- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
脳血管障害症例を担当することの多い臨床家であれば,半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)を示す症例に初めて出会ったときの驚きは忘れられない経験であると思います.なぜ右を向いてばかりいるのだろう,「こちらを向いてください」と左から声掛けするとかえって右を向いてしまう.花の絵(ダブルデイジー)の模写課題では,左の花の左側が描けないばかりか右の花の左側が欠落してしまう.食事のとき,茶碗に盛られたご飯の右側だけを食べて左を残す,という衝撃的な光景も稀ではありません.
編集子が新人としてUSN症例を担当したとき,手元には出版されたばかりのClinical Neuropsychology(Heilman KM et al, 1979)がほとんど唯一のこの分野の情報源だったことを思えば,今回の特集がすべて理学療法士の著者によるものであることには感銘を受けます.「半側空間無視の臨床特性と基本的理学療法」(神田千絵,他論文),「半側空間無視のメカニズム」(森岡周論文),「半側空間無視の病態基盤を考慮した臨床評価」(大松聡子,他論文),「半側空間無視に対する脳刺激アプローチ」(万治淳史,他論文),「半側空間無視の視覚・運動感覚からの治療アプローチ」(沼尾拓,他論文),とタイトルだけを眺めてみてもこの30数年の進歩と理学療法のかかわりの重要性が示されています.エディトリアルで述べたようにUSNをめぐる課題として,無視現象評価と日常生活での行動評価,機能的ネットワークメカニズムに対応した治療の理論,複合的障害への臨床アプローチがありますが,今号の論文はこれらの課題に十分に応えるものであると確信しています.それぞれの論文について読者には,ぜひ本文を精読されるようお願いします.
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.