胃と腸 29巻9号 (1994年8月)

今月の主題 食道のヨード不染帯

序説

食道のヨード不染帯 幕内 博康
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 食道領域の病変に対するヨード染色は,現在では広く一般に普及している.特に,食道早期癌の診断には欠くことのできないものとなっていて,本法を行わずしてその内視鏡所見を述べることは不可能とさえなってきている.

 しかし,消化管内視鏡診断学大系第2巻(1974年,医学書院)にはルゴール法やヨード染色の記載は一言もなく,ヨード染色の写真も1枚も掲載されていない.このヨード染色の普及には1987年に発足した食道色素研究会の諸先輩,更に,その母体となった食道疾患研究会食道炎委員会の諸先輩の努力によるものである.もう1つ忘れてはならないことは,ヨード染色の普及は内視鏡の進歩によるところも大きいということである.食道の内視鏡が独立していて,食道鏡としてごく限られた専門家が施行していたころは,ヨード染色も一部のマニアによる趣味の範囲を出なかった.しかし,パンエンドスコピーの普及,特に,多賀須1),熊谷らがその開発に携わった細径パンエンドスコープが広く用いられるようになり,上部消化管の内視鏡検査の主流となって,一般の内視鏡医もルーチンに食道を観察するようになったことがヨード染色の普及に一層の拍車をかけた.種々の食道病変の発見に伴い,その良悪性の鑑別からヨード染色を行わざるを得なくなったためである.また,本号にも掲載されているような通常観察でわからず,ヨード染色で初めてはっきりするような食道上皮内癌の報告例の増加と共に,食道癌のhigh risk groupを中心にヨード染色によるスクリーニングも行われるようになってきている.

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要旨 食道ルゴール法は微小表在食道癌の診断,食道癌の浸潤範囲の決定,主癌巣から離れた多発する副病巣の発見に極めて有益な検査法である.ヨード呈色反応は有棘層細胞に含まれるグリコーゲン顆粒とヨードの化学反応で食道の重層扁平上皮表層のみではなく,数層下の上皮まで及ぶ.食道切除標本にヨード染色を施行し,色調程度,性状を観察した後,対応した部位の病理標本を作製し,ヨード染色像と比較検討した.ヨード染色程度は染色液の濃度,染色から判定までの時間など種々の条件により影響されるが,色調および性状の差違により5段階に分類し病理組織学的に検討を試みた.GradeⅠ:正常上皮より濃染する部分,GradeⅡ:正常に黒褐色に染色される部分,GradeⅢA:薄くまだらに染色される淡染帯で,周囲との境界が不鮮明な部分,GradeⅢB:比較的一様な淡染帯で,周囲との境界が明瞭な部分,GradeⅣ:ヨード不染帯で,光沢のある淡黄色・白色の部分.色調分類に対応してそれぞれ病理組織学的に特徴ある所見が得られ,GradeⅠ は糖原過形成や再生上皮などがあり,GradeⅢAには食道炎が多ⅢBには異型上皮と基底層型の上皮内癌の頻度が高く,GradeⅣには扁平上皮癌,乳頭腫,錯角化(hyperkeratosis),異所性胃粘膜,Barrett上皮がみられる.染色程度はグリコーゲン含有細胞層の厚さの割合と個々の細胞が含有するグリコーゲン量に密接な関係があった.特に淡染帯は色調だけではなく,大きさ,形状,内部の染まり方,辺縁の性状をよく観察することが重要である.また大部分は淡染帯として指摘される異型上皮巣の周辺病変をグリコーゲン含有量とグリコーゲン陽性層の厚さの割合で,ある程度の異型性の推定ができる.

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要旨 ヨード不染帯をその不染程度から3段階に分類し,生検組織診断と比較した.同じ濃度のヨード染色を行っても,症例によって染色性が異なる.したがって,同一症例の正常食道粘膜の染色程度をGradeⅡとし,わずかに黒変するが明らかに染色不良部として見えるものをGradeⅢ,ルゴール液の黄色調を呈し,黒変しない領域をGradeⅣ,まったく染色されず,ルゴール液の色調もはじいているような白色,肌色を呈するものをGradeVとし,GradeⅢ~Ⅴをヨード不染帯とした.食道癌に付随したヨード不染帯の生検診断は,GradeⅤを示す不染部では80.3%が癌の組織診断を得た.GradeⅣでは異型上皮が37.1%,食道炎が29.0%の比率を占めた.癌は17.7%の頻度であった.GradeⅢでは癌は1例もみられず,食道炎の組織診断が63.8%の症例で得られた.食道癌を伴わない症例のヨード不染帯の生検診断は,GradeⅢでは食道炎の診断が88.0%の症例に得られ,GradeⅣでは食道炎の診断は55.3%に減少している半面,異型上皮の診断が34.2%の症例で得られた.一方,GradeⅤでは食道炎はみられず,正常・その他が87.5%を占めた.

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要旨 食道m癌発見のためのヨード染色の有用性と集検への応用について,次のような結果を得た.①食道m癌の発見を増加させるためには,健康人を対象とし,細径パンエンドスコープ受診人口の増加,内視鏡継続検診者(隔年)の増加,50歳以上男性に対するヨード染色のルーチン化などをシステム化することで,食道表在癌90%,食道m癌60%以上の成績が得られるようになった.②固定集団の施設逐年集検で,隔年細径パンエンドスコープと毎年X線TVのいずれかを選択させることにより,それぞれの群にほぼ50%ずつの希望受診者があったが,5,000人の対象者の15年間の継続検診から11例の食道癌が発見され,そのうち食道m癌4例はすべて隔年内視鏡検診群から発見され,50歳以上の男性に対するヨード染色の併用が非常に効果的であった.

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要旨 悪性腫瘍を有する症例,あるいは悪性腫瘍に対する治療を受けた症例における,食道癌のヨード染色併用内視鏡的スクリーニングを試みた.既に食道癌の判明したものや,食道症状を有するものは除いた.203症例(頭頸部癌45例,食道癌50例,胃癌79例,結腸直腸癌17例,および原発不明癌12例)の54%にヨード不染帯を,また食道癌を6.9%に認めた.発見食道癌は,すべて0-Ⅱ型を示し,深達度はm1(13例),m2(1例)であった.全例に対して,内視鏡的粘膜切除法による治療が適応となった.不染帯および食道癌の発見頻度は,従来の報告と比較して明らかに高率であった.この結果は,悪性腫瘍症例に対する内視鏡的食道癌スクリーニングの有効性を示すものと考えられた.

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要旨 集検施設において健康成人を対象として,食道癌high risk group を設定し,食道ヨード染色併用内視鏡検診による,食道ヨード不染帯と早期食道癌のスクリーニングを行った.内視鏡検査31,776例中1,512例にヨード染色が施行され,ヨード染色例中546例(36.1%)にヨード不染帯が発見され,14例(0.93%)の食道癌,35例(2.31%)の異型上皮が発見された.癌・異型上皮によるヨード不染帯は径5mm以上の明瞭な不染帯となることが多く,不染帯の色調が鑑別の重要な点と考えられた.不染帯の経過観察では異型上皮と診断されたヨード不染帯35例中8例に経過観察中に食道癌が確認され,これらの例ではその変化の時間的経過は緩やかであり,確実な内視鏡経過観察を行うことが重要であると考えられた.変化を来す可能性の高い不染帯の形態,対策についても検討した.

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要旨 14例の食道癌の術前内視鏡検査で発見された5mm以下の微小ヨード不染帯81病巣を切除標本上で確認し病理組織学的に検討すると,扁平上皮癌が6病巣(7.4%),異形成が10病巣(12.3%)で,その他は1例を除き良性の病変であった.上部消化管スクリーニング検査での89例から,5mm以下のヨード不染帯230病巣と5mmより大きく10mm以下の75病巣,計305病巣を発見し生検したが,癌は5mm以下で2病巣(0.9%),5< ≦10mmで9病巣(12.0%)と,5< ≦10mmでは頻度が約13倍高くなった.異形成はそれぞれ65病巣(28.3%),21病巣(28.0%)と頻度の差はなかった.内視鏡検査で小さいヨード不染帯を発見したとき,①10mm前後であれば中央から1個生検を採る,②5<≦8mmでは生検により病変が不明となったり,基底層型上皮内癌では,病理診断が難しく,癌を疑う場合にはEMRを行う,③5mm以下では経過を観察すること,がよいと考えている.

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要旨 46歳,男性.アルコール性肝障害で通院中,食道静脈瘤の有無をみるための内視鏡検査で下部食道に異常所見を発見され入院した.内視鏡検査では,下部食道に低い隆起と,その周辺に発赤した粘膜が認められた.その中に前回の生検の跡と思われる小発赤点があった.病変部はヨード染色法で不染帯としてはっきり描出された.生検診断は扁平上皮癌であった.食道二重造影像では,この生検の跡と思われる小不整陰影斑の周囲に淡いバリウムの付着として現れた.切除標本の肉眼観察では病変を指摘することができなかった.切除標本のヨード染色で病変は2.3×1.5cmの不染帯として現れた.病変部は平坦で,周辺との境界部に高低差はなく表在平坦型(0-Ⅱb型)と診断した.病理組織診断は中分化型扁平上皮癌,深達度mm1,リンパ節転移は認められなかった.このような平坦型食道表在癌の診断におけるヨード染色法の大切さを再認識した.

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要旨 患者は嗄声を主訴としてその精査のために上部消化管内視鏡検査が施行された60歳の男性.長期にわたる比較的多量の喫煙歴,飲酒歴を有する.通常の内視鏡観察では明らかな病変を指摘することができなかったが,ヨード染色を施行し初めて上門歯列から28cmの部位に長径1.5cm大の境界明瞭な不染帯を認めた.0-Ⅱb型,深達度m1の食道粘膜癌と診断し非開胸食道抜去術が施行された.病理組織標本では,病変全体にわたり脚釘の延長を認めるが,ほぼ基底膜は保たれており,基底層型を主体とし一部全層性に置換される深達度m1の高分化から中分化型の扁平上皮癌であった.リンパ管侵襲,静脈侵襲,ともに認められなかった.

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要旨 患者は70歳,男性.68歳時,肺癌(T2,N2,M0,StageⅢ)で左肺全摘術を受けた.その後再発の所見を認めなかった.2年後検診目的で当科来院し,上部内視鏡検査を施行され,切歯列から約28cmに通常の内視鏡所見が乏しいが,ヨード撒布で径10mm大の不染域を指摘された.Ⅱb型早期食道癌(ep癌)と診断し,内視鏡的粘膜切除を施行した.組織学的には高分化型扁平上皮癌,深達度epであった.

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要旨 われわれは,内視鏡と生検で確認した小さな食道癌が,生検後極めて不明瞭となった症例を経験した.その後の経過観察で,再び同部位により小さなヨード不染病変が明らかになり,内視鏡的粘膜切除術で切除し,ep癌を確認した.生検で小病変が変化することには注意が必要である.慎重な経過観察のうえ,悪性が疑われれば粘膜切除による治療が有用となろう.

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要旨 患者は72歳,男性.スクリーニング検査として上部消化管内視鏡検査が行われた際に食道上部に不染帯が発見された.生検所見で異型性が認められなかったため,経過観察となった.その後の生検所見でdysplasiaと診断され,最終的にsquamous cell carcinomaと診断されたために内視鏡下粘膜切除が行われた.切除標本の再構築像では異型性のheterogeneityが認められた.本症例はヨード不染帯の経過観察例であるが,経過観察中に生検所見でdysplasiaとされた場合,積極的な内視鏡下粘膜切除を行い病変全体の組織学的検討をすべきであると考えられた.

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要旨 患者は73歳,男性.1987年4月,検診目的で当センターを受診.上部消化管内視鏡検査で上切歯列から30~35cm部位にヨード不染帯を認め,以後2か月後,3か月後,6か月後,8か月後,1年2か月後,1年8か月後,2年7か月後に経過観察を行ったが,いずれも食道炎あるいは異型上皮巣の生検診断であった.初回検査から4年10か月後の生検で扁平上皮癌の診断が得られ,手術が施行された.病理組織学的検索で,大きさ3.0×2.5cmの0-Ⅱc+Ⅱb型と大きさ0.5×0.3cmの0-Ⅱb型の多発癌であり,いずれも深達度m1,ly0,v0,n0の高分化型扁平上皮癌であった.主病変の組織像は癌巣の大部分が正常上皮に覆われて食道上皮の下半層に認められ,乳頭状下方進展のほとんどない異型度の比較的低いものであった.また,生検組織診断の見直しでは,初回からほぼ同様な組織異型所見であり,上皮内癌の経過観察例と言えた.このような症例の場合,生検組織診断では食道炎あるいは異型上皮巣との鑑別が難しいことが多く,経過観察されることが多いが,臨床診断にはヨード染色が非常に有用であり,ヨード不染帯の拡がり,形態変化を注意深く観察する必要があると考えられた.一般に食道癌は発育進展が速いと言われているが,内視鏡的なretrospectiveな経過観察において,m癌の発育進展が比較的緩徐な例が存在することが明らかとなった.

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要旨 早期食道癌の大部分は自覚症状のないまま検診や胃病変の精査,経過追跡の内視鏡検査で発見されている.本症例も検診の胃X線検査で異常を指摘され,その精査を目的に来院した.そして,その経過追跡中に初回検査では指摘されなかった食道と胃の別の部分に早期癌が発見され,最終的には食道・胃の重複癌でともに多発早期癌と診断された.そして,その経過を振り返るとわれわれが日常行っている内視鏡検査における種々の問題について示唆に富む1例と考えられた.

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要旨 ヨード染色法が有用であった多発微小食道癌の1例を経験した.患者は68歳,男性.定期検診目的で上部内視鏡検査を受診し,食道上切歯から32cmに境界鮮明な不整形の小発赤斑を指摘された.ヨード撒布像で境界鮮明な不染を呈し,生検病理診断は,扁平上皮癌であった.0-Ⅱc型,深達度m1を予想し,治療目的で本院に入院した.非開胸食道抜去術が施行され,新鮮標本,固定標本上の肉眼観察では全く病変を指摘しえなかったが,ヨード染色標本上で不染部,淡染部が食道全域に散在しており,病理組織学的検査により長径5mmのm2扁平上皮癌1病変,m1微小扁平上皮癌3病変と異型上皮6病巣を認めた.

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 〔患者〕34歳,女性,1986年5月1日第3子出産後から嘔気があり,上腹部痛を覚えるようになった,症状が増悪したので6月14日当科を受診.

 〔胃X線所見〕背臥位二重造影像(Fig.1)で胃角部の不整,二重輪郭と体下部から角部後壁にひだの軽度の集中,胃小区の不揃いと粗大化,バリウムの小班像がみられ,胃角部近傍の浅くて,やや大きい陥凹性病変を疑った.

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 〔患者〕29歳,女性.18歳時に健診で貧血を指摘され当院血液内科で鉄剤投与を受けており,同時期から臍周囲に鈍痛を自覚していた.1986年4月に貧血の増強を認めたため精査目的で入院.便潜血反応陽性のため胃,大腸の検索を行ったが著変なし.蛋白漏出試験が陽性であり,小腸病変の存在を疑い同年5月当科紹介となる.既往歴や家族歴に特記すべきことはないが,両親がいとこ同士の結婚である.

 身体所見では眼瞼結膜に貧血,収縮期心雑音を聴取.検査所見では便潜血反応陽性,鉄欠乏性貧血,低蛋白血症を認めた(Table 1).

早期胃癌研究会

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1994年4月の早期胃癌研究会は,4月20日(水)に芳野(藤田保健衛生大学第二病院内科)と樋渡(東北大学第3内科)の司会で開催された.

 〔症例1〕57歳,女性.悪性リンパ腫(症例提供:名古屋大学第2内科 下平雅哉)

Coffee Break

表面型大腸腫瘍と牛肉
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 表面型大腸腫瘍ほどわれわれ大腸疾患の診断に長年従事してきた者を驚かせ,夢中にさせたものはない.最初の興奮が去っていくと,いくつかの疑問が湧いてくる.そのうちの最大のものは,やはりどうして昔は見つからなかったのかということである.なかったのか,あったが気づかなかっただけか.内視鏡や剖検で見つからなかったのはまだしも,切除標本で誰も気づかなかったというのは不思議としか言いようがない.常識的な答えはコロンブスの卵,すなわち“知らないものは見ていても視えない”に落ち着くであろう.しかし,それで済ませてよいものであろうか.

 あまりにも急速(1980年代後半から)かつ局地的な(日本)登場は,epidemic diseaseを思わせる.AIDSだって最初はなんだか特別な人達の病気で触らぬ神に崇りなしと考えなくもなかったではないか.

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要旨 患者は71歳,男性.主訴は17年来の下痢と,ときに認める高熱.初診時,羸痩著明で低アルブミン血症と高IgE血症を認めた.入院後,糞便および十二指腸液からIsospora belliのoocystを検出,更に十二指腸生検で粘膜上皮細胞内に各発育段階のIsospora belliを認め,イソスポーラ症と診断した.消化管検査では食道,胃,大腸に著変はなかったが,小腸にKerckring皺襞の消失と粗ぞうな凹凸不整粘膜をびまん性に認めた.特に十二指腸第2部の所見は高度で,組織学的には著明な慢性炎症性細胞と好酸球の浸潤ならびに浮腫と線維化を認めた.免疫不全を示唆する基礎疾患は認められなかった.diaminopyrimidine・sulfonamide合剤が著効を示したが,投与中止2か月後に再発したため少量持続投与に切り替え経過は良好である.

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要旨 患者は65歳,男性.下痢と左下腹部痛を主訴に来院・注腸X線検査と内視鏡検査で下行結腸・横行結腸・上行結腸に小顆粒状の粘膜不整,顆粒間に溝状のびらん,軽度の粘膜下隆起をみた.確定診断のためにstrip biopsyを施行した.病理組織学的および免疫組織化学的に悪性リンパ腫を強く疑い,更にDNA再構成の検索により最終的にMALT lymphomaと診断した.治療としてはCHOPによる化学療法を行い,完全寛解を得た.本例は大腸悪性リンパ腫,特にMALTリンパ腫の初期像と考えられた

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欧文目次

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 今回で19回目を迎える村上記念「胃と腸」賞は,大井秀久・他(鹿児島大学第2内科)「実験からみた虚血性大腸病変」(胃と腸28:943-958)に贈られた.本賞は,昨年度1年間に「胃と腸」誌に掲載された全論文の中から最優秀論文として編集委員会で選ばれたものである.

 贈呈式は,去る7月20日,エーザイ本社ホール(東京)で開かれた早期胃癌研究会7月例会の席上で行われた.司会の西元寺克禮氏(北里大学東病院内科)から,受賞者代表として大井氏が紹介され,「胃と腸」編集委員会代表の白壁彦夫氏(早期胃がん検診協会)から賞状と賞牌が,また,医学書院社長金原優から賞金が贈られた.

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 本書は,術者の目の位置から見た実際の術野の様子を,特に“層(Schicht)”を重視しながらイラスト化しており,これから手術を勉強しようという外科医にとって極めて理解しやすい内容である.通常,手術書というと既に大成し名を遂げた達人が,自らの経験をふんだんに盛り込みながら図解し,説明を加えていくものである.しかし,本書は新進気鋭の外科医である著者が,前立ちの先生に指導を仰ぎながら経験したことをもとに書き上げており,若い外科医の目の高さ,思考過程でまとめられていることが特徴である.

 術野の展開には,比較解剖学や人体発生学の知識がときとして必要であるが,本書ではその点にはあまり触れられていない.著者らは,内容を必要最小限にすることで,読者である若手外科医に"手術は難しい"という印象を与えないようにしているのであろう.私どもの大学の先輩,故武見太郎先生は医学概論の講義の中で,"新しい分野の勉強を始めるときには,最も簡単でしかもわかりやすい教科書を本屋で探してきて,徹底的に読んで理解することが肝要である"と話しておられたことを思い出す."simple is the best"といったところであろうか.本書を読んでいると,まるで子どもがプラモデルを組み立てていくように,不思議と手術を淡々と遂行できる気がしてくる.

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 本書は「臨床内科学・第6版」のダイジェスト版であり,医学生や研修医,および第一線の臨床家を対象として,内科学に関する医学情報の粋を提供するために編纂されている.発熱,腹痛,胸痛をはじめとする32の臨床的プロブレムに対するアプローチの仕方(約40頁),内科的疾患についての各論(約500頁)と正常値の一覧表,索引から構成されている.

 医学に関するペーパー数はこの20年間に指数関数的に増加し,それらに目を通すだけで一生の時間を費やしてもなお足りないであろうということを耳にしたことがある.内科学に関係する論文も膨大な数に達するであろうし,純粋科学と違って理論通りにものごとが運ばないことの数多くある領域に関して,up to dateの医学情報の粋を提供するという作業は,日本の指導的医学者がそれぞれの専門領域を担当し,十分に知的消化をした後はじめてできあがるものと思われる.

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 つい最近まで関東逓信病院で副院長をしておられた多賀須幸男先生が「パンエンドスコピー-上部消化管の検査・診断・治療」を医学書院から出版された.

 多賀須先生は周知のごとく,食道から十二指腸まで1本で苦痛なく内視鏡検査の可能な,細径前方視内視鏡の開発・普及に心血を注がれたが,この細径内視鏡を用いて関東逓信病院で行った100,000件のパンエンドスコピー(著者は,1本の器械で食道から十二指腸球部まで一挙に行う上部消化管の内視鏡検査と定義している)の経験をもとに執筆されたのが,この本である.周到に調査・研究された内容が極めて平易な言葉で,理路整然と書かれており,たいへんわかりやすい.

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 従来出版されている解剖学図譜は描画により半模型的に表現されたものが大部分であるが,Erlangen-Nürnberg大学名誉教授のJ.W.Rohen博士と神奈川歯科大学名誉教授の横地千仭博士の共著による本書は,実物の解剖標本を写真によって示した人体解剖学アトラスである.解剖学用語は日本語と英語で記載されている.初版は1985年に出版されているが,今回更に多数の標本写真と挿図が追加され早くも第3版が出版されたことは,本書が解剖学図譜として優れ,多数の医学部・歯学部学生に使用されていることを証拠立てるものであろう.

 書評を依頼されたため本書を注意深く拝見し,また他の多くの解剖学図譜と内容を比較した結果,この本の素晴らしさに驚くと同時に,北里大学で学生が指定している図譜のほかにこの本を解剖実習室に持ち込み勉強する理由が理解できた.肉眼解剖学の教育に携わる者としてこのような貴重な解剖学図譜が出版されたことを大変ありがたく思う.序文の中に“標本は説明がなくてもそれ自体でわかるように努力した”と書かれ,著者の標本作製における自信のほどがうかがえるが,事実極めて解剖標本において目的事項が剖出されており,それが高品質のカラー写真で見事に呈示されている.解剖標本をこれだけ完壁にわかりやすく剖出しようとすると大変な労力が必要である.また,現在の解剖学用語に挙げられているものはほとんど網羅され呈示されているため,この図譜を完成させるためにはおびただしい数の解剖体を必要としたと考えられる.長年にわたり肉眼解剖学に全力を尽くされた著者の姿勢が拝察される.

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 Erlangen-Nurnberg大学と神奈川歯科大学の解剖学教室が所蔵する膨大な解剖学標本を,ステレオ写真を初めとするカラー図版の形に編集して,A4判472頁に盛り込み,惜しげもなく公開するのが本書である.これによって,人体解剖学を学ぼうとする若い人々,医師,研究者が,自ら両大学にあるがごとく,またとない学習機会を与えられるというわけである.

 1991年11月,私は,Ulm大学医学部のHermann教授とHannover医科大学のPabst教授およびGrube教授の解剖学教育の現場を見学することができた.“すべてのドイツ国民が等しい水準の医療サービスを受ける権利があり,すべてのドイツ医師が等しい力量を備える義務がある”一この国是は,解剖学の講義,実習,演習のプログラムに誠実に盛り込まれている.人体解剖学も組織学も,関連分野との連携も含めて,事細かに系統・細分化され,国家試験マニュアルとの対応が図られている.

編集後記 吉田 操
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 食道癌の早期診断はヨード染色法の登場と共に大きな変化を遂げた.褐色に染まる正常粘膜の中に染まらず黄白色に残る部分は,粘膜の欠損か,異常な病態にある病巣である.粘膜病変を誰でも容易に,しかも再現性の高い診断を行うことができるようになった.この結果,食道癌の早期診断の目標は一挙に上皮内癌,粘膜癌になった.これに続いて食道粘膜癌の治療法にも革命的な変化が生じた.内視鏡的粘膜切除法の登場である.しかし,この分野の診断学は大きな進歩を遂げたにもかかわらず,まだまだ完成されていない.

 課題の1つは,ヨード不染帯の鑑別法である.この点の研究はまだ成熟しておらず,臨床と病理の間の意思疎通を保ちつつ,知識を蓄積している時代である.また,一時点の観察だけでなく,不染帯の経過観察例の研究から,浅い食道癌の病態,時間の経過と共に生じる臨床的あるいは病理組織学的変化も判明しつつあると言ってよいだろう.これが,食道癌全体の病型分類を合理的なものに脱皮させる大きな力になるに違いない.粘膜癌の診断の基礎は着々と強固なものになってきた.しかし,今回のすばらしい主題原稿と主題症例を見るにつけ,診断学としての未熟さ,症例の少ないことからのデータの蓄積の小ささを思い知らされるのである.この問題は時間と努力が解決する事柄であるので,悲観する必要はない.努力あるのみである.われわれはこれまでの道を振り返り,困難の中に正しい方向を見出し,進んできたことを誇りに思ってよいだろう.

基本情報

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胃と腸
29巻9号 (1994年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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