提言
考えて観る,観て考える—認知症のある人とのかかわり方
守口 恭子
1
Kyoko Moriguchi
1
1健康科学大学
pp.210-211
発行日 2016年3月15日
Published Date 2016/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001200499
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認知症のある人は何を見ているのか
認知症の人は何を見ているのだろうか?
これは認知症研究では古典的な課題だが,ここ1年,そんな疑問がずっと頭から離れなかった.特に同居している義母の認知症が進行するにつれて,義母が見ているものとわれわれに見えているものは,明らかに違うことを実感した.たとえば,風呂場で勝手に浴槽にお湯を入れようとする義母には,ボタンを押したら適温の湯が出てくるのが見えている.家族には,お湯は出ているが浴槽の栓をしていないのでそのまま流れていることが見えている.お湯が溜まっていないことを指摘しても義母には理解できない.あるいは,義母は朝起きると洗面所で何十年も前の金盥を使って機嫌よく顔を洗っていた.洗面所に向かう義母はまるで金盥を目がけてまっしぐらに進んでいるように見えた.ある日,家族が古い金盥を新しい白いプラスチックの洗面器に替えたら,義母は混乱して顔を洗えず,しまってあった元の金盥を見つけ出してきた.このような驚きや発見は,枚挙にいとまがない.認知症のある人には高次脳機能障害があるので,注意障害もあり,状況把握も苦手である.その中で果敢に行動するので,こんなことになるのだ.
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