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はじめに
半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)は,右半球脳卒中後に生じる代表的な症状の一つで,損傷半球の反対側の空間における物体探索や反応に困難が生じる.USNの病態基盤に関して,従来は視空間情報の統合にかかわる頭頂葉領域に好発するもの(いわゆる頭頂症候群)として理解されてきたが,近年では視覚性注意にかかわる広範な脳領域を含む注意ネットワークの障害として再考されつつある.本特集の「半側空間無視のメカニズム」の項で詳述されているとおり,視空間性注意ネットワークは,外発的な刺激に応答する受動的注意機能(腹側注意ネットワーク),自発的に探索する能動的注意機能(背側注意ネットワーク)に大別され,損傷を受ける領域に応じて表出する無視症状が異なるものと考えられる.
無視症状の臨床評価にあたっては,症状の有無や重症度を判定し,残存機能を把握することで適確な予後予測を行うことが何より大切である.無視症状の評価には行動性無視検査(behavioural inattention test:BIT)1,2)が広く使用されており,6項目の通常検査と9項目の行動検査によって包括的な無視症状の把握が可能である.他方,多岐にわたる無視症状を適切に評価するためには,BITに加えていくつかの評価バッテリーを組み合わせながら,総合的に病態解釈することが望ましい,という考え方が一般的である.
本稿では,従来臨床場面で行われている代表的な神経心理学的検査をまずは概観し,既存の評価で把握できる側面,把握に一定の困難がある側面を整理し,後者に関して,われわれが研究を進めている新たな評価手法を紹介する.なお本稿では,注意ネットワーク障害としてUSNの病態を捉え,治療介入を進めていくうえでの評価を整理することに重点を置きたい.
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