LiSA 24巻3号 (2017年3月)

徹底分析シリーズ 続 痛み治療の素朴な疑問に答えます2

巻頭言 奥田 泰久 , 馬場 洋
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今回は,これまで以上に踏み込んだ実践的設問となっており,お答えいただいた各執筆者には心から御礼申し上げます。

 主に,硬膜外や脊髄くも膜下血腫を念頭とした抗凝固薬使用中患者に対する区域麻酔のガイドラインはありますが,今のところ硬膜外感染・膿瘍についての有用な指針はありません。もちろん,針を刺入する部位に感染があれば禁忌になりますが,例えば,急性胆囊炎や虫垂炎のような白血球数,CRPそして体温が上昇している患者に区域麻酔を施行するかは迷うところであります。ペインクリニック外来に交通事故直後の傷病者は運び込まれてきませんが,時間が経過してその後遺症としての慢性疼痛を訴え続ける患者は多く紹介されてきます。ある意味,急性期の患者より対応が難しいかもしれません。ペインクリニシャンはその患者に関する各種公的保証による救済にも深くかかわることも多く,特に診断書の記載には注意が必要です。また,術後痛に対するフルルビプロフェン,アセトアミノフェンの使用は,地域によって差がありますが保険診療の壁が立ちはだかり有効な使用ができない状況も生じてまいりました。そして,たとえ患者のために医学的に正しい治療であっても,添付文書などさまざまな制約や各審査委員の思惑により“査定”されることもあり,手術麻酔のみならず,しばしばペインクリニック開業の大きな足かせになっている場合があります。現状においては各医師が審査支払機関側と根気強く交渉することが具体的解決策の一つであるかもしれません。そして,認知行動療法は慢性痛患者に対してその有効性は高く認められているものの,1患者に対する技術や費やす時間などが診療報酬上,あまりにも低く評価されているのは残念です。このことは運動療法などとともに学会レベルで対応していかなければならない最重要課題です。最後に,日本でも慢性疼痛に対するオピオイドの使用患者は増加し,その患者の海外への渡航は小さくはない問題です。オピオイドを処方している医師は,患者の渡航に際して,日本だけでなく目的国の法律や対応を理解し,厚生労働省の指針を基本に相当な注意を払わないといけないと考えます。

 本特集が,多くの痛みの診療に従事する医師・医療従事者に有意義な情報を与えることを希望いたします。

徹底分析シリーズ 続 痛み治療の素朴な疑問に答えます

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いまや区域麻酔は,手術麻酔のほか,術後鎮痛やペインクリニック,緩和医療,無痛分娩などで幅広く用いられているが,炎症所見がある患者に対して区域麻酔を施行しても問題はないのだろうか。

 本稿では硬膜外麻酔・神経ブロックを中心に考察する。

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がんこな頚部痛,頭痛,しびれを訴える交通事故後の患者が,整形外科から紹介されてきました。聞けば,事故自体はバンパーが少しへこむ程度の追突事故で大きなものではありません。神経学的な異常所見はなく,すでに行われた画像検査でも,生理的な加齢性の変化以外は特段の異常所見はありません。しかし,患者が症状を強く訴えるので,薬物療法,神経ブロックを開始しましたが,なかなか症状はよくなりません。そうこうしていると,保険会社からの症状照会の文書が届きました。さあ,困った,どうしよう。

 そんな皆さんこそ,ぜひ,ご一読ください。

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今日の臨床現場では,multimodal analgesiaが広く実践されている。Whiteら1)は,術式により術後鎮痛法は異なるとし,腹腔鏡下胆囊摘出術,鼠径ヘルニア修復術,開胸術など,六つの術式のmultimodal analgesiaの研究を検討した。その結果,そのすべての術式において,アセトアミノフェンと非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が第一選択薬として推奨された。2012年,米国麻酔科学会『Practical Guideline for Acute Pain Management in the Perioperative setting』2)のmultimodal analgesiaの項においても,禁忌事項がないかぎり,この2種類の薬物は,定期投与が推奨されている。昨今の患者の高年齢化に伴う周術期抗凝固療法や,手術の低侵襲化に伴う経静脈患者自己調節鎮痛法(IV-PCA),末梢神経ブロックや持続創部浸潤麻酔の普及など,術後鎮痛を取りまく環境が変化する中でも,アセトアミノフェンとフルルビプロフェン アキセチルは,なくてはならないが,術中使用では診療報酬上,査定されることが多い。

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麻酔科医は,手術麻酔など病院の中央部門に勤務している場合,自ら診療報酬明細書(以下,レセプト)に関与することが少なく,保険診療について詳しい知識をもっていないことも多い。しかし,ペインクリニック開業となると,その収入の多くは保険診療による診療報酬となるため,その仕組みについて理解しておく必要がある。レセプトを審査支払機関で審査し認められてはじめて収入となるからである。

 本稿では,保険診療の仕組みと混合診療,レセプト審査を中心に解説する。

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国際疼痛学会International Association for the Study of Pain(IASP)により,痛みは,「実際に何らかの組織損傷が起こったとき,または組織損傷を起こす可能性があるとき,あるいはそのような損傷の際に表現される,不快な感覚や不快な情動体験」と定義される。痛みがあくまでも主観的な体験であり,必ず心理的側面があることを考えると,身体的側面だけを対象とした治療に限界があるのは理解できるだろう。欧米では以前から,認知行動療法cognitive behavioral therapy(CBT)を実施し,成果を挙げている1)

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緩和ケアの普及,使用可能な医療用麻薬の多様化によって,多くのがん患者が医療用麻薬の恩恵を受けている。また,一部の医療用麻薬の非がん性慢性疼痛への適応拡大から,医療用麻薬を用いたオピオイド治療が痛みの診療における重要な選択肢の一つになっている。そのため,医療用麻薬の処方を受ける患者は増加傾向にある。

 日本においても,観光,仕事,留学などで海外渡航する人は右肩上がりに増加し,国土交通省によると2015年にはその数が1621万人に達している1)。そのため,医療用麻薬を取り扱う機会が多い医師を含めた医療者は,医療用麻薬による治療を受けている患者からの海外渡航の申し出に際して,迅速に対応できるように,必要な手続きについて理解しておく必要がある。

 本稿では,厚生労働省の指針である「医療用麻薬服用中の患者の海外渡航の際の手続き」を概説し,筆者が実際に経験した手続きを紹介する。

症例検討 腎機能低下患者の麻酔

巻頭言 松永 明
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術前からの腎機能低下は周術期急性腎障害(AKI)のリスク因子の一つであり,周術期AKIの発症は,短期のみならず長期の患者予後を悪化させる。AKIに対する決定的な治療法が存在しない現時点では,発症を予防することが最も重要であり,麻酔科医に課せられた役割は重大である。しかし,こうすれば予防できるという有用なモニタリング方法やエビデンスのある管理法は確立していない。つまり,周術期AKI予防には麻酔科医の高い臨床能力で実現するしかない。

 今回取り上げた症例は,透析患者症例を除いてどれも周術期AKI発症のハイリスク症例である。病態,腎機能,手術侵襲は症例ごとにさまざまで,その症例に応じた周術期管理が必要である。どの症例も,経験豊富で幅広い知識にもとづいた高い臨床能力をもつ麻酔科医が詳しく解説しているので,その考え方を臨床に役立ていただきたい。

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症例

70歳の男性。身長165cm,体重75kg。20年前より高血圧,糖尿病にて加療中。最近,eGFRの低下は認めないが蛋白尿を認め,糖尿病性腎症第3期(顕性腎症期)と診断されていた。今回,腹部の拍動感を自覚しCT検査を施行したところ,その拡張が腎動脈直下まで進展した瘤径70mmの傍腎動脈腹部大動脈瘤と診断され,人工血管置換術が予定された。

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症例

65歳の女性。身長150cm,体重40kg。20年前より慢性腎不全のため週3回の血液透析を行っている。今回,透析中に胸部不快感と呼吸苦が出現したため,経胸壁心エコー検査を施行したところ,左室壁運動はびまん性に低下し,左室駆出率(LVEF)は40%であった。さらに冠動脈造影で左冠動脈前下行枝近位部90%,左冠動脈回旋枝近位部90%,右冠動脈中間部90%の狭窄を認め,重症3枝病変の診断にてOPCABが予定された。

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症例

69歳の男性。身長170cm,体重70kg。15年前に右腎腫瘍にて右腎摘出。10年前より糖尿病にて加療中。今回,腹部CT検査にて左腎上極に2.5cmの腫瘍を認め,腎細胞癌の診断で左腎部分切除が予定された。BUN 27mg/dL, Cr 1.9mg/dL, Ccr 46mL/min, K 4.5mEq/L。

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症例

83歳の女性。身長155cm,体重40kg。大動脈弁狭窄症に対して大動脈弁置換術が施行された。長時間の体外循環の影響で術後乏尿となり,持続的血液濾過透析continuous hemodiafiltration(CHDF)が施行された。術後5日目にCHDFを離脱し,10日目にICUを退室したが,14日目に突然,嘔吐と腹痛を訴えた。腹部CT検査で右閉鎖孔ヘルニアと診断され,緊急手術が予定された。BUN 45mg/dL,Cr 3.1mg/dL,K 4.7mEq/L,尿量2500mL/日。

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症例

74歳の男性。身長160cm,体重53kg。慢性腎不全,高血圧の診断で吸着炭,ジラゼプ塩酸塩,ベニジピン塩酸塩を内服中。今回,肝細胞癌の診断にて肝後区域切除が予定された。

 BUN 67mg/dL,Cr 5.7mg/dL,K 4.9mEq/L,尿量1500mL/日。動脈血ガス分析:pH 7.30,PaCO2 28.8Torr,PaO2 85.7Torr,HCO3 14.0mEq/L,BE -10.8mEq/L。

連載 判例ピックアップ 第11回

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●Summary

胆囊摘出手術施行後にイレウスを呈した患者の緊急手術に対して,硬膜外麻酔と全身麻酔を施したところ,心停止状態となり,蘇生後に植物状態となった事故について,脱水症の患者に対して血圧を低下させる作用のある麻酔薬の投与方法に過失があったと判断された。

連載

Editorial拝見
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Anesthesiology

Editorial:

London MJ. Preoperative administration of angiotensin-converting enzyme inhibitors or angiotensin II receptor blockers:do we have enough “VISION” to stop it? Anesthesiology 2017;126:1-3.

Article:

Roshanov PS, Rochwerg B, Patel A, et al. Withholding versus continuing angiotensin-converting enzyme inhibitors or angiotensin II receptor blockers before noncardiac surgery:an analysis of the Vascular events In noncardiac Surgery patIents cOhort evaluatioN prospective cohort. Anesthesiology 2017;126:16-27.

■術前のアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬とアンジオテンシン変換酵素阻害薬投与による低血圧

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)や,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を術当日に投与すると,麻酔導入後に低血圧が起こり,ARBの場合にはその治療に難渋することがあると報告されている。そのために,手術当日はARBやACE阻害薬の投与を中止していることが多いと考えられる。しかし,2014年版の米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)の非心臓手術患者の周術期評価と管理に関するガイドラインでは,非心臓手術の場合,術当日までARBとACE阻害薬を継続することを推奨している。しかし,その基となるデータは小規模無作為化研究や観察研究であるという問題点がある。

連載 今日も山日和:雲の上の診療所

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小児科病棟での出会い

1997年に,蝶ヶ岳ヒュッテのオーナーである神谷圭子さんと私の妻が,名古屋市立大学病院で出会った。それぞれの娘が入院して,付き添っていたのである。妻から同室の神谷さんを紹介されて,蝶ヶ岳ヒュッテ(図,写真1)のオーナーであることを知った。

 蝶ヶ岳は,学生時代に槍穂高連峰の素晴らしい風景を描くために登った山である。私は当時描いたスケッチを神谷さんに見せながら,楽しい思い出を話をした。ところが,神谷さんから切り出されたのは楽しい山の話ではなく,蝶ヶ岳で発生した登山者の死亡事故だった。

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震災復興 ようこそ仙台へ!

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2017年3月11日で,東日本大震災から6年を迎えます。今回は震災復興特別版として,仙台エリアを東北大学病院 麻酔科の佐藤 友菜先生にご紹介いただきます。旅のお供に是非LiSAを!

Tomochen風独記

㉗ バイリンガルへの道 山本 知裕
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外国で生活しているだけで,子供は勝手にバイリンガルになるのでしょうか?今回は海外(外国)で生活する子供の言語能力の発達について考えます。

はへほ調music scene

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前回はバレンタインデーの夜に流したい曲を取り上げたが,寸分違わず実行した読者の首尾は如何だったろう?非常に興味深いものがある(←陳腐としか言いようのない学会発表に対する,言葉に窮した座長の常套句である)。早くも河津桜が満開を迎え,花見だのホワイトデーだのと世間が浮かれている間も謹厳実直を絵に描いたような日々を送るコラム子,今回は直球勝負で大曲に挑むこととしよう。

 西洋音楽に大変造詣が深いと思われる文部科学省の方々がありがたく作ってくださる検定済教科書には決して載らない大作曲家アントン・ブルックナーの最高傑作,交響曲第8番である。きっと霞ヶ関では青少年の健全育成を阻む音楽としてお墨付きを得ているに違いない。しかし,お上の検閲とは縁が無い(老舗旅館の「意地悪おかみ」のように重箱の隅を突くN編集嬢の校閲は日常茶飯事である)music sceneでは,第6番,第9番に続き3度目の登場となる。

Medical Books 自薦・他薦

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当世 問はずがたり

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先日,文部科学省の局長の天下り問題が大きく報じられました。局長がどの程度の地位にあるのか,一般の方はご存じないと思いますが,いわゆるキャリアの場合,課長までは行くけれど,局長は難しいと言えばわかっていただけるでしょうか。任期も2年程度がせいぜいで,名誉職的な要素も強く,そこからはさらに狭き門なので,天下りの通過点になりやすい地位でもあります。天下りというより次の職場を見つけるといった感覚で,正直,あの程度のことが法に違反するという意識すら当事者たちには乏しかったのではないでしょうか。

 ところで,国立大学医学部(今は独立行政法人)の場合,その地位があからさまに国家公務員であった時代でも,教授の天下りが問題になった記憶はないわけですが,およそ退官後の楽隠居例も存じ上げません。町工場の親方である教授職を天下の局長職と同列には論じられませんが,倫理的には同種の問題なのだと思います。「白い巨塔」が単純な悪対正義の図式にならないのも,定年後の就職先に腐心する東教授の姿ゆえ,です。

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基本情報

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LiSA
24巻3号 (2017年3月)
電子版ISSN:1883-5511 印刷版ISSN:1340-8836 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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