胃と腸 29巻10号 (1994年9月)

今月の主題 胃底腺領域の分化型癌

序説

胃底腺領域の分化型癌 渡辺 英伸
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 本号では雑誌「胃と腸」で初めて,“胃底腺領域に発生した分化型癌”が主題として取り上げられた.胃底腺領域の癌は,今まで,主に未(低)分化型癌の発生母地やlinitis plastica型癌の初期病変や自然史の観点から話題の焦点になっていた.

 しかし,①胃底腺領域にも,分化型癌がかなりの頻度で発生するらしいこと1),②胃底腺領域に細胞異型度が低い小腸型(完全型腸上皮型)分化型癌が好発すること,この癌は経験が浅い病理医では癌と組織診断されないことがしばしばあること2),③粘膜内に分化型癌部分を有することが多いcarcinoma(por 1,por 2)with lymphoid stroma(lymphoid infiltration)は80~100%でEpstein-Barr virus感染陽性で,しかも胃底腺領域に好発すること3)~5),④胃底腺領域に発生する胃腺腫はPaneth細胞やargentaffin細胞の陽性頻度や程度が高いこと(完全型腸上皮化生に近似した細胞形質)6)7),⑤胃底腺領域に発生する腸上皮化生は完全型が多いこと7)8),などが最近明らかになってきた.

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要旨 胃底腺内に存在する分化型腺癌19例,21病変についてその病理学的特徴の検討を行った.胃底腺内の分化型腺癌の頻度は胃癌全体で0.5%,胃底腺内の癌で4.1%であった.またこれらは平均年齢が53.2歳と若年性で,かつ男性に多い傾向がみられた.粘液形質からは胃型腺癌が7病変(33.3%),混合型腺癌が6病変(28.6%),腸型腺癌が8病変(38.1%)で,混合型を含め胃型形質を有した癌が62%を占めていた.組織学的に胃型形質を発現した癌は腺窩上皮型粘液を有することがほとんどで,この中には粘膜内で乳頭状あるいは絨毛状腺癌を示すものがあり,肉眼的には隆起性癌が特徴であった.このほか進行癌でも胃型形質を有した癌では粘膜がよく保持され,肉眼的に粘膜下腫瘍様形態を示す癌がみられたことが特徴であった.

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要旨 胃の分化型癌(部分的分化型癌を含む)を,幽門輪から病変中心部までの距離によって,仮想胃底腺領域癌と幽門腺領域癌に分け,両者を比較することで,胃底腺領域分化型腺癌の特徴の抽出を試みた.胃底腺領域癌で,特にリンパ球浸潤癌の発生頻度が高かった.完全型腸上皮化生に類似した低異型度小腸型分化型腺癌も仮想胃底腺領域に多くみられ,この癌は細胞分化に富み,異型に乏しく,構造異型(腺管の蛇行,分岐,融合)が病理診断上重要であった.更に,仮想胃底腺領域分化型癌では有意にsm癌が多く,進行癌が少なく,0-Ⅱb型の表層拡大型分化型腺癌が仮想胃底腺領域にのみみられた.進行癌では4型が多く,3型が少ない傾向にあった.p53蛋白過剰発現は両領域癌の間で差はなく,両領域とも高異型度分化型癌で有意に高率であった.c-erbB-2蛋白発現も両領域の間で有意差はなかった.これら胃底腺領域分化型癌の特徴は,胃底腺粘膜内の腸上皮化生が完全型であることや,胃底腺領域の間質側の組織解剖学的特性に基づくことが示唆された.

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要旨 胃底腺領域に囲まれた分化型癌の病理学的特徴を検討するために,2cm以下の胃癌手術症例375病巣を検討した.胃底腺内に限局した病巣は17病巣(4.5%)で,そのうち分化型の成分を持つものは5病巣(1.3%)であり,うち4病巣は未分化型との混合型で,純粋の分化型は1病巣(0.3%)のみであった.混合型の分化型の成分および分化型癌は,組織学的には,構造異型が強く核異型の少ない腺管形成性の癌であり,粘液組織学的には,表層部ではGOS陽性で,深部ではCon A Ⅲ陽性の胃型の形質を示す胃型の腺管形成性の癌(腺窩上皮型癌)であった.胃底腺内にみられた腺窩上皮型癌の背景粘膜は,腸上皮化生はなく,軽度な幽門腺化生を認める粘膜で,粘液所見も含めて,未分化型癌と同様であり,腺窩上皮型癌は胃固有粘膜を基盤として発生するものと思われた.混合型の未分化型癌の成分は,純粋の未分化型癌と同様の組織学的,粘液組織学的所見を示し,腺窩上皮型癌から未分化型癌への組織型の転化の可能性が示唆された.

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要旨 1988年から1993年までに癌研外科で切除され,病理検索が終了した胃癌907例を対象として,背景胃粘膜と癌組織型の関係について検討した.幽門腺粘膜領域(噴門腺粘膜領域を含む)では分化型癌50%(313/624例)と未分化型癌50%(311/624例)はほぼ等しく,中間領域では分化型癌32%(58/180例),未分化型癌68%(122/180例)で未分化型癌が多く,胃底腺粘膜領域では分化型癌2%(2/103例),未分化型癌98%(101/103例)とほとんどが未分化型癌であった.胃底腺粘膜領域に存在した分化型癌の2例は,肉眼型はいずれもⅡc+Ⅲ型とⅡa+Ⅱc型,深達度はⅡc+Ⅲ型がmp癌,Ⅱa+Ⅱc型がsm癌,リンパ節転移はいずれも陰性であった.胃底腺粘膜領域に存在した分化型癌の2例について粘液組織学的染色を行ったところ,いずれも腸型の発現形質を示したことから,2例は胃底腺粘膜内の局所的な腸上皮化生巣からの発生が推定された.

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要旨 当院で検査され外科的に切除された胃癌から腸上皮化生のない胃底腺領域の分化型癌を8例を抽出し,同領域の未分化型癌と鑑別可能な特徴像の有無について検討した.(1)その頻度は,全胃癌1,859例の0.43%,分化型腺癌948例の0.84%であった.(2)隆起型もしくは隆起主体型が6例を占め,同領域の分化型癌の特徴像と思われた.(3)陥凹型は2例であったが,X線・内視鏡検査での未分化型癌との鑑別は困難と思われた.

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要旨 患者は45歳,女性.胃集団検診で胃の異常所見を指摘,内視鏡検査で胃体部の粘膜下腫瘍と診断された.2年後の内視鏡検査では粘膜下腫瘍の形態はとるものの,大きさは増し,中央に陥凹を有するようにもなった.病理組織学的には分化型癌であり,深達度はmであった.また,背景粘膜は胃底腺粘膜であり腸上皮化生は認めなかった.

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要旨 患者は63歳,女性.ドックで肝機能異常を指摘され当科受診.上部消化管造影で胃体上部後壁に長径4.5cm大の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.内視鏡的には境界明瞭で,急峻な立ち上がりを示す広基性の病変であり,ごく軽度褪色調で表面は平滑であり,びらん,潰瘍はなく,頂上部に向かって走行する怒張した血管を認めた.生検ではGroupⅤ(tub1)であった.びらん,潰瘍を伴わない急峻な立ち上がりを示す病変のため術前診断に苦慮したが,超音波内視鏡で壁全層の肥厚を認めたため,Borrmann1型と診断した.術後の病理組織学的検討では1型癌,4×3.5×1cmで,tubl,ss,INFβ,ly2,V1,n(+)であった.

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要旨 患者は68歳の男性で,15年間にわたるMénétrier病の経過中に進行胃癌を発症した.入院時には既に癌性腹膜炎の状態であったため,強力な化学療法を施行したが著効は得られなかった.入院3か月後に両肺の癌性リンパ管症を併発し,死亡した.腹部に限定した剖検により腹水を伴った癌性腹膜炎が確認されたが,胃以外の腹腔内臓器原発の腫瘍は認められなかった.肉眼的には摘出胃の大彎を中心として脳回状巨大皺襞が存在し,その領域内に6.5×4.0cm大の腫瘍を認めた.組織学的には巨大皺襞の全領域にわたって腺窩上皮の過形成がみられ,粘膜固有層から粘膜下層にかけて腺管の囊胞状拡張が顕著であり,Mènètrier病に一致する所見であった.これらの巨大皺襞に囲まれて存在していた腫瘍は高分化型管状腺癌で,浸潤性増殖を示し,漿膜面に露出していた.粘膜固有層の一部には過形成性腺管から腺癌への移行を示唆する像が認められた.以上の所見から,本例はMènètrier病を基盤として胃底腺領域に発生した進行胃癌と診断された.今回の症例も含めMènètrier病と胃底腺領域癌の組織発生との関係について文献的に考察した.

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要旨 患者は62歳,女性.左季肋部痛を主訴に来院した.内視鏡検査で胃体部後壁に浅い線状潰瘍を発見,その周囲からの生検で癌と診断されたが,癌の範囲の診断は困難であった.X線検査で,線状陰影周囲に浅い不整形陰影斑が描写されⅡc病変と診断した.切除標本ではⅡc病変の小彎,幽門側に発赤した顆粒状粘膜のみから成る大きさ5.0×4.0cmのⅡb病変の拡がりを認めた.病理組織学的には癌は中分化型腺癌で,癌の腺管は粘膜中層に拡がり,その部にはびらんの形成が目立たず被覆上皮に覆われていた.この特徴的な組織像をとるとⅡb病変として存在する可能性がある.この症例では,Ⅱb部分は,X線的に粘膜ひだの不規則な消失,バリウムの付着異常として現れた.

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要旨 腸上皮化生のない胃底腺粘膜に発生した分化型癌の2例を経験した.〔症例1〕の患者は59歳,男性.穹窿部大彎後壁の2.8×2.5cm大の腫瘍で,決潰や潰瘍は形成せずに粘膜下腫瘍様の発育を呈して深部に浸潤し,深達度はseであった.組織学的には胃型の分化型癌であった.〔症例2〕の患者は40歳,女性.胃体上部大彎後壁の3.2×2.6cm大の腫瘍で,Ⅱc様の形態を示し,潰瘍形成はなかったが,結節様隆起部で粘膜下層深部へ浸潤していた.やはり,組織学的には胃型の分化型癌であった.以上,当施設の2例をみるかぎり,臨床的には決潰,潰瘍を形成せずに深部浸潤すること,組織学的には胃型の分化型腺癌であることが特徴的であった.

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要旨 患者は65歳,男性.33歳時,胃潰瘍で胃切除(Billroth Ⅱ法)あり.食欲不振でX線検査と内視鏡検査を受け,残胃吻合部の多発早期胃癌と診断され手術した.手術標本では吻合部に接して,前後壁に発赤の強い,表面が結節状のイモ虫様隆起を認め,これら2つの隆起に挟まれた小彎に境界不鮮明の褪色した浅い陥凹を認めた.組織所見では前壁は3.0×1.5cm,後壁は1.5×1.5cm,いずれもm,高分化型のⅡaで,その粘膜下層には囊胞状に拡張した腺管を認めた.陥凹は3.0×1.5cm,m,未分化型のIlc型であった.これら癌周囲の背景粘膜をみると,固有腺は軽度の萎縮を認めるもののほぼ保たれていたが,腸上皮化生は癌巣周囲を含む吻合部付近には認められなかった.

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要旨 患者は70歳,女性.過形成性ポリープの経過観察の目的で施行した上部消化管内視鏡検査で胃体上部大彎前壁寄りにⅡa+Ⅱc型の3cm大の早期胃癌が発見された.胃X線所見で同部に比較的扁平な隆起性病変を認め,表面に不整形の陥凹を伴っていた.病変の大彎側と口側の部分は特に丈が低く,顆粒状の小隆起が集簱した部分を認めた.病理学的検索により粘膜下層深部まで浸潤した分化型癌であることが明らかになった.病変の辺縁や扁平顆粒部は非常に分化の良い腺窩上皮に極めて類似した癌組織から成っていた.背景粘膜は腸上皮化生を認めない胃底腺粘膜であった.粘液の組織化学的染色により癌細胞は腺窩上皮と同じ粘液組成であることが証明され,腺窩上皮型癌と診断した.体部腺領域の高分化腺癌の肉眼像・組織像はいまひとつ明らかでなく,その組織発生という点も含めて興味ある症例であると考えられた.

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要旨 患者は48歳,男性.糖尿病で通院中,上腹部痛のため上部消化管内視鏡検査を施行した.胃体下部大彎にⅡa+Ⅱ様の病変を認め,生検で中分化型腺癌と診断され胃亜全摘術を行った.病理組織学的には腫瘍組織は腸上皮化生のない胃底腺領域に存在する分化型腺癌で,腫瘍辺縁部の粘膜下層に,異型性を欠く異所腺を認め,腫瘍組織との間にフロント形成が認められた.他部位に異所腺は認めず,孤立性胃粘膜下異所腺から発生したと考えられた.

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〔患者〕57歳,女性.主訴:腹満,悪心.既往歴:18歳時中垂切除術.家族歴:特記事項なし.合併症:大動脈弁閉鎖不全,洞性徐脈(入院後ペースメーカー使用).現病歴:1991年7月28日から主訴を訴えるようになった.南郷医院の小腸X線検査で異常を指摘され同年10月22日当科に入院.消化管障害を惹起する薬剤の服用歴はなかった.

〔小腸X線所見〕102病日の小腸二重造影検査では空腸に高度の漏斗状狭窄(矢印)を認め,その口側腸管の拡張もみられる(Fig.1a, b).

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〔患者〕53歳,男性.主訴:突然の腹痛.既往歴:15歳時肺結核,32歳時虫垂切除術.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:1993年9月26日午後突然に腹痛が出現し,同年11月5日紹介入院となる.これまで特別な薬剤の服用歴はなし.同年12月10日症状の増悪がみられ緊急手術となった.

学会印象記

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 第23回のアメリカ消化器放射線学会(Annual Meeting and Postgraduate Course of the Society of Gastrointestinal Radiologists)は1994年2月13日から18日までハワイのマウイ島において開催された.本学会は1971年にMarshak(初代会長)とMargulisらによって創立され,1974年以来Postgraduate Courseが設けられている.

 1986年の学会では,白壁彦夫先生が日本人としては唯一,名誉あるCannon Medalを本学会から受賞されたが,この詳細については,八尾教授によって本誌にも紹介されている.実際,この学会でも消化管の二重造影に関する発表は毎回繰り返され,今更ながら,先生の影響力の大きさには感嘆するばかりである.ちなみに,これまでのCannon Medalの受賞者の中にはMarshak,Schatzki,Margulis,Laufer,Meyersなど錚々たるメンバーが名を連ねている.

早期胃癌研究会

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 1994年5月の早期胃癌研究会は5月18日(水)に開催され,当番司会は幕内(東海大第2外科)および馬場(癌研内科)が担当した.

〔第1例〕42歳,男性.0-Ⅱa+Ⅱc型食道粘膜癌(症例提供:都立駒込病院内科 門馬久美子).

1994年6月例会から 伊藤 誠 , 飯田 三雄
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 1994年6月の早期胃癌研究会は6月15日(水)に開催され,当番司会は伊藤(名古屋市立大学第1内科)および飯田(川崎医科大学内科)が担当した。

 〔第1例〕65歳,男性.multiple lymphomatous polyposis(MLP)(症例提供:佐久総合病院消化器科 小山恒男).

追悼

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 われわれは,また,よき友,よき医師を1人失った.というより,私は,よき“人物”を1人失ったと言いたい.彼は,実に静かな,しかし大切なことを着実に実行して,確かな一里塚を築いたまれにみる“人物”というのにふさわしい人だったと信じるからである。

 彼,五ノ井哲朗博士は,千葉大学で私と同期生である.戦後の一時期,気骨ある人は誰でもいくぶん左翼的であったが,彼もかなり熱心に活動していたようだ.しかし,先鋭的な学生たちが口角泡を飛ばして激論していても,彼はただ黙って,いつもの暖かい眼差しで,ニッコリと笑っているだけだ.彼は,問題を真正面から取り上げ,じっくりと理論的に考え,静かな一言で皆を納得させる妙な男だったという記憶がある.たぶん,彼はそのグループの論理的指導者であったのだろう.激しい論議のあと,彼の示すテレたような,なんとも言えぬ優しさを含んだ笑顔が今でも印象的だ.

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欧文目次

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 超音波の医学的応用は,特に診断面において目覚ましい進歩を遂げている.測定装置の改良によって画像が格段に鮮明となったばかりでなく,装置の小型化が進んだ.しかも,多くの臨床研究によって,ほとんどあらゆる組織,臓器への適応が可能になりつつある.それによって,超音波検査はもはや熟練した専門医のみに留まらず,すべての臨床医の日常診療に不可欠な道具となり,文字どおり聴診器並みに広く使用されている.他の画像検査と大きく異なることは,最良の診断結果を得るためには,測定者自身が探触子を自在に動かしon-lineで画像を映し出しながら判断しなければならないことである.ということは,単に映し出された画像を判読する能力だけではなく,生体の解剖・生理学的知識と被検者の症状を十分に勘案して探触子を操作する技術を身につけなければならない.限られた学生実習,初期臨床研修のみではとうてい十分な知識と技術を身につけることは困難であって,どうしても優れた参考書が必要である.そのような医学界の強い要望を受けて,日本超音波医学会の責任編集の下に誕生したのが本書である.

 本書のルーツは,1966年に刊行された「超音波医学一基礎から臨床まで」の初版である.その後,第2版が6年後に刊行されたが,その後の急速な進歩を踏まえ,時代の要請に沿うべく,実に16年後の1988年に新しく刊行されたのが「超音波診断」初版である.今回,6年を経過して,カラードプラ法の記述を充実させ,従来の中枢神経系,眼科,耳鼻科,歯科,体表臓器,循環器.呼吸器,腹部,泌尿器科,産婦人科に,新しく整形外科,皮膚科の領域を追加して第2版が刊行の運びとなった.

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 本書は「新臨床内科学」のコンパクト版と銘打っているが,今はやりの縮小版ではなく,ダイジェスト版であるところにその特徴がある.ダイジェスト版であるから当然,一見物足りない面もあるが,親本を参考にすることは当然の前提と言えよう.親本そのものも,“ベッドサイドですぐに,しかも治療に役立つガイドブック”を目指していたようであるが,1,500ページを超える大書となってしまい,その目的に合わなくなったらしい.それを単に縮小版にしないでダイジェスト版にするというのは,新しい本を1冊作り直すに等しいので大変な作業であったと思われる.そして,本書はその目的を達している.

 近年,医学の驚異的な進歩に伴って臨床に必要な医学知識は膨大なものとなり,しかも刻々変化していくのであるから,いかに若い医師であってもこれらの知識をup to dateにしていくことは不可能に近い.もちろん,狭い専門分野に限ってならばそれも可能であろうが,内科医として病気よりも患者を診るという立場に立てば,専門分野の知識のみというわけにはいかないのは当然である.特に最近では患者の高齢化現象のため,一人の患者に多くの疾患が同居している.したがって,例えば高血圧の患者を長期間診ていて,結腸癌などを見落としているといったことは頻繁に起こっている.患者さんは内科の医師に診てもらっているのだから安心しているわけで,このような見逃しは,信頼の裏切りであるし,訴訟問題になっても仕方がない.このような事態を避けるためにはともかく,編者らも言うごとく,なるべく多くの医学情報を身につけることである.そのことが前提となって初めて医学的思考過程,いわゆるGedanken Gangの修得が可能となる.

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 私ごとであるが,1990年に「イラスト外科セミナー」を医学書院から出版した.私自身がイラストを描き手術記録にどの画も利用できるような意図で書いた.その序文で“このような画なら自分でも描けそうだと思う若い人が出れば,この本の目的は達したと言える”と書いたが,まさに,それに答える期待以上の本が今回出版された.

 本書では立体的でかつ簡潔明瞭,極めて要領を得た手術野のイラストが,まるで劇画のように次々と展開されているのには驚きの感をぬぐえない.また消化器外科は解剖,特に膜の解剖理解が大切で,手術基本手技は胃の手術に始まり胃の手術で終わるとも言われる.本書では胃をめぐる解剖,特に網囊Bursa omentalisについての詳細な解剖記載から始まり,更に複雑な直腸,鼠径管をめぐる解剖についての記載で終わっている.初心者のみならず,指導医の立場にある者にとっても,とかくあいまいになりがちな部位の理解を助けてくれ,極めて重宝である.具体的な手術手技は幽門側胃切除から始まり,胃全摘,胆摘,総胆管切開乳頭形成,結腸切除,直腸切除,肝切除,膵頭十二指腸切除,更に虫垂切除,ヘルニアに至るまで腹部消化器外科手術がほぼ網羅されている.

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 本書は1988年に上梓された第1版の改訂版である.30年近くも前,超音波医学が臨床の場で注目され始めたころ,「超音波医学一基礎から臨床へ」と題した成書があって広く知られていたが,本書はこれを更に今日的な姿に発展させることを意図して企画されたという歴史的な背景を持つ.本書は学会編集という点でも特異な成書である.今日,各学会においては,研究内容に関しての意見交換を円滑にするために用語の統一を図り,また,診療が適正に行われることを目的として各種の診断ないしは診療基準を作成することが試みられている.しかし,本書のような成書を学会として編集している例はあまり聞かない.それだけに,本書の上梓にはこのような共同作業を可能とした,学会の権威についての自負と教条的ではない開拓の精神をみる思いがあった.

 ところで,通常,超音波診断学と言うときは臓器別の成書を考える.評者自身,超音波に関しては,循環器と腹部に関する成書にしか目を通したことはなかった.実は,このほど本書を拝見して,超音波診断が乳房,甲状腺,泌尿器,産婦人科領域にとどまらず,中枢神経,眼科,耳鼻科,歯科,呼吸器,整形外科,皮膚科という大変広い範囲の領域にも及ぶことを知った次第であった.ただし,臨床面での中心は心・血管と腹部臓器である.本書においてもこれらには多くのページを割いている.循環器領域についていえば,心筋コントラストエコー法,組織性状診断,デジタルエコー法,血管内エコー法,カテ先ドプラ法など,今日の話題にも漏れなく触れたうえで,その後に疾患別に超音波診断法を記述している.内容は豊富かつ最新である.ドプラ断層,Mモード血流のカラー映像とFFTを併せての記録は心内腔の血液の流れを美しく視覚化しながら現象の理解を容易にさせていた.超音波診断は画像診断の中心としてX線診断に並ぶとされるのであるが,動く画像を表示できることからは機能診断の要素が大きく,この意味ではX線診断に優ると言える.

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Colorectal adenocarcinoma: Quality of the assessment of lymph node metastasis: Hernanz F, RevueltaS, etal (Dis Coion Rectum37: 373-377, 1999)

 大腸癌のDukes分類においてDukes BとDukes Cを区別することは治療効果を決定するうえで重要である.今回,リンパ節転移の有無を組織学的に評価するために最小限度必要なリンパ節の個数を検討した。

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Antimycobacterial therapy in Crohn's disease: Results of acontrolled, double blind trial with a multiple antiple antibiotic regimen: Prantera C, Kohn A, Mangiarotti R, et al (Am J Gastroenterol 89: 513-518, 1994)

 Crohn病の発症と抗酸菌との因果関係についての報告は少なくない.これまでにも,抗結核薬がCrohn病に治療効果を発揮した例がある.しかし,比較試験は極めて少なく,rifampicin,ethambutolについて行われた結果はnegative studyであった.化学療法に抵抗性の非定型抗酸菌の関与の可能性を示唆する報告もある.そこで著者らは,強力多剤併用の抗結核療法をCrohn病に試みた.

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 本を開くと,まず臨場感あふれるすばらしい手術イラストの連続に見とれてしまう.外科医が描いたものとは信じ難い.イラストは余分な線を極力抑えてあり,しかも精緻でとても目に心地よい.フランスの解剖学の実習書「Cahiers d'Anatomie」にも似た図柄により,手術に必要な腹腔内の膜の構造と隣接臓器との関係,手術操作のポイントと手順が容易に理解できる.

 最もこの手術書を特徴づけていることは,“術者の目”から視野が描かれていることと,手術を行っている"術者の手"あるいは"助手の手"が図の中に描き入れられていることである。したがって,その手術を術者として経験したものにとっては見慣れた術野の連続であり,“手”が描かれているのでつい自分が手術をしているような錯覚に陥り,頁を繰るごとに手術が進行して,気がつくと最後まで読んでしまっている.今までに類のない手術書と思う.

編集後記 磨伊 正義
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 胃底腺領域に発生する癌のほとんどは未分化型癌であり,主にlinitis plasticaの初期病変として論じられてきた.しかし日常の臨床において,まれとは言え,この領域に発生した分化型腺癌を経験することがある.しかしその頻度は極めて少ないため,胃底腺領域の分化型腺癌の存在を気にしながらも,その頻度,組織発生ならびにこの癌の持つ病態を知る機会もなく,その糸口さえもつかめなかった.

基本情報

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胃と腸
29巻10号 (1994年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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