理学療法ジャーナル 53巻4号 (2019年4月)

特集 理学療法士がめざす安心と安全

EOI(essences of the issue)
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 医療技術などの飛躍的な進歩に伴い医療の内容は高度化,複雑化してきている.理学療法の対象も,より幅広い年齢層,多様な疾患,障害となり,臨床の場は医療場面にとどまらず,生活の場での実践も当たり前となっている.どのような場面でも,対象者の安全,安心への準備と配慮は理学療法の質の保証とともに何よりも優先され,また積極的に取り組むことが必要である.本特集は安心・安全の考え方に関する知識を整理して学び,さまざまな現場での実践例の紹介や提案を通し,理学療法士が対象者の安心と安全を保障していくための方策について考えることを目的に企画した.

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はじめに

 1999年に米国科学アカデミーの分科会であるInstitute of Medicine(IOM)1)から米国大統領宛の報告書『To Err Is Human』(「過ちは人の常,許すは神の業」の前半分を利用した題名)が公表され,医療事故をシステムエラーとして捉える考え方が世界的に一般化した.日本においても,2002年4月に厚生労働省2)から「医療安全推進総合対策—医療事故を未然に防止するために」が発表されて以来,各医療施設においては年2回の職員研修が義務づけられるようになった.その後医療安全をどのように教育するかについては,世界的にもしばらく模索が続けられ,2011年に世界保健機関(World Health Organization:WHO)3)が『WHO患者安全カリキュラムガイド多職種版』(図1)を公表し,医療安全は医療者が習得すべき知識として初めて体系化された.本書は翌年に日本語版が作成され,WHOあるいは東京医科大学医学教育学分野のウェブサイトから無料ダウンロードが可能となっている.

 一方で,リハビリテーション領域では,時を同じくして,急性期から回復期・維持期へと対象が拡大され,その活動も集中治療部から通院外来や在宅へと広がり,その内容も運動器疾患にとどまらず摂食機能,廃用症候群,心大血管疾患,リンパ浮腫など,多様な状態に応じたリハビリテーションが進められるようになった.医療安全も当然のことながら急性期・回復期・維持期すべてを対象とすべきであるが,現時点では急性期から回復期までしかカバーできていない状況である.本稿では,急速に拡大するリハビリテーション領域に対して,『WHO患者安全カリキュラムガイド多職種版』をもとに,医療安全の現況を概説したい.

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はじめに

 地域包括ケアシステムの構築において,急性期・回復期のリハビリテーション医療では可能な限り早期からの介入が重要となる.しかし,リハビリテーション対象者においては高齢化に伴う複数の合併症や障害をもつハイリスク患者も多く,安心・安全にリハビリテーションを実施するうえでリスク管理に対するリハビリテーションスタッフの技術・知識向上とシステム整備が急務である.

 リスクに対する取り組みは事故の発生防止だけでなく,発生時や発生後も含む一連の取り組みであり,患者・家族,職員の安全確保,医療の質の保証,組織を損失から守ることを目的とする.日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会1)によると,リハビリテーションは本質的にハイリスクの分野とされ,対象の多くが運動器の障害を有しており,全身的な合併症のある方も少なくない.しかし,転倒や合併症のリスクを恐れてリハビリテーションを実施しなければ,廃用に陥り結果的に対象者の不利益を生じてしまう.高いリスクを負いながら,心身機能,活動,社会参加の獲得をめざさなくてはならないという点にリハビリテーションの特殊性があるとされる.

 これまでもリスク管理をテーマにインシデント・アクシデント発生時・後の流れや,システムについて多く論じられてきたと思われる.本稿では,日々の臨床場面においてどのようにリハビリテーションスタッフの動機づけ,緊急時の対応力を養うか,ということに焦点を当て,リハビリテーションにおけるリスク管理の特徴や現状を整理しつつ,総合病院における安心,安全とは何かを考えたい.

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はじめに

 船橋整形外科クリニック(以下,当クリニック)は整形外科単科のクリニックで,理学療法士,作業療法士70人弱のスタッフでリハビリテーション業務を行っている.近隣に90床の船橋整形外科病院が併設され,多くの術後急性期患者を受け入れている.当クリニックには急性期から高齢維持期まで幅広い患者が来院し,総外来患者数が1日に1,000人を超す日も少なくない.そのなかで理学療法業務を安全かつ堅実に運営するための質的向上は最優先事項であるが,それを補完し下支えする医療安全活動は極めて重要である.本稿では,当クリニックにおける医療安全に対する基本方針とその活動について紹介する.

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「安心と安全」について

 本稿の執筆にあたって,在宅の理学療法士が取り組んでいる安心と安全とはどのようなものがあるか,あらためて考える機会となった.「安心と安全」という広義な言葉のなかには,サービスを受ける「利用者にとっての」と,サービスを提供する「理学療法士にとっての」という2つの意味があるように思う.

 サービスを受ける側が感じるものと,提供する側が感じるものとでは,内容が異なるが,相互に満たされていない状況ではよいパフォーマンスは発揮できない.本稿では,病院や施設とは異なる在宅という環境における特異性も踏まえ,双方の視点から「安心と安全」について述べてみたい.

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はじめに

 「特別支援教育」とは,「障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち,幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し,その持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善又は克服するため,適切な指導及び必要な支援を行う」ことである1).2007年に学校教育法等の一部改正がなされ,従来の「特殊教育」に代わって「特別支援教育」が学校教育法に位置づけられ,すべての学校において,障害のある幼児児童生徒の支援をさらに充実していくことになった2)

 2017年の特別支援教育の実態調査3,4)は図1,2に示すように,近年では出生率の低下とは逆に,軽度発達障害の増加5),人工呼吸器をはじめとする濃厚な医療を必要とする幼児児童生徒が増加している.2009年,これら障害の重度化・多様化への対応として,学習指導要領にも医療機関との連携や外部専門家などの活用が明記されたことで,各都道府県においても理学療法士,作業療法士,言語聴覚士などの内部,外部専門家の活用が開始された.神奈川県では2003年に看護師が職員として配置されるようになり,今まで在宅で教育を受けていた幼児児童生徒が学校で安心して教育を受けることができるようになった.その後,外部専門家の活用の成果もあり6),2008年より理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,心理職が自立活動教諭として正規職員に採用され,2018年4月現在,理学療法士10名,作業療法士12名,言語聴覚士10名,心理職13名が神奈川県立特別支援学校に配属されている7).幼児児童生徒を学校に安心して預けられるように,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士などの医療職を配置してほしいという長年にわたる保護者の願いは,特別支援学校において内部,外部専門家の導入というかたちで実現しつつある.今日ではインクルーシブ教育の推進8)に伴い,その動きは徐々に地域の小・中学校にも広がりつつある.

 本稿では,障害のある幼児児童生徒が安心して学校生活を送るためには何が必要か,特別支援学校における取り組みを紹介し,自立活動教諭(理学療法士)として筆者が考える教育における安心・安全への課題や今後の方向性について述べたい.

連載 脳画像から読み取る障害像と理学療法・4

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Question

この脳画像からどのような障害像が読み取れますか?

とびら

成長 小川 智也
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 われわれ理学療法士は知識や技術を糧とした専門職であり,職種としての興味や魅力があり,自分なりの価値を見出そうとしてこの業界に入ってきたのであろう.しかし,年月を積み重ね,満たされてしまうとその魅力が薄れてしまい,ただ単純作業として動いているようになってしまう.時には日々の積み重ねを振り返ることが大切である.自分がどんなことを,どの程度行ってきたのか.その内容は十分であったか,もっとよい効果的な方法があったのか,などである.

 われわれがかかわる患者さんは,担当する多くのなかの1人だが,患者さんにとっては唯一の理学療法士なのである.同じ疾患でも患者さんそれぞれの身体的,精神的状態が違うことに敏感になる必要があり,1人ひとり丁寧に診ていくことが大切である.そのことで新たな経験が積み重ねられ,知識技術の向上につながっていく.ただ人数をこなしているだけでは自身の向上にはつながらない.丁寧に診ていくことで初めて,患者さんから学ばせてもらうことができると考える.

新人理学療法士へのメッセージ

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はじめに

 このたび,理学療法士国家試験に合格し,晴れて理学療法士として入職された皆さん,本当におめでとうございます.社会人としての人生を歩もうとしている皆さんに,意識してほしいことを3点ほど挙げますから,それを皆さんへの応援メッセージにしたいと思います.これから仕事をしていくうえで1つでも参考になることがあれば嬉しいです.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

線維筋痛症 田口 徹
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 線維筋痛症(fibromyalgia:FM)は全身性の激しい恒常的な疼痛を主症状とする慢性難治性疾患である.本邦での罹患者は人口の1.66%(約200万人)と推計され,女性優位の性差を示す(男:女=1:4.8).発症・受診年齢は男女とも平均45〜50歳であるが,10歳台での若年性発症例もある1)

 FMは圧迫による痛み(圧痛)を特徴とし,全身に定められた18か所のうち11か所以上に圧痛点が存在することが診断基準の1つとなっている2).FMでは通常の痛み刺激をより強い痛みとして知覚する「痛覚過敏」や,通常は痛くない刺激を痛みとして知覚する「アロディニア」を呈し,痛みへの感受性が量的かつ質的に亢進している.痛みは筋腱移行部や関節などの深部組織(運動器)に顕著であり日常生活が著しく制限されるため,理学療法士が本疾患に果たすべき役割は大きい.

1ページ講座 外国人とのコミュニケーション

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 イタリアの医療は,家庭医(medico di famiglia)を基本に考えられています.国民はまず総合診療を行う家庭医の診察を受けるのです.家庭医は,それぞれ市町村の1区画あるいは1地域を担当するため,同じ地域に住み続けている人は,原則として,生涯にわたり同じ医師のケアを受けます.ですから家庭医は,担当する患者と個人的に知り合いとなり,その病歴のすべてを知っているわけです.特に専門医にかかる必要がないと判断されれば,適切な薬が処方され,患者は薬局で薬を受け取ります.必要に応じて往診もしてもらえます.さらに検査や専門医の診察が必要と判断されれば,家庭医は患者を,公立あるいは私立の医療施設に紹介します.ちょっとした皮膚炎,熱中症,風邪,一般的な過敏症など,症状が軽い場合,たいていのイタリア人は医者にかかることなく直接薬局に行き,薬剤師に相談します.

 日本に住んでいるイタリア人にとって,しばしば不満なのが,イタリアの家庭医のような総合診療医に,専門の医師を紹介してもらえないことです.同じ病気でも症状はさまざまです.問題のある身体の部位からだけでは,どの専門医に診てもらえばよいか判断できません.ですから,初めて日本の病院に行ったとき,受付で何科を受診するかと聞かれると,イタリア人は困ってしまいます.自分が何の病気かわからないのに,どの専門医に診てもらうかを言うことができないからです.

講座 理学療法に関するガイドラインupdate 2・4

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はじめに

 神経系疾患には,脳と脊髄からなる中枢神経と中枢神経から枝分かれしている末梢神経,ならびに末梢神経にコントロールされる骨格筋,平滑筋などをコントロールする自律神経を侵すすべての疾患が含まれる.結果として,神経系疾患には多くの疾患が含まれており,非常に多様な症候がみられる.神経組織の再生は困難なこともあり,多くの神経系疾患は難治性で,いまだ根本的な治療法のない疾患が非常に多い.長寿社会の到来と高齢化の進展に伴い神経系疾患の有病率も増大し,社会に与えるインパクトは甚大となっていることから,疾患の克服が極めて重要,かつ喫緊の課題と言える1)

 神経系疾患の克服のためには,発症機構の解明,疾患の進行を抑制する治療法や予防法の開発に加え,神経症候の改善を目的としたリハビリテーション,再生医療を含めた対症療法の開発と有効性の検証が重要となる.

 神経変性疾患に対するリハビリテーションは,① 介入の有無にかかわらず機能低下が生じる,② リハビリテーションの効果は介入群と非介入群の機能差分に反映される,③ 症状進行は個体差(個人差)が大きい,④ 長期経過では症状変化のため介入方法の見直しが必要となる,などの理由から患者個人の効果判定が困難であるのが特徴である.

 これらの背景や制約から神経系疾患,特に神経変性疾患をはじめとした神経難病に対する理学療法のエビデンスは限定されているが,いくつかの疾患については国内外の関連学会によるガイドラインのなかにリハビリテーションに関する項目が掲載されている.本稿ではパーキンソン病を中心に神経難病に対する理学療法のエビデンスについて,現時点で公開されている疾患別ガイドラインをもとに最近の知見を交えて解説する.

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 第54回日本理学療法学術研修大会(以下,本大会)は,徳島県理学療法士会(以下,本会)が担当し,「社会に認められる理学療法士」をテーマに2019年5月25日(土)・26日(日)の2日間にわたり,徳島文理大学とアスティとくしまをメイン会場(図1)として開催します.徳島県での全国規模の研修会の開催は1989年の第24回日本理学療法士全国研修会以来30年ぶり2回目となります.

 本大会は昨年度より秋開催から春開催となり,研修内容も臨床技能向上に焦点を当てた内容に大きく変わろうとしています.このような大事な変革期に茨城県に次いで本会が担当できることを光栄に思い,本会会員が一丸となって鋭意準備を進めています.

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はじめに

 わが国は少子高齢化が進むなか,また2025年に団塊の世代が後期高齢者となるという問題に対して,厚生労働省は地域包括ケアシステム(以下,ケアシステム)を政策の大きな柱としている.ケアシステムは介護とリハビリテーションを構想の中心に据えており1),理学療法士への期待はますます高まっている.しかし,理学療法士は医療,介護のなかでの治療は得意とするところであるが,予防分野の運動療法あるいは比較的元気な高齢者に対する集団的運動療法を専門とする理学療法士は少ない.また卒前教育において地域リハビリテーション,特に介護予防の実習は少なく,卒後の勤務先は病院・施設が中心で,地域リハビリテーションを活躍の場とする者は稀であり,県・市町村の行政との連携を経験している者は数少ない.

 こうした状況を踏まえて本稿では,三重県理学療法士会(以下,県士会)が企画している「比較的元気な高齢者に対する地域密着プロジェクト(健康安全運転講座;以下,安全運転講座)」,言い換えるならばダイハツグループ,県士会,行政,地域と住民を交えた産学官民の共同事業について述べたい.

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●学術大会の概要

 去る2018年12月8,9日,日本大学百周年記念館にて第5回日本スポーツ理学療法学会学術大会が開催されました.

 小林寛和学術大会長(日本福祉大学健康科学部)のもと「スポーツ理学療法の可能性」をテーマに各プログラムが行われました.「障がい者スポーツ」,「子供」,「地域」,「機能評価」が主題に掲げられ,一般演題を含め96題が発表されました.主題テーマはいずれもスポーツ領域における理学療法士の社会的ニーズを反映したものと言えます.また,講演ではスポーツ障害予防研究活動から,地域の活動事例,国際的動向について語られました.全体を通して,スポーツを取り巻く現状に対する「理学療法の可能性」を具体的にイメージできるプログラム構成でした.

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●23回の歴史と規模の大きさを感じた京都大会

 第53回日本理学療法学会・第23回日本基礎理学療法学術大会(以下,基礎学会)が,京都大学大学院の市橋則明大会長のもと開催された.本学会は,理学療法における医学的基礎領域にあたる「構造・機能・情報学」,「身体運動学」,「神経生理学」,「運動生理学」,「生体評価学」の5つを研究の柱として,理学療法の根拠をつくることを目的とした学会である.他職種の参加者も含め,実に1,392人を数え,その規模の大きさと学会としての成長に驚かされた.大会長の市橋先生が身体運動学の第一人者であることは当然のことのように大きな宣伝となったであろうが,京都府士会の先生方が2年以上もの時間をかけて企画を練り,都道府県士会との共同開催としては実に史上初となる合同開催となったことも大きな成功の要因であると感じた.京都府士会学会の参加者を合わせるとさらに多い参加者だったようである.

甃のうへ・第67回

人生は冒険だ 横山 美佐子
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 私は,東京ディズニーランドが開園した年に養成校に入り,理学療法士をめざして35周年,理学療法士及び作業療法士法が公布された1965年に生まれたので,理学療法とともに人生を歩んでいる.結婚して子ども2人をもうけ,父は亡くなったが母と同居していて医学博士も取得でき,今は大学教員にもなり,周りからは順風満帆のようにみえているかもしれない.しかし,私の理学療法士としての船出から現在までの人生,平穏な海原を旅しているときもあれば,嵐のなかを航海しているときだってあった.きっとこれからの旅も陸地であれば山あり谷ありであろうが,人生は冒険だからおもしろい.

 もちろん,最初からこんなことを考えられたわけではなかった.振り返れば自分とは何者かに向き合いながら,挫折を経験したからこそ人生が楽しくなったのだと思う.その過程においては,3つのターニングポイントがあった.

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要旨 膝関節周辺には,大腿前脂肪体,膝蓋上脂肪体,膝蓋下脂肪体などがあり,膝関節運動時における筋腱と周囲組織との摩擦の緩衝に寄与している.膝蓋上脂肪体の動態については,屈曲時に関しての報告はあるが伸展時に関しては散見されない.今回われわれは,外側半月板損傷後の膝関節可動域練習中における最終伸展時に,膝蓋骨上部に疼痛が出現した症例を治療した.超音波画像診断装置を用いて観察すると,健側の膝関節最終伸展時では,四頭筋腱下縁と膝蓋骨底の間が広がり,生じた隙間に膝蓋上脂肪体が移動していた.一方患側は,四頭筋腱下縁と膝蓋骨底の拡がりが乏しい状態で膝蓋上脂肪体が移動しようとしていた.運動療法として,四頭筋腱の持ち上げ操作を実施し,疼痛は消失して完全伸展が可能となった.本症例の治療経過を通じて,膝蓋上脂肪体の動態異常による膝伸展時痛と伸展可動域制限の可能性について言及した.

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要旨 回復が遅延した大腿骨転子部骨折術後例に対して,精神・心理面を考慮した評価を行い,病態の分析を試みた.その結果,破局的思考の傾向があり,それが運動機能の遷延化,痛みの残存に関与していることが考えられた.そのため治療介入では,痛みに対する破局的思考を変換するため,痛みの経過やそのメカニズムに関する教育学的アプローチを行った.また痛みではなく,運動感覚に注意を向けた関節可動域練習を実施し,運動時の運動恐怖感の是正に努めた.当初は地域連携パスのプロトコールから逸脱していたが,介入後は速やかな運動機能の改善,疼痛の軽減がみられ,最終的にプロトコールに近い回復を示した.大腿骨転子部骨折における負のバリアンスの発生には疼痛の残存が指摘されている.本症例の結果からその要因には精神・心理的側面の関与が考えられるため,より包括的な視点での治療介入が必要となることが示唆された.

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 実習指導者をさせていただくなか,次第に学生とのかかわりにやりがいを感じるようになった.スタッフからの「先生に向いてるんじゃないですか」の言葉が私に火をつけた.養成校の教員をめざすべく大学院の門を叩いた.すぐに専門学校教員の話が舞い込み,念願がかなった.やはり臨床施設の実習指導者とは勝手が違った.雑務の多さはもちろんであるが,個人的には多様ないわゆる「多様なニーズがある学生」の指導に四苦八苦してきた.

 素行の悪さに加え,授業崩壊,盗難,落書きなど,「ここは中学校か?」と疑いたくなるほどの荒れようであった.もちろん他の学生への影響は大きい.真面目に受講している学生やその保護者からの対応に追われた.結局,2年余りの教員生活に別れを告げ,充電期間に入ることにした.養成校の教員はもうこりごりと思う反面,未練もあった.充電期間を利用し,「多様なニーズがある学生」について知るべく,いくつもの研修会や講演会に参加した.そこで遭遇したキーワードは「発達障害」,「うつ病」,「パーソナリティ障害」,「適応障害」,「場面緘黙」,「いじめ」,「不登校」,「ネット/ゲーム依存」などであった.前職教員時代は対応に苦慮し,ただ手をこまねいていた「彼ら」のことが少しずつわかるようになった.

臨床のコツ・私の裏ワザ

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 私は昭和63(1988)年に理学療法士免許を取得した.勤務する病院のスタッフはみな若いため,昭和の時代から働く私は現代のシーラカンスのような扱いだ.

 さて私の勤務する整形外科病院は,脊椎の手術や股・膝人工関節手術を主に行い,私たち理学療法士は周術期のリハビリテーションを担う.なかでも股・膝人工関節術後の症例は腫脹や痛みが強く,それが関節可動域練習や筋力強化練習の妨げになることが多い.理学療法士の動作に過敏に反応し,触れることを拒むことも少なくない.

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 「相手をよくみて,臨機応変に」.それはたしかに大正解である.しかし,自身が新人の頃はそれができずに苦労した.その後,こういう声かけをすればうまくいきやすい,良好な人間関係がつくりやすいというパターンを発見してからはずいぶん仕事が楽になった.もちろん,そうしたことをいちいち意識しなくてもうまくできる優秀な方には不要だが,同じような悩みをもつ理学療法士の一助となれば幸いと思い寄稿させていただく.

 ポイントは相手が「今まで苦労してきたであろうこと」と「現在不安に思っているであろうこと」の2つを予測し,先取って代弁して差し上げることである.人は自身に誠実に関心を寄せてくれる人を好きになるもので,初対面でこういった声かけができれば,経験上その後がびっくりするくらいうまくいく.

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 理学療法学科に入学して最初に出会う関門は,解剖学,生理学に基づく運動の解釈であろう.この関門をしっかりと実力でくぐり抜けたセラピストと,何とか?くぐり抜けてきたセラピストは,臨床で病態の解釈という大きな壁に挑む.しかし,この壁は学生時代のテストや国家試験のように解答を覚えたり,参考書をみたら常に解答が明示されているわけではない.臨床で病態を解釈して,闘うためには,解剖学や生理学の知識が不足していることに気づく.

 著者は日本全国を飛び回りセラピストのための解剖学の再教育にモチベーションをもっている根っからの教育者である.セラピストになって解剖学研究に身を置くと,どうしても研究や臨床が楽しくなる.患者を救う方法を伝えたいが,学生時代に教わった内容くらいは自分で勉強し直すべきと考えてしまう.しかし,解剖学の成書の多くは図が多くあるものの,解説の少ないものが多い.また,セラピスト向けの解剖学書と言われると,全体を薄くして,簡素にした感じのものが目につく.そんな解剖学書をみているだけではなかなか理解しきれない基礎的な部分から話をしているのが著者の主宰する講習会『いまさら聞けない解剖学』なのだろう.

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目次

文献抄録

次号予告

編集後記 横田 一彦
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 また新年度を迎えるこの季節がやってきました.新元号のもと,新しい時代が訪れるような気がしています.今年度から新しい大学制度「専門職大学」が開学予定で,私たち理学療法士養成の新しいかたちとなっていくのかもしれません.国政では参議院議員通常選挙があり,また消費税増税もいよいよ間近となってきます.サッカー女子ワールドカップがフランスで開催され,ラグビーワールドカップは初の自国開催です.東京2020オリンピック・パラリンピック開催に関係する新国立競技場をはじめとする多くの大型施設が竣工完成し,いやが上にも盛り上がりは高まっていくでしょう.わくわくする気持ちと不安な気持ちが入り交じる新年度のスタートです.

 本号の特集は「理学療法士がめざす安心と安全」です.理学療法介入の効果を高めるために,個々の理学療法士の研鑽は必要なことですが,同時にその遂行が安心で安全であることが求められます.安全は科学的根拠などにより行う積み上げ作業の成果であり,その安全に対する従事者の取り組み,姿勢に対して対象者,利用者が抱く気持ちである安心を高めることが必要です.本特集ではさまざまな現場での安心と安全について,その考え方や実践について述べていただきました.

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基本情報

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理学療法ジャーナル
53巻4号 (2019年4月)
電子版ISSN:1882-1359 印刷版ISSN:0915-0552 医学書院

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