胃と腸 46巻6号 (2011年5月)

今月の主題 胃腫瘍の拡大内視鏡診断

序説

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 今から30年以上も前,1977年のことである.当時,山口大学の教授に着任されたばかりの竹本忠良先生に胃の拡大内視鏡観察の仕事をするように命じられて,試作高拡大ファイバースコープFGS-MLII(町田製作所)を手にした.午前中は内視鏡検査,午後は生検標本の実体顕微鏡観察,夜は病理標本の作製と鏡検という悪戦苦闘の日々が続いた.そんなある日,点状の胃小窩が,短い溝状になり,そして連続した溝の縞状模様へ連続して移行していく画像が明確にとらえられた(Fig. 1).このような連続する胃小窩の形態変化を慢性胃炎との関係で検討し1),現在ABCD分類として引用されている胃粘膜微細模様の拡大内視鏡分類2)を作った.

 拡大ファイバースコープで得られた画像は通常内視鏡所見とは全く異なっていた.当時は未開拓の分野であった高拡大画像に魅せられ,すっかり舞い上がってしまった.拡大内視鏡画面では白っぽく写っている胃小窩の形状は様々であるが,整理すると点状と線状の陥凹部分の集合にすぎなかった.従来のアナログ診断ではなく,点と線だけで表示される当時流行していた“デジタル”診断ができると考えた.そして,コンピュータ診断まで夢想した.

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要旨 NBI(narrow band imaging)併用拡大内視鏡観察後に内視鏡的切除された早期胃癌病変を対象に,NBI所見と病理学的所見についてデジタル画像による比較検討を行った.Yagi分類に基づいてNBI拡大観察の所見が評価され,それらを踏まえてKobayashi分類により病変のグループ分類がなされた.A-typeの全例が胃型優位形質を示し(100%,15/15),B-typeでは全例が腸型優位形質を示した(100%,6/6).一方,C-typeの多くが中分化型腺癌ないし低分化型腺癌を混在し(84.2%,16/19),形質別には胃腸混在型が最多であった(52.6%,10/19).NBI拡大観察には形質を含めた病理組織所見が反映されると考えられ,腫瘍性変化の認識や質的診断に関して有用性が示された.一方で,表層部が非癌粘膜で被覆される中分化型ないし低分化型腺癌や,一部の特殊な組織型を伴う病変では,所見を取るうえで十分な注意が必要と考えられた.

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要旨 拡大観察でH. pylori非感染正常胃の胃底腺粘膜では円形の開口部が密に観察される.これら円形の開口部は組織像における腺窩に一致する.炎症の過程の中で腺窩の構造は改築され,胃底腺が消失した萎縮粘膜では溝状の胃小溝に変化する.すなわち,萎縮粘膜では腺窩は横に拡がる溝を形成する.除菌に成功すると非萎縮粘膜ではピンホール状の円形開口部が拡大観察される.また萎縮領域において胃底腺が再生すると円形開口部を伴なった拡大像が観察されるようになる.このように胃の腺窩上皮は炎症によってその構造の改築が生じ,また除菌により,正常の構造に近づくように再度改築される.

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要旨 隆起性胃腫瘍は早期胃癌では隆起型(0-I型)と表面隆起型(0-IIa型)に分類される.「胃癌取扱い規約」による肉眼型分類の違いは,第13版までは隆起の高さが正常粘膜の2倍以内のものを0-IIaとし,それを超えるものを0-Iとしてきたが,第14版では現実には隆起の高さが2~3mmまでのものを0-IIaとし,それを超えるものを0-Iとするのが一般的であるとしている.隆起性早期胃癌のNBI併用拡大内視鏡観察では,粘膜微細模様の微小・不整化があるものが比較的多く,微小血管模様においてはISIV(intrastructural irregular vessel ; 構造内不整血管)が診断の決め手となることがあった.また臨床的に胃腺腫の取り扱いが問題になることがあり,筆者らの施設による胃腺腫の検討において,大きさ2cm以上,生検で高異型度,陥凹型や発赤調の胃腺腫でESD切除標本の最終病理診断が腺癌(腺腫内癌)であったもの(“悪性度が高い腺腫”)が高率に認められた.

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要旨 陥凹型上皮性腫瘍(早期胃癌,腺腫)のNBI拡大内視鏡所見について検討した.10mm以下の早期胃癌分化型腺癌121例では41/121(34%)が血管パターン(網目状血管)を呈し,70/121(58%)が構造パターン内にらせん状渦巻き状の血管を伴うパターンであった.10mm以下の未分化型腺癌44例の検討では窩間部開大を呈した症例が21/44にみられ,うち18/21(86%)では癌は増殖帯のみに進展していた.構造パターンに渦巻き状の血管がみられたパターンは5例にみられ,4例が癌の浸潤は全層もしくは増殖帯から表層に浸潤する症例であった.cork-screw patternを呈した症例は18例あり,11/18(61%)が全層に浸潤する癌であった.生検で陥凹型腺腫であった26例について検討したところ,最終診断は13例が腺腫中等度異型,13例が高度異型,もしくは分化型癌であった.これらのうち14/26(54%)が網目状の血管パターンを呈し,癌と腺腫の鑑別は困難であった.構造パターンは12/26(46%)であり,うち5例が癌,もしくは高度異型であり,それらは構造パターン内の渦巻き状血管がみられ,癌と腺腫の鑑別に有用であると考えられた.

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要旨 粘膜内胃癌167病変を対象に,NBI併用拡大内視鏡像の検討を行った.腺窩辺縁上皮の形態により微細表面構造は7つ,血管の口径と形状・連結の形態により微小血管構造からは6つの特徴が抽出された.典型的な陥凹型胃癌のNBIME像は微細表面構造の破壊・消失・小型を示す領域において微小血管像の変化を伴うものであった.組織型を推測するできる所見として小型の微細表面構造およびcorkscrew型,ちりちり型,fine network型の微小血管構造が抽出できたが,一部の症例に適応されるものであった.現状では,通常・色素観察に加えた補助的なものとしてNBIMEを使用するのが妥当と考える.

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要旨 胃癌の診断に加え,Helicobacter pylori胃炎やMALTリンパ腫の診断や治療後評価に拡大内視鏡観察を行った.MALTリンパ腫は,その多彩な内視鏡像が特徴であるが,拡大内視鏡で観察すると,腺管構造が消失した無構造領域と不規則に走行する微小血管が高率に観察される.組織学的には,著明な腫瘍細胞浸潤と腺管構造の破壊を反映しており,寛解するとこれらの所見は消失し,背景粘膜と類似した表面構造に変化する.無構造領域の生検は,サンプリングエラーを減らし,診断や治療後評価の狙撃生検に有用である.

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要旨 目的 : 胃拡大内視鏡の早期胃癌に対する境界診断が困難な限界病変の頻度・臨床病理学的特徴を求めた.方法 : 福岡大学筑紫病院内視鏡部でESDが施行され,病理組織学的な評価が可能であった連続した早期胃癌446病変を対象とし,拡大内視鏡観察により,一部でも境界を全周性に同定できなかった病変(拡大観察・限界病変)の頻度を求めた.そして,限界病変の臨床病理学的特徴を求めた.成績 : 拡大観察・限界病変の頻度は,446病変中,18病変(4.0%)であった.病理組織学的特徴は,未分化型癌,分化型癌のうち超高分化腺癌や中分化腺癌を主体とする組織型であった.症例を詳細に検討すると,分化型癌では,表層の構造異型の弱い超高分化腺癌の像を呈し,表層置換性発育や非癌腺管との混在が,限界となる要因であった.未分化型癌については,未分化型癌の中でも,腺頸部に癌固有の間質の増生を伴わず,表層の表面微細構造と微小血管構築像が保たれた組織構築が,限界病変の要因であった.結論 : 拡大内視鏡は,通常内視鏡・境界不明瞭例であっても,早期胃癌に対する術前境界診断において,有用ではある.しかし,限界病変となる要因を知り,未分化型癌については,拡大内視鏡ではなく,通常内視鏡+生検により境界診断を行うという臨床的ストラテジーが必要である.

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要旨 早期胃癌の側方進展度診断を行うには,まず通常観察で病変の大まかな病変範囲を推定する.引き続きNBI拡大で,病変辺縁の粘膜表面の微細な構造と血管形態に着目して観察する.早期胃癌の病変部と健常部の構造や血管形態の違いが微細な場合もあるので,弱拡大で健常部と病変部を1視野内に入れて,相対的な整形・不整形を見比べ,その境界線(demarcation line)を全周性に観察することが重要である.早期胃癌の大部分は分化型腺癌であるため,多くはdemarcation lineを確認することで側方進展範囲を診断できる.まれに正常上皮に覆われた,粘膜固有層を手つなぎで進展する癌もあるため,生検や拡大内視鏡による質的診断を行い,特殊な癌の進展形式も頭に入れて診断する必要がある.

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要旨 早期胃癌に対する治療法の進歩により,サイズの大きな病変であっても一括切除が可能となったが,それには正確な範囲診断が必要となる.FICEによる早期胃癌の範囲診断では,非拡大FICE観察で全体像を把握し,弱から中拡大のFICEの近接像で癌部と非癌部の境界診断を行うことが可能である.筆者らの施設ではFICE導入後に側方断端陰性率は93.8%から96.7%に向上した.最新のプロセッサーVP-4450を使用したFICE範囲診断では,側方範囲診断は98.3%であったが,過剰切除も考慮した範囲診断正診率は94.8%であった.20mmより大きい腫瘍径と随伴IIbの存在が有意に範囲診断正診率の低下の原因であった.随伴IIbの正診率は80%と良好であったが,癌の構造異型と背景粘膜との差異が少ない症例や異型度が低い0-IIb症例では,範囲診断を正診できない場合もあることを認識しておかなければならない.

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要旨 通常内視鏡画像と水中NBI拡大内視鏡観察にて約3mm大の関心領域を設定し,同部の組織型診断を行った.さらに3%酢酸撒布を行い表面構造から組織型を診断した.関心領域の組織型は高分化型39例,中分化型12例,低分化型2例であった.拡大内視鏡所見は表面構造と血管構造に分け,表面構造が不明瞭な場合は血管構造に基づいて診断した.この結果,NBI拡大観察では62%(33例)で表面構造が不明瞭であったが,酢酸を撒布することで,33例中31例(94%)で表面構造が確認された.結果 : NBI拡大内視鏡による組織型正診率は高分化型で69%(27/39),中分化型で58%(7/12),低分化型で50%(1/2),合計66%(35/53)であったが,酢酸NBI拡大内視鏡による組織型診断正診率は高分化型90%(35/39),中分化型92%(11/12),低分化型100%(2/2),合計91%(48/53)であり,McNemar検定でp=0.013と有意差を認めた.酢酸撒布NBI拡大内視鏡は胃癌組織型診断に有用である.

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要旨 早期胃癌の組織型診断に関する狭帯域光観察併用拡大内視鏡所見について,VS classification systemに沿った形態所見分類を考案し検討した.隆起性病変では分化度の低下に従い,不整な微小血管,表面微細構造の不明瞭化,不整な表面微細構造,VSの不一致が多く認められ,微小血管のネットワーク形成の割合が低下する傾向がみられた.陥凹性病変では,未分化型で不整でない表面微細構造,蛇行した微小血管,いびつな微小血管の有所見率が高く,ネットワーク形成の割合は顕著に低かった.今回の検討ではネットワーク形成の有無と表面微細構造の整・不整を組み合わせることで,陥凹性病変では分化型癌,未分化型癌の鑑別ができる可能性を示すことができた.

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1 概念,病態

 非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drug ; NSAID)起因性大腸病変はNSAIDによって正常な大腸に惹起された粘膜傷害と定義されている.

 本症の診断は,従来の薬剤性腸炎の診断基準に準拠し,大腸病変の確認,NSAIDの使用歴の確認,他疾患の除外,およびNSAIDの使用中止による病変の治癒軽快の確認による(Table 1).

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編集後記 小山 恒男
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 「胃腫瘍の拡大内視鏡診断」という企画を静岡がんセンターの小野,国立がん研究センターの九嶋,佐久総合病院の小山の3名で企画した.近年,NBI(narrow band imaging),FICE(flexible spectral imaging color enhancement)に代表されるIEE(image enhanced endoscopy)が開発普及し,胃腫瘍に対する拡大内視鏡診断が普及しつつある.しかし,拡大内視鏡から得られる情報はあまりに複雑かつ膨大であり,拡大内視鏡を初めてみた初学者は一体何が見えているのか,理解することができない.どの所見が何を意味しているのか.つまり,“何を見ているのか”がわからないからである.

 本号の序説「拡大内視鏡で何を見ているのか」で榊は“内視鏡画像として得られた所見が何を示しているのか,最初に本質を見極めた診断体系を作る必要がある”と述べている.30年以上前に,拡大内視鏡による胃粘膜観察および拡大内視鏡による診断体系確立へひとり立ち向かった先達から厳しく,しかし明確な指針をいただいた.

次号予告

基本情報

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胃と腸
46巻6号 (2011年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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