胃と腸 29巻11号 (1994年10月)

今月の主題 大腸sm癌の細分類とその意義

序説

大腸sm癌の細分類とその意義 下田 忠和
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はじめに

 早期大腸癌の発見が増えるにつれ,その内視鏡的治療の機会も確実に増加している.しかし,内視鏡的治療を行うための大前提は,深達度診断が確実になされることである.内視鏡的治療の適応は早期胃癌ではかなり議論がされ,一定の基準が出され,それに沿って行われているが,早期大腸癌ではそれがいまだ十分に議論されていない.現実に病理診断の中で,どうしてこんなsm浸潤癌を内視鏡的切除をしたのかと思うこともときにある.大腸sm癌の特集は本誌の18巻8号(1983年),27巻8,9号(1992年)の2回にわたって組まれているが,このときは主として癌浸潤の程度によるリンパ節転移あるいは再発が論じられた.前回から2年で再びこの問題が論じられることとなった.これは,この数年で多数の表面型大腸腫瘍が発見されると共に,sm癌の頻度も急速に増加したことにもよる.また,同時に改めて先のような理由で治療にも大きな問題が提起されてきたこと,更にこのsm癌の解析により表面型腫瘍との関係,すなわち癌の初期病変から進行癌に至る過程を,解析できる時期になってきていることなどが,再び取り上げられた大きな理由である.

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要旨 大腸sm癌の浸潤度分類の概要を述べ,その問題点について検討,考察した.現行のsm癌浸潤度分類は,相対値による分類,sm浸潤量絶対値による分類,sm深達レベルによる分類に大別される.相対値による分類と,sm浸潤量絶対値による分類には,浸潤度判定の基準線の規定に問題があり,その客観性(再現性)の向上のためには,粘膜内癌部とsm浸潤部の判定を明確かつ具体的に行う必要がある.また,相対値による分類には,肉眼型や病変の大きさにより,同じsm浸潤量でも浸潤度判定が異なるという問題がある.各浸潤度分類間でリンパ節転移との相関性,リンパ節転移リスクに対する絶対安全領域の設定,について比較検討した結果,sm浸潤量絶対値に基づく浸潤度分類が,内視鏡的摘除大腸sm癌の追加腸切除適応を決めるうえで最も有用な分類であると考えられた.

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 一般に腫瘍の良・悪性の診断は,腫瘍の細胞異型・構造異型,発育形式(浸潤性か膨張性か),および転移などの性状を総合して行われている.腫瘍の異型度がどうであれ,周囲組織への浸潤や転移があれば,その腫瘍は悪性腫瘍と判定される.

 大腸上皮性腫瘍の病理組織診断に際しても,粘膜下層への浸潤という現象は,その腫瘍を悪性と判断するためのより客観的で重要な所見であることに変わりはない.それゆえに,病理医が粘膜内腫瘍組織の異形度のみでは良・悪性の鑑別に難渋するような症例に遭遇した場合,腫瘍のどこかに浸潤像を見出そうと努力するわけである。

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 浸潤とは,ある細胞・組織が正常ではありえない場に存在すること,つまり,本来存在すべき場から離れた所に移動する“こと”を意味する.その結果としての“もの”である細胞・組織を浸潤細胞・組織と呼んでいる.浸潤とは何も腫瘍に限って用いられる用語ではない.例えば,炎症性細胞浸潤あるいは脂肪浸潤というようにである.また,子宮内膜症においては多数の子宮内膜が子宮筋層に存在していて,そのような子宮内膜は浸潤という“こと”の結果としての浸潤内膜である.異所性内膜が現実に存在しているからには,浸潤という“こと”が生起せずしてその存在はありえず,浸潤に“にせ(偽)”はないのである.幻の世界では別であるが!

 腫瘍一般の良性悪性診断においては,浸潤という“こと”の結果としての所見が重要視され,大腸の腺腫か癌かの診断においてもまた同様である.腫瘍の浸潤組織は,組織学的に“異所性+異型性”をもって認識される.浸潤という現象(こと)は,正常子宮内膜のみならず胃と腸の正常腺管においてもみることができる.その浸潤組織には異型性がなく異所性のみであるため,それぞれ異所性子宮内膜(内子宮内膜症),そして異所性腺管と呼んでいる.胃と腸の正常腺管が粘膜下組織に,そして子宮内膜が子宮筋層に存在しているのは,浸潤(こと)による結果としての浸潤組織(もの)である.それら異所性腺管に炎症あるいは発育の場が異なることによって細胞・構造異型が多少認められても,それらの起源はというと本来あるべき所に存在している正常の胃と腸の粘膜そして子宮内膜であるので,それら異所性異型腺管を癌あるいは腺腫の浸潤とはせずに異所性腺管と呼んでいる.このように,異所性腺管,腺腫浸潤あるいは癌浸潤であるのかは,その起源となっている組織の異型性をどのように診断するかに依存している.大腸粘膜内病変を癌と診断すればその直下の粘膜下組織に存在する異所性異型腺管は癌浸潤であり,腺腫と診断すれば“腺腫浸潤”である.粘膜下組織の異型腺管の組織所見が偽浸潤であるがゆえに粘膜内病変は腺腫であるということにはならないのである.

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1.はじめに

 大腸腫瘍については各病理医間の癌診断基準の違いもあり,境界領域の腫瘍では,粘膜下に存在する成分が,良性腺腫が粘膜筋板を通過して粘膜下に侵入したものなのか,あるいは本質的に異型の弱い癌であって粘膜下に浸潤したのか,診断に苦慮する場合がある.

 本稿では,大腸腫瘍のpseudoinvasion(偽浸潤)を,良性腫瘍の腫瘍腺管の粘膜下への侵入と定義して考察する.

 癌の粘膜下への浸潤は大別して,粘膜筋板の破壊を伴う比較的大量の浸潤と,粘膜筋板の間隙を通じての腺管単位での粘膜下への浸潤があり,特殊な状況を除いては,消化管において非癌の上皮性の成分が粘膜下に存在することはない.

 この特殊な場合としては,先天的な形成異常(異所性膵,重複腸管など)と,後天的な粘膜下の異所性腺管などが挙げられる.このうち,粘膜下異所性腺管は,非腫瘍性の腺管が粘膜下にみられる現象であり,血管などが貫いている格子状の粘膜筋板の間隙が炎症などのために希薄あるいは間隙が拡大したために,増殖能を持つ細胞が粘膜筋板を通過し粘膜下で増殖し嚢胞状の腺管を形成するとされる.この現象は炎症性変化の強い胃ではよくみられる現象であり,大型で粘膜下腫瘍様の像を示すこともある.

 大腸においても,粘膜下の孤立リンパ小節の部分で,しばしば非腫瘍性の腺管が粘膜下にみられることがある.

 以上のごとく,消化管の粘膜筋板は格子状の形態を持つために,ある状況においては粘膜下に非腫瘍性の上皮成分が侵入することがまれではない.

 消化管における腫瘍の偽浸潤は,前述した事実を考え合わせると当然起こりうることであり,実際しばしば遭遇する.

 大腸においては,このpseudoinvasionを隆起型の腺腫の場合と平坦型の腺腫の場合に分けて考える必要がある.

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1.はじめに

 大腸腺腫のpseudoinvasionは主として有茎性病変において論じられてきたが,近年平坦な表面型病変が多数発見されるに至り,菲薄な大腸粘膜筋板(以下mm)との関連で新たな問題を投げかけている.ここでは,物理的な影響を受けやすい有茎性病変と表面型病変の2つに分けて論じたい.

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1.文献的背景

 pseudoinvasionを最初に記載したWesthues(1934)1)はその著書の中で"腺腫性腺管が閉塞によって嚢胞状となり,これが粘膜下に破れてschlimstrasseを形成した後に腺腫性上皮に覆われることがあるので,癌浸潤と間違ってはならない."と述べた.Veidenheimerら(1970)2)も粘膜下層に侵入した腺腫性腺管を癌浸潤と誤診しないように注意を促しているが,これをpseudocarcinomatousinvasionとして記載し,その臨床的意義を明らかにしたのはMuto,Morsonら(1973)3)の論文である.同年,Greene4)によっても同様の所見がmisplacementとして記載され.pseudocarcinomas invasion,misplacement,pseudoinvasion,colitis cystica profundaなど様々な名称があるがmisplacementが最もその状態を素直に表現していると思う.

 後述するごとく様々な種類の腺管が粘膜筋板の間隙を通って粘膜下層に侵入するが,腺腫性腺管,特に異型の強い腺腫性腺管がpseudoinvasionを起こした場合には,癌性浸潤との鑑別が問題となり,pseudoinvasionの約半数がこのような例である.頻度は左側結腸の有茎性腺腫に多い3).ポリペクトミーがこれほど普及した最近ではかなりの例が経験されているに違いないが,報告がほとんどないのは不思議である.sm癌と判定されていなければよいのだが…….

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はじめに

 大腸sm癌には,頻度は低いがリンパ節転移が存在し,治療法の選択に迷うことも多い.根治的切除術の必要性がなく,局所的切除の適応となる症例が大半を占める大腸sm癌においては,いかなる症例にリンパ節郭清を伴う根治的切除術が必要であるのかを判断することは,患者の術後QOLを考慮する面から考えても極めて重要なことと思われる.

 sm癌の転移リスクファクターのアンケート調査による分析は,本誌においても過去に2回〔18巻8号(1983年),26巻8号(1991年)〕行われたが,今回は最近組織学的にも重要な因子と考えられるようになった粘膜下層浸潤度によるsm癌細分類を行い,これに焦点を合わせ,十分な検索がなされたと思われる腸管切除例のみを対象として,全国主要施設からのアンケート調査により,sm癌のリンパ節転移,遠隔転移陽性例の実態を検索したので報告する.

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要旨 R1以上の郭清を伴う腸切除を行った大腸sm癌131例を対象に,腫瘍先進部の組織学的所見に着目してretrospectiveに検討を行い,リンパ節(LN)転移や再発の危険因子を明らかにした.LN転移に関しては,深達度sm2,3,sm組織型;中・低分化,INFβ,簇出(+),脈管侵襲(+)の5因子中3因子以下ではLN転移は皆無なのに対し,4因子以上のLN転移率は42.6%に達した.再発に関しては,LN転移(+),深達度sm2.3,INFβ,静脈侵襲(+)の4因子のうち1因子以下では再発は皆無であったのに対し,2因子以上の再発率は15.4%であった.腫瘍先進部の組織学的所見の検索は大腸sm癌のLN転移や再発を予知するうえで重要であり,治療法選択の際に不可欠と考えられた.

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要旨 大腸sm癌の組織異型度(高分化腺癌は細胞異型度から高異型度と低異型度に分け,中・低分化腺癌は高異型度とした)と発育先進部簇出像が脈管侵襲やリンパ節転移とどのような相関を示すかを検討した.対象は,進行大腸癌を合併しない外科切除大腸sm癌151症例,154病変である(内視鏡摘除後の追加腸切除例を含む).リンパ管の同定にはEGFR(epidermal growth factor receptor)抗体が血液型A型抗原に交叉反応し,リンパ管(ly検討例は76病変)の内皮細胞に陽性となることを利用した.簇出像の判定は今井の定義に従った.sm浸潤度分類はsm浸潤垂直最大長が500μmまでをsm1,500<X<1,000μmをsm2,1,000μm以上をsm3と分類し,sm浸潤水平最大長が1mm以下をsma,1<X<3mmをsmb,3mm以上をsmcと分類した.低異型度sm癌13例ではsm浸潤度に関係なくly(-),v(-),n(-)で,簇出の頻度も23.1%と低かった.高異型度sm癌141例のうちsm1癌12例は簇出の有無に関係なく,またsm水平浸潤度に関係なく,ly(-),v(-),n(-)であった.sm2癌は2例(いずれもsm2c)のみで,簇出(+)50.0%,ly(-),v(-),n(-)であった.sm3癌117例では,簇出(+)が82.1%で,籏出(+)と(-)との間で1y(+)が72.1%vs.0%,v(+)が40.2%vs.0%,n(+)が22.5%vs.5.6%となり,前2者で有意差がみられた.更に,sm3癌のうち,sm3aの2例とsm3bの5例はいずれも1y(-),v(-),n(-)であった.以上から,高異型度sm3c癌で,発育先進部に簇出がみられる癌はly(+),v(+),n(+)の可能性が高いこと,この簇出は通常のH・E標本ではしばしば同定が困難なly(+)やv(+)の指標として有用であることが示唆された.

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 〔患者〕71歳,男性.1985年に検診の上部消化管X線検査で十二指腸球部の小隆起を指摘されたが放置していた.1992年8月,近医のX線検査で同部位に大小2個の隆起性病変を認め,精査のため当科を紹介された.自覚症状は特になかった.

 〔十二指腸X線所見〕十二指腸球部腹臥位圧迫像(Fig.1a)では,球部前壁に境界明瞭な径20mmの表面に溝状陥凹のある隆起性病変(A病変)と,それに接して径7mmの表面平滑な隆起性病変(B病変)を認めた.仰臥位第1斜位二重造影像(Fig.1b)によるA病変の側面像では口側はなだらかな,肛門側はやや急峻な立ち上がりを示していたが,側面変形は認められなかった。仰臥位正面二重造影像(Fig.1c)では病変が正面像として投影され,肛門側の境界は明瞭であったが,口側には丈の低い扁平隆起が連続し境界が不明瞭となっていた.

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 〔患者〕58歳,女性。

 主訴:上腹部痛.

 現病歴:1985年11月および1987年8月に腹痛で他院に入院したが原因不明であった.1993年8月中旬に血尿を来し膀胱炎の診断で抗生物質を投与された.その2日後から上腹部痛が出現し近医に入院.入院中,上部消化管のX線検査と内視鏡検査,大腸X線検査,腹部超音波検査を施行されたが,診断には至らなかった.しかし,症状が増悪したため1993年9月5日当科入院となった.

用語の使い方・使われ方

島状粘膜残存 牛尾 恭輔
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 表面陥凹型(Ⅱc型)の早期胃癌で,しばしば浅い陥凹面に認められる.浅い陥凹面の内部に,周囲の非癌部と同じ高さで,粘膜がちょうど,島状に取り残された形態を示すことから,わが国で作られた用語である.通常は5mm内外の大きさで,数個から十数個認められる.その1つ1つの形は不整で,辺緑も不整である.表面に癌組織が認められる場合も,認められない場合もある.陥凹の形や辺緑,ひだの性状と共に,浅い陥凹性病変における良・悪性の鑑別で,重要な所見とみなされている.領域性をもった浅い陥凹性病変内に,その島状粘膜残存が多発して認められる場合は,悪性とみなしうる.

 この所見について,欧米でははっきりした記述はなく,早期胃癌の診断学を完成させたわが国で生まれた用語である.これまで同義吾とした,島状隆起,島状粘膜,島状粘膜隆起,島状結節状隆起,島状粘膜遺残,island-like odule,Insel(インゼル)などと呼ばれてきた.このうち島状隆起とすると,非癌部の周囲粘膜よりも背が高いという印象を受けるので,隆起という言葉は使わず,島状粘膜残存と呼称されることが多く,日本消化器内視鏡学会の用語委員会では,島状粘膜残存という

用語を用いている.胃のX線像(Fig.1)や内視鏡像(Fig.2),切除標本の肉眼所見(Fig.3)で使われている.

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要旨 胃癌研究会の内視鏡治療委員会では,内視鏡的粘膜切除(EMR)後に外科的切除を受けた早期胃癌106例を集計し,EMR標本と外科標本との評価の関連性を検討した.EMR標本のm癌のうち,粘膜断端癌陰性では外科標本に癌の遺残はなく,断端陽性例では75%に癌遺残がみられ,25%には癌遺残はみられなかった.また,sm癌の粘膜下層断面癌陽性例でも遺残のない症例もみられたが,56%に癌遺残がみられることから完全切除の目的で焼灼効果に期待することはできない.また,分割切除あるいは追加切除例においても遺残が認められた.m癌ではいずれもn0,ly0,v0であったのに対し,sm癌ではly(+)またはv(+)がみられた.したがって,単回の一括完全切除が得られるm癌で,断端陰性と判定できる症例は完全治癒と考えられる.

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要旨 患者は54歳,男性.主訴は腹痛.注腸X線および内視鏡検査で横行結腸に15×10mm,山田Ⅲ型,表面平滑で黄白色の粘膜下腫瘍を認めた.摘除された腫瘍の表面にびらんはなく,割面は黄色調充実性であった.腫瘍組織は主として粘膜下層に存在し,比較的大型の多角形細胞の小胞巣状増殖から成っていた.各々の腫瘍細胞は好酸性微細顆粒状の豊富な細胞質と,小型の類円形濃染核を有しており,その細胞質はS-100蛋白に陽性であった.以上の所見に加え腫瘍細胞の異型性は軽く多形性はないことから,良性の顆粒細胞腫と診断された.大腸に発生した顆粒細胞腫はまれであり,本邦報告15例に自験例を加えた16例について若干の文献的考察を加えた.

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要旨 患者は42歳,男性.便潜血陽性を指摘され来院.大腸内視鏡検査でS状結腸に粗大結節状で斑状発赤を伴う有茎性の巨大ポリープを認めた.表面および起始部の性状から上皮性腫瘍は否定的で,生検でも非腫瘍性粘膜であった.超音波内視鏡では粘膜下層である第3層がポリープ内部に入り込む所見を認めた.以上からinflammatory fibroid polypと診断し,部分的大腸切除術を施行した.切除標本の肉眼所見は長さ55mm,径30×23mmの有茎性のポリープであった.病理組織学的には,非腫瘍性上皮とびまん性慢性炎症細胞浸潤を有する粘膜を主体として形成され,特異的炎症所見も認められないことから,巨大な炎症性ポリープと診断された.

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要旨 患者は,63歳の佐賀県出身の女性で,心窩部痛を主訴に近医を受診した.胃内視鏡検査で,胃角部の潰瘍を指摘され,治療が行われたが,2か月後の内視鏡検査では,病変は不整な潰瘍を伴った隆起へと変化しており,そのほかに胃体部の皺襞の腫大,穹窿部の隆起性病変などを認めた.生検による病理組織学的検査で,悪性リンパ腫と診断した.更に,抗HTLV-1抗体陽性,胃の生検組織でHTLV-Ipro-viralDNA陽性で,成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)と診断した.末梢血や骨髄中には,異常リンパ球は認めずHTLV-Ipro-viralDNAも陰性であった.他臓器や胃の所属リンパ節以外のリンパ節への浸潤を認めなかった.以上のことから本症例はHTLV-1関連胃原発悪性リンパ腫(胃原発ATLL)と考えられた.胃に主病変を置くATLLの報告はまれで,厳密に胃が原発と考えられる報告はなく,今回報告した.

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要旨 従来から陥凹型早期大腸癌の存在診断の手がかりは内視鏡的に円形,類円形,長円形など面を有する淡い発赤や褪色などの色調の変化,陥凹,変形,血管透見像の消失,易出血性であるとされてきたが,発見の手がかりが“面”というよりも,線状の淡い発赤で発見した陥凹型早期大腸癌(6×2mm)を経験したので報告した.本例のX線像は細長い,やや不整な淡いバリウム斑と,その周囲に透亮像が描出された.線状発赤が発見の手がかりとなる陥凹型の存在に注意が必要である.

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要旨 患者は68歳,男性.タール便を主訴に受診し,精査で胃悪性リンパ腫と血小板減少症を指摘され胃全摘術を施行された.術前に測定した抗血小板抗体は陰性であったが,PA-lgGは高値を示し,また術後測定した腫瘍細胞培養上清中のPA-lgGも高値を示した.本邦での悪性リンパ腫と血小板減少症の合併例は最近10年間で10例の報告がなされているが,腫瘍細胞培養上清中のPA-IgGを測定した報告例はなく,両者の関係を説明するうえで興味深い症例と考えた.

早期胃癌研究会

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1994年7月の早期胃癌研究会は,7月20日,西元寺(北里大学東病院消化器内科),牛尾(匡泣がんセンター中央病院放射線診断部)の司会で開催された.

 〔第1例〕61歳,女性.胃悪性リンパ腫(症例提供:新潟大学第3内科 本間 照).

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要旨 患者は59歳,男性.血便を主訴に当院外来を受診し,注腸X線検査と内視鏡検査でS状結腸に径約30mmのⅡc+Ⅱa型病変が認められた.sm深層に浸潤した癌と診断し,S状結腸切除術を施行した.病理組織学的には径31×16mm,Ⅱc+Ⅱa型,壁深達度smの高分化腺癌であった。リンパ節転移は認めなかった.大きな陥凹型早期大腸癌の報告は少なく,また,早期胃癌の際に行うのと同様の手法で術前の注腸X線所見,内視鏡所見と病理組織学的所見とを対比できたので報告した.

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要旨 患者は67歳,男性.上腹部痛で受診し,便潜血反応陽性のため注腸X線検査を施行したところ回盲弁から約20cmの回腸に辺縁不整像を伴う2.5cm大の腫瘤陰影像を認めた.下部消化管内視鏡で同部に粘膜ひだの集中を伴った隆起性病変を認め,直視下生検で高分化型腺癌であった.術前精査のうえ,回腸粘膜下層癌の診断のもと回腸切除術を施行した.切除標本では2.7×2.0cm大の粘膜ひだ集中を伴う凹凸不整な小結節状病変で,病変の辺縁部は軽度に隆起し,中央部には軽度の陥凹をみた.組織学的には粘膜内を主体とする高分化型腺癌で,一部粘膜下層のリンパ管内に大量に浸潤していた。腺腫成分は認めなかった.術前に組織学的確診および深達度診断できた早期回腸癌症例は極めてまれである.

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要旨 患者は56歳,女性.下腹部痛で来院し,左下腹部に手拳大の腫瘤を触知した.注腸X線検査ではS状結腸は狭窄し浮腫状に腫大したひだがみられ,その辺縁は腸間膜側で不整鋸歯状であった。大腸内視鏡検査ではS状結腸は狭窄していたが,送気により膨らんだ.粘膜面には浮腫状に腫大したひだがみられた.CTではS状結腸間膜は肥厚し腫瘤を形成し,左水腎症も認められた.以上からS状結腸間膜脂肪織炎が強く疑われた。開腹するとS状結腸間膜は黄白色に肥厚していた.開腹生検標本には膠原線維の増生,炎症細胞の浸潤,泡沫細胞がみられ上記診断は確定した.術後半年後のX線・内視鏡検査ではS状結腸はほぼ正常になっていた.

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欧文目次

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Large gastric folds: a diagnostic approach using endoscopic ultrasonography: Mendis RE, et al (Gastointest Endosc 40: 437-441, 1994)  胃の巨大皺襞症は,その病態の原因が粘膜深層より深部に位置していることが多いことから,従来の胃X線・内視鏡検査および内視鏡下生検では,鑑別診断上苦慮することがある.診断へのステップとして,ときにジャンボバイオプシーや開腹胃壁全層生検が試みられるが,これらは侵襲的な手段である.今回著者らは,超音波内視鏡(EUS)を用い胃巨大賊襲の診断に応用してみた.なお,巨大厳襲の定義としては,内視鏡観察下で胃を過伸展させて平低下しないもの,すなわち通常の胃

X線撮影のフィルム計測で10mmを超えるものとした.

 28例(23~84歳,平均57歳,男女比12:1)の患者を対象とした.ビデオスコープで観察後,EUS(Olympus GF-UM3,UM-20)を施行した.更に,通常より大きな生検鉗子(Olympus FB-13K)を用い生検も行った.

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 学会や研究会で,魅力のない,情報満載だけの講演を,うんざりしながらどれだけ聴かされてきたことだろう.それだけに,見事な演説,魅力的な講演に接したときの喜びは大きい.

 講義や講演に,演者の学識や人柄が表れるのは当然として,内容を聴かせるには,そして聴いてもらうにはテクニックも必要で,この本はそうしたハウツウものの1つである.

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 “膵頭十二指腸切除術が膵・胆道外科専門医としての私を育てた”と,著者自身が述懐されているように,著者の中山和道氏は常に膵・胆道外科の最先端を走り続けてこられた.当初,氏の芸術的とも言える繊細なテクニックをもってしても,膵腸吻合縫合不全などの合併症に悩まされていたという事実は,この問題がいかに大きなものであるかを示している.

 今日,膵頭十二指腸切除術が市中の一般病院でも行いうるようになった背景を考えるとき,術前術後管理の進歩に負うところも大きいが,それ以上に外科学会や消化器外科学会をはじめとする諸学会での議論,啓蒙が大きな役割を果たしてきた.その学会活動の中心で活躍し続けてきたのが,中山和道氏であり,氏の明快な論調と情熱あふれるパフォーマンスによって,私をはじめ全国の外科医に多くの支持者がいることも事実である.また,氏による種々の手技の工夫などの積み重ねがこの膵頭十二指腸切除術をより安全なものとしてきた.

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 消化器疾患の診断に超音波検査は不可欠である.特に小病変は血清学的・免疫学的検査では診断困難で,超音波検査を行わなければならない.われわれの経験では外来で超音波検査を行うと有所見率は約60%で,高率に消化器疾患が発見される.肝,胆道,膵の小さな癌の診断が可能になり,早期診断・手術によって治癒する症例が増加しつつある.超音波集検も盛んに行われ,15施設の集計では肝胆膵疾患の発見頻度は検診総数39,000人に対して28%である.癌の発見頻度は0.073%と低いが切除率は40%と高率で,超音波集検は無症状の癌の発見に有効であることがわかる.

 日本超音波医学会編集による「超音波診断」第2版が上梓された.序文で竹原靖明編集委員長は日本超音波医学会編纂の書としての信頼と権威を保つべく,積極的かつ慎重に検討を重ねたと記しておられるが,本書はそれにふさわしく,現在の超音波診断と治療の道標と言える.内容は超音波の基礎から頭頸部,体表,循環器,呼吸器,腹部,泌尿器,産婦人科の診断と治療応用まで幅広く記載されており,もれがない.内容が豊富な割りにはコンパクトにまとまっているが,解説は無駄を省き必要事項は詳しく述べられ平易なので読みやすい.値段も手頃である.

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 京都府立医科大学・阿部達生教授が書かれた「遺伝子と日常の病気」を読む機会があった.文献の頁を含めると358頁になる1人の執筆者による本としては厚い本である。

 本書はその題名の示すとおり,様々な疾患を遺伝子のレベルで解説することを目的として書かれたものであるが,その内容は初めのほうの章,すなわち「1.染色体と染色体異常」,「2.遺伝子と遺伝子の異常」,「3.遺伝子組換えと遺伝子研究法」,「4.遺伝子地図作成」の4つの章のタイトルにも示されたごとく,染色体や遺伝子に関する基礎的な知識に総頁数の1/3くらいが費やされている.その内容はかなり詳細で,特に各研究の歴史的な発展の経緯が詳しくかつ正確に書かれていることには感心させられた.その発展の歴史的な出来事を知ることは,物事の理解に大いに助けになるものであるが,阿部教授はその方法を用いて染色体やDNA,遺伝子に関する基礎的な事柄をわかりやすく解説されている.

編集後記 八尾 恒良
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 工藤によって表面型大腸癌が必ずしもまれでないことが明らかにされ,大腸癌への関心が高まっているのは周知のとおりである。そして,腺腫と癌の診断に差があるのと同様に,sm浸潤の判定にも問題があることが指摘されている.これは,mでだめなら,文句のないsmを相手にしようとした臨床家にはショックかもしれない.しかし,実際にはpseudoinvasionか否か問題とされているのは多くがsm1,それも微小浸潤が多く,石黒が指摘するようにリンパ節転移もなく臨床上の問題は少ないのが救いであろう.

 sm癌の細分類にも問題があるとされている.本来,"分類"は臨床的にフィードバックされて意味があると思われるが,リンパ節転移や遠隔転移,それに再発の病理学的要因の取り上げ方がまちまちで,今から解決すべき問題が山積しているようである.臨床の立場からみると,病理学的に粘膜筋板があるのかないのかの判定や,どこにあったのかの推定も単純ではないことを知ったのも驚きである.そして,本号の中では肉眼型の検討がなかったり,表面型の数が少ない論文が多いのが不満である.最初に述べたように,現在の大腸癌の話題は表面型の数多くの発見に基づいているはずである.また,簡単に除去できる有茎性病変とⅡcやⅡa+Ⅱcを同時に論じてもよいのかどうかも問題であろう.

基本情報

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胃と腸
29巻11号 (1994年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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