追悼
五ノ井哲朗博士を悼む
市川 平三郎
1
1国立がんセンター
pp.1099
発行日 1994年9月25日
Published Date 1994/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403105928
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われわれは,また,よき友,よき医師を1人失った.というより,私は,よき“人物”を1人失ったと言いたい.彼は,実に静かな,しかし大切なことを着実に実行して,確かな一里塚を築いたまれにみる“人物”というのにふさわしい人だったと信じるからである。
彼,五ノ井哲朗博士は,千葉大学で私と同期生である.戦後の一時期,気骨ある人は誰でもいくぶん左翼的であったが,彼もかなり熱心に活動していたようだ.しかし,先鋭的な学生たちが口角泡を飛ばして激論していても,彼はただ黙って,いつもの暖かい眼差しで,ニッコリと笑っているだけだ.彼は,問題を真正面から取り上げ,じっくりと理論的に考え,静かな一言で皆を納得させる妙な男だったという記憶がある.たぶん,彼はそのグループの論理的指導者であったのだろう.激しい論議のあと,彼の示すテレたような,なんとも言えぬ優しさを含んだ笑顔が今でも印象的だ.
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