作業療法ジャーナル 50巻3号 (2016年3月)

特集 内部障害への作業療法—リスク管理に留意して

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特集にあたって

 厚生労働省の「平成23年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者実態調査)」の結果によれば,障害の種類別にみた身体障害者手帳所持者は,肢体不自由の割合が全体の44.2%,次いで内部障害が24.1%となっている.内部障害の内訳は,心臓機能障害,じん臓機能障害,ぼうこう・直腸機能障害,呼吸器機能障害の順に多く,身体障害者手帳取得者を対象とした調査では,在宅・通所サービスの利用者は増加傾向にある.このことは内部障害者に対し,OTが貢献できる機会が増えていることを示唆している.

 本特集は,OTが内部障害に対する知識と経験を深めるために必要な「リスク管理」に着目して企画している.適切に,そして安全に作業療法を実施するためには,疾患に見合った中止基準や禁忌を含むリスクを,基本に立ち返り確実に把握しておくことが重要である.医療の場面では,薬物に加え新しい医療機器,たとえば人工臓器の利用や移植等の治療が内部障害者に行われるようになっており,作業療法で対応することが求められている.

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Key Questions

Q1:心臓リハの適用と禁忌は何か?

Q2:呼吸リハの適用と禁忌は何か?

Q3:内部障害患者における作業療法時のリスク管理で留意する点は?

はじめに

 身体障害者数は,視覚障害,聴覚・言語障害,肢体不自由者数がほぼ横ばいであるのに対して,内部障害者数の占める割合は増加している1).内部障害者数の増加は2001〜2006年(平成13〜18年)までの5年間の身体障害者数増加分の93%を占めるほど驚異的であった1).OTがリハに関する診療報酬制度上でも心大血管疾患リハや呼吸器疾患リハにかかわれるようになった現在,内部障害リハは,OTを含めたリハ関連職種が精通すべき基本領域になったといえる2)

 OTは,内部障害リハで,廃用症候群の改善,家事動作や階段歩行等での息切れを減らす方法の指導,環境改善等,多くの役割を担える.ただその前提として,呼吸・循環・腎・代謝疾患の病態生理と障害,心電図,呼吸機能検査,血液ガスデータ等の基本的理解が必要である.その一環として今回は,内部障害リハ,特に,心臓リハ,呼吸リハ,腎臓リハにおけるリスク管理に関して概説する.

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Key Questions

Q1:内部障害の対象者の適切な活動の予測はどのようにするか?

Q2:呼吸器・循環器疾患における重症度に応じた介入のポイントは何か?

Q3:重複障害における注意点にはどのようなものがあるか?

重複障害と作業療法

 2006年(平成18年)の厚生労働省の身体障害児・者実態調査1)によると,重複障害の割合は,内部障害と肢体不自由の重複が約3割,3種類以上の障害の重複が約2割であると示されており,重複障害患者の半数近くが内部障害に他の障害を合併していることが推測される.

 また,たとえば高血圧疾患の心血管病リスクには,糖尿病,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)等が挙げられているように2),内臓疾患個別の対応では不十分となってしまうのが実際であり,関連する臓器の機能状態の把握は欠かせないものである.

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Key Questions

Q1:高齢肺炎患者の病態は?

Q2:高齢肺炎患者に対する作業療法の役割とは?

Q3:高齢肺炎患者の退院支援とは?

はじめに

 2011年(平成23年),本邦で長く3大死因であり続けた脳血管疾患,悪性新生物,心疾患のうち,脳血管疾患を抜いて肺炎が死因第3位となった.肺炎による死亡の約95%が65歳以上の高齢者であり,肺炎による死亡の増加は高齢者人口の増加のためと考えられており1,2),高齢化に伴い肺炎による入院患者がさらに増加することが予想される.高齢肺炎患者は呼吸器疾患,心不全,腎不全,脳梗塞後遺症等,多彩な基礎疾患を有し,疼痛や発熱等の症状が乏しく,抗菌薬を投与しても治癒が遷延しやすく,重症化しやすい3).入院や抗菌薬治療は延命効果と急性期の症状緩和効果があるが,突然の環境変化や症状によるストレスによりせん妄症状を引き起こし,臥床状態を強いられることでADLの低下を招く.以上のような点から,高齢肺炎患者は入院加療により,ADLだけでなく長期QOLが悪化しやすい.作業療法が急性期から退院後の生活を想定するとともに,生活者としての回復を促進し,退院後のQOLを高めるために介入する意義は非常に大きいと考える.

 芳珠記念病院(以下,当院)は石川県能美市にある,320床のうち82床の地域包括ケア病棟を有する地域密着型のケアミックス病院である.高度急性期から慢性期まで,地域から患者を受け入れており,高齢肺炎患者に介入する機会も増加している.当院のリハ処方数も,骨折,がんに次いで肺炎が第3位となっている.今回,当院の高齢肺炎患者に対する急性期から在宅復帰までの作業療法について紹介し,肺炎治療におけるOTの役割を考えていきたい.

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Key Questions

Q1:心疾患患者に対する急性期リハのチェックポイントは?

Q2:心疾患患者に作業療法を行うときのリスク管理は?

Q3:心疾患患者に作業療法を行うときの視点は?

はじめに

 2013年(平成25年)の診療報酬改定でOTが心大血管疾患リハ料を算定できるようになり,心大血管疾患患者を担当するOTは大幅に増えたと推察する.脳卒中や整形外科疾患の患者を中心に治療を行っているOTが初めて心大血管疾患患者を担当し,医師からの指示書を見たとき,聞いたことがない言葉や数値が並んでいることに気が引けてしまい,リスクを踏まえながら作業療法を進めることに負の感情を抱いてしまうかもしれない.

 本稿では心大血管疾患に対し,疾患別の作業療法とそのリスク管理について紹介するとともに,在宅(生活期)への支援についても言及する.今回の対象疾患は,虚血性心疾患(心筋梗塞),心臓外科手術後(冠動脈疾患,弁膜症),不整脈,心不全とした.

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Key Questions

Q1:作業療法の対象疾患は?

Q2:透析患者が抱える問題とは?

Q3:作業療法の実施にあたって気をつける点は?

はじめに

 2014年(平成26年)の糖尿病性腎症を原疾患とした透析導入患者は43.5%と第1位を占め,そのうえ,導入患者全体の平均年齢は69.0歳と高齢化を反映して腎硬化症が増加している1)

 2011年(平成23年)に,上月正博理事長のもと,腎臓リハの普及と発展を目的として,「日本腎臓リハビリテーション学会」が医療関係者や研究者の職種を超えた学術団体として2)設立された.それ以降,透析中の運動療法に関する報告は増加したが,多くは比較的自立度の高い外来通院患者が対象であり,主にPTのかかわりである.また残念なことに,診療報酬制度に腎臓リハの項目のない現状は続いている.

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 日本の肺移植は,1997年(平成9年),岡山大学病院(以下,当院)における生体肺移植で始まった.2010年(平成22年)の改正臓器移植法が施行されたこともあり,以降,脳死肺移植実施数も増加している.理学療法は全例介入しているが,作業療法は合併症等により治療や離床に難渋している例に追加処方される場合が多い.

 当院で2015年(平成27年)までに肺移植術を施行された141例のうち,作業療法を追加処方されたのは8例であった.主な作業療法の目的は,①免疫抑制剤等の副作用による上肢の振戦や筋力低下改善,②全身持久性低下改善,③筋力低下や呼吸困難感によるADL障害改善であった.

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 心不全に罹患する患者は年々増加しており,心臓移植待機患者数も増え続けている.移植待機期間は3年近くになろうとしており1),その間患者の生命を支えるために行われるのが補助人工心臓(VAD)治療である.

 VADは,体外式と植込式の2つに大きく分けられる.体外式VADは,駆動装置が大きく病院内での使用に限られる1).そこで,新しく開発されたのが植込式VADである.血液を送り出すポンプが体内に埋め込まれ,在宅治療や社会復帰が可能となった.本邦でも2011年に保険償還され,現在使用可能なものとしてEVAHEARTTM(株式会社サンメディカル技術研究所製),DuraHeart®(テルモ株式会社製),HeartMateⅡ®(Thoratec社製),Jarvik2000(Jarvik Heart社製)がある.植込式VADが適応となるのは心臓移植待機症例に限られており2),体外式VADは移植適応がない患者に対し自己心機能回復目的に使用されたり,体格が小さく体内へのポンプ設置が困難な場合に使用されることが多い.

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認知症のある人は何を見ているのか

 認知症の人は何を見ているのだろうか?

 これは認知症研究では古典的な課題だが,ここ1年,そんな疑問がずっと頭から離れなかった.特に同居している義母の認知症が進行するにつれて,義母が見ているものとわれわれに見えているものは,明らかに違うことを実感した.たとえば,風呂場で勝手に浴槽にお湯を入れようとする義母には,ボタンを押したら適温の湯が出てくるのが見えている.家族には,お湯は出ているが浴槽の栓をしていないのでそのまま流れていることが見えている.お湯が溜まっていないことを指摘しても義母には理解できない.あるいは,義母は朝起きると洗面所で何十年も前の金盥を使って機嫌よく顔を洗っていた.洗面所に向かう義母はまるで金盥を目がけてまっしぐらに進んでいるように見えた.ある日,家族が古い金盥を新しい白いプラスチックの洗面器に替えたら,義母は混乱して顔を洗えず,しまってあった元の金盥を見つけ出してきた.このような驚きや発見は,枚挙にいとまがない.認知症のある人には高次脳機能障害があるので,注意障害もあり,状況把握も苦手である.その中で果敢に行動するので,こんなことになるのだ.

あなたにとって作業療法とは何ですか?・第15回

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作業の治療的応用と人間学

 私は時代が変わっても,「作業療法とは,身体又は精神に障害のある者,またはそれが予測される者に対し,その主体的な生活の獲得を図るため,諸機能の回復,維持及び開発を促す作業活動を用いて,治療,指導及び援助を行うことをいう」(日本作業療法士協会の定義:1985年)が作業療法の対象,目的,手段としての作業とその行為の説明として簡潔で要を得ている定義と確信している.

 作業のもつ文化的,身体的および心理的な要素と作品の社会的意義は有益である.さらに加えれば,治療者としてのOTの人間性と,その自分自身の持ち味が,治療手段として対象者個人とのコミュニケーションを豊かにして,対象者の生き方や生活方法に関与して,対象者の行動を知り理解したうえで,援助の方策を考えて対象者を支援する.OTと対象者の人間関係をスムーズにする手段としても,作業活動を治療的に応用することは有益である.

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はじめに

 精神保健医療福祉領域におけるこの10年は,2004年(平成16年)9月に厚生労働省精神保健福祉対策本部から発表された「精神保健医療福祉の改革ビジョン」,つまり「入院医療中心から地域生活中心へ」の転換を受けて,さまざまな施策が打ち出されてきた.精神障害者の地域生活支援を充実させていく方向性は,誰もが賛同できる理念であるが,その方法論を巡っては検討会を中心としてさまざまな議論がなされてきている.

 本稿では,精神保健医療福祉領域における施策の変遷を振り返り,OTにとってのこの10年の変化を示す.さらにこれまで作業療法の果たした役割と,これからの課題を整理する.

講座 ハンドリング・第3回【最終回】

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はじめに

 「ハンドリングは達人の職人芸であり,そこに到達するためには多くの修行が必要で,センスのない自分には難しい」,あるいは「作業活動を用いるOTの技術として優先順位の低いもの」と思っているOTが多くいるかも知れない.本講座の第1,2回目において,OTが行うハンドリングは対象児・者に寄り添う技術と広く解釈し,生活支援のために重要な技術であることを強調してきた.ハンドリングの技術向上のためには,各種神経生理学的アプローチの講習会で徒手的治療手技を学び作業療法に応用していくことも選択肢であるが,日々の臨床業務の中で身近な研修の積み重ねが可能である.最終回となる第3回目は,そのようなハンドリングの技術研修の具体的方法について解説していきたい.

連載 手のリハビリテーション・第3回

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はじめに

 前回は,PIP関節の治療訓練について説明した.

 今回は,そこで説明した段階的な関節の運動環境改善とその維持の方法の背景を機能解剖学から示す.本来,治療訓練の紹介はその理論的根拠が優先されるが,読者はその基礎的な知識をもち合わせていると考え,この順序にした.前回示した手技を試みた方は多少なりともその効果を体験されたであろうか.ぜひ,その背景にある理論をここで確認していただければ幸いである.

 読者がそれぞれの立場で自身の技術をさらに発展できるように,前回の手技を心にとどめ,理論的根拠を整理していく(図1).

連載 クリニカルクラークシップに基づく作業療法臨床教育の実際・第6回【最終回】

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はじめに

 昨年度,筆者は初めて目白大学保健医療学部作業療法学科の臨床教育を担当し,クリニカルクラークシップ(以下,CCS)を知った.

 臨床教育では,実践と体験に重きを置き,患者のためになり,学生のためになり,教育者のためになる方法をとるようにしてきたが,CCSはこの考えを支持してくれる概念であった.

 本稿では,これまで筆者が実践してきた臨床教育の方法,方針を振り返り,より効果的なCCSに基づく臨床教育を進めていくための課題について整理したい.

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 去る2015年(平成27年)11月14日(土),目白大学主催の「第1回クリニカルクラークシップに基づく作業療法臨床教育研究会」に参加しました.目白大学の新宿キャンパスでの開催で,最寄りの駅からは学生による案内がされており,とても丁寧に対応されていたのが印象に残っています.会場には約50〜60名ほどの臨床教育者がおり,参加者の中には青森からいらっしゃっている方もいて,研究会への関心の高さと熱意が感じられました.

 私が本研究会に参加しようと思ったのは,同大学から実習生を受け入れ,実習指導のあり方についてあらためて考える機会があったためでした.現在,作業療法の実習における課題はさまざま聞かれています.中でもハラスメントの問題や,レポート重視により臨床経験が不足する点が私の中での課題点としてありました.

お裁縫をはじめましょう・3針目

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1枚あると便利なブランケット.前号のランチョンマットやコースターがつくれたら,布のサイズと素材を変えるだけで,ブランケットになります.春先には,薄手の素材でつくるといいですね.

また,ループを1カ所つけることで,肩かけしたときにずれにくく,使いやすいものになります.ぜひ,すてきなブランケットをつくってみませんか?

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Abstract:外傷性の切断欠損手の症例に対し,段階的にスプリントを用いたことで三味線演奏が可能となったので報告する.【症例】 70代男性,右利き.50年来の三味線の演奏家.プレス機に右手指を挟まれ受傷し,右示指・中指・環指・小指切断となった.同日,再接着術を試みたが,血流の再灌流が得られず断端形成となった.【治療】 右環指・小指MP関節に自動運動を認めたが,著しい腫脹により屈曲制限を呈した.三味線演奏への復帰を望んでいたが,残存指のみでは困難であった.ばちの把持方法を考慮した際,スプリントによる把持の可能性があったため,残存指の伸展拘縮予防を目的としたスプリントを作製した.術後8週目に屈曲制限が改善したため,ばち把持用スプリントを作製した.【結果】 術後10週に三味線演奏が可能となった.【考察】 三味線演奏への復帰に向けて,術後早期から残存指の拘縮予防を目的とした治療とばち把持用スプリントの作製は有効であったと考えられる.

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表紙のことば/今月の作品

50巻記念エッセイ募集

Archives

第51回表紙作品募集

学会・研修会案内

次号予告

編集後記 澤 俊二
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 気象庁によると,2015年の世界の年平均気温は,1891年の統計開始から最高値を更新した.それに対して,国連の気候変動会議「COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)」では,温暖化防止に向けた世界の新しい約束「パリ協定」を昨年12月に合意し,世界の国々は連携をとることを約束した.しかし,地球は異次元の世界に入ったと認識すべきであろう.

 厚生労働省が,「保健医療2035」をまとめた.2035年は,団塊の世代が85歳以上となり,少子化もさらに進み,人口減と超高齢社会が一層進む,こちらも異次元の世界である.どう対応するのか.特に医療職では,職種間の重複・連携を進める必要があり,介護・福祉も含めて広い視野に立って実践できる人材の育成が望まれる.先取りとして,医師しかできない医療行為の一部を看護師が担えるようにするための特定行為に係る看護師の研修制度が2015年10月から施行され,2020年までに10万人の養成を目指している.異次元の世界には,異次元の発想で対応しなければならないという強い意思を感じたのは私だけではないと思う.

基本情報

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作業療法ジャーナル
50巻3号 (2016年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0915-1354 三輪書店

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