看護管理 13巻1号 (2003年1月)

特集 トータル・クオリティ・マネジメントを目指し支える組織づくり

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病院改革の第一歩

リーダーシップを発揮させるための権限委譲

井部 今日は,トータル・クオリティ・マネジメント(TQM)という,医療の質,病院経営上の質,医療におけるさまざまな総合的な質の管理を目指す組織づくりがテーマです。正木さんは,他産業から医療界に入り,非常にパワフルに病院改革を進めてこられました。そして,今年,病院にTQMセンターを開設したということです。かたちだけならともかく,ここまで組織を引っ張ってくるのは並大抵の努力ではないと思います。一口に質管理と言っても,医療における1つ1つの場面には,実にさまざまな側面があって,なかなか標準化しにくいこともありますが,これからの医療の目指す方向としてのTQMとそれを支える組織づくりについて,話を聞かせていただきたいと思います。

正木 私が済生会熊本病院に来たのは1995(平成7)年のことです。ちょうど新築したばかりで多額の借金を抱えながらのスタートで厳しい年でした。これから「医療のビッグバン」が来るぞという話がもちあがっていた時期でもあります。それまで,何の心配もしていなかった職員たちが,少し危機感をもったのがこの頃です。現院長の須古先生に交代することが決まったときに,今までの医療界とは違った知識をもった人間を入れたいということで私が呼ばれたのです。

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TQMセンター発足の経緯

 ほとんどのメーカーは,不良品の発生をモニターし,それぞれの製造工程でのミスの発生率を調査して改善を行なっている。さらに,製品が売れなければ,顧客や市場調査を行ない,良い製品を安く売って利益を上げるという最終的なアウトカムの達成に努力する。当然のことである。では,医療の分野でこうしたことが組織的に行なわれてきたかというと,日本ではあまり本質的な活動は行なわれてこなかったと考えられる。

 われわれはクリニカルパスの活動を1996年から行なっており,試行錯誤しながらアウトカム志向のパスを作り始めたが,これが目標管理,質の管理の一つの形であることに気づいた。この間,アメリカのいくつかの病院を視察し,質を管理する専門部署が設置されていることを知った。

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はじめに

 ここ4,5年前から医療事故の報道が増加してきたこととも関連して,「医療の質の確保」が大きな課題として取り上げられてきている。これらの課題は単に事故予防という問題だけではなくて,安全な医療を提供していくシステムとして,病院のマネジメントをどう構築していくべきなのかという総合的なテーマとして捉えられてきている。このように医療の質を担保するために,病院全体のマネジメント体制を構築していくことが,TQM(Total Quality Management)と考えている。しかし,病院のTQMについては,まだまとまった考え方が確立されているわけではなく,各施設でさまざまな取り組みがなされているのが現状ではないだろうか。そこで,本稿では,現在までに当院で取り組んできたことを紹介して,今後どのような病院像をイメージしているかを述べてみたい。

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はじめに

 当院では,1992年よりTQM活動を実施している。以下,ここ10年間の活動を通して,当院のTQM活動について述べる。

 当院は,1918年に「広く郡民のために良医を招き,治療投薬の万全をはからんとする」として開設された1157床の企業立病院である。1988年に行動理念「積極性ある社員作りとお客様への満足」,1990年に経営理念「WE DELIVER THE BEST」(まごころ医療,まごころサービス),1992年「TQM活動」が提唱された。

 医療の質向上は,健全経営の基盤の上に成り立ち,さらに生き残るためには変革が必要である。TQMの目標は「継続的な医療の質の向上」であり,目的は(1)患者第一主義,(2)まごころ医療・まごころサービスの実現,(3)病院の体質改善・発展に寄与,(4)人間性,造性を重視し,生きがいのある明るい職場作りである。

 現在の当院経営者は「日本一のまごころ病院を,この筑豊から発信しよう!」と,最近ではイントラネットを通じてさまざまなメッセージを職員に発信している。

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全職員参加活動のシステム構築

 近年,病院における医療事故,医療過誤などの報道が相次ぎ,医療の質への関心は従来になく高まっている。ここで問題となる医療の質とは,診療を中心にした病院で行なわれる業務個々の質およびそれらが有機的に連携したシステムの質を意味し,医療の質改善活動とは,業務に従事する全ての職員が関与すべき活動である。この全職員参加の質改善の活動を病院に根付かせることが安全管理上での必須事項であり,本稿ではこれを組織的なシステムとして構築する方法について考えたい。

 PL病院では,1985年の増改築を契機に,病院経営の質と病院業務を組織的に改善し,安定した病院経営を図るためにふさわしい方法を模索していた。そして,わが国の企業において独特の発展を遂げ,成功を収めてきた「TQM(Total Quality Management)」に着目し,その一環として,比較的取り組みやすい「QC(Quality Control)サークル活動」を1987年に導入した。

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NDPとは

 医療においても,その他の業種においても,本来のこなすべき業務と,その業務のやり方を改善していくという業務がある。後者の業務を組織的に進めていくためには,何らかの方法論をもっていることが必要であり,TQMはそのための有力なツールとなりうる。

 日本では,病院においてもQCサークルなどの小集団活動を中心とした改善活動は行なわれているが,TQM[Total Quality Management;総合的(品)質マネジメント]の実施例は少ない。米国では,1987年にバーウィック教授が中心となって改善プロジェクト(NDP;National Demonstration Project on the Application of QC to Healthcare)を実施している。この例にならい,医療の質保証の研究を,医師の立場で進めてこられた東北大学の上原鳴夫教授の構想のもと,筆者らの産業界の知己とのつながりを基盤としてTQMのデモプロジェクトを実施している。

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バランスト・スコアカードとは

 最近,「バランスト・スコアカード」(BSC)への関心が,一部の医療関係者の間で高まっている。BSCは,ハーバード大学教授のRobert KaplanとNolan Norton研究所CEOのDavid Nortonが,1992年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に論文を掲載し,その後,多くの企業が導入した経営管理ツールである。一般企業では企業全体のみならず,各部門単位レベルなどでの目標設定や,その達成度をチェックし,その中で問題点や強化項目を早期に発見し,対策を検討して実行することにより,その効果を検証するために利用されている事例が多く報告されている。これは,いわゆるマネジメントサイクル(PDCA)を効率的に運用するためのツールとしての一面が指摘されるところであるが,BSCの顕著な特徴とは,具体的な数値目標の設定により,曖昧さを極力排除するとともに,従来の財務指標を中心とした分析や戦略策定ではなく,財務的視点・顧客の視点・業務プロセスの視点・学習と成長の視点を基本とした多元的な評価指標を設定し註1),これらの指標間の因果関係を構築し,仮説と検証によって,組織運営に論理的な志向をもたらそうとする点である(図1)。

 この点において,BSCにおける「バランス」には,財務指標だけでなく非財務指標も取り入れるという意味や,財務面における短期的業績だけでなく,学習と成長の視点から長期的業績を検討するという意味,品質改善や業務プロセス改善による効率性と財務面とのバランスといった多くの「バランス」が含まれており,これらを戦略的に利用することで,組織全体の業績管理手法となることを示していると考えられる(図2)。

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はじめに

 看護(医療)事故防止には,安全な看護を提供するための実践的教育と,リスクに対する感性と,意識を高め,1人ひとりの認知能力を上げていく教育の両方が必要である。

 聖隷浜松病院は組織を挙げてリスクマネジメント(RM)に取り組んでから3年が経過した。この間,さまざまな事故防止への取り組みの中で,リスク管理の要に位置する看護師への重点的アプローチを行なってきた。具体的には,各職場のインシデントレポート(ヒヤリ・ハット)の分析からの対策,他職場・他院のアクシデントからの学びを具体化する等である。それと並行してRM教育も実施してきたが,主に管理者層や看護部の事故予防対策委員会メンバーが対象であった。内容はRMに関する基礎概念やインシデントレポートがなぜ必要なのか等,スタッフ教育に必要な基本を理解することに重点をおいた。日々の看護を安全に提供するために必要な知識・技術の教育であり,導入期の緊急の課題であった。

 次の段階として,リスクの高い年代である初心者レベル(経験1,2年目)の看護師を対象に安全教育を段階的に積み上げていく必要性を感じた。そこで,2001年度は2年目看護師を対象に「2年目看護師安全教育」研修を卒後教育の一環に位置づけてプログラムを組んだ。本稿では「2年目看護師安全教育」研修の実際と研修後の意識の変化を中心に述べる。

敢えて言いたい

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 2001年末の第153回国会で「保助看法」の一部改正法が成立し,2002年の3月1日から新しい呼び名の保健師,助産師,看護師が誕生した。結婚して改姓したばかりの新婦でも,せいぜい20~30年使い慣れた旧姓から転換するだけで戸惑うというのに,職業としては100年以上,個人としてもずっと「カンゴフサン」と呼び,呼ばれてきたのだから,そんなにすんなりと新しい名称になじめるはずがない。そのうえ,名称変更した途端に,極めて悪質な殺人事件が起きたりして,否応なくそれとセットで「看護師」という名がニュースに登場したせいか,あまり好きになれない呼び名である。後から知った国会の審議などでも,その大半が助産師をめぐっての論議であったようで,本当に改名する必要があったのかどうかも疑わしい一方で,名称変更を看護界の画期的なできごとのように評価する向きもある。すでに歩き始めてしまったから,今更いやとも言えず,そのうち慣れるだろうとは思う。

 それはさておき,そこから派生した「シチョウサン」という呼び名はもう1つピンとこない。看護師と違って,「婦長」をどう呼ぶかは,法律で決まったわけではなく,各施設ごとに決めてよい。しかし,医師,薬剤師,レントゲン技師など,院内にも「師」のつく職種は多くある。彼らを師長とは呼ばないのに,何故。また,どういうわけだか,この言葉から私は軍隊をイメージしてしまうのだ。

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 当院では,1995年に「看護の日・看護の週間」の取り組みの一環として,医療や看護を地域の人たちに広く知ってもらうことを目的に,これからを担う子どもたちをボランティアとして病院の場に受け入れることを決めました。以来,この子どもボランティアを継続的に実践してきましたが,このたびこの活動が,朝日新聞社の推薦を受け,「朝日のびのび教育賞」を受賞しました。ここでは,受賞の喜びと,授賞式の様子をご紹介します。

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 中村さんは38歳のとき,オートバイに乗るようになった。

 「高校に入った息子が『バイクの免許を取りたい』って言ったんです。当時の私には,バイクに対していいイメージがなくて,許さなかった。すると息子が『お母さんはなにも知らないで決め付けている』と言ったので,ならばちゃんとバイクというものを知ってから判断したいと思って教習所に行ったのがはじまりです」

新連載 看護師の業務と役割の模索―厚生科研「諸外国における看護師の新たな業務と役割」から・1

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“療養上の世話又は診療の補助”再考

 日本における看護師の業務は,保健師助産師看護師法第5条により,「傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助」と定められている。しかし,この「療養上の世話又は診療の補助」という業務内容の記述は,20回に及ぶ改正を経てもなお,昭和23年に制定された当時と変わらず,時代の変化の中で現状とは合わないものとなっている。

 現在,医療ケアやそれを取り巻く環境の中で生じている変化には,医療の高度化や複雑化,あるいは国民の医療に対するニーズの多様化,さらには在宅療養など医療ケアが提供される場の拡大などが挙げられる。このような変化に対応するためには,「療養上の世話又は診療の補助」といった従来の看護業務のあり方では,対象者のニーズに合った質のよい看護ケアを提供することができなくなっている。また,医療ケアが提供されている実際の場において,看護職は法文の記述の範囲を越えた業務内容を行なっているのも事実である。

新連載 感染管理・業務改善 SUCCESS FILE・1

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何が問題だったか

術前日の剃毛処置と術創感染

 私が当院で術前の剃毛廃止に取り組むことになった最初のきっかけは,心臓血管外科医師からの「最近,MRSA感染が増えている気がするから調査してほしい」という依頼でした。この依頼を受け,ICN(Infection Control Nurse)である私を含むICT(Infection Control Team)が,術感染に関する調査をすることとなりました。

 まず現状把握のため,過去1年にさかのぼり,感染患者の感染状況の調査を行ないました。調査の中で,無菌領域での手術患者(心臓血管・整形外科領域など)に重篤な深部感染を起こすケースがほぼ毎月発生していること,そこには,皮膚常在菌以外の同一菌属(Pseudomonas属)による感染例が多く含まれていることがわかりました。これらの情報から,感染患者が術前・術中のいずれかに術野への外部からの細菌汚染を受けている可能性が高いと考えられました。Pseudomonas属は,緑膿菌に代表されるグラム陰性桿菌の1種で,水のある環境を好むと言われており,院内感染対策上最も重要な菌の1つです。この特徴から,剃毛時に使用する器具や石の使い回しが感染の原因として考えられました。具体的には,剃刀剃毛時に皮膚に付着した菌が,剃毛処置により傷害された皮膚の上で爆発的に増殖し,執刀時に行なわれる皮膚消毒を上回る感染力を発揮し,術感染を成立させたという推理です。

新連載 彷徨い人の狂想曲・1

風霜またひとつ 辻内 優子
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 大晦日の深夜勤。誰もが嫌がるものだが,さして一緒に過ごしたい人がいるわけでもない。法子は今年も仮眠室のテレビで紅白歌合戦を観ていた。大日というのは,思ったほど救急外来の受診者は多くない。どこも病院は休みになるからと年末にたくさん薬をもらっていく人が多いのか,誰しも気忙しく病気にならないのか。それとも,年末年始の当直は大抵研修医が担当していることを知ってのことか。紅組が勝とうが白組が勝とうがどうでもいいし,流行りの歌にもさほど興味はない。ただ,またあっという間に一年が終わってしまうという切なさが,この風物詩となった番組から伝わってくる。ぼんやりしている法子の耳に救急外来の電話がけたたましく鳴り響いた。

 「はい,佐渡川病院救急外来です」

連載 看護師の働き方を経済学から読み解く・10

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 第8回,第9回にわたって,日本では看護師の労働市場が二重構造になっており,その第1階層と第2階層で賃金に格差が存在することを検証した。そして,より高い賃金が支払われる第1階層においては,公的病院や学校法人立病院といった,看護師養成機関と採用上関連を持つ病院が,新規学卒や継続就労の看護師を雇う一方,第2階層である他の私的病院は,結婚や出産等で一度退職した看護師を雇う構造にあることも明らかにした。

 今回は,第1階層と第2階層の間の賃金格差について,「職務価値」という観点から分析する。

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 昨2002年の11月1日・2日に第40回日本病院管理学会学術総会が北九州市小倉の北九州国際会議場で開かれた。その前日,同学会員による研究会や委員会,非会員も参加できる催しなどが開催されていた。ここでは,勝原裕美子氏(兵庫県立看護大学講師)が「医療組織における倫理風土をどう確立するか」をテーマに掲げて主催した自由集会について報告したい。

組織の倫理風土を構築するために

 勝原氏は,これまでの研究において,同県内の看護部長から「部長に就任して以来,最も困難だった倫理的意思決定」について事例を集めて分析し,看護部長の倫理的課題が16種類の道徳的要求が絡み合って生じていること,倫理的課題に直面した場合,意思決定権がないと道徳的苦悩に陥りやすいことを確認している。

基本情報

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看護管理
13巻1号 (2003年1月)
電子版ISSN:1345-8590 印刷版ISSN:0917-1355 医学書院

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