胃と腸 46巻5号 (2011年5月)

特集 食道表在癌2011

序説

食道表在癌の診療 吉田 操
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はじめに

 かつては,“暗黒大陸”と言われていた食道癌の診療であった.この領域で食道表在癌の診療・研究が始まったのは,わずかに50年前にすぎない.しかし,この間の診療と研究の発展・充実ぶりは予想以上であり,現在もその勢いは衰えていない.

グラフ 食道表在癌典型症例

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60歳代,男性.13×11mm,moderately differentiated squamous cell carcinoma.

〔症例2〕 0-Ia型(SM2) 大森 泰
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61歳,男性.19×15mm,well-differentiated squamous cell carcinoma.

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58歳,女性.11×7mm,squamous cell carcinoma.

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60歳,男性.6×5mm,squamous cell carcinoma.

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63歳,男性.5×2mm,squamous cell carcinoma in situ.

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68歳,女性.30×20mm,squa-mous cell carcinoma.

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60歳,男性.18×8mm,squamous cell carcinoma.

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60歳,男性.21×17mm,squamous cell carcinoma.

〔症例9〕 0-IIc型(SM2) 加藤 剛
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71歳,男性.8×5mm,squamous cell carcinoma.

〔症例10〕 0-III型(SM3) 小田 丈二
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72歳,男性.22×17mm,poorly differentiated squamous cell carcinoma.

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要旨 食道癌の疫学は,地域,人種,食生活などの生活習慣,喫煙や飲酒などの嗜好と深く関連している.本邦における食道癌の動態は,死亡率は男性においては横ばい,女性においては減少傾向にある.罹患率は男性では軽度増加傾向,女性は減少傾向にある.本邦における現状は,性別では男性に多く,年齢は60~70歳代が多い.占居部位は胸部中部食道に最も多く,組織型は扁平上皮癌が圧倒的に多い.また,同時性および異時性の他臓器重複癌が多いことが知られている.食道扁平上皮癌の危険因子としては喫煙や飲酒があり,頭頸部癌や食道アカラシア,腐食性食道炎患者も高危険群となる.腺癌の危険因子としては食道胃逆流症(GERD)に伴う下部食道の持続性慢性炎症に起因したBarrett上皮が知られている.これらハイリスク群に対する内視鏡検査によるスクリーニングが必要である.

主題 2.食道表在癌の危険因子

食道表在癌の危険因子 横山 顕
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要旨 飲酒,喫煙,野菜・果物の摂取不足,低BMIが生活習慣とかかわる食道扁平上皮癌の危険因子である.発癌性のあるアセトアルデヒドへの高度曝露が起こるALDH2へテロ欠損者の飲酒のリスクは特に高く,食道・頭頸部の多発重複癌リスクも高める.食道多発癌,多発ヨード不染帯,5mm以上の大不染帯,メラノーシス,MCV増大は,飲酒・喫煙・ALDH2へテロ欠損と関連が強く,同時性・異時性癌のマーカーとなる.ビールコップ1杯で顔が赤くなる現在と過去の体質を問う簡易フラッシング質問紙法はALDH2欠損を90%の精度で判定し,この質問紙法と飲酒・喫煙・食習慣の組み合わせで食道癌リスクを評価する問診票は,検診や生活指導に活用すれば食道癌の予防に役立つ.エタノール代謝が遅れるADH1Bホモ低活性型も,ALDH2欠損型とともに相乗的に飲酒家の食道癌リスクを高め,この遺伝子解析は癌予防の新戦略となる.

主題 3.食道表在癌の病理診断

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要旨 生検標本による食道扁平上皮病変の腫瘍・非腫瘍の判別においては,検体が微量,標本作製面の水平切れや乳頭辺縁の接線切れといった生検材料特有の要因のために診断が困難な場合がある.また個々の病変が均一であることはまれで,生検部位により病理組織診断名が異なる可能性がある.さらに食道扁平上皮内腫瘍性病変の診断には,(生検診断に限らず)命名法に問題がある.すなわち同質の病変に対して,病理医の立場・考え方の違いにより,dysplasia(low grade,high grade),intraepithelial neoplasia(low grade,high grade),carcinoma in situ,上皮内癌(低異型度,高異型度),という異なる診断名が付けられる可能性があり,臨床医と病理医は生検組織診断とその臨床対応に関しての認識を共有しておく必要がある.

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要旨 内視鏡的粘膜切除/内視鏡的粘膜下層剝離術(EMR/ESD)後の追加治療の有無は病理組織所見により判断される.本稿では,追加治療の適否を判断する材料としての病理所見を中心に解説する.当院における深達度LPM/MMの57病変を検討したところ,MM病変,特に脈管侵襲を有する病変では腫瘍辺縁が不整となり小さな舌状の伸び出しを示す浸潤パターンが多かった.LPM病変の診断においては,深達度とともに浸潤パターンについての記載がなされることが望ましいと考える.また,適切な病理診断を行うために必要なEMR/ESD材料の標本作製における注意点について記載する.

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要旨 食道のdysplasiaと上皮内腫瘍(intraepithelial neoplasia)について概説した.これまで用いてきたdysplasiaは研究者間で定義や運用が異なるために,上皮内腫瘍が新たに定義されている.上皮内腫瘍という疾患をとらえやすい用語になったが,本質的なところはdysplasiaと同じであり,その概念は明確でない.また,組織診断の基準が異なるにもかかわらず,WHO分類との整合性を求めたために,「食道癌取扱い規約」における上皮内腫瘍には様々な問題がみられている.一方,上皮内腫瘍と診断したものをみると,ほとんどが癌を疑う病変である.したがって,上皮内癌の組織診断基準を明確にし,そのうえで上皮内腫瘍を定義する必要がある.

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要旨 食道表在癌に対するX線スクリーニングの有用性の評価を目的に,1995年5月から導入してきた食道・胃同時集検における検診成績を検討した.食道癌発見率は0.10%,表在癌率は92.7%と高率であった.対象を55歳以上の男性に集約し,DR撮影装置を導入した2007年4月以降の成績は,食道癌発見率0.24%,表在癌率100%とより成績の向上を認めた.対象を集約した食道・胃同時集検を全国的に展開できれば,より多くの食道表在癌を拾い上げることができ,食道癌全体の予後,QOLの改善に貢献できる可能性が示された.

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要旨 経鼻内視鏡は咽頭反射が少なく,患者の受容性が高い検査であるが,相対的に画質が劣ることからその有用性は必ずしも明らかでなかった.しかし,年々機器の改良が行われ,2009年からは高画質でFICEを標準装備,画角が140°の経鼻内視鏡も一般に使用が可能となった.Valsalva法を用いると,頭頸部癌,食道癌患者78例中50例(64%)に輪状後部と下咽頭後壁の接着が完全に解除され,狭い空間にスコープを滑り込ませることで,食道入口部の良好な視野が得られた.従来の汎用内視鏡では得られなかった視野であり,新しい内視鏡診断法として有用である.また,この1年間での経鼻内視鏡による頭頸部癌または食道癌患者170例を対象とした同時性,異時性食道癌の発見頻度では11例14病変(6.5%)の発見が可能であった.早期発見のコツは,十分に食道を伸展させ異常があれば近接し,FICEの併用,および時間をかけた観察が有用である.さらなる画質の向上により,経鼻内視鏡は今後標準的なスクリーニング検査法になると考える.

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要旨 食道表在癌の診断においてヨード染色は簡便であるが,炎症の惹起により病変の形が変わり,刺激が強く侵襲的である.また生検を施行すると病変の形が変わり,線維化を起こすため内視鏡治療の妨げになることがある.一方,近年開発されたNBIは簡便で非侵襲的で,SCCの大部分はBA(brownish area)として認識される.しかし,炎症もBAを呈するため,NBIの感度は高いが,特異度は低い.本稿ではNBI拡大内視鏡による血管パターン解析がBAの鑑別診断に有用か否かをretrospectiveに検討した.その結果,腫瘍性BAでは異常血管が認められると同時に血管間背景粘膜が変化することが判明した.今後はNBI拡大観察によるBAの鑑別診断を多施設共同前向き試験として実施する必要がある.

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要旨 現在,“高画質内視鏡”という用語に一般的な定義はなく,企業,団体によりその解釈は異なる.本稿では各メーカーの定義・高画質内視鏡の説明,画質の違いについて解説する.また,高画質内視鏡に加え,狭帯域内視鏡システム(narrow band imaging ; NBI)の登場により,低侵襲かつ高感度に食道表在癌のスクリーニング検査が可能になった.高画質内視鏡を用いたNBI観察では,“境界明瞭な茶色の領域”と“不規則な微小血管パターン”の2つの所見を診断の指標にすることで食道表在癌の診断がより容易にできるようになった.

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要旨 消化管粘膜から生じる自家蛍光を内視鏡下にとらえ,モニター上に疑似カラー表示するのが自家蛍光電子内視鏡(AFI)である.AFIは正常の食道粘膜を緑色,癌を緑色と補色関係にあるマゼンタ色に描出し,癌の視認性を高めている.通常観察やnarrow band imagingに比べてAFIが最も癌を明瞭に描出できることもあるが,一方でglycogenic acanthosisや逆流性食道炎といった病変もAFIでマゼンタに近い色に描出されるので癌診断の特異度は低い.AFIの食道癌スクリーニングにおける有用性に関し多数例での検討が待たれる.

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要旨 当科における食道表在癌128例134病変のX線所見について,形態によりA.平坦陥凹型(94病変)とB.隆起型(40病巣)に分けて検討した.A.平坦陥凹型 : (1) 正面像でうねりや厚み,濃い陰影斑,辺縁隆起はMM以深癌で出現し,高率にSM2,3癌に認められた.(2) EP,LPM癌の側面像は大半が無変形であったが,MM,SM1癌でも69%に認められた.(3) 側面像における陰影欠損,不整硬化のSM2,3癌に対する特異度は高く診断に有用であった.(4) MM,SM1癌の無変形群と変形群の比較では,前者のMM浸潤幅は平均2.8mmで後者の平均9.7mmに比べ浸潤幅が狭かった.(5) SM2,3癌で陰影欠損,不整硬化を呈した病変の平均SM浸潤幅は平均9.2mmで,呈さなかった病変の4.0mmに比べ浸潤幅が広かった.B.隆起型 : (1) 正面像で隆起径16mm以上はすべてSM2,3癌であり,10mm以上の0-I型は93%がSM2,3癌であった.(2) 6~9mmの0-IIaでは64%がMM,SM1癌であった.(3) 側面像における陰影欠損のSM2,3癌に対する特異度は高く診断に有用であった.結論 : X線正面像におけるうねるような凹凸,濃い陰影斑,辺縁隆起,10mm以上の丈の高い隆起,さらに側面像における陰影欠損,不整硬化はSM2,3癌に高率にみられ,MM,SM1癌との鑑別を含めた深達度診断に有用である.

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要旨 深達度診断の目標は,(1) リンパ節転移がなく,局所治療で根治可能なT1a-EP・LPM癌,(2) リンパ節の転移頻度が低率で,局所治療の相対的適応であるT1a-MM・SM1癌,(3) リンパ節転移を高頻度に認め,リンパ節郭清を含めた外科治療が必要なSM 2・3癌の3群に分けることである.深達度診断を行う場合の観察ポイントは,(1) 隆起性病変では隆起の大きさ,高さ,隆起の基部の形態,隆起の色調や表面性状,(2) 陥凹性病変では陥凹の深さ,陥凹底の凹凸や色調,陥凹辺縁の盛り上がり,また,TB染色所見や畳目模様の有無,さらにMM以深への浸潤が疑われる場合は,NBI併用拡大観察にて血管変化を観察する.2007年1月~2009年12月に,EMR/ESD治療を行った食道表在癌247例296病変(0-IIb 76,0-IIc 191,0-IIa 18,0-I 10,2型類似1)を対象とした.病型分布としては,0-IIcが食道表在癌の65%を占めていた.深達度診断の診断精度は,全体で89%,T1a-EP・LPM癌は94%と良好であったが,T1a-MM・SM1癌は66%,SM2以深癌は61%と低率であった.T1a-MM以深癌で,深達度を誤った病変の84%は0-IIcであった.0-IIcにおいて,深達度を浅読みしたT1a-MM・SM1癌の71%,SM2以深癌の50%は微小浸潤であった.浸潤幅1.8mm程度の微小浸潤は,現況での通常観察の診断限界と考える.

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要旨 高解像度の“NBI拡大”内視鏡の登場により,特に扁平上皮領域では深達度診断のみならず,微小な腫瘍性病変の診断も容易になってきた.NBIの特徴は上皮レベルに存在する毛細血管(IPCL,上皮乳頭内血管ループ)を褐色に強調できるところにある.NBI通常観察(非拡大)でbrown spot(あるいはbrownish area)を同定して,同部のNBI拡大観察を行うことで,病変の性状診断が可能である.NBI拡大内視鏡で観察するIPCLの変化は,本文中のIPCLパターン分類の赤枠に示した平坦病変の内視鏡的異型度診断から,青枠で示した深達度診断まで広く適用される.IPCLの変化は,組織の構造異型を反映していると考えられる.深達度診断においては,IPCL type V-3がT1a-LPM深部浸潤とT1a-MM/SM1に対応しており,治療方針の分岐点ともなることから,その亜分類が重要となる.V-3Aは異常血管が水平面上に走行する場合で,T1a-LPM深部(50%)とT1a-MM/SM1(50%)に相当する.一方,V-3Bは深部方向への延長が顕著な場合であり,73%がT1a-MM/SM1であり,23%はSM2以深である.さらに将来への展望として,超・拡大内視鏡(endocytoscopy,340倍)が開発されており,細胞や核を生体内で直接観察することができる.これにより細胞の核異型をもとらえることができるようになってきた.このような診断機器の進歩により,組織の内視鏡的異型度診断(構造異型,細胞異型を含む)が現実のものとなりつつある.

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要旨 FICE併用拡大内視鏡による食道表在癌の深達度診断の成績と問題点について,食道表在癌267病巣を対象として検討した.微細血管分類type 3とtype 4SをEP/LPM癌,type 4Mとard3をMM/SM1癌,type 4Lとard4をSM2/SM3癌の診断規準とすると,EP/LPM癌の診断率は98.9%,MM/SM1癌は78.6%,SM2/SM3癌は69.4%,全体で92.5%の正診率であった.type 4Rを示した13病巣中12病巣(92%)が低分化型扁平上皮癌や特殊な組織型,INFcの浸潤様式を呈した.EP/LPM癌の診断率は通常内視鏡でも良好であるが,拡大観察を併用することで血管形態から生検することなくEP/LPM癌と確診することが可能となり,診断の質が向上した.また,隆起性病変の質的評価に特に有効であった.MMとT1b癌では,通常観察で気付かなかった微細な浸潤部を指摘できるようになったこと,肥厚や隆起を血管像から正しく診断できるようになったことが診断率の向上につながっていた.拡大観察による誤診の主な原因は表層が浅い癌で覆われ,その深部に存在する浸潤巣の変化をとらえられなかったことによる浅読みであった.

5)超音波内視鏡 村田 洋子
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要旨 食道癌の深達度診断を行うに当たり,各機器の精度は深達度により異なる.T1a-EP,LPMなどの浅い病変は,拡大内視鏡,NBIが有用であるのに対して,EUSは表面からでは判定が難しいT1a-MM,T1bに対して有用である.この際,粘膜筋板を指標として診断する.細径プローブによる深達度診断の正診率はT1a-EP,LPMは81%,T1a-MM,SM1は60%,SM2,3は87%であった.EUSにて癌巣が厚く広いもの,第6層(固有筋層)と腫瘍の間に境界エコーがないものは,外科手術の適応と考える.

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要旨 食道表在癌に対する治療方針はEMRの開発により大きく変化した.今日,早期食道癌に対する第1選択の治療法は内視鏡的切除である.筆者らの施設では,幕内らの開発したEEMR-tube法でEMRを行ってきた.また,4-step法により安全な分割切除と遺残再発の予防に努めてきた.従来,EMRでは大きな病巣には分割切除が行われてきた.しかし早期胃癌の治療で普及したESDは食道にも普及し一括切除が行われている.今日,内視鏡的切除として行われているEMRとESDの両手技は病巣の大きさや数,術者技量,所要時間などを考慮しての使い分けが必要と思われる.

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要旨 食道ESDは病変の占居部位,大きさにかかわらず一括切除が可能な優れた治療手技だが,食道壁は薄く,心拍動で常に動いているため技術的なハードルが高い.上下アングルのみならず左右アングル操作も左手のみで操作できる技術を身につけたうえで,各種デバイスや高周波装置の特性を熟知した術者のみが施行すべきである.安全なESDを施行するためには,直視下での切開剝離操作が必須であり,良好なカウンタートラクションを得るためには重力の利用や,糸付きクリップ法,トンネル法などが有用である.

3)外科治療 竹内 裕也 , 北川 雄光
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要旨 食道表在癌の治療に際しては占居部位,壁深達度や脈管侵襲の有無,リンパ節の画像評価などを詳細に検討したうえで治療法を選択しなければならない.T1a-MM以深の表在癌に対する根治手術では,どの術式においても局所制御を高めるための精度の高いリンパ節郭清術が求められる.これまでの検討では食道表在癌のセンチネルリンパ節は頸部から腹部まで広範囲に分布しており,センチネルリンパ節の一部が3群リンパ節以遠に分布する症例が約30%の症例に認められていた.このセンチネルリンパ節分布の複雑さは,食道壁内,縦隔の複雑なリンパ流に起因するものであり,頸胸腹3領域リンパ節郭清術の妥当性を示していると言える.

4)放射線・化学療法 三梨 桂子
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要旨 食道表在癌は局所治療である内視鏡切除が適応だが,粘膜筋板(MM)から粘膜下層(SM)へ浸潤すると所属リンパ節への転移頻度が10~40%以上と上昇するため,リンパ節郭清を伴う外科切除術が標準的治療である.根治的化学放射線療法(CRT)は多施設での第II相試験で有効性が評価され,現在外科切除とのランダム化比較試験が進行中である.また,主病巣をまず内視鏡切除し,切除標本の病理結果から転移のハイリスク群を抽出し追加治療を考慮する臨床試験も行われている.これら非外科的治療の有効性を検証する臨床試験により,リンパ節転移を有さない食道表在癌に対して臓器温存を含めた治療が可能になってくることが期待される.

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要旨 拡大やNBIを含む内視鏡診断技術の飛躍的な発展によって,内視鏡的に組織の良悪性および組織型を推察することができるようになった.また,エンドサイトの登場によって,生検を取ることなく細胞異型を診断する“optical biopsy”が可能になったと言える.従来のdual-CCD endocytoscopeに加え,オリンパスと当施設との共同開発であるsingle-CCD endocytoscopeは,さらに“通常観察”から“超・拡大観察”までの連続観察を可能とした.エンドサイトの使用経験を踏まえて内視鏡的細胞異型度分類“ECA分類”の意義と今後の展望について概説したい.

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要旨 食道表在癌の共焦点内視鏡像について概説した.正常食道粘膜はIPCLに相当する白色の濃いループ状の血管像がみられ,扁平上皮細胞は多綾形として規則正しく配列して観察された.食道表在癌では細胞数が増加して密度が高まり,分布は不規則性を示し,細胞の形もひし形から丸みを帯びた形に変化していた.微細血管は拡張,変形し,大きさと形状が不均一となり,血管辺縁は不明瞭でありループ状の構造は観察されなかった.細胞配列パターンと微細血管構造パターンの変化によって癌とその深達度診断をすることを提唱した.同検査法は拡大内視鏡画像の理解に有用であった.

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要旨 2005年1月から2009年12月までに内視鏡治療を行った10mm以下の食道表在癌は126病変であり,超微小癌11病変,微小癌41病変,小癌74病変であった.〔症例1〕 超微小癌.2×1.5mm,0-IIc,T1a-LPM.化学療法後の異時性多発癌,〔症例2〕 微小癌.4×4mm,0-I+IIb,T1a-MM,ly0,v0,〔症例3〕 微小癌.5×4mm,0-IIc,SM1,ly0,v0,〔症例4〕 小癌.10×8mm,0-IIc,T1a-MM,ly1,v1,〔症例5〕 小癌.6×3mm,0-IIc,SM2,ly0,v0,NBI発見の頸部食道癌,〔症例6〕 小癌.8×5mm,0-IIc,SM2,ly1,v0.126病変の病型は,0-IIa 11病変(9%),0-IIb 41病変(33%),0-IIc 72病変(57%),0-I 2病変(1%)であり,深達度はT1a-EP 105病変(83%),T1a-LPM 5病変(4%),T1a-MM 11病変(9%),SM1 1病変(1%),SM2 4病変(3%)であった.T1a-MM以深癌16病変の内訳は,微小癌のT1a-MM 1病変,SM1 1病変,小癌のT1a-MM 10病変,SM2 4病変で,その病型は14病変が0-IIc,2病変が0-Iであった.5mmを超える0-IIc病変の約20%は,T1a-MM以深に浸潤しており,深達度診断時は,陥凹周囲の盛り上がりや陥凹内の凹凸,発赤の強さに注目し評価することが必要である.

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要旨 患者は60歳代,男性.胸部食道にSMT様病変を認めた.頂部は陥凹を呈し,口側は発赤が強く拡大観察でループ状の不整血管を認めた(part A).前壁側は中等度に発赤し,拡大観察にて複数の無血管領域と同部を取り囲む異常血管を認めた(part B).組織学的に,part Aは深達度SM2のSCCで,表層にびらんを伴っていた.拡大観察でみられた血管は従来報告されていたSM癌の血管とは異なっており,びらんに伴う新生血管と思われた.part Bでは,乏血性のBSC腫瘍塊,および腫瘍塊間の血管の露呈を認めた.拡大観察でみられた無血管領域とそれを取り囲む異常血管は,乏血性腫瘍塊と腫瘍塊間の血管と考えられ,充実性胞巣状に発育するBSCに特徴的な血管像と推察された.

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要旨 患者は70歳代,女性.嚥下困難を主訴に近医を受診し,食道腫瘍と診断されて当科に紹介となった.食道X線写真では胸部上部食道に約5cmの立ち上がり急峻な棍棒状の隆起性病変を認め,内視鏡検査では同部位に表面は平滑な有茎性の隆起性病変を認め,その基部から口側にかけて軽度隆起を伴った不整な粘膜を認めた.同部位生検にて扁平上皮癌を認め,胸部食道癌の診断で手術を行った.病理組織学的には粘膜下層に浸潤する食道癌肉腫と診断された.食道癌肉腫は形態的に有茎性隆起性腫瘍とその基部に表在癌が存在することが特徴的であり診断に有用と考えられた.

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要旨 患者は52歳,男性.胃潰瘍の経過観察で行った内視鏡検査にて食道表在癌を指摘された.胸部中部食道の長径2cmの0-IIc型で,病変全体に厚みと硬さを認めた.内視鏡治療(EMR)を先行し,病理組織学的診断は深達度SM2の粘表皮癌であった.根治的外科切除を追加し,術後5年間無再発生存中である.極めてまれとされる食道粘表皮癌で,長期予後の得られた表在癌症例であった.その発育形式や粘液形質の発現から,扁平上皮が発生母地と推測された.

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要旨 患者は67歳,女性.味覚異常を自覚したため当センターを受診した.上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胸部下部食道に粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.SM深部浸潤した食道腺様囊胞癌と診断し,外科的に食道切除術を施行した.病理組織学的診断は,食道腺様囊胞癌,深達度SM3,脈管侵襲(-),リンパ節転移を認めなかった.免疫組織化学的染色でも唾液腺腺様囊胞癌における充実・管状型と同様の染色態度を示し,腺様囊胞癌として矛盾しない症例であった.

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要旨 患者は70歳代,女性.胸部中部食道後壁に褪色調の扁平隆起性病変を認め,その肛門側に約半周性の粗糙な領域を認めた.扁平隆起部のNBI拡大観察では,不規則に分岐・横走する拡張した非ループ性の異常血管を認めた.SCCと診断し,ESDにて病変を一括切除した.免疫染色ではN-CAM,chromogranin A,synaptophysinが陽性であり,病理診断はMt,Post,type 0-IIa+IIb,endocrine cell carcinoma associated with squamous cell carcinoma,pT1b-SM2(浸潤距離250μm),ly0,v1,HM0,VM0であった.扁平隆起部のNBI拡大所見をretrospectiveに検討すると有馬分類のtype 4R(reticular)に相当し,内分泌細胞癌を鑑別に挙げることは可能であったと考えた.ESD後に追加化学療法を施行し,術後1年10か月間無再発経過観察中である.

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要旨 患者は30歳代,男性.検診異常にて行った上部消化管内視鏡検査で,食道病変を指摘された.Barrett食道腺癌の診断は困難なことがあり,また同時多発癌・異時多発癌の発生が多いとも報告されている.本例は,通常観察では主病変の存在診断は可能であったが,さらにNBI拡大内視鏡を行うことで,側方進展範囲診断が容易となった.また,通常観察では発見しえなかった副病変の存在診断にもNBI拡大観察が有用であった.治療としてBarrett粘膜を含む下部~腹部食道全周のESDを行った.デキサメタゾン局注併用バルーン拡張術を要したが,狭窄なく治癒しえた.

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要旨 患者は80歳代,男性.4~5年前より逆流性食道炎にてPPIを内服中であったが,心窩部への違和感を主訴にEGDを施行し,SSBE右壁に径15mm大の発赤調隆起性病変を認めた.通常観察で緊満感・硬さを認めた.隆起部のNBI併用拡大内視鏡観察では,表面構造は不明瞭で血管の拡張,口径不同・走行不整は非常に目立ち,一部新生血管と考えられる太い血管が存在した.EUSでは,SM層の圧排・菲薄化を認め,深達度T1b-SM2と診断した.隆起口側平坦部では腺管密度の高いpit構造とnetwork血管,隆起肛門側陥凹部でも走行異常を伴う口径不同血管を認め,SCJに接する部位から肛門側は陥凹部まで進展する病変であった.CTでは,リンパ節転移を認めず,高齢・合併症を考慮し十分なインフォームドコンセントを行い,病変をESDにて切除した.病理診断はAe,26×14×2mm,adenocarcinoma(tub1,tub2>por2)in SSBE,pSM2,ly0,v0,pHM0,pVM0.病変肛門側粘膜下層には食道固有腺を認め,内視鏡所見と切除標本との対比では進展範囲診断および深達度診断は一致していた.Barrett腺癌の診断には通常内視鏡観察に加え,酢酸撒布・NBI併用拡大内視鏡による範囲診断,EUSによる深達度診断が有用である.

症例 4.深達度診断が難しかった0-Is+IIa型食道癌の1例

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要旨 患者は60歳代,男性.胸部中下部食道前壁側に,0-Is+IIa型食道癌を認めた.左心房の外圧迫上から裏面に位置しており,通常観察では全体像を把握することが難しく,厚みや凹凸を評価しにくかった.拡大観察では病変の大半はtype 3を示し,一部type 4Mを認める程度で,SM深部浸潤を示唆する所見は得られなかった.病理組織診断はT1a-MM/SM1癌の深部に低分化型癌の浸潤部を伴うpSM3で,20MHz細径超音波プローブが最も深達度を客観的に現していた.

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「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」は毎号本誌の冒頭を飾っていますが,X 線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

投稿規定

編集後記 大倉 康男
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 早期食道癌の診断学が変革したのは1990年前後であり,本誌増刊号「早期食道癌1995」は当時の診断学を集大成したものであった.早期食道癌の肉眼型と深達度の関係が明らかにされるようになり,診断の基本が詳細に示されている.食道癌の診断に携わるものにはバイブルとも言える1冊であったが,改めて開いてみると治療に関する論文が極めて少なかったことに驚かされる.今回,増刊号「早期胃癌2009」,「早期大腸癌2010」に引き続き,「食道表在癌2011」が企画されたが,この16年間で早期食道癌の診断,治療がさらに進歩したことが示されている.

 さて,「食道表在癌2011」の内容であるが,まず気がつくことは,タイトルが早期癌から表在癌に変わった点である.食道早期癌の定義は1999年に変更されているが,粘膜癌だけでなく,粘膜下層癌を含めて診断・治療を論じなくてはならないことは序説で吉田先生が述べているとおりである.典型症例をみると,X線画像が少なくなり,拡大内視鏡やNBI(narrow band imaging)が示されるものが多く,さらに大半は内視鏡的切除検体である.「早期食道癌1995」のころと診断,治療が大きく変わったことを感じさせられる.

次号予告

基本情報

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胃と腸
46巻5号 (2011年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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