとも戦国期に実施されていた状況証拠がある〔煙蘿子針灸法青樵齋道丹自序;1530〕。「蓋し,牡丹根は甜(甘)うして,螙蟲*13これを損ず。その旁ら,常に小穴あり。すなわち蟲の所為の処なり。花工,硫黄を点して其の樹に鍼し,艾炷を以て其の根に灸す。これ花を医するの法と謂う」は,諸虫の退治を目的とした「打鍼」の隠喩と考えられるが,宋代の園芸書を典拠としている点は興味深い〔洛陽牡丹記三・風土記;1072迄〕。なぜなら,打鍼のアイデアの源泉が法具や神器の延長線上ではなく,園芸からの技術転用という新たな可能性が開けるからである*14

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実際の臨床現場では,複数の合併症を抱える患者の麻酔を行うことは珍しくない。それらは多くの場合,複雑に絡み合い「あちらを立てればこちらが立たぬ」という状況に陥ることもしばしばである。そのような状況では,何を重視して麻酔計画を立てるかの判断に明確な正解はなく,難渋した経験のある読者諸兄も多いだろう。

 実際の現場における臨床判断は,個々の麻酔科医に任されることも多く,俗に言う「攻めの麻酔」になるか「守りの麻酔」になるかは,麻酔科医の技量や施設の設備などである程度規定される面もあるが,各麻酔科医の哲学に依る点も大きい。

 今回の症例カンファレンスの各プランは,各施設とも特色あるものとなっており,それぞれのPLANに至る哲学を感じ,自分ならどうするかも想像しながら読み進めていただきたい。

予告編
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次号の症例カンファレンスの提示症例を,一足先に紹介する。

自施設にこのような症例が来たら,どのような麻酔計画を立てるか,事前に考えておいてほしい。

次回,各施設のPLANをお楽しみに!

徹底分析シリーズ 修正型電気けいれん療法と麻酔

巻頭言 末盛 泰彦
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麻酔を通して他の診療科の新たな治療の創出にかかわり,その価値に触れることは,麻酔科医として働く醍醐味の一つと言える。それは外科系のみならず非外科系診療科との協業においても,例外とはならないはずだ。

 精神科領域における薬物療法難治例や救急症例への「切り札」として知られるようになった修正型電気けいれん療法(m-ECT)。その最大の特徴は,電気的な侵襲に対して全身麻酔を行うことにある。外科手術と変わらない安全で確実な麻酔の遂行はもちろん,治療前後の患者評価や麻酔薬の選択,そしてスタッフ教育など,麻酔科医のミッションは多岐にわたる。実際,m-ETCにかかわって,急性期医療の担い手としての麻酔科医の知見が高く評価され,現場での大きな期待につながっていることを実感した。いささか勝手の違う精神科領域へ踏み込む戸惑いを差し引いても,意気に感じるには十分であった。何より,劇的な治療効果を目の当たりにして治療の価値を感じることはまさに,新たな角度からの麻酔の再発見である。

 今回の徹底分析ではこのm-ECTについて,歴史的背景から麻酔のあり方,そして特有の合併症や今後の課題,さらには病院経営に与えるインパクトなどについて,各方面の先駆者に語っていただいた。より多くの麻酔科医に,この新たな醍醐味を味わってもらいたい。

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多くの麻酔科医は,うつ病や統合失調症などの精神疾患に起因した自殺企図後の麻酔管理を経験されているだろう。このような患者においては,希死念慮が持続し,再び自殺企図を繰り返す場合もある。切迫した希死念慮が続く症例では,身体的な治療と並行し精神科の加療が必要となる。このような症例に対して薬物療法では,治療効果の即効性や確実性に期待ができないことが多く,修正型電気けいれん療法modified electroconvulsive therapy(m-ECT)の適応となる。このようにm-ECTは精神科にとって,その即効性,確実性から唯一無二の治療法となる。

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修正型電気けいれん療法modified electroconvulsive therapy(m-ECT)と呼ばれる*1ことが多いと思うが,現在「ECT」と言えばこの修正型を指す。クロザピンという抗精神病薬と並び,精神科での最終治療的な意味合いも強い。

 本稿では,精神科におけるこの治療の位置づけ・適応と,当院での麻酔科との協力体制について触れていきたい。

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修正型電気けいれん療法modified electroconvulsive therapy(m-ECT)は麻酔科医にとっては短時間の麻酔管理で終了することから比較的安易に考えられやすいが,m-ECT前後で循環・呼吸状態は劇的に変化している。それに伴い脳循環も劇的変化をする。急激な身体変化により,さまざまな合併症を生じる可能性が指摘されている。さらに,このような劇的変化を通常の循環・呼吸モニターではとらえきれていない場合もある。麻酔科医はm-ECTで起きる生体内の劇的変化を熟知して合併症予防に努める必要がある。

 そこで本稿では,通常のm-ECTでは用いられないような各種モニターを利用して測定したデータも含めて,m-ECT前後に生体内で起こる変化について解説する。

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修正型電気けいれん療法modified electroconvulsive therapy(m-ECT)は,安全な治療とされている。刺激方法および麻酔管理技術の向上により,近年では以前よりもさらに死亡率は低下し,10万件に1〜2件といわれている1)。術前の診察や検査は,身体疾患の手術と同様に行われていれば問題ない。しかし,精神疾患特有の問題点が存在するため,注意すべき点も多い。具体的には緊張病(カタトニア)や抗精神病薬による嚥下困難などの精神疾患に特有の身体状況,疎通不良や非協力的であるため問診や術前検査が十分に施行できない,精神症状のために現在まで身体疾患が見過ごされている,などが挙げられる。これらの状態を事前に把握しながら,術前評価を行わなければならない。また,精神科単科病院で施行する場合には,さらに注意すべき点が多くなる。設備がないため必要な術前検査が行えないこともあり,その場合には他院に検査を依頼することもある。m-ECT施行場所も,手術室ではなく専用の治療室であることも多く,必要な物品や薬物などを事前に確認しておく必要がある。

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長崎大学病院(以下,当院)では2014年まで,修正型電気けいれん療法modified electroconvulsive therapy(m-ECT)の麻酔をプロポフォールとスキサメトニウムで行っていた。しかし,反復投与による耐性化から,入眠に必要なプロポフォールの必要量が増加し,刺激用量を最大にしても効果的な痙攣が誘発できない症例を経験した。そこでレミフェンタニルの投与を開始したところ,入眠に必要なプロポフォールの大幅な減量とそれに伴う刺激用量の減少,効果的な痙攣の誘発が得られた。以降,大半の症例でプロポフォールにレミフェンタニルを併用してm-ECTの麻酔管理を行っている。

 本稿ではm-ECTの麻酔管理について,文献的な検討と当院での実際の管理法について述べる。

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修正型電気けいれん療法modified electroconvulsive therapy(m-ECT)の麻酔は,数分で終わるために,簡単と思われがちである。また,成書では,m-ECT中の呼吸器合併症については麻酔合併症のひとことで片づけられ詳説されない。しかし,m-ECTは用手マスク換気で呼吸管理をするために,危機的合併症が起きると麻酔管理の人手が足りなくなる。安全にm-ECTを施行するには,麻酔科医だけでなく精神科医や看護師も,m-ECT中の合併症と対処について,臓器にかかわらず知っておいたほうがよい。

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修正型電気けいれん療法modified electroconvulsive therapy(m-ECT)の安全性確保というテーマは幅広い。そのため,本稿では,国立精神・神経医療研究センター病院(以下,当院)で作成された『電気けいれん療法(ECT)マニュアル』1)(以下,マニュアル)を参考に述べる。合併症については,当院で行われている,せん妄対策と深部静脈血栓症(DVT)/肺動脈塞栓症(PE)対策について焦点を当てる。

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精神科病院における修正型電気けいれん療法modified electroconvulsive therapy(m-ECT)への期待は大きい一方で,さまざまな困難から導入が断念されている施設も少なくないと思われる。m-ECTの導入にあたっては,精神科のみならず麻酔科の立場からの準備が必要であり,さらに医師のみならず多職種が安全かつ効率的に協業できる仕組みを構築する必要もある。

 本稿では,新規導入にあたって必要な準備を具体的に述べる。m-ECTがさらに普及する一助となれば幸いである。

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導入までの経緯

雁の巣病院(以下,当院)は福岡市東区において精神科救急医療を提供している精神科単科の民間病院である。当院の医療提供体制を鑑みるとm-ECTの重要性は感じていたもののハード・ソフト両面の問題により体制整備ができずにいたが,2013年8月に竣工した新病院では救急処置室をm-ECTが施行できる部屋と想定し相応の広さを確保した。同年,他院でm-ECTの導入経験がある精神科医2名が入職してm-ECT導入準備が一気に進み,同年11月に運用開始となった。

 準備段階から最も苦労すると予測していた麻酔科医の確保は,麻酔科医へm-ECTの治療の必要性を説くことで早期に赴任が決まった。オペ室が主戦場である麻酔科医が精神科病院で勤務してくれるだろうかという不安は筆者の思い過しであった。

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はじめに

悪性症候群は,時として致死的となり得る薬剤誘発性症候群であり,高熱や錐体外路症状,自律神経症状,精神症状などを呈する。大多数は抗精神病薬の投与に関連して発症し,重症例ではすみやかな集中治療を要する。非定型な症例の増加も指摘されており,適切な鑑別診断も重要である。対症的な全身管理が主となるが,電気けいれん療法(ECT)が治療選択肢となることや,興奮や昏迷など精神症状のマネジメントのため,リエゾン精神科医との連携が必須である。

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諏訪邦夫先生も常々おっしゃっていたように,酸素は麻酔科医にとって最も重要なガスです。2019年のノーベル生理学・医学賞は,酸素が足りない状態である低酸素の感知機構の基礎研究に与えられることになりました。低酸素状態によるエリスロポエチン(EPO)発現誘導を説明する遺伝子上の領域の同定とその領域に結合する細胞内因子hypoxia-inducible factor 1(HIF-1)の分子クローニングとその活性化の分子機序の解明,つまり「酸素感知-生存のために必須な生命過程」を解明した功績が受賞理由です。

こどものことをもっと知ろう 第8回

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麻酔科医:今度,発達障害の子の麻酔をかけるんだけど……コミュニケーションを取りにくいし,すぐパニックを起こすし……。どうしたらいいですか?

小児科医:発達障害の子も普通の子と変わらないんですよ。ただ,少し不安が強いだけ。

クラシック音楽談義 ゆるりと音楽の話をしませんか 第7回

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前回は,去勢の歴史について述べました。今回は,なぜ17世紀から18世紀にかけて欧州で去勢歌手,つまりカストラートが存在したのかをお話します。

連載

THE Editorials
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The New England Journal of Medicine

Article:

Flint AC, Conell C, Ren X, et al. Effect of systolic and diastolic blood pressure on cardiovascular outcomes. N Engl J Med 2019;381:243-51.

■高血圧の定義が変わった!

日本高血圧学会が2019年4月に「高血圧治療ガイドライン2019(以下,ガイドライン2019)」を発表した。正常血圧は収縮期血圧120mmHg未満,拡張期血圧が80mmHg未満とされた。これは2017年に発表された米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)の高血圧ガイドラインと同様である。2014年の高血圧治療ガイドラインでは収縮期血圧が140mmHg未満,拡張期血圧が90mmHg未満であったので,基準が引き下げられたことになる。

「ガイドライン2019」では,収縮期血圧が130〜139mmHgかつ/または拡張期血圧が80〜89mmHgは高値血圧とされ,それから上は収縮期血圧が20mmHg,拡張期血圧が10mmHg上がるごとにⅠ度,Ⅱ度,Ⅲ度高血圧と定義されている。治療目標や推奨も変わり,高値血圧の場合には生活習慣の改善を促している。75歳未満の降圧目標は130/80mmHg,75歳以上の降圧目標も140/90mmHgと引き下げられている。一方,日本腎臓学会の「CKD治療ガイドライン2018」では,75歳以上の高齢者における降圧目標は150/90mmHg未満とし,急性腎障害などの有害事象がなければ140/90mmHg未満への降圧が推奨されている。

Enjoy! ワイン

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こんにちは!ワイン安部です。

和食の流行とともに世界的な辛口ワインブームと言われて早10年以上が経過していますが,私は最近,甘口のワインを飲むことが多くなってきました。飲んでみると実に美味しい甘口ワイン。

今月は,甘口ワインの魅力について紹介します。

Tomochen風独記

(58) 心臓麻酔—いよいよ閉胸 山本 知裕
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ドイツ小児心臓センターDeutsches Kinderherzzentrum(DKHZ)における心臓麻酔について,人工心肺離脱後の止血作業まで紹介しました。止血がひと段落したら,術野は閉胸作業へと移ります。

diary

和歌山県御坊市 羽場 政法
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当院は和歌山県中部に位置し,御坊市および日高地方広域を含む人口6万3 千人の御坊保険医療圏全体をカバーする総合病院です。一般外科,脳神経外科,産婦人科,耳鼻科,整形外科,泌尿器科,歯科口腔外科,眼科の手術が行われています。常勤の麻酔科医は僕一人なので,手術症例数に応じて,和歌山県立医科大学と連携し,安全な麻酔管理に努めています。大学病院と比べ,特殊な手術は少ないですが,当院はこの地域の循環器中核病院であり,併存疾患を多数もった高リスクの症例も多く,また小児科と産婦人科の拠点病院であり,帝王切開も数多く行っています。そのほかには,和歌山県立医科大学と連携し,県内の施設で心臓血管麻酔を行っています。県内の中核施設である和歌山県立医科大学は,希望に配慮して医局員をサポートしてくれます。当院は麻酔科医に対するサポートが充実し,外科医も理解があり,2018〜2019年でのべ約30日間にもおよぶ医療安全研修にも参加させてもらいました。現在は手術麻酔だけでなく,品質管理手法を用いた手術室の安全管理や,病院全体の患者安全の取り組みを行っています。

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基本情報

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LiSA
26巻11号 (2019年11月)
電子版ISSN:1883-5511 印刷版ISSN:1340-8836 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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