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はじめに
1.半側空間無視の治療法
半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)に対する治療は大きく以下の2つに分けられることが多い.1つ目は意識的に無視側である左に注意を向けるリハビリテーション方法でトップダウンアプローチと言い,セラピストの言葉かけによる気づきの促しや適切な方略を教える方法である1).2つ目は高次脳機能である空間性注意を支える低次あるいは要素的な部分である感覚入力と運動出力に着目し,残存している感覚,もしくは感覚-運動連関にアプローチすることによって無意識的に無視を改善させようとする方法で,ボトムアップアプローチと呼ばれている.ただし,治療としては各々を個別に行うのではなく,手がかり付与,意図的探索指導を空間性・言語性に行うとともに残存している感覚・知覚へ無意識的にアプローチを行うこと,それぞれの感覚-運動連関を再学習させるように多角的にアプローチを行うことが必要である2).
本稿では以下に挙げる2つのガイドラインから推奨されているものをいくつか紹介するが,ここで挙げる方法も純粋にボトムアップ,もしくはトップダウンに分けられず,両者の要素を取り入れてあるものも多いため,特に明記しないものとする.
2.半側空間無視とガイドライン
「脳卒中治療ガイドライン2015」3)によると,USNに対して視覚走査(探索)トレーニング(visual scanning training:VST),無視空間への手がかりの提示,プリズム順応がグレードB,左耳への冷水刺激,無視空間への眼振の誘発を行う視運動刺激,VSTを伴う体幹の回旋,左後頸部の筋への振動刺激,反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS),アイパッチ,ミラーセラピー,以上の組み合わせがグレードCとなっている.また,カナダの同様のガイドライン「Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation 17th Edition」4)でも種々の治療が紹介されている.上記に挙げた以外にはバーチャルリアリティや四肢活性化,フィードバック戦略,経皮的電気刺激治療(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS),ドーパミン療法などの可能性が述べられている.
本稿では,この2つのガイドラインで推奨されているもののなかから,日常的に臨床で行われることの多いと考えられる治療として,VST,視運動刺激,四肢活性化について,それぞれの治療法が最初に発表された順に紹介する.また,近年特に有効とされ,研究数も多いプリズム順応と,その治療の背景となるメカニズムを同じくするロッドアダプテーションを紹介する.
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