耳鼻咽喉科・頭頸部外科 83巻11号 (2011年10月)

特集 こんなときどうする?―鼻科手術編

鼻中隔穿孔になるか?! 朝子 幹也
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Ⅰ.概説

 鼻中隔矯正術は耳鼻咽喉科医であれば,比較的早い時期から実際の手術を担当することが多く,「初心者向け」と考えられがちな鼻科手術といえる。しかし実際のところは狭い術野での繊細な操作が必要であり,きっちりと鼻閉を改善するためには一定の経験と知識を要する手術であると筆者は認識している。切開線が外鼻孔から近い位置にあるために内視鏡保持などの操作においては一定の困難さがあるために,おそらく現在でも一部裸眼操作で,あるいは全行程を裸眼手術として行っている施設もあるのではないかと思う。しかし筆者は,鼻中隔矯正術の全行程を内視鏡下に行うことは非常にメリットがあり,推奨される手技であると考えている。これは操作している層が正しい位置にあるかということを確実に確認する意味でも重要であり,ひいては鼻中隔穿孔を起こさない意味でも重要なファクターである。鼻中隔手術は近年ではさらにバリエーションと工夫がなされるようになり,前尾側端(caudal end)が原因の彎曲に対しても,cottle incisionでのアプローチ1)やopen septorhinoplasty2)で積極的に手術が行われるようになってきており,上級者にとっても積極的な勉強と経験が必要な領域でもある。

 本稿では基本的に内視鏡下で鼻中隔矯正術を行っていることが前提に述べていきたいと思う。

眼窩内脂肪か?! 池田 勝久
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Ⅰ.概説

 内視鏡下副鼻腔炎手術(ESS)が慢性副鼻腔炎を初めとする種々の鼻副鼻腔疾患に対する標準的外科治療法となってきている1)。内視鏡を用いることで副損傷が明らかに減少してきているが2),ESSの標準化には治癒率の向上とともに副損傷の回避が必須である。

 副損傷として高度障害と軽度障害に分類すると,前者は脳脊髄液漏,頭蓋内損傷,視力障害,外眼筋損傷,鼻涙管損傷,輸血を要する大出血,死亡があり3),後者としては眼窩内出血,眼窩周囲気腫,眼窩内侵入,鼻内癒着,小出血などが含まれる。ESSの副損傷の発生頻度を表1にまとめたが,高度副損傷は0~2.1%で,軽度副損傷は5.0~15.1%であり,そのうち眼窩損傷が占める割合はどちらも約半数程度と高い頻度を示している。

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Ⅰ.概説

 鼻科手術,特に内視鏡下鼻内手術では,出血のコントロールが手術成功の鍵となる。内視鏡下手術の利点は,術野がよく見えることであるがゆえに,良好な視野の確保の観点からも,術中出血制御は誰もが知りたい上達へのポイントといえる。筆者らは,内視鏡下鼻内手術解剖実習をオープンセミナーとして年に2回開催しているが,最もよく受ける質問の一つが,術中の出血をどうコントロールしているのか?ということである。術中出血の中でも,動脈性の出血は時間当たりの出血量も多く,動脈から吹き出す「水柱」の視覚的効果から,初心者は冷静さを失いがちである。本稿では,内視鏡下鼻内手術中に経験したくない合併症の代表である前篩骨動脈からの出血への対処について述べる。

 前篩骨動脈は,眼動脈の枝であり,眼窩から前篩骨孔を通り,中鼻甲介の天蓋付着部に至り,硬膜に向かう前硬膜枝と鼻腔前方に向かう前鼻枝に分かれる(図1)。術中出血で問題となるのは,このうち,眼窩内側壁と中鼻甲介の間の部分である。動脈は,神経とともに骨壁の中を通るため,ベテラン術者でも適切に同定できないこともある。多くのトラブルは,完全な篩骨洞開放を目指して,あるいは,前頭洞の広い開放を企図して,前篩骨動脈を含む篩骨洞隔壁を削除することにより引き起こされる。実際の対応については,「Ⅱ.状況の把握―考えられる選択肢」と「Ⅲ.対処の実際」の項で説明することとし,本項では,前篩骨動脈の手術解剖について簡潔に記載する。

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Ⅰ.概説

 病態について

 副鼻腔手術の際に,天蓋硬膜の損傷は眼窩部損傷とともに,常にその予防に心がけるべき副損傷の1つである。裸眼のみで行われていた鼻内手術から術野を広く,明るく,かつ拡大視できる内視鏡下鼻内副鼻腔手術(endoscopic sinus surgery:ESS)が主体になり,手術が安全に行える環境が整いつつあるなか,硬膜損傷は減少すべきであるが,実状は異なる。現在は多くの施設において,CT検査が比較的容易に行える環境が整ってきている。また,内視鏡とCTを組み合わせて術野の3次元的な位置確認を行う支援機器としてのナビゲーションシステムの導入により,さらに手術中の安全性も高めるための機器の開発も進んでいる。しかしいくら細心の注意を払っても副損傷をゼロにすることは容易ではない。本稿では予防を含め,副鼻腔手術に関係した髄液(鼻)漏に遭遇した際の対処法について述べる。

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Ⅰ.概説

 視神経管は直径が約3.5mm,長さが約10mmの管で視神経と眼動脈が伴走している。脳硬膜と骨膜が癒合した膜が管内の最外層を内張りし,その内側にくも膜・軟膜に覆われた視神経が存在するが,非常に密に包まれている。視神経管眼窩側にはZinnの靭帯と呼ばれる線維性結合織が視神経を帯のように取り巻いているが,この部位が最も視神経がきつく固定されているところである(図1)1)。視神経管を損傷した場合は,たとえ神経線維や神経鞘自体を損傷しなくても,骨壁の損傷や伴走する血管の損傷により生じる骨片による圧迫や浮腫や出血による圧迫,循環障害や虚血性変化が生じて視力障害が起きる可能性がある。

 視神経管隆起は蝶形骨洞,蝶形骨洞性篩骨洞(Onodi蜂巣),後篩骨洞に現れる。一般に洞の発育,特に蝶形骨洞の小翼の気胞化が良好なものほど隆起が著明になる(図2,3,4)。足川2)の報告によると,視神経管が蝶形骨洞天蓋に現れるものが25%,Onodi蜂巣に現れるものが12.5%,蝶形骨洞と後篩骨洞の境界部に現れるものが10%,そして後篩骨洞に現れるものが52.5%となっており,この数字は鼻手術をする際に念頭に入れておく必要がある。

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Ⅰ.はじめに

 内視鏡下鼻内手術(以下,ESSと略す)において,前頭洞病変に対しては通常,前篩骨洞を経由して前方斜視鏡下に鼻前頭管を可及的に開大し,前頭洞内に手術操作を進める1)。しかし元来鼻前頭管は,前頭蓋底や眼窩内側壁などの危険部位に囲まれており,開放できる範囲は解剖学的に制限される2)。また,鼻前頭管周囲の著明な粘膜浮腫・腫脹や骨増生,あるいは前頭窩より落下し内視鏡画像を曇らせる血液が,術中の鉗子操作や手術野のオリエンテーションを難しくする。すなわち,鼻副鼻腔疾患に対するESSのなかで,前頭洞手術は最も難しい手技といえる。鼻前頭管の位置がわからず,前頭洞内になかなかアプローチできなくて手術が止まってしまうという状況は,誰でもしばしば経験することであろう。

 本稿では,ESS施行時に鼻前頭管が見つからないで困ったときにすべきことを述べる。

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Ⅰ はじめに

 シリコンなどの人工材料を使用した手術の後,長期間を経て周囲組織に異物反応による炎症を起こすことがある。こうした例は眼窩底骨折整復術1,2)や,乳房再建3~5),隆鼻術6~9)などで散見される。今回われわれは中耳に留置したシリコンシートによる異物肉芽反応をきたした1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

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Ⅰ はじめに

 第二鰓裂由来の完全型側頸瘻は頸部では胸鎖乳突筋の下1/3前縁に,口腔側では口蓋扁桃にそれぞれ開口する。治療の原則は外科的摘出術である。一般に,頸動脈・静脈そして神経系の損傷を避けるために前頸部を切開して直視下に瘻管のみを剝離摘出する1)。症例によっては瘻孔開口部以外に追加の切開が必要である1)

 筆者は既に瘻管内に通したナイロン糸の口腔側に小ガーゼ球を結紮して頸部側から牽引しつつ瘻管のみを摘出する術式を発表した2~4)。今回,小さい口腔の乳幼児において,中空のbiopsy punchを用い口腔内手術操作を簡便とする術式を考案したので報告する。

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Ⅰ はじめに

 鼻副鼻腔真菌症は,耳鼻咽喉科の日常診療において時に遭遇する疾患であり,その多くは手術的治療にて良好な経過を辿る。しかし,なかには眼窩や頭蓋内に浸潤して致死的となる例もあるため慎重な対応が必要といえる。今回われわれは当科にて治療を行った鼻副鼻腔真菌症例について臨床的検討を行ったので報告する。

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Ⅰ はじめに

 副鼻腔真菌症は浸潤型と非浸潤型に大別される。副鼻腔真菌症の多くを占める非浸潤型は予後良好であるが,浸潤型副鼻腔真菌症は深在性真菌症の特徴である治療の困難さだけでなく,頭蓋内への浸潤を合併することから不幸な転機をたどることが多い。このような背景のなか,新たな抗真菌薬ボリコナゾール(VRCZ)を使用し,良好な治療効果を得たとする報告1,2)が近年散見されるようになってきた。しかし,わが国では2005年に販売開始された比較的新しい薬であるため,重篤な副作用についての報告例はまだ少ない。今回われわれは,浸潤型副鼻腔真菌症に対し,VRCZを使用し,それにより意識障害をきたした症例を経験したので報告する。

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Ⅰ はじめに

 内耳道狭窄が最初に報告されたのは1881年で,Flesch1)が全身性の骨疾患である骨化過剰症の一症状として報告している。その後,大理石骨病やPaget病,搭状頭蓋症,低リン酸血症などの全身性疾患に内耳道狭窄が合併するとの報告2)がなされてきたが,近年,画像診断の進歩に伴い,非侵襲的に内耳道狭窄が検出されるようになり,報告例が増加してきている。今回われわれは内耳道狭窄の1例を経験し比較的稀なこの疾患について画像に加え病態解明のためABR,VEMP,ENGなどの機能的検査を行い多角的に調べたので報告する。

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Ⅰ はじめに

 耳炎性顔面神経麻痺は,急性あるいは慢性中耳炎(真珠腫性中耳炎を含む)に起因する顔面神経麻痺と定義されている1)。その頻度は,過去の報告症例2~7)をまとめると全末梢性顔面神経麻痺患者5,466例の2.8%であり比較的稀な疾患であるといえる。その内訳は急性中耳炎が48.5%,真珠腫性中耳炎が31.6%,真珠腫でない慢性中耳炎(以下,慢性中耳炎と略す)が19.8%である。真珠腫性中耳炎が原因である場合,診断・治療に迷うことは少ないが,中耳CT検査所見において軟部影を示すが中耳腔に活動性の炎症所見を示さない症例においては,顔面神経麻痺の原因が耳炎性なのかそれともほかに存在するのか,診断に苦慮し,結果として治療法の選択に迷うことがある。

 過去9年間に当科を受診した末梢性顔面神経麻痺患者は90例で,そのうち中耳炎を合併していたものは12例(13.3%)であった。その内訳は,真珠腫性中耳炎が5例,慢性中耳炎が5例,滲出性中耳炎が2例,急性中耳炎は認めなかった。このうち外科的治療(顔面神経減荷術,鼓室形成術)を施行した症例は,真珠腫性中耳炎4例,慢性中耳炎4例であった。また,耳炎性顔面神経麻痺と診断した症例は,真珠腫性中耳炎3例,慢性中耳炎3例の計6例(6.7%)であった。今回われわれは,過去9年間に当科で経乳突的顔面神経減荷手術を行い,経過を追うことができた,発症時に中耳炎を有していた末梢性顔面神経麻痺4症例についてその治療経過を報告するとともに,原因疾患の診断と手術的治療の適応について考察を行ったので報告する。

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Ⅰ.はじめに

 メニエール病に対し,柴苓湯が有効であるという論文は枚挙にいとまがない1,2)。柴苓湯は小柴胡湯と五苓散の合方で,小柴胡湯の証に浮腫,嘔吐,口渇,発汗などの水腫,水毒を伴う例に有効である。一方,メニエール病はその原因の80%が内リンパ腫と考えられていることから,柴苓湯のメニエール病への効果が期待されている3)

 今回,柴苓湯が著効したメニエール病の1例を経験し,柴苓湯がどのような薬効でメニエール病に有効なのか生薬レベルで検討したので報告する。

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あとがき 吉原 俊雄
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 3月の震災以降,原発事故は終息というよりむしろ放射能汚染問題の増加,事故時初動の問題点噴出,行き場のない放射性廃棄物の問題,被災地の復興の遅れなど毎日の不安感は一向にぬぐえない状況です。また,東北3県以外でもさまざまなトラブルが発生していますが,あまりニュースにはなっていません。一刻も早い復興が望まれます。放射能に対する不安の一環として,日常の耳鼻咽喉科診療でもX線検査,CT検査などに対する被曝の不安を訴える患者さんもやや増加しています。このあとがきを書いている今まさに内閣人事が発表されましたが,期待も半分,本号が発刊される頃にはむしろ新たなトラブルが起きているかもしれない不安も半分といったところです。政治の混迷は続きそうです。

 一方,本誌については今回も悲観的な要素はなく充実した内容になっています。特集「こんなときどうする?―鼻科手術編」では日常臨床の場で知りたい内容が豊富に詰まっています。鼻科手術を行う勤務医の先生,これから手術を始める耳鼻咽喉科フレッシュDr. のいずれの先生方にも有意義です。編集委員一同,企画「こんなときどうする?」をさらに充実させていくつもりです。投稿いただいた原著論文もすべて興味ある疾患です。症例報告の理解を進めることは日常診療に役立つだけでなく専門医試験の対応にも有用です。鏡下囁語では瀬戸口壽一先生が,柴苓湯によるメニエール病治療の経験を詳細に書かれています。漢方薬に不慣れな若手の先生には興味ある,また有意義な内容です。ぜひ,多くの論文投稿をこれからもよろしくお願いいたします。

基本情報

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科
83巻11号 (2011年10月)
電子版ISSN:1882-1316 印刷版ISSN:0914-3491 医学書院

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