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はじめに
ふだん,われわれは特に意識することなく歩くことが可能であり,携帯電話で話をしながら歩くこともできれば,軽い揺れであれば電車内を移動することもできる.しかし,ひとたび変性疾患や脳卒中などによって中枢神経損傷が起こると,脳の複雑なネットワークの破綻に伴い,麻痺症状などの運動機能障害や注意障害などの高次脳機能障害を合併する.そのなかでも歩行・姿勢バランス機能の障害は,転倒リスクの増大や要介護の原因となり,患者および患者家族のADL/QOL低下をもたらすため非常に重要な問題である.
これまでの動物実験から,適切な難度の反復練習が,脳の可塑性に基づく神経ネットワークの再構成を引き起こし(use-dependent plasticity),脳損傷後の機能回復には残存する神経系が機能を代償する機能的再構成の重要性が明らかとなった1,2).ヒトでも同様の所見が示されており3,4),機能回復の促進にはuse-dependent plasticityに基づいたリハビリテーション治療が重要である.反復練習に必要な練習量の確保とともに,機能回復をより促進させるためのリハビリテーション治療法の効果検証がなされているが,練習によって脳の可塑的変化が誘導されているかどうかは,麻痺や歩行速度の改善評価だけでは判断が難しい.最近,ニューロフィードバックや非侵襲的脳刺激法などのニューロモジュレーションによって,脳の可塑的変化を誘導した際の機能回復をみることで因果関係の検証が行われるようになり,理学療法による歩行練習と併用することで機能回復が促進されることが期待されている.
本稿では,歩行の神経機構にかかわる知見と,ニューロフィードバックなどのニューロモジュレーション技術を用いた治療の試みについて紹介する.
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