理学療法ジャーナル 53巻3号 (2019年3月)

特集 こころの問題と理学療法

EOI(essences of the issue)
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 「こころとからだは表裏一体」であり,主としてからだの問題に対応する理学療法士は「こころの問題」にも配慮を要する.バリアの主体が身体機能低下であっても,心理,精神領域の問題についても考えながら対象者とかかわる必要がある.近年,メンタルヘルスという言葉が労働者の健康管理にかかわる重要な問題として認知されているが,患者さんのメンタルヘルスに配慮した診療などが行えているのか,一度振り返る必要があると考える.本特集では理学療法士がかかわるさまざまな場面での「こころの問題」を取り上げ,現在の動向や実践的な取り組み,今後の発展性などについて解説していただいた.

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はじめに

 精神疾患を含むメンタルヘルスの変調に起因する種々の疾患(メンタルヘルス関連疾患)は,さまざまな身体症状を呈することが知られている1).メンタルヘルスの変調を起因とする身体症状には,妄想や不安,恐怖などによる身体の筋緊張亢進,姿勢悪化,さらに,呼吸困難感,換気困難,身体各部位の慢性疲労,慢性疼痛,異常感覚などがあり,これらの症状が「機能的動き」を妨げる要因になる.「機能的動き」とは,量的身体機能と質的それとが同時に作用している状態である.よって,メンタルヘルスの変調は,精神症状と同時に身体症状を呈し,心身両面の健康状態に影響を及ぼし,代償的とも言える「機能不全的動き(dysfunctional movement)」を来す.

 現在,日本のメンタルヘルスに関する身体医学的学際領域において,「メンタルヘルス関連疾患に起因する身体症状」に対する治療的概念は十分に確立されていないため,理学療法を含むメンタルヘルス領域のリハビリテーションについてもいまだ認識されていない.メンタルヘルス関連疾患に起因する「機能不全的動き」は,身体機能が低下した結果として引き起こされた動きではないため,身体機能の改善を目的とした理学療法アプローチのみでは十分な治療効果を得ることが困難であると考えられる.メンタルヘルス関連疾患に起因する「機能不全的動き」の改善には,量的な身体機能に加え,質的な「機能的動き」を高めるための治療介入を優先的に実施することが肝要であると考える.

 本稿では,メンタルヘルスの変調に起因する「機能不全的動き」に対する理学療法の理論的背景と実践方法を紹介し,メンタルヘルス領域における理学療法の役割と将来的展望を提起する.

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はじめに

 精神科領域での理学療法と言って,勤務している理学療法士も実際の業務内容がすぐに頭に浮かぶ人は少ないだろう.厚生労働省1)発表の病院調査でも常勤換算177.7名程度である.一方,日本は超高齢社会に突入し,精神疾患が5大疾病として認定され,認知症への対応や,地域包括ケアの導入,認知症リハビリテーションの診療報酬での評価など,精神科医療と理学療法の距離は近くなりつつある.本稿では,精神医療と理学療法のかかわりについて述べ,筆者の勤務する平川病院(以下,当院)での診療の紹介や私見を含めて,理学療法士としての効果的な介入方法について紹介していきたい.

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はじめに

 わが国の認知症高齢者の数は2012(平成24)年で462万人と推計されている1).認知機能の低下に伴い,IADLの低下・意欲低下・対人関係の低下など徐々に生活のしづらさが進行し,ADLもままならぬ状態に陥る.もの忘れ外来の増加や画像による早期発見技術の向上により早期に認知症と診断される患者が増え,長い期間,認知症に向き合って生活する時代になった.

 当然,理学療法士が認知症の方と出会う機会も増えていることが予想されるが,「認知症は苦手だ」という理学療法士は少なくない.指示に従えない,拒否が強い,時間をかけてコミュニケーションをとるわりには効果が上がらないなど,身体的障害以上に,「やる気」という心の側面が問題視されることが多い.特に,認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)の存在は,リハビリテーションの継続そのものを困難にし,ご家族はもちろん,医療・介護スタッフともに疲弊してしまう.本稿では,BPSDの考え方について概説し,理学療法士が身につけておくべき対処法と介入方法について,症例を交えながら検討していきたい.

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はじめに

 近年児童発達支援の枠組みが拡大し,放課後等デイサービスや訪問リハビリテーションなどで,発達障害に対して理学療法士による支援に社会的ニーズが高まり,理学療法士の間でも発達障害に関する知識の修得は切望されている.このような背景のもと,発達障害に関する書籍1,2)は数多く出版され各雑誌でも特集を組まれるなど,発達障害の各論や指導・支援法については知識を得ることができるようになっており,筆者の及ぶところではない.

 ただ,理学療法士の興味は協調性運動の支援に関することが圧倒的に多いため,その運動支援をすることで子どもの「こころ」や環境とのかかわり方がどのような変化をもたらすのか,さらに理解を深める必要を筆者は感じている.なぜなら,発達障害の特性によって日常生活の困りごとはライフステージごとで顕在化し(図1),特に思春期以降に気分偏重やうつ,対人関係障害などさまざまな精神症状を呈するからである1)

 発達障害児者では,相手の行動を脳内でなぞり,相手の考えを理解し共感するために不可欠なミラーニューロンという神経細胞群の活性が低いとされ,脳の生来的な脆弱性のためにストレス耐性が低く,ごく些細なストレスや心理的要因でも大きな反応を起こすことがある3)と言われている.これら二次障害の現れ方は,発達の時期によって変化するものであり,乳幼児期では虐待の問題,学童期では学習困難,いじめ,不登校,思春期では引きこもりや触法行為,成人期では転職,抑うつなどが特徴的に示されやすい4).加えて,言語発達の観点から心の成長を読み解くと,知的障害の有無にかかわらず,彼らはそれを言葉で表現することが得意とは言えないため,その状態を把握することは難しい.したがって彼らの行動や発言を見聞きしつつ,不適応な症状が出ていないかをチェックすることが大切である.最近では当事者自身が自己理解を深める当事者研究5,6)が報告され,当事者自身の著書7〜9)も多く出版されており,彼らの内面を理解する手がかりとなっている.また筆者は,特別支援学校に勤務していた関係で,地域校支援や特別支援学校(知的障がい部門)での支援のなかで,多くの発達障害の特性を有している児童・生徒の指導に当たった.その経験から,本稿では,幼少期から青年期への「こころ」の発達と脳機能への理解を深めることで,青年期に出現してくるであろう課題を整理して示したいと考えている.

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はじめに

 “こころの問題”とは,捉え方次第でいかようにも解釈できる幅広いテーマである.本稿ではそれを“生きづらさ”と捉え,筆者の専門分野である下肢切断と義足の領域で掘り下げる.

 障害者スポーツが,パラスポーツとも称される昨今,その精神的効果を背景に医療・福祉業界でトピックスになるとともに,メディアが取り上げる機会も増えている.

 折しも2020年にオリンピック・パラリンピックの開催を控える東京では,官民を問わず多くの関連イベントが開催されており,例えば学校教育では,障害とスポーツを通じて,子供たちが人権を考える機会となっている.

 逆境を力に変え,自己の可能性を切り拓くパラアスリートの姿は感動的であり,他者に勇気を与える.しかし,スポーツ参加の様子が,障害の縮図を表したものではないことを,この分野に精通する者ならば皆が知っている.下肢切断者全体を見渡せば,スポーツ活動は限られた環境で成立するものであり,それらを拾い集めて“万事”のように描写するわけにはいかない.

 見方を変えると,達成すべき現実的な目標や残された課題が散在し,そこにも言及しなければならない.本稿では,スポーツに興じる価値を一考しつつも,現実として求められる取り組みについて,下肢切断特有の“こころの問題”を,現場で得た経験や実際の試みより述べる.

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はじめに

 「あの患者さんって,障害受容ができてないからダメなんですよね」と,若手の理学療法士は投げやりに発言した.何気なく発したひと言だったのだろうが,私は大きなショックを受けたことを覚えている.障害を受け入れることは並大抵のことではない.患者の心の葛藤に寄り添いながら進めていくのが,理学療法ではないだろうか? 上記の発言は“こころを支える”ことを放棄しているように感じてならなかったのである.理学療法士を取り巻く環境は“こころ”を支えるための考え方や会話の技能を学ぶ場が少ないのではないかと気づいた.拙著1)を刊行したのはそんな背景があってのことである.本稿では,理学療法の臨床現場におけるこころの問題を支える会話について事例を交えながら解説する.

連載 脳画像から読み取る障害像と理学療法・3

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Question

この脳画像からどのような障害像が読み取れますか?

とびら

淘汰されないもの 林 宏樹
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 50歳台半ばになった.中学生のとき,音楽の教科書にビートルズの『Let It Be』が載っていることを昭和一桁生まれの父に話すと,ビートルズも最初は不良の音楽だった,教科書に載るようになったのかと感嘆していた.中学生の頃から20歳過ぎまではご多聞に漏れず歌謡曲やポップスを夢中になって聴いた.多くの曲や歌手をすっかり忘れてしまったが,まさに世代であるサザンオールスターズと中島みゆきは特別な存在であり,いまだに聴き続けている.今の若者も古く感じたりはしないだろう.決して音楽に造詣が深いわけではないが,ベートーヴェンの第九は好きで,メロディーを耳にすると心が弾むものである.1824年の作品なので200年近く繰り返し演奏されている.

 芸術や文化,実用品であれ,あるいは思想や宗教なども本当によいものは,多くの人に重用され愛される.そして時に海を越え,時代を超えて受け継がれるのである.長きにわたり淘汰されないものはありふれたものにみえ,当たり前に感じがちだが普遍的価値がある.

1ページ講座 理学療法関連用語〜正しい意味がわかりますか?

集学的慢性痛診療 竹内 伸行
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 国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain:IASP)では,痛みを「実際の組織損傷や潜在的な組織損傷に伴う,あるいはそのような損傷の際の言葉として表現される,不快な感覚かつ感情体験」と定義している1).つまり疼痛は,感覚的側面(痛みの感覚)に加え,情動,つまり恐れや苦悩などの感情の動きとしての一面をもつ.急性痛は損傷組織の治癒を図ることが疼痛緩和にも結びつく.慢性痛は,一般に組織の治癒期間を超えているが痛みが持続する状態である.心理社会的因子の影響を受けるため,この因子を含む生物心理社会モデルが提唱されている(図)2).IASPでは慢性疼痛を「治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み,あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛み」3)と定義している.

 慢性痛はさまざまな要因の影響を受け,経過が長期におよぶことも少なくない.このため治療ではさまざまな職種による連携が不可欠であり,幅広い視点で診療を行う集学的診療が重要となる,集学的診療とは,医師や理学療法士,薬剤師,看護師,臨床心理士など多分野,多職種の専門家が集まる「集学的診療チーム」によって行われる診療である.これら多職種が慢性痛の病態や全身状態,心理状態,患者背景,治療目標などを十分な議論に基づいて検討,共有し,治療が行われることが重要である.

1ページ講座 外国人とのコミュニケーション

ブラジル 宮田 次郎
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 ブラジルにおけるコミュニケーションにおいて,一番大事なことは,「笑顔」と「挨拶」ではないだろうか.これは日本であっても世界中のどこの国であっても同様ではあろうが,とりわけ,商社マンとして私が通算14年の駐在生活を送ったブラジルなどのラテンアメリカ諸国では,非常に大切であることは間違いない.

 ポルトガル語やスペイン語には,simpático(シンパチコ)という言葉があり,訳せば“感じがよい”となる.それに対する言葉はserio(セリオ)だが,これは真面目との意味もあるが,simpáticoではない人にも用いられる.要するに“愛想の悪い笑顔の少ない”人だ.ブラジル人は知らない人同士でも笑顔を絶やさない.取引先を訪問すれば受付の女性がニコッと笑ってくれる(日本人はおめでたくも,時々,その笑顔が自分だけに向けられていると誤解をする).

入門講座 身近なツールを治療に活かす・3

電気刺激装置 生野 公貴
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はじめに

 物理療法における電気刺激療法は,「理学療法士及び作業療法士法」第2条に規定されているとおり,理学療法の根幹となる手段の1つである.物理療法の歴史は大変古く,非侵襲的で安全性も高く,定量的な物理的エネルギーを確実に生体に与えることが可能という点で臨床現場に広く利用されている.しかしながら,対症療法のような実施や効果判定が経験主義的に行われてきた背景もあり,物理療法は衰退の一途をたどっていた過去がある.

 2008年に実施された日本リハビリテーション医学会関連機器委員会による253施設の実態調査では,電気刺激装置である低周波・干渉波の所有率は90%を超えており,所有施設のうち「非常によく使用」および「よく使用」と回答した施設が約半数であった.しかしながら,電気刺激装置の有効度に関して「非常に有効」と回答した施設は10.2%にとどまっている1).効果を十分に発揮できていない,あるいは効果を実感できていない背景には,電気刺激装置の特性を十分理解できておらず,患者が呈するさまざまな症状や病態,障害に対して適切な用法で実施できていないことが考えられる.

 本稿では,電気刺激の基礎と電気刺激の生理学的作用の理解を深め,臨床上よく活用される鎮痛のための経皮的末梢神経電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS),筋力増強のための神経筋電気刺激(neuromuscular electrical stimulation:NMES)について,刺激パラメータがもつ意味に重点を置いて解説する.

講座 理学療法に関するガイドラインupdate 2・3

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はじめに

 厚生労働省は,2000年よりevidence-based medicine(EBM)の普及に向けた取り組みを推進している.EBMは,「個々の患者のケアに関わる意思を決定するために,最新かつ最良の根拠(エビデンス)を,一貫性を持って,明示的な態度で,思慮深く用いること」と定義される1).EBMの手順は,ステップ1:患者の臨床問題や疑問点を明確にし,ステップ2:それに関する質の高い臨床研究の結果を効率よく検索し,ステップ3:検索した情報の内容を批判的に吟味し,ステップ4:その情報の患者への適用を検討し,ステップ5:ステップ1〜4までのプロセスと患者への適用結果を評価する,からなる.

 診療ガイドライン(以下,ガイドライン)は,EBMのステップ3で活用される情報に位置づけられ,日本理学療法士協会は2011年に「理学療法診療ガイドライン」の第1版を発行している.しかしながら,最新のエビデンスは毎年発表されていることから,ガイドラインは定期的に更新される必要がある.そこで本稿では,膝関節疾患のなかでも罹患率の高い変形性膝関節症(knee osteoarthritis:膝OA)に着目し,2011年以降に国際的な組織が発行した理学療法関連のガイドラインを紹介する.また,EBMのステップ4を想定して,実際の症例に対する推奨内容の適用例を挙げて推奨内容の具体的な活用方法についても解説する.このとき,近年報告されたランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)やシステマティックレビュー(systematic review:SR)も参考にする.

臨床実習サブノート どうする? 情報収集・評価・プログラム立案—複雑な病態や社会的背景の症例・11

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はじめに

 従来,大腿骨頸部骨折は,大腿骨頭下から転子間骨折を含む関節包内骨折(内側骨折)と転子貫通骨折による関節包外骨折(外側骨折)の両者に分類され,これらを合わせて大腿骨頸部骨折とよばれてきました.しかし,2011年に発刊された「大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン(改訂第2版)」1)以降は,大腿骨頭下から転子間線近位までの中間部骨折を大腿骨頸部骨折,転子間線から小転子基部までの転子貫通骨折を大腿骨転子部骨折とし,これらの両者を大腿骨近位部骨折とよんでいます.

 本邦における大腿骨近位部骨折の発生は,2007年に行われたOrimoら2)の調査によると14万8100人(男性3万1300人,女性11万6800人)と推計されています.また,2012年のHagino3)の調査では19万人,2040年には32万人に達すると推計され,高齢者の増加とともにその発生頻度は高まることが予測されています.

 一方,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)は,日本の成人人口の12.9%に相当する1330万人に存在すると推定されており,近年では高齢者における併存疾患として重要視されつつあります.CKDの定義は,蛋白尿などの腎障害,もしくは血清クレアチニン値(creatinine:Cr)と年齢,性別から日本人の推算式を用いて算出した推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR)が60mL/分/1.73m2未満の腎機能低下が3か月以上持続するものとされています4,5).CKDは進行すると,心血管疾患や脳血管疾患などのリスクが高まります.また,CKDが中等度以上に進行してくると貧血や電解質の異常,倦怠感や食欲不振,むくみなどの尿毒症症状を起こすことがあります.

 さらに,近年では急性腎障害(acute kidney disease:AKI)という概念も広まり,CKDや生命予後に対する増悪因子として着目されています.AKIは,① Crの上昇が0.3mg/dL以上の上昇(48時間以内),② Crの基礎値から1.5倍上昇(7日以内),③ 尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続,の3つの定義のうち1つを満たせばAKIと診断されます6,7)

 2012年5月〜2016年4月の4年間に当院に入院した大腿骨近位部骨折患者214名におけるCKDおよびAKIの割合は,図1に示すようにCKDは全体の45.8%と約半数に認められ,またAKIは8.9%でCKD患者に多く認められています.

 大腿骨近位部骨折患者における主な問題点について,国際生活機能分類に準じて整理してみると図2に示すようなものになると思います.本稿では,大腿骨近位部骨折に加えて慢性腎臓病を合併した患者を想定し,情報収集や評価,プログラムの立案など理学療法の進め方におけるポイントについて症例を通して概説します.

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「助けて〜」

 筆者が和歌山県理学療法士協会(以下,県士会)理事と和歌山市中支部長を務めていた2016(平成28)年度は,過労死するのではないかと感じるほど追い込まれていました.しかし,天は見放さず救いの手を差し伸べてくれました.日本理学療法士協会(以下,日理協)が事務局機能強化モデル事業を募集しているので応募してみないかと言われたのです.そこで提案したのが「地域包括ケアシステム・サポートステーション(以下,サポステ)」構想です(図1).

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●学術大会の概要

 2018年11月10,11日に第16回日本神経理学療法学会学術集会が吉尾雅春大会長(日本神経理学療法学会代表運営幹事)のもとグランキューブ大阪で開催された.分科学会としては初めての学術大会であったが,参加者は2,000名を超えて盛大な大会となった.演題数は308件で,そのなかに座長自由枠が組み込まれた企画演題セッションが高次脳機能障害,再生医療などの5領域で設けられた.

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学会の概要

 2018年11月3,4日の2日間にわたり,第53回日本理学療法学術大会の1つとして第7回日本理学療法教育学会学術大会・第1回日本理学療法士学会管理部門研究会が兵庫医療大学を会場に同時開催されました(図).理学療法教育と管理における社会の流れは,ここ最近特に目まぐるしく変わろうとしています.理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則(以下,指定規則)の改正とモデル・コア・カリキュラムの改訂のもとで,どのような教育が進められていくべきか,本大会のテーマである「理学療法教育・管理の質的転換」をもとに,教育現場と臨床現場それぞれで活躍する理学療法士により活発な議論や意見交換が行われました.学会開催前には,プレコングレスディスカッションとして,大会長の日髙正巳先生(兵庫医療大学)により指定規則改正とモデル・コア・カリキュラム改訂についての講演がありました.大会プログラムの主な内容は,特別講演,パネルディスカッション,シンポジウムと,口述発表,ポスター発表で,筆者はパネルディスカッション「実践力を高める教育について」を担当しました.

私のターニングポイント・第2回

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 スーパー臨床家という人が存在するならば,私はそのスーパー臨床家になりたかった.手を当てるだけで患部がよくなる,一見すればどの部位に身体機能的問題があるのか分析できる,そんな理学療法士になりたかった.

 私が知らない理学療法情報,知識,技術を他の理学療法士がもっていれば焦り,私が習得した情報,知識,技術であれば優位性を抱いて臨床現場に立てていた.誰のための理学療法なのか,何のために理学療法士になったのか,そんなことを考えることもなく,ただただ理論と技術武装をすべく自己満足の臨床を行っていたと思う.

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要旨 【目的】本研究の目的は,下肢中間位保持テストにおける上肢の肢位変化が体幹下肢の筋活動動態に及ぼす影響を検討することである.【方法】対象は健常男性16名右下肢,評価肢位は上肢下垂位,上肢挙上位の2肢位で施行した.電極貼付位置は広背筋,内腹斜筋,外腹斜筋,中臀筋,大臀筋,大腿筋膜張筋,大腿二頭筋とした.また,徒手抵抗位置にも電極を貼付し,徒手抵抗をした際にノイズを発生させた.徒手抵抗は徒手抵抗位置に35N・mで3秒間施行し,各肢位交互に徒手抵抗を7回ずつ試行した.【結果】筋活動増加率は上肢下垂位と比較し,上肢挙上位で内腹斜筋,広背筋が有意に増加した.反応時間では,肢位間の筋の比較でいずれも有意な差を認めなかった.肢位別での筋の反応時間では,上肢下垂位で内腹斜筋が広背筋より有意に反応時間が早かった.上肢挙上位では,内腹斜筋が中臀筋,広背筋より有意に反応時間が早かった.【結論】本研究結果より,下肢中間位保持テストは体幹筋の先行収縮により股関節外転筋の筋出力を発揮することが明確となった.また,上肢挙上位では,体幹筋の腹部と背部の筋活動量が増加したことから,上肢下垂位よりも体幹筋の収縮が必要となる評価であることが明らかとなった.

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要旨 【はじめに】左鼠径部痛と対側の腰椎分離症を併発した症例を経験し,両者の関連性から腰椎分離症の発生要因を考察した.【症例・経過】17歳,男性,高校サッカー部.1か月前から左鼠径部痛を自覚し,その1週後に腰痛を感じた.Computed tomography画像で左長内転筋付着部の剝離骨折と第5腰椎右椎間関節突起間部に腰椎分離症を確認した.体幹自動伸展は腰痛で行えず,踵臀間距離(heel back distance:HBD)右9cm,左12cmであった.初期は股関節周囲筋のストレッチと胸椎回旋伸展運動を行った.体幹伸展可動域は徐々に広がったが,最終域での右回旋が伴っていたため,左大腿前面筋のストレッチなどは入念に実施した.【結果】介入4か月で骨癒合を確認し,競技復帰が許可された.体幹伸展時の右回旋や痛みも軽快し,HBD右0cm,左1cmとなった.【考察】左長内転筋付着部剝離骨折に伴う柔軟性低下が体幹伸展時の右回旋につながり,腰部へのメカニカルストレスの増加,腰椎分離症による疼痛発生に至った可能性が考えられた.

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 管理(administration)とマネジメント(management)において留意すべき経営資源として,古くから「ヒト(人),モノ,カネ」が問われてきた.最近ではこれらに情報と時間を加えて考えるようになってきている.人は文字通り人材,モノは施設・設備,カネはキャッシュフロー,情報は知財(技術・ノウハウ),時間はリードタイム(素早い判断)である.病院施設などで考えてみれば,管理者は対象者に提供する“理学療法”について,理学療法士などの職員,施設・設備などの環境,レセプト業務(保健医療制度),技術水準の維持・改善,将来を見据えた運営戦略を総合的に管理・マネジメントすることが求められることになる.

 その意味で本書を読んでみると,第1章において奈良氏の管理・マネジメントに対する考え方がきちんと示されていて安心する.すなわち,管理とマネジメントは重複する部分はあっても実際には相違点があることが説明されている.管理は英語で言えばadministrationで,行政とも訳され,制限することやコントロールする意味合いが強くなる.一方,マネジメントはマネジャーとして成果を引き出すという意味が込められている.野球の監督をmanagerというのは各選手の持ち味を引き出し,チームとしての成果を出すということであり理解しやすい.さて,本書の前半(2章〜4章)は指定規則の改正にともなって取り入れられた理学療法管理学について,まずは管理・マネジメントとは何かについて概要が説明されている.その後に,第5章と6章では橋元氏による職場・業務の管理,マネジメントと続き,この部分が本書の中心を構成していると読み取った.さらには,教育研究のマネジメント,保健医療福祉の諸制度,疾患別・病気別の理学療法マネジメントと細部も含めて全体像が示されており,その意味で本書は理学療法管理学の入門書として良書であることは間違いない.その一方,管理・マネジメントする際には,立場としての階層性(部長,科長,主任,一般職員)があるはずである.本書の各章・節が誰に対して書かれているのか,まずは読み手を明確にすることでさらに理解しやすくなるように感じた.また,第9章および10章においては疾患別・病期別にリスクマネジメントが記載されているが,奈良氏の冒頭の定義からすると,本来はリスク管理なのではないかと思う説明もあった.表現としては些細なことかもしれないが,理学療法の管理・マネジメントを成熟させるためには,用語をより明確に定義して用いることが大切であるように感じた.いずれにせよ,本書が多くの初学者と理学療法士とに読まれ,理学療法管理学について議論する教材となることを期待している.

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 どの写真にも背が高く(177.8cmあったという),意志の強靱さを感じさせるきりりとした表情をもつ女性が写っている.彼女こそわが国で「片麻痺の回復段階ステージ」の開発者として最もよく知られた理学療法士であるアンナ・シグネ・ソフィア・ブルンストローム氏である.本書は,自身も理学療法士であるSchleichkorn博士によるシグネブルンストローム氏の生誕からその一生を終えるまでの伝記であり,真実の物語である.

 1898年1月1日にスウェーデンに誕生したシグネは,スウェーデン王立中央体育学研究所で学び1919年に卒業後,スウェーデンの温泉保養地で「徒手体操」の技術を生かし,さらにスイスでクリニックを開業した.その後1928年にアメリカ合衆国ニューヨークに到着し臨床家としてその活動を始めたのである.その後ニューヨーク大学において教育学修士号を授与され,1938年にはニューヨーク大学の講師に就任している.第二次世界大戦勃発後にシグネは民間人理学療法士として,テキサス州の陸軍航空基地病院に志願して派遣された.さらに1950年,フルブライト基金によってギリシアでの整形外科と神経科学におけるリハビリテーションに関する「客員講師」として赴任した.この頃のシグネの著作は『切断者マニュアル』であったという.このときギリシアに理学療法士養成校を立ち上げようとした計画は地元医師たちの妨害によって挫折を余儀なくされたと記されている.帰国後,1954年ニューヨーク州のバークリハビリテーションセンターでの勤務を始める.その後,『臨床運動学』(1962年),『片麻痺の運動療法』(1971年)など多くの著作,講演,教育活動をこなしていく.ちなみに1967年3月に渡米した東京大学医学部附属病院の上田敏先生,福屋靖子先生との面会についても記されている.

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目次

文献抄録

次号予告

編集後記 横田 一彦
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 今月号の特集は「こころの問題と理学療法」です.私たちは理学療法介入の効果を高めるために適切な評価と観察を行い,具体的な目標を設定し,根拠のある介入手段を考えます.多くの評価や介入手段は患者さん自身の能動的な取り組みを要するものですが,その際に協力を得られないことやモチベーションを引き出せずに苦労することも多いのではないでしょうか.そんな患者さんの「こころの問題」に着目し配慮した理学療法を行っていくために,さまざまな場面での理学療法士のかかわり方や考え方について述べていただきました.

 山本論文ではメンタルヘルス領域の理学療法について世界の動向や理学療法の役割の解説とともに,身体機能との関係性について示唆に富む指摘をしていただきました.上薗論文では精神科領域の理学療法の役割と介入方法を具体的に解説していただきました.精神科領域に限らず,広く一般の理学療法対象の方々にも応用していくべき手法が示されていると思います.小滝論文では認知症の行動・心理症状と理学療法について述べていただきました.高齢者には考慮しておくべきこの難渋する問題について,とても役に立つ考え方が提示されています.多田論文では発達障害児・者の「こころの問題」について,時間の経過のなかでの変化・変容に着目した考え方を示していただきました.豊富な経験に裏打ちされた深い洞察から,この領域の問題にかかわるときの大切な視点が提示されていると考えます.梅澤論文ではパラスポーツとのかかわりから「こころの問題」について述べていただきました.「生きづらさ」と言い換えていただいたうえでの指摘は,義足という領域のことに留まらず,広く病気を患った方への考え方として胸に刻んでおきたいものです.矢口論文では日々の理学療法では必ず繰り返される「会話」について,具体的事例から心理的サポートとしての重要性を述べていただきました.患者さんへのまなざし,触れ方とともに私たちが押さえておかなければならない大切なことが示されていると考えます.さまざまな領域での「こころの問題」を取り上げましたが,理学療法の対象を丸ごとの人として考えたときには,いずれの論文にも普遍的な指摘が含まれていると考えます.

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基本情報

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理学療法ジャーナル
53巻3号 (2019年3月)
電子版ISSN:1882-1359 印刷版ISSN:0915-0552 医学書院

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