耳鼻咽喉科・頭頸部外科 83巻12号 (2011年11月)

特集 知っておきたい皮膚科の知識―専門医の診方・治し方

アトピー性皮膚炎 窪田 泰夫
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Ⅰ.病態理解のポイント

 アトピー皮膚炎(AD)は表皮のバリア障害をもとに,さまざまな因子による非特異的刺激反応やアレルギー性炎症反応を皮膚に生じる慢性,再発性の掻痒性皮膚疾患である。小児の15~20%,成人では2~10%の頻度でみられる。

 病因発症機序:アレルギー性炎症とバリア障害の相互作用により病態形成される。即時相,好酸球性炎症による遅発相,接触性過敏反応による遅延相など,各種のアレルギー性炎症反応が想定されている。角層バリア機能に重要なフィラグリンの遺伝子変異がAD患者において発見された1)。バリア機能障害により外界からの抗原刺激の経皮侵入が容易となりアレルギー性炎症反応を惹起しやすくなる。

天疱瘡 鶴田 大輔 , 橋本 隆
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Ⅰ.概要

 水疱とは,皮膚に水様性液体が貯留し,皮表から透見可能な皮疹である。天疱瘡は表皮内水疱を呈する自己免疫性水疱症である。天疱瘡では,表皮角化細胞間の接着機構であるデスモゾームの主要構成分子,デスモグレインに対する自己抗体(抗デスモグレイン抗体)が形成されるために,表皮細胞間結合が阻害されて水疱が生じる1)

 経過は慢性であり,年余の経過をたどる。治療はステロイド投与が主体であるが,近年さまざまな免疫抑制剤,免疫グロブリン大量療法,血漿交換療法などが併用されることにより,予後は大幅に改善された。

掌蹠膿疱症 小林 里実
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Ⅰ.掌蹠膿疱症と治療の問題点

 掌蹠膿疱症とは,手掌,足底に無菌性膿疱が多発し,紅斑,鱗屑を伴う膿疱症の1つである。爪下や爪母の病変では爪の変形や肥厚を生じる。四肢に乾癬様の掌蹠外皮疹がみられることもある。喫煙する中年女性に好発し,ステロイド外用薬,ビタミンD3外用薬,紫外線療法といった対症療法もある程度奏効するが,これらのみでは皮疹軽快までに平均5~7年を要する。しかし,手足の膿疱と紅斑は,常に手を隠して生活する,痛くて歩けないなど患者にとって大きなQOL障害を招いている。また,10~30%で胸肋鎖骨間骨化症をはじめとする掌蹠膿疱症性骨関節炎(pustulotic arthro-osteitis:PAO)を伴うが,付着部炎からしばしば骨髄炎をきたし,激烈な痛みを伴うこともある。

 この疾患の治療における大きな問題点は,「治らない」,「慢性です」といわれた患者が藁をもすがる思いで皮膚科,耳鼻咽喉科,歯科,リウマチ内科,整形外科を転々としていることである。医療機関での治療を諦め,効果を信じて自己輸入したビオチンを飲み続ける患者もいる。掌蹠膿疱症は皮膚疾患でありながら,そのほとんどが扁桃,歯科領域など他科の病巣感染によるという,科の分類を超えた病態を有する。関連科が連携して原因を見出し,適切に治療すれば,決して「治らない疾患」ではない。

ベーチェット病 永井 弥生
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Ⅰ.はじめに

 ベーチェット病は口腔粘膜のアフタ性潰瘍,皮膚症状,眼症状,外陰部潰瘍の4つを主症状とする疾患である。特異的所見に乏しく,その診断には臨床所見が重要である。通常のアフタ性潰瘍よりもやや大型の口内炎,疼痛を伴い深く境界鮮明な外陰部潰瘍などは診断に有用な皮疹であるほか,皮膚病変としては結節性紅斑や血栓性静脈炎,痤瘡・毛包炎様皮疹がみられる。眼病変や特殊型の重篤病変に注意して治療を選択する必要がある。

悪性黒色腫 大西 誉光 , 渡辺 晋一
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Ⅰ.病態理解のポイント

 メラニン産生能を有する色素細胞の悪性腫瘍である。この色素細胞は体表を覆う上皮である表皮の最下層(基底細胞層)に位置する。したがって,全身皮膚の各部から悪性黒色腫が発生する可能性があるが,わが国では足底や爪下に多くみられる。また粘膜にも色素細胞は存在し,口腔粘膜や外陰の粘膜にも悪性黒色腫は発生する。このほかに色素細胞は脳軟膜や網膜・脈絡膜にも存在し,低頻度ながら同部からの悪性黒色腫の発生がみられる。

 悪性黒色腫はde novoに表皮に発生することが多く,母斑細胞(ホクロの細胞)もメラニン産生能を有するが,ホクロが長年の間に悪性化することは少ない。ただし,巨大色素性母斑からメラノーマが発症することがある。巨大色素性母斑は先天性に生じる巨大な母斑細胞性母斑(ホクロ)で有毛性のことが多く,予後や整容的にも幼年期から学童期に切除が望まれる。

乾癬 森実 真
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Ⅰ.病態理解のポイント

 乾癬は中年に好発する難治性の慢性炎症性角化症である。発症頻度は日本人で0.02~0.1%,欧米白人で2~3%と報告されている1,2)

 乾癬の病変部では表皮角化細胞の増殖が正常の30倍に亢進している。さらに表皮のターンオーバー時間(表皮が角化し剝離する入れ換わり周期)が正常表皮(約30~45日)に対して著明に短縮(5~6日)している3)。乾癬の病因はいまだに不明であるが,長年の間,表皮角化細胞の異常な増殖と分化が主たる病因であると考えられていた。しかしながらシクロスポリンなどの免疫抑制剤の有効性が次第に明らかになり,T細胞を中心とした細胞性免疫が重要な役割を果たしていると考えられるようになった4)。さらにSCIDマウスを用いた実験から活性化CD4陽性細胞が乾癬発症に重要であることが示された5)。従来CD4陽性細胞はTh1,Th2の二極に分けられており,細胞性免疫を誘導するTh1の関与が乾癬には重要であると考えられていたが,近年Th1でもTh2でもないTh17の概念が病態論で注目を集めるようになり,Th17細胞が産生するIL-17やIL-22,あるいはTh17細胞を維持・増殖させるIL-23などが乾癬の病変形成に重要な役割を果たすことが明らかになった6)。また形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cells:pDC)がTh1,Th17細胞を誘導する骨髄系樹状細胞を,Ⅰ型インターフェロンを介して活性化することや,pDCを活性化するためには刺激を受けた表皮角化細胞が重要であることなども報告されてきた7)

帯状疱疹 髙木 敦 , 池田 志斈
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Ⅰ.定義概念

 帯状疱疹は,水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の再活性化により生じるウイルス感染症である。水痘に罹患後,VZVは末しょうの知覚神経を通じて,三叉神経節や脊髄後根神経節などの神経細胞に潜伏し,数年から数十年の潜伏期間後再発する。その発疹は水痘と異なり,限局した神経支配領域に帯状の水疱形成を呈し,神経痛様の疼痛を伴う。本疾患では後遺症として帯状疱疹後神経痛(post-herpetic neuralgia:PHN)が問題となり,治療に抵抗性で難渋する症例もしばしばみられる。

薬疹 塩原 哲夫
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Ⅰ.はじめに

 薬疹はもっぱら皮膚科医の専門領域となっており,他科の医師はその診療に積極的に参加することはない。しかし,薬疹と同じ現象は必ず他臓器にも起こっているはずであり,皮膚ではそれが最も容易に見つかるために薬疹のみが注目されてきたに過ぎない(と筆者は思っている)。今,薬疹の領域は,その概念が大きく変わる変革期を迎えつつある。それは薬疹に伴って(あるいはそれに先行して,あるいは後遺症として)生じてくる潜伏ウイルスの再活性化が,その病態に大きな影響を与えることが明らかになってきたからである。その結果,薬剤のみにより生じていると考えられてきた薬疹においてもウイルスの影がみえてきたのである。このような皮膚科発の新しい概念は,耳鼻咽喉科領域におけるさまざまな炎症性疾患の発症機序の解明に新しい考え方をもたらすかもしれない。

性感染症 五十嵐 敦之
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Ⅰ.はじめに

 性感染症は性器に生じる疾患と考えられがちであるが,近年性行動の多様化や性風俗産業の隆盛により口腔咽頭の性感染症が増加傾向にあり問題となっている。日本性感染症学会が発行する「性感染症 診断・治療 ガイドライン2008」には「口腔咽頭と性感染症」という項目が新たに設けられ,次のように注意を喚起している1)

 「近年,oral sexの一般化やoral sexを行う性風俗店の出現などにより,本来,性器にみられた種々の性感染症が口腔咽頭粘膜にも生じてきた。さらに口腔咽頭が感染源になる可能性も生じてきた。しかし,口腔咽頭粘膜は常在菌や唾液による抗菌作用により,症状所見が現れにくく,外来からの菌の減少・消退の可能性もあるので,口腔咽頭の診断,治療には慎重な考慮を要する。耳鼻咽喉科医は,常に口腔咽頭におけるSTD感染に注意して診療に当たらなければならない。口腔咽頭が感染源とならぬよう,他科との相互診を要する。

 耳鼻咽喉科医は,性感染症を性器のみの疾患としてではなく,口腔咽頭も含めて,常に注意して観察しなければならない。近年,口腔咽頭の淋菌やクラミジア感染の増加,あるいは感染源となる症例がみられており,泌尿器科,婦人科,皮膚科,口腔外科などとコミュニケーションを十分にとる必要がある。口腔咽頭のSTD感染あるいは感染疑の場合,まず耳鼻咽喉科への紹介を受け,症状,所見を観察し,生活状況を把握のうえ,今後の治療方針を決めたい。同時にoral sexによるSTD感染予防対策が必要である。」

 口腔咽頭の性感染症は症状が現れにくく,治療も抵抗性のことがあり,性感染症の拡大が懸念される。耳鼻咽喉科医が遭遇する機会は決して少なくないといえよう。

軟膏・外用薬の使い方 蒲原 毅
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Ⅰ.はじめに

 外用療法に用いられる薬剤は,ステロイド外用薬をはじめとする抗炎症剤,皮膚保護剤,抗真菌剤,抗菌薬など多岐にわたる。本稿では,日常診療で遭遇することの多い湿疹・皮膚炎群に対する外用療法に習熟すべく,まず,外用薬の剤形,外用量の目安につき概説し,最後にステロイド外用薬の実践的な使い方について述べる。

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Ⅰ はじめに

 早期舌癌(cT1-2N0M0)は5年生存率が80~90%以上と報告されている。しかし約20~50%の症例に後発リンパ節転移を認め予後に影響しているとの報告が多い1~5)。今回早期舌癌における治療成績と後発リンパ節転移について検討したので文献的考察を加えて報告する。

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Ⅰ はじめに

 孤立性線維性腫瘍は,典型的には胸膜に発生する間葉系腫瘍である。胸膜以外の場所では,四肢,気道,腹腔,尿路に発生することが知られている1~4)。耳鼻咽喉科領域での報告例は非常に稀であり,なかでも鼻腔に発生した例は邦文論文では3例しか報告されていない5~7)

 今回われわれは,鼻腔に発生した症例を2例経験したので,文献的考察を加えて報告する。

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Ⅰ はじめに

 神経内分泌腫瘍の一種である非定型カルチノイドは頭頸部領域での報告は少なく稀な悪性腫瘍であるが,悪性度が高く治療後早期にリンパ節転移,遠隔転移をきたす例が多い1)。わが国における過去の報告でも5年以上の長期間経過観察を行えている報告はわずかのみである。今回われわれは初回治療より長期経過観察後に再発,転移をきたした喉頭非定型カルチノイドの2症例について文献的考察を加えて報告する。

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Ⅰ はじめに

 筆者らは,人工呼吸器使用小児2例の治療に携わるなかで,気管留置Tチューブの頭側端をドーム状に閉鎖した気管内留置用特殊Tチューブ「頭側端ドーム状閉鎖-Tチューブ〔close the cephalad end(of the T tube)in shape of dome:以下CCD-Tチューブと略す〕(図1)を開発した。症例1で4年間,症例2で6年間使用し良好な結果を得た。今回,作製の経緯を報告し考察を加えた。

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Ⅰ はじめに

 ムコーズス中耳炎はムコイド型肺炎球菌を起炎菌とし,成人に好発する難治性中耳炎である1)。本疾患はほかの起炎菌による中耳炎に比べ,内耳障害や頭蓋内合併症を伴いやすいことが知られている2)。このため,早期の診断と治療が必要であるが,発症初期には鑑別に苦慮することも少なくない。今回,われわれは成人に発症したムコーズス中耳炎4症例を経験したので,臨床経過を中心に文献的考察を加えて報告する。

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Ⅰ はじめに

 筋肉内脂肪腫(intramuscular lipoma)は別名infiltrating lipomaとして知られ,脂肪腫の横紋筋線維へのびまん性浸潤を特徴とする,主に成人男性の四肢の大きな筋肉,特に大腿四頭筋に比較的多く認められ無痛性で緩徐に増殖し1,2),頭頸部における発生はきわめて稀である。今回われわれは喘鳴を主訴とした乳児の中咽頭発生例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

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あとがき 丹生 健一
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 去る9月4日日曜日,日耳鼻専門医試験でお馴染みの霞ヶ関ビルで第2回頭頸部がん専門医認定試験を受けてきました。頭頸部がん専門医制度の立ち上げには委員長として深くかかわってきましたので受験者の立場となるのは結構なストレスでした。しかし,「頭頸部がん専門医の資格を得るには例外なく認定試験に合格する必要がある」と厳しい制度を作ったのは自分たちなので仕方がありません。佃 守教授(横浜市立大学)による医療安全のDVD講習を1時間視聴した後,試験は始まりました。がん治療一般の広い知識を問う問題が20問と頭頸部がんにかかわる問題が40問。いずれも良問揃いで制限時間一杯堪能しました。お陰さまで9月26日,合格通知が届きました。本当に残念なことに,その翌日,佃教授の訃報が私のもとに届きました。佃先生からいただいた数々のご指導に感謝申し上げるとともに,ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

 さて,今月の特集は皮膚科疾患です。「知っておきたい皮膚科の知識―専門医の診方・治し方」と題して,アトピー性皮膚炎,天疱瘡,掌蹠膿疱症,ベーチェット,悪性黒色腫,乾癬,帯状疱疹,薬疹,性感染症など,耳鼻咽喉科との関連が深い代表的な皮膚疾患を取り上げました。軟膏・外用薬の使い方についても,専門的な立場から皮膚科の先生方にわかりやすく解説していただいています。ぜひ,ご一読ください。

基本情報

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科
83巻12号 (2011年11月)
電子版ISSN:1882-1316 印刷版ISSN:0914-3491 医学書院

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