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達人への道しるべ
同じ患者・対象者の歩行練習でも,ある人が行うとスムースに歩行可能なのに,別のある人が行うと全くできないという摩訶不思議な光景に出くわしたことは少なくないと思います.いわゆる達人と素人(字の形はよく似ているが,読み方が全く違うのと同じようにそのレベルが違う)の差はどこにあるのでしょうか.例えば重症な方の車椅子からベッドへの移乗動作では,達人が行えば対象者の力を存分に引き出していともやすやすとできるのに,素人が行えば「共倒れ」の危険な香りに包まれます.
本書は,理学療法・作業療法の臨床場面で遭遇する比較的重症な患者・対象者を想定して,その日常生活動作の練習方法を応用行動分析学的視点からわかりやすく示したものです.冒頭の序章で「達人の技」を惜しみなく披露したのち,1章では「対象者にADL動作を再獲得させる」方法が展開されます.「なぜ,教科書に書いてある正しい動作ができないのだろう?」という,本書の最も重要で本質的な問いが投げかけられます.そして,能力障害(例:起き上がり動作困難)を規定するのは機能障害だけでなく,知識の問題,技術の問題,動機の問題であるという新たな視点が提示されます.さらに無誤学習,および関連する強化刺激,行動分析的技法が紹介されていきます.第2章では「原因がわかる,効果がみえる評価法」の構造について詳しく解説されます.例えば「片麻痺の着衣動作」では,まずその動作を,「麻痺側手を袖に通す」から「ボタンをはめる」までの7段階のプロセスにわけて,さらに各段階に行動をどのように促すかというプロンプトを追加して評価すると,実は評価だけでなく課題目標としても応用できることが示されます.臨床研究あるいはシングルケースパラダイムにもつながる内容は是非本書を手に取ってご覧ください.第3章では実際の症例に沿ってこれまでの理論の応用編,実例が示されます.例えば,重症左片麻痺症例の背臥位からベッド上端座位への起き上がり動作獲得に向けての方法では,動作の完成時点から逆方向に練習を重ねるという「逆方向連鎖化」が紹介されます.「逆方向連鎖化」って何? と思った方も是非本書を手に取ってご覧いただきたい.さらに特筆すべき点は,随所に実際の対象者の動画が二次元コードによって掲載され参照できることです.
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